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【投稿レポート】 数学を通していかに意欲的に学ぶ姿勢をつくることができるか

要旨:

子どものつまずきは千差万別で、一人の子どもでも授業や単元ごとにつまずく場面が異なる場合が多い。そこで高等学校の数学の授業において、どのようなつまずきがあり得るかを5つのケースに分類した。そして、それぞれのケースにはどのような対処法が考えられるかについてまとめた。さらに、今後の数学教育の在り方をどう改善すれば、子どもがより意欲的に学ぶことができるかについて考える。
1 はじめに

授業が変われば子どもが変わる。最近は様々な授業手法が提案されている。例えば、マル付け法やグループ学習などは効果的な手法として多くの実践報告がされている。しかし、子どものつまずきは千差万別で、一人の子どもでも授業や単元ごとにつまずく場面が異なる場合が多い。そこでどのようなつまずきがあり得るかを明らかにしながら、その対処法をまとめる。

2 数学におけるつまずきと対処法

数学が嫌いな子どもは多いが、その中でも子どもが数学でつまずく場面はいくつかに分類できると考える。その分類と対処法について具体例を挙げながら紹介する。

(1) 問題に取り組むプロセスにおけるつまずきのケース

[Case1] 題意がつかめない

問題の意味や概念自体がイメージできず、理解できていない場合が考えられる。子どもにとっては何が分からないかも理解できていない状態である。この場合、問題が何を問うているのかを既習事項の復習をふまえながら理解させることが必要になる。

(例) 2次不等式 x2+mx+3m-5>0 の解がすべての実数となるようなmの値の範囲を求めよ。

【対処法】
例えば、2次方程式 ax2+bx+c=0 の解を判別する判別式、つまり D=b2-4ac を用いる問題であるが、初めてこの問題に出会うと、多くの子どもは何を問われているか分からず、対応に困ってしまう。そこで、2次不等式の解はどのような場合があったかを復習し、その後この問題が何を問うているかを考えさせる。そして、「解がすべての実数」になること、つまりx軸よりグラフが上になければならないことに気づかせることができればよい。そうしたことに気づかせることで、判別式の理解を深め、同じような問題が出たときに判別式を利用できるというところに理解を進めることができる。つまり、一般的にこのようなつまずきの場合は、どの分野で学んだ事項を使うかを再意識させることで、解決できる場合が多い。

[Case2] イメージができない

Case1よりは対応しやすいケースである。題意はほぼ理解できるが、具体的なイメージがわきにくく、解答の方針が立てられない状態であると考えられる。こうした状況においては,ただ解法の解説をしただけでは十分な理解ができない。その問題の背景にある数学的な世界観をしっかりと知らせる必要があると考える。ポイントは、図表など視覚に訴えるものをうまく活用させるか、または具体的な数値をいくつか当てはめて考えさせるところにある。

(例) 2定点O(0,0)、A(6,3)と円 (x-3)2+(y-3)2=9 上を動く点Pがある。△OAPの重心Gの軌跡を求めよ。

【対処法】
まず、図を描かせよう。そして、何を求めるのか(ここでは重心の軌跡だが、軌跡とは何か、重心の座標はどのようにして求めたかを確認する)を確認した上で考えさせる。その際、図を利用して特異点(条件を満たさないような点のこと)について考えさせる必要がある(この場合は、O、A、Pが一直線上に並ぶような点Pの座標で三角形ができない ので、軌跡が存在しない)。

[Case3] どの公式をいつ使えばよいかわからない

頭の中が整理できずにいる、もしくは公式は覚えているが意味や使い方を理解していない状態であると考えられる。解答の流れがぼんやりとイメージできるものの全体像がはっきりしていないのである。解説を聞くと納得できるが、自力で答えを導き出せない。

(例) 行列report_10_04_1.jpg が等式 A2-A-2E=O を満たすとき、(1,1) 成分と (2,2) 成分の和 a+d および、(1,1) 成分と (2,2) 成分および (1,2) 成分と (2,1) 成分の積の差 ad-bc の値を求めよ。

【対処法】
ハミルトン・ケーリーの公式を利用する問題である。この公式は、2x2行列の (1,1) 成分をa、(1,2) 成分をb、(2,1) 成分をc、(2,2) 成分をdとするとき、A2-(a+d)A+(ad-bc)E=O が成り立つというものである。まず、この公式を使うということに気づいているかについて、a+d、ad-bc に注目したかどうかで確認する。この公式について学ぶ初期段階においては、与えられた行列からこの公式に当てはめて値を求めたり、この公式が成り立つかどうかを確認する練習が多い。そのため、単純に与えられた式とハミルトン・ケーリーの公式とを並べ、各係数を比較して求めればよいと考える誤答が非常に多く見られる。実際は行列Aがどのような形かによって、解が複数考えられることに気づかせる必要があり、ポイントは、実際の解説をしながら、なぜ係数比較だけですべてが求められないかを説明することで、今まで学習した実数の世界の話と行列の世界の話では、注意すべき点が異なることを理解させなければならない。

[Case4] 解答できたがすっきりしない

全体の方針もわかり、解答もできるが今ひとつすっきりしていないという状態である。理解度が増しているといえるが、まだ自分の力として定着していない状態であると考えられる。様々な問題を解きながら,共通する考え方(抽象化)、一般化可能な事象はないかなどを考えさせることが必要である。

(例) 関数 y=x3+ax2+x+7 が極値をもつためのaの値の範囲を求めよ。

【対処法】
子どもは、y'=0 を計算して答えが出たと思っている。しかし、それでは、必要十分条件を満たさないので、必ず増減表をかき、極値をもつことを確認する必要がある。こうした場合、極値とは何かを確認するだけでは不十分である。必ず y'=0 を満たす場合でも極値にならない例を図のイメージとともに印象づけることがポイントとなる。

(2) 問題に取り組む以前のつまずき

[Case5] 数学を学ぶ必要を感じない

なぜ数学を学ぶ必要があるのか。四則演算ができれば日常生活で困らないではないかなどという理由から数学を学ぶ必要性が見いだせない、という生徒もおり、これは数学の問題に取り組む以前のつまずきであると言える。これは大人でもそう感じている人が少なくない。計算することが数学の主目的だと算数の延長線上で考えているためだ(ちなみに算数の主目的が計算することであるといっている訳ではない)。これは数学教育が早急に解決しなければならない問題である。

(例) 1枚の硬貨を投げて表が出ると +2点、裏が出ると -1点を得るゲームを7回繰り返す。このゲームで、合計得点が3点以上8点以下となる確率を求めよ。

【対処法】
初めに、得点がどのように変化するか試行錯誤させることが重要であろう。そこで、ポイントに気づく場合もあるが、なかなか気づかないことも多い。その場合は、ヒントとして表の出た回数をxとおき、得点をxで表してみる。すると容易に5点と8点の場合しかないことに気づく。つまり、「数学を学ぶ必要性を感じない」という場合の対処法のポイントは、数学の本質である、「試行錯誤しながら判断すること」、「場合分けをして分類すること」、「類推や予測をして考えること」など、実社会で普通に行っている思考の根底となる考え方を、数学を通して学んでいることに気づかせることである。

3 最後に

以上の5つのケースで重要なことは、子どもにとって「かゆいところに手が届く指導」であるかどうかである。つまり、何につまずいているのか、何を今考えようとしているのかを教師がしっかりと把握した上で対処することである。「なぜ分かろうとしないのか」ではなく、「何にこだわる余り立ち止まっているのか」を一緒に考えてあげることが大切である。

そして、もう一つは、数学を通して何を学ぼうとしているのかを常に意識させることである。問題が解けるようになることが目的ではなく、先にも述べたように、未知のものに対処する場面に遭遇することは実社会においてはよくあることだ。そのときに、何をとっかかりとすればよいか、どのように進めていくとよいか、これですべての場合を考え尽くしたと言えるのか、など様々な判断が要求される。そうした思考力、判断力を培うことが数学のもっとも得意とすることである。その特性を伝えなければ、自ら学ぶ姿勢をつくることも、卒業後に自らいろいろなことにチャレンジしたり、学んでいったりする、前向きな心は育てられない。そうした数学の果たすべき役割を再認識した上で数学教育に取り組むべきではないか。


参考文献

  • 愛知県総合教育センター、「授業の手引き 高等学校数学」、2012年3月
  • 高等学校教育課程課題研究「数学研究班」、「高等学校数学科-言語活動を重視した課題学習-学習指導案集」、2012年2月
  • 国立教育政策研究所 教育課程研究センター、「評価規準の作成、評価方法等の工夫改善のための参考資料(高等学校 数学)~新しい学習指導要領を踏まえた生徒一人一人の学習の確実な定着に向けて~」、2012年3月
  • 文部科学省、「言語活動の充実に関する指導事例集~思考力、判断力、表現力等の育成に向けて~【高等学校版】、2012年6月
  • 文部科学省、「高等学校学習指導要領」、平成21年3月
  • 文部科学省、「高等学校学習指導要領解説 数学編 理数編」、平成21年12月
筆者プロフィール
辻村 博(愛知県立熱田高等学校教諭)

[略歴]
1973年 愛知県名古屋市生まれ
1995年 愛知教育大学教育学部数学科卒業
1995年~2001年 愛知県立岡崎西高等学校勤務
2001年~2012年 愛知県立南陽高等学校勤務
2012年~ 愛知県立熱田高等学校勤務

[主要論文]
「無理数の連分数展開について」(1995年 愛知教育大学数学教育学会誌「イプシロン」37)
「数学の授業における自己評価について」(2000年 愛知県数学教育研究会高等学校部会誌「愛数」38)
「数学Ⅰにおける絶対評価の導入に関する一考察」(2003年 日本数学教育学会誌臨時増刊 総会特集号 85)
「高校数学を主題とした総合的な学習への取り組み」(2003年 愛知教育大学数学教育学会誌「イプシロン」45)
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