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CRNトークセッション「子どもは未来である~子どもの夢を育むために~」後編①

2016年7月 8日掲載
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CRNが誕生したのは1996年。1995年1月の阪神淡路大震災でインターネットの重要性が認識され、同年11月にWindows95が発売され普及に拍車がかかった頃ですが、それを利用して研究所を作ろうという発想はほとんど誰ももっていない時代でした。しかし、ノルウェーで世界各国の研究者と子どもの危機について論じあってきたばかりの小林登氏は、「研究所を作るならば日本国内にのみ向けた、閉じたものにしたくない」という思いがありました。そこで、世界との接点を広げながら発展させられるサイバー研究所を構想します。そうした中で、石井威望氏のご指導のもと誕生したCRNは、今年で20周年を迎えます。
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CRNは最先端のバーチャル研究所だった

司会 では、後半に入ります。小林先生、CRNが誕生して20年が経ちましたが、もともと子ども学の研究所をインターネット上で立ち上げようと思われたのはどうしてでしょうか。

小林 一言で言うのは、なかなか難しいね。1992年にノルウェーで国際学会をやったときには、すでに欧米では「チャイルド・リサーチ」(Child Research)や「チャイルド・スタディーズ」(Child Studies)という名前の研究プロジェクトが動き始めていた。従来の分化された、単なる子どもを専門とする学問とは一線を画したもので、子ども問題を学際的に考える学問、あるいは子どもに関係するいろいろな立場の人が話し合うための学問のように思えた。そのような発想を形にするのに、インターネットは有効な力を発揮してくれるような気がしたのではないかな。

司会 創設時の1996年頃に、サイバー研究所みたいなものは、ほかにもあったのですか。

小林 ネットで研究機関をつくるという発想は、世界的にはひとつのトレンドだった。でも、日本でそれが可能かどうかは石井先生にご相談した。

石井 小規模なものはあちこちでやっていたし、大規模なものとしては慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパスがありました。1990年に開設された湘南藤沢キャンパスは、1991年から情報化が本格化して、当時大学の中では最も進んでいました。職員から学生まで全員がパソコンをもっていて、学務業務から研究業務までが全部ネットで行われた。そういう実績があり、1996年というのはそれから5年経っていたので、小林先生に「絶対、大丈夫ですよ!」と自信をもって申し上げたわけです。

ヒューマン・ネットワークがすべての原点

司会 石井先生は、日本がすぐにネット社会になじむであろうことは、インターネットが登場した1990年代の時点ですでに予想されていたのですか。

石井 日本の近代的情報網の原点というのは、明治以後、政府が全国津々浦々に2万6千局の郵便局をつくったことにあります。職員は36万人ぐらいいますから軍事力より大きい。現業官庁としてはものすごく巨大で、何百兆という郵便貯金を扱う世界一の銀行でもある。その基礎を明治時代につくったのです。

このネットワークは全国津々浦々の庶民に根づいています。特定郵便局というのは、親子代々やっているので、2万6千局の2万1千局ぐらいは自分の家なのです。地域とともにあるという意味では、おまわりさんなんて問題にならない。むしろ郵便局なのです。独居老人は、郵便局があるから生きていられるようなものですよ。郵便局員は移動手段をもっているので、郵便配達の途中で、「~ちゃん、頼むよ」と言われたら、郵便物を運んであげるわけね。場合によっては、車に乗っけて、町まで連れていってくれることもある。配達の途中で「おばあちゃんどうしてる」なんて言って、介護の見守りのような役割もする。「おかしなやつがいるぞ」と言って、治安にも貢献する。

榊原 インターネットじゃない情報網が、すでにできていた。

石井 本来、それが情報網なのです。それが郵便を経て、電信になり、いまのインターネットになっているというのが日本の構造ですね。

榊原 人間のネットワークが元にあるということですね。

石井 だから、ある意味、母と子の関係と同様にエントレインメント(相互作用による引き込み現象)なのですね。そういうヒューマン・キャピタル(人的資本)がないと、いくらシステムを作ろうとしても無理でしょう。西欧近代のアトミズム(原子論)のように人間を個としてバラバラに捉えるのではなく、集団と個の関係の中で捉える。そのような集団内のつながりを日本社会の強みとして見直していく必要がある。バラバラの個がつながりあってシステムができるのではなく、もともとあった人間同士のつながりが発展しながら有効なシステムが生まれてくる。

榊原 CRNにとってはすごく大きなヒントになりますね。

石井 これからはそのようなヒューマン・ネットワークを保ちながら、さらに高度化したICT(Information and Communication Technology 情報・通信技術)、あるいはAI(Artificial Intelligence、人工知能)、あるいはIoT(Internet of Things)が、そこに入ってくる。両極端かもしれないけど、個と集団の調和としてのヒューマニズムがベースにあれば、新しい技術が導入されたとしても失うものはないよね。

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人と人とのつながりがモチベーションを生み出す

司会 子育てについても、既存のケアシステムを研究した上で、そこへCRNがどう絡めるか、リアルな場とバーチャルな場をどう組み合わせていくか、そういうことが大切なのですかね。

石井 例えば、経営学の世界でも、ヒューマン・ネットワークを切ってしまって、妙な近代化システムでやろうとするとダメになる。ハーバード・ビジネススクールの最近の教科書には、実例として日本人のケースが出てきます。新幹線が折り返すときに掃除しているでしょう、そのことが取り上げられている。

司会 車内の掃除を瞬く間にパーッとやる、あれですね。

石井 掃除のことではなく、あのシステムが何によって支えられているのかが大切。初めはもちろん3Kの仕事だから、みんな全然やる気なかったのですよ。それが、あれだけのモチベーションを生み出すまでになる。最後にみんなお辞儀するじゃないですか。

榊原 あれ、外国の方が見ると感動する。

石井 どうやってモチベーションをつくるか。それを考えるのが本当の経営なのではないか。ちょっと前までの近代経営学では、料金がどうだとか、もっとフィジカルなことでやっていた。それを、もう少しメンタルな、ソーシャル・キャピタルとして考え出すと、結局、脳科学にいく。脳科学者が言うソーシャル・ブレイン(社会脳)がソーシャル・キャピタル(社会資本)になる。

榊原 報償系ですよね。どうするとやったことに満足できるかみたいなことになりますよね。

石井 胎児は生まれたときにお母さんの体から外に出るでしょう。ものすごい環境の変化。そして、エントレインメントによって情報のコミュニケーション・チャンネルをつくる。そのような形でブレインズができて、それが資本と同じぐらいに使える。いまは資本には計上していませんけど、脳科学を抜いたら経営学は何も成り立たないぐらい重要性が出てきました。

榊原 僕は専門じゃないのですが、教育でよく「アクティブ・ラーニング」と言われるのは、もしかすると、相互作用だと思うのですね。いまは「アクティブ・ラーニング」という言葉だけが広まっていますが、実際、中身にはエントレインメントと同じように、教える人と教えられる側がお互いに同調するようなことがあるのではないかと思います。

石井 おっしゃるとおりで、エントレインメントは人間の成長にとってとても重要です。ところが、人生の後半戦ではそのことが想定されていない。エントレインメントは40歳ぐらいで打ち切らないで、そこから第2のシニア・エントレインメントを考え始めたほうがいい。その内容はこれからいろいろ研究しないとダメだけど、こっちのほうが子ども時代よりも長いですよ、50年ぐらいあるのだから。

司会 最近、介護をやっている方たちが高齢者の主体的な働きかけを重んじる、アクティブ・ケアと言い出しましたよね。介護する側とされる側で相互の働きかけがあると認知症が進まないとか、いろいろ良いことがあるようです。(後編②に続く)

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