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【3月】比較認知発達学とは

小林 登 (CRN 所長、東京大学 名誉教授、国立小児病院 名誉院長)

2012年3月 2日掲載
「比較認知発達学」という言葉を聞くのは、読者にとって初めてかもしれない。それは、京都大学霊長類研究所の松沢哲郎所長が言い出された新しい人間科学とでも言える学問体系である。しかも、その研究は、ベネッセコーポレーションが、平成18年(2006)10月1日から平成23年(2011)9月30日までの5年間にわたり、支援した成果でもある。

2月16日松沢教授は、5年間にわたる支援のお礼を直接福島社長に申し上げるためにわざわざ上京して来られた。その機会に、社長と共に研究に関係する新井さん、後藤さんも加わって2時間程、松沢所長と共同研究者3名から、私もお話をうかがうことが出来、楽しいひと時であった。

比較認知発達学とは、乳幼児期の子どもの発達、親子関係、家族関係、さらに子育てなどの在り方を、霊長類のそれと比較して、認知発達の視点から分析する新しい人間の科学と言えよう。更に、子どもが中心となるので、私達の考える「子ども学」"Child Science"の柱となる学問体系とも言えよう。それは、人間の特徴として「教育」とか「言語」(コミュニケーション)があるからである。私なりに、「比較認知発達学」を英語でどう呼べば良いか考えた。"Comparative Developmental Cognitive Science"ということになったが、次の機会にでも、松沢先生におうかがいしてみよう。

比較認知発達学は、言葉を変えれば、「人間とは何か」を考える「人間科学」のひとつの分野とも言える。人間の本質的特徴を考えるからである。したがって、進化論的に心の発達、認知の発達、そして脳の発達を考えることにもなる。進化論的に考える方法として、松沢先生は「アウトグループ」の視点という発想を展開している。すなわち、簡単に言うと「よそもの」の視点である。外部の参照枠から、当該の本質を見定めることである。日本を知るためには外国に行くと良い、日本人を知るためには、外国人と仲よくなるのが良い。それと同じように、人間とは何かを問うならば、チンパンジー、ボノボ、オランウータン、ゴリラなどのヒト科の霊長類を研究するのが良いという考えである。松沢先生は特にボノボとチンパンジーの関係は、ヒトとネアンデルタール人との関係と同じであるとおっしゃるのである。ヒト科は、ヒト属、チンパンジー属、ゴリラ属、オランウータン属の4属があるので、この4属をいろいろと組み合わせて比較すると、その組み合わせによって、共通点が浮び上がってくるとおっしゃっているのである。

アジア起源のヒト科であるオランウータンとアフリカ起源のヒト科であるヒト、チンパンジー、ゴリラは、いずれも集団生活を営んでいて、複数の母子がいるばかりでなく、子どもの父親にあたる男性もいて、子育てに参加するという共通点がみられるという。このようなアウトグループと言う視点で社会をみると、確かにいろいろと重要な点を明らかにすることが出来よう。

松沢先生はさらに、ヒトとチンパンジー、ボノボの比較の重要性を指摘しておられる。チンパンジーとボノボを比較することばかりでなく、両者の共通点を明らかにすることによって、両者の共通祖先を明らかにして、ヒトのアウトグループとして研究が深まるという。チンパンジーは男性優位で、道具を使って生活し、隣り合う群れはお互いに敵対的で、殺し合いまでに発展する。これに対して、ボノボは女性優位で、隣り合う群は平和的に共存している。それに性行動を介して、群れが融合したり、分かれたりしているという。この二つを比較することによって、われわれの生き方を勉強し、変えてゆくことが出来るものと考えられるのである。ヒト(人間)は、芸術とか文学の中で優しさを大切にし、福祉のような助け合い行動も行っている一方、領土や資源をめぐっては激しい戦いによる残虐な人殺しさえも行うのである。世界平和と言いながら、実現出来ない現実をわれわれは今も見ているのである。

このような比較認知発達学の研究を進めることにより、われわれ人間のもっている悪しき面を、どのように直すべきかも明らかに出来よう。
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