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8. 子どものメタ認知的知識の発達と教育

小林 登 (CRN 所長、東京大学 名誉教授、国立小児病院 名誉院長)
片岡 宏隆 (ベネッセ教育開発研究センター)

2009年10月30日掲載

要旨:

今回は、教育を脳科学的に考えるのに必要な「メタ認知」というテーマを取り上げる。「メタ認知」とは、あるもののことを認知する場合、その活動(認知的活動)を調整する知識、あるいはその活動そのもののことと幅広く定義されている。今回紹介する論文は、MBE誌Vol.2, No.3, p114-121の、2008年に発表されたドイツのWolfgang Schneider の論文“The Development of Metacognitive Knowledge in Children and Adolescents : Major Trends and Implications for Education” である。3歳児174人を対象に、言語発達の果たす役割を勘案しながら、初期の「心の理論」の形成と、それに続くメタ記憶の発達との関係について、半年ごとに4回調査した結果を報告している。

今回は、教育を脳科学的に考えるのに必要な「メタ認知」というテーマを取り上げることにした。MBE誌Vol.2, No.3, p114-121の、2008年に発表されたドイツWurzburg大学心理学教室Wolfgang Schneider 博士の論文 "The Development of Metacognitive Knowledge in Children and Adolescents : Major Trends and Implications for Education" を読み、考えをまとめる。


「メタ認知」とは、あるもののことを認知する場合、その活動(認知的活動)を調整する知識、あるいはその活動そのもののことと幅広く定義されている。と申しても、認知科学の専門でない人には、ちょっとわかりにくいのではないかと思う。

そもそもメタ(meta-) は、ほかの言葉と結びつけて複合語を作り、「~後」、「~変化」、「超~」、「~中」などの意味をつける「接頭語」 "prefix" である。 "unhappy" の un- 、"dishonest" の dis- と同じ役を果たしているが、 "metacognition" の meta- となると、なかなか難しい。「認知」"cognition" を「助けるもの」、「邪魔するもの?」の意味から、上述の定義になったのであろうか。

教育において、学ぶ対象を明確に捉えて、その意味や本質を理解することは重要である。それが「認知」"cognition" であるが、認知の「認」とは「見分ける」、「見定める」脳の働きであり、「知」は論理的に「理解する」、「判断する」脳の働きである。

したがって、「メタ認知的知識」には、遂行する課題の構造や過程についての知識、課題を遂行する方略に関する知識、課題を行う自分の能力や性格などに関する知識などがあろう。それは、記憶や体験によって得られると考えられる。一般的にみて、比較的安定した事実として捉えられているものもあると言える。

教育にとって「記憶」"memory" は重要な役を果たすので、メタ認知的活動の柱として「メタ記憶」 "metamemory" を考えてみたい。メタ記憶は、記憶についての個人的な知識や、記憶や、その反応に関係する現象を感じ取った現象を指す。例えば、「憶える」、「思い出す」、「忘れる」などの記憶の心的機能に関係する動詞の理解、記憶に関連した人の色々な特徴、記憶した課題の様々な特徴、記憶を保持したり引き出したりするため前もって考えた手段や方法、記憶の事実について言葉で述べられる知識("declarative knowledge" 、「宣言的知識」)、自分がもっている現在の記憶の状態や内容、さらに限界など、記憶をモニタリングした結果について感じていることなどがあげられる。

さらには、もっている知識を利用して何かを実行するにあたり、記憶の過程そのものや前もって考えた手段や方法をどのように使うか考える場合、調整・制御などの手続き記憶的な知識を利用するが、その利用に際しての実行過程もメタ記憶と呼ぶことがある。メタ記憶は、実際の記憶行動そのものの展開に関係しているので、メタ記憶の発達は、記憶の発達の潜在的なメカニズムとも考えられるのである。

メタ認知という言葉を理解していただくために、私なりに説明申し上げたが、ご理解いただけたであろうか。メタ認知は、論理性、科学的思考、社会性の概念などの認知過程に重要である。しかも、最近話題になっている幼児の「心の理論」の発達と、それに続くメタ認知の発達とを結びつける研究が盛んになってきている。

「心の理論」とは、他者の信念、欲望あるいは意図を推測したり、その推測をもとに他者の行動を予測する能力を形成する理論である。「心の理論」は、3~4歳で急速に発達して、遅くとも5歳までには獲得されると考えられているが、前頭前野の機能の発達的変化と関連づけられている。子ども達は、こうして出来上がった「心の理論」を使って、他人の行動を予測し、共感の心などを育て、人間関係を結び、家庭生活、社会生活を営んでいるのである。

本論文では、3歳児174人を対象に、言語発達の果たす役割を勘案しながら、初期の「心の理論」の形成と、それに続くメタ記憶の発達との関係について、半年ごとに4回調査した結果を報告している。

「心の理論」と「メタ記憶」の発達は、当然とも言えるが、言語によって強く影響されることが明らかに示された。また、3、4歳の言語能力は、5歳児のメタ記憶の能力に深く関係している。「心の理論」の獲得のレベルが初期で高い程、メタ認知としての言葉(語彙)、例えば「思う」、「考える」などの言葉の獲得に影響を与えることが示された。

言葉であらわされるようなメタ記憶は、幼稚園児でも持っているようであるが、小学生の間に段階的に発達すると考えられている。言葉であらわされているようなメタ記憶とは、学術用語では「宣言的メタ記憶」"declarative metamemory" のことであるが、これは、「手続的メタ記憶」"procedural metamemory" に対立する概念である。「宣言的」という意味がちょっとわかりにくいと思ったので、"declarative knowledge" にふれた際は、上述のように書いた。ここでは、「言葉を介したメタ記憶」とも言えよう。思春期に入ってからも、複雑なテキストを読んだり、理解したり、記憶するために、複雑なメタ認知は発達し続けると考えられる。

子ども達が自分自身でモニタリングする技術、さらには自分自身でモニタリングをコントロールする技術の発達も、当然のことながら、教育におけるメタ認知的知識の発達に重要である。学習することが易しいか否かの判断、学習そのものの判断、知っている色々な知識のお互いの関係の判断は、子どものころから徐々に発達すると考えられる。

上述の技術のモニタリングとコントロールとの間の関係をみると、6歳でも学習課題が難しいのか易しいのか判断出来るが、10歳児のように難しい問題を学習するのに時間を配分することは出来ない。メタ認知的知識をもっていることと、実際に使えることとは別の話なのである。

こう考えてくると、教育においてメタ認知は重要であることが理解されよう。したがって、次の方法を教育の場で利用することが考えられると述べている。

相互教育法により、効果的な読解を学ぶ際にあらかじめやり方を考えさせることが可能であって、それによって必要なメタ認知を改善することができる。子ども達が7~8歳になれば、学習の仕方をあらかじめ考えさせると効果が上がることを教えることができる。

良い先生は、毎日の指導の一部として、子ども達に効果的な学習のやり方を自分で考えて選ばせ、調整するというようなメタ認知的な情報を伝えている。小学校の時のメタ認知的知識量、コントロール、モニタリングは、知能の違いを差し引いた上でも、中学校での数学か読み書きのパフォーマンスを予測することが出来る。

学校において学習のやり方をあらかじめ教えることは、なかなか難しいことで、実証的な研究はまだまだ少ない。しかし、効果的な学習の概念的な基礎を先生が理解していくことで、改善は可能であると考えられる。
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