Ⅰ.はじめに
近年、親子のスキンシップのひとつであるベビーマッサージが、多くの親子に親しまれている。現在では、ベビーマッサージを母親に指導するインストラクターが多く存在し、それぞれに手技や方法がある。その中でも、2009年に奥田朱美氏が考案した「わらべうたベビーマッサージ」は、非常に興味深い。
近年、親子のスキンシップのひとつであるベビーマッサージが、多くの親子に親しまれている。現在では、ベビーマッサージを母親に指導するインストラクターが多く存在し、それぞれに手技や方法がある。その中でも、2009年に奥田朱美氏が考案した「わらべうたベビーマッサージ」は、非常に興味深い。
「昔はわらべうたを歌い、語りかけ、赤ちゃんを育てていました。ベビーマッサージという言葉ではなくても、赤ちゃんを、なでたり、あやしたりするとき、いつもお母さんは歌を歌っていたのです。「わらべうたベビーマッサージ」は、こうした日本の伝統に基づきながら、赤ちゃんの大好きなスキンシップやマッサージを楽しむことができるものです。」(奥田朱美 2009 p.4)
本稿では著者が主宰している『わらべうたベビーマッサージ教室』に参加された方に対する調査から、わらべうたが持つ力を考えてみたい。
わらべうたとは、「①子供たちの歌う歌。昔から子供たちに歌われてきた歌。②子供たちに歌って聞かせる歌。」(新村 2008 p.3037)である。わらべうたと混同されがちなものに「童謡」があるが、これは「大正中期から昭和初期にかけて、北原白秋らが文部省唱歌を批判して作成し、運動によって普及させた子供の歌。」(新村 2008 p.1990)の事である。
この「わらべうたベビーマッサージ」で歌う歌は、「せーなかせなか せーなか トントントン」や「あんよはかわいいなでボーズ」のようなわらべうた風の歌詞に、歌いやすい音域で作られている。手技それぞれに歌があり、歌に合わせてマッサージをするのが特徴である。わらべうたベビーマッサージ教室に参加した母親からは、「子どもが嬉しそうにマッサージを受けている」「わらべうたベビーマッサージのCDをかけると、自分から寝ころんでマッサージを待っている」「以前は泣いてしまい、マッサージができなかったのに、わらべうたベビーマッサージは泣かずにできた」と、教室参加後に記入してもらうアンケートに感想が寄せられていた。
今回の調査では、数多くの感想の中でも特に「泣かずにできた」という点に着目した。確かに自身がインストラクターを務める他のベビーマッサージの教室に比べ、わらべうたベビーマッサージ教室では泣く赤ちゃんは少ないという印象を受けた。
では、他と比べてどれくらい泣く赤ちゃんが少ないのだろうか。そして、泣く赤ちゃんが少ないのは、この「わらべうたベビーマッサージ」の歌に合わせてマッサージするからなのか。ほぼ同じ手技で歌なしの場合(調査①)、童謡などの赤ちゃんが好みそうな歌に合わせた場合(調査②)を比べ、泣く赤ちゃんの割合を比較することで、わらべうたの効果を調べてみることにした。
【調査①】
わらべうたベビーマッサージ(歌のあるベビーマッサージ)と、歌なしでほぼ同じ手技のみのベビーマッサージ(歌なしベビーマッサージと呼ぶ)との比較。
歌なしベビーマッサージでは、赤ちゃんに「気持ちいいね」「かわいいね」「クルクルしようね」など、母親が赤ちゃんに自由に語りかけながらベビーマッサージを行った。
【調査②】
わらべうたベビーマッサージと、歌を童謡に変えてほぼ同じ手技で行うベビーマッサージ(童謡ベビーマッサージと呼ぶ)との比較。
ベビーマッサージは母親の緊張や不安などがあると、手に余計な力が入ったり、母親の気持ちが伝わってしまうことがある。これらの理由から、今回の調査に協力してもらった方には、「ベビーマッサージに関する調査」に協力してもらう許可を得ているが、自分以外の条件で行うグループがあることや、泣いている赤ちゃんの人数をカウントしていることは知らせなかった。
Ⅱ.わらべうたベビーマッサージと歌なしベビーマッサージの比較(調査①)
開始から4分ごとに、わらべうたベビーマッサージと歌なしベビーマッサージで泣いている赤ちゃんの割合を比較した。
1.進め方
1-1.ベビーマッサージ前の注意点
ベビーマッサージに先立ち、母親に基本的な諸注意の説明とマッサージに使用するオイルのパッチテストを行った。パッチテストとは、赤ちゃんの肌の一部にオイルを塗り、トラブルが起きないかどうかを調べるものである。
1-2.準備
ベビーマッサージ教室に参加してくれた赤ちゃんは、生後2ヶ月から1歳5ヶ月未満の体調の良い赤ちゃん。
赤ちゃんの下にバスタオルを敷いて赤ちゃんを仰向けに寝かせ、希望者にはプッシュ式のボトルに入ったオイルを渡した。インストラクターの指示に従い、赤ちゃんの服を脱がせた。
1-3.マッサージの実施
今回の調査では、すべて母親が赤ちゃんにマッサージを行った。マッサージ始まりの合図から約15分間で終了。始めてから4分後、8分後、12分後に泣いている赤ちゃんの人数をカウントした。何らかの理由で開始12分以内にマッサージができなかった場合(動き回ってマッサージができなかった、睡眠中など)と、授乳でマッサージを中断した場合は参加人数に含んでいない。
ただし、開始から12分後の計測以降に眠ってしまったり、授乳でマッサージを中断してしまった場合は参加人数に含む。ベビーマッサージ教室への参加が初めての方は初回(表1)、教室の参加が2回目以降の方はリピーター(表2)とし、それぞれ分けてカウントした。例えば、教室の参加者15人中5人が初めてで、10人が2回目以降の参加者の場合は、前者は表1に、後者は表2にカウントした。リピーターの方には前回と同じ種類のマッサージに参加してもらった。条件を少しでも揃える為に、すべての教室を主担当するインストラクターは、著者が担った。
2. 結果
下記は、その結果を表にしたものである。開始時は、それぞれの赤ちゃんの機嫌が良い悪いがあったと考えられるが、開始から4分後・8分後・12分後は初回(表1)、リピーター(表2)どちらにおいても「わらべうたベビーマッサージ」の方が、泣いている赤ちゃんの割合が低かった。特に、表2の開始から8分後のデータでは、「わらべうたベビーマッサージ」と「歌なしベビーマッサージ」で11.7%もの差がある。
これらの結果から、「わらべうたベビーマッサージ」と「歌なしベビーマッサージ」を比較した場合、「わらべうたベビーマッサージ」の方が、泣く赤ちゃんが少ないということが言える。
表1 泣いている赤ちゃんの人数 [対象者:ベビーマッサージが初めての方(初回)]
歌あり:教室11回 参加のべ人数 計102人
歌なし:教室11回 参加のべ人数 計100人
表2 泣いている赤ちゃんの人数 [対象者:教室参加が2~8回目の赤ちゃん(リピーター)]
歌あり:教室12回 参加のべ人数106人
歌なし:教室12回 参加のべ人数104人
表3 表1・2を合計したもの
3.考察
赤ちゃんが泣くのには様々な理由があるが、今回の調査では歌に合わせた「わらべうたベビーマッサージ」の方が泣く赤ちゃんが少ないという結果となった。泣かないからいいとは言えないかもしれないが、赤ちゃんが泣くことが理由で母親が落ち着いてマッサージができなかったり、不安になるのであれば、歌のある「わらべうたベビーマッサージ」の方が効果的である。歌があることで、歌うことに必死になって怖い顔をしていては逆効果であるが、今回の調査では、わらべうたベビーマッサージ教室に参加している母親の表情は、優しくて穏やかな印象を受けた。赤ちゃんだけでなく母親自身も、「わらべうたベビーマッサージ」の歌に癒されているのかもしれない。
一方、歌なしベビーマッサージ教室に参加している方の中には、話しかける言葉が見つからなくて、無言になってしまう方もいた。今回の調査で私が感じたのは、「歌なしベビーマッサージ」の時の印象は静かだということ。赤ちゃんの泣き声を除けば、 母親の声はあまり聞こえてこなかった。母親はマッサージをするのに必死ということもあるが、赤ちゃんにどんな風に声をかけたらいいのか、迷っているようにも見えた。そういった方には、「わらべうたベビーマッサージ」のように、歌がある方がいいのではないかと思う。わらべうたベビーマッサージ教室に参加してくれた方の中には、「何度か参加するうちに、自然と我が子への語りかけが増えた。」と感想を述べる方もいた。
「歌なしベビーマッサージ」に参加したひとりのお母さんは、マッサージの間(約15分間)で赤ちゃんに話しかけた語の文字数の合計は、平均して約179文字。それに対し、わらべうたベビーマッサージは、一度のマッサージで 1,151 文字(注1) もの母親の声を聞かせてあげることができた。1,151文字とは、例えば「かわいいね。気持ちいいね。」(11文字)と語りかけた場合、約105回も繰り返さなければその数に達しない。言葉の習得を促すことは本来のマッサージの目的ではないが、母親の声をたくさん聞きながら、しかも泣く事が少ない「わらべうたベビーマッサージ」は、赤ちゃんにとって 最適なコミュニケーションの手段のひとつといえるのではないだろうか。
さらに、わらべうたベビーマッサージ教室では、初回よりリピーターの方が、泣く赤ちゃんが少ないという結果が出たため、その理由について考えてみた。
これについては、最初は母親にマッサージしてもらうことがどんなことかわかっていなかった赤ちゃんが、母親の笑顔や温かい手のぬくもりを感じ、回数を重ねることにより、マッサージの時間がより楽しく、より好きになったことで、リピーターの赤ちゃんの方が泣く割合が低くなったのではないかと考える。母親も回数を重ねるごとに、「わらべうたベビーマッサージ」の歌を一緒に口ずさむことができるようになり、大好きな母親の歌声を繰り返し聞くことで、赤ちゃんもより喜び、安心しているからではないだろうか。
参加した母親からのアンケートからも、「何度かマッサージを繰り返すうちに、自分からオイルを持ってきてマッサージを催促してくるようになった」「夜泣きがひどかったが、寝る前のマッサージを繰り返すうちに、安心したようで寝ぐずりもなくなり、夜中も起きなくなった」と、繰り返すことが大切であると思える声があがった。
Ⅲ.わらべうたベビーマッサージと童謡ベビーマッサージの比較(調査②)
調査①では、「歌なしベビーマッサージ」より、歌のある「わらべうたベビーマッサージ」の方が、泣いている赤ちゃんの割合が低いという結果となった。では、歌があるから泣いている赤ちゃんの割合が低かったのか、それとも「わらべうたベビーマッサージ」の歌だから泣く赤ちゃんが少なかったのだろうか。わらべうたでなく、一般的に赤ちゃんや幼児が好む「童謡」に合わせた場合はどうなのだろうか。
そこで調査②では、「わらべうたベビーマッサージ」と、わらべうたベビーマッサージとほぼ同じ手技に童謡を合わせたベビーマッサージ「童謡ベビーマッサージ(注2)」を比較した。
この「童謡ベビーマッサージ」で歌う童謡は、ベビーマッサージを目的に作られたものではなく、よく知られている既存の童謡を「わらべうたベビーマッサージ」の手技に合わせたものである。手技はほぼ同じであるが、「童謡ベビーマッサージ」には一部歌のない箇所や、「わらべうたベビーマッサージ」と同じ歌詞で歌う部分がある。
1.進め方
「歌なしベビーマッサージ」が「童謡ベビーマッサージ」に変わるほか、進め方は調査①と同じ。比較しやすいように、「歌なしベビーマッサージ」のデータを表に添付した。
2.結果
下記は、その結果を表にしたものである。開始時は、それぞれの赤ちゃんの機嫌が良い悪いがあったと考えられるが、全体的に見て「わらべうたベビーマッサージ」と「童謡ベビーマッサージ」の赤ちゃんが泣く人数を比較した場合、より赤ちゃんが泣かずにマッサージできるのは、「わらべうたベビーマッサージ」だという事が言える。表6を見てみると、開始から12分後には「わらべうたベビーマッサージ」と「童謡ベビーマッサージ」とでは7.6%の差がある。
表4 泣いている赤ちゃんの人数 [対象者:ベビーマッサージが初めての方(初回)]
童謡ベビーマッサージ:教室10回 参加のべ人数101人
表5 泣いている赤ちゃんの人数 [対象者:教室参加が2~8回目の赤ちゃん(リピーター)]
童謡ベビーマッサージ:教室12回 参加のべ人数101人
表6 表4・5を合計したもの
3.考察
「わらべうたベビーマッサージ」の歌は、もともとこのマッサージを目的に、それに合うように工夫して作られたものである。その「わらべうた」と、それとは異なる「童謡」の比較では、「童謡ベビーマッサージ」が「わらべうたベビーマッサージ」より、泣く赤ちゃんの割合が多くなるのはある意味当然の結果ともいえる。 その事をふまえた上で、以下の3点を挙げ、その可能性について考えてみた。
3-1.なぜ「わらべうたベビーマッサージ」の方が、泣く赤ちゃんの割合が低いのか?
わらべうたベビーマッサージの歌は、「ラ」の音を中心に作られており(奥田 2009)、このわらべうたベビーマッサージの歌も「ラ」の音を中心に作られていることで、子守唄同様に乳幼児を癒し、母親の耳にも心地良く届いたのではと考えられる。
「子守唄の分析と楽曲データに基づく自動作曲プログラムの開発」(陶山他 2006)の論文では、母子間の非言語的コミュニケーション不足の解決策として、乳幼児を癒し、母親の母性を促す効果を持つ子守唄に注目し、その音楽的要素を分析した結果を報告している。その中で、日本の全国で歌われている子守唄17曲と、主に西洋で歌われている子守唄19曲を分析した結果、Aの音(ラの音)が最も多く使われていると書かれている。さらに、Aの音(ラの音)とされている440Hzは、人間にとって最も心地よい周波数であると言われているが、子守唄の再頻出の音であることは興味深いとある。
3-2.なぜ「わらべうたベビーマッサージ」では、初回に比べリピーターの方が泣く赤ちゃんの割合が低いのか?
これは前述したように1つには、最初は母親にマッサージしてもらう事にあまり理解が無かった赤ちゃんが、母親の笑顔や温かい手のぬくもりを感じ、回数を重ねる事で少しずつ歌を覚え、マッサージの時間をより楽しむようになったことが考えられる。
2つ目には、「わらべうたベビーマッサージ」の手技・歌が覚えやすいという事にも、関連していると考えられる。わらべうたベビーマッサージ教室と童謡ベビーマッサージ教室への参加回数4回目終了後の方に、アンケートを取った。「マッサージの手技は覚えられましたか?」という質問に対し、(①覚えた・②ほぼ覚えた・③少し覚えた・④ほぼ覚えていない・⑤覚えていない)のいずれかで回答してもらった。
結果、わらべうたベビーマッサージ教室に参加された方35人の中で①、②と答えた方は25人で約7割。童謡ベビーマッサージに参加された方30人の中で①、②と答えた方は16人で約5割という結果が出た。このアンケートに回答した、わらべうたベビーマッサージ教室の参加者からは、「わらべうたベビーマッサージの歌詞には、『あんよ』や『ひざ』などマッサージする部位の名称が歌詞に含まれているので、歌を聞くとどの部分のマッサージかがわかる」「繰り返しが多いので歌詞を覚えやすく、家でも自然と口ずさみながらスキンシップができる」「あまり覚えていないと思っていたが、歌を聞くと思い出す」との声があがった。
「わらべうたベビーマッサージ」は覚えやすく、母親がマッサージの手技を覚えていることでよりスムーズに、余裕を持って赤ちゃんに関わることができる。そして、母親も一緒に歌を口ずさむことができ 母親の声を繰り返し聞くことでより赤ちゃんも喜び、初めての時より安心してマッサージの時間を楽しむことができたのが、初回に比べリピーターの方が、泣く赤ちゃんの割合が低い理由ではないかと考えられる。
3-3.童謡はベビーマッサージに適していないのか?
「童謡ベビーマッサージ」の場合、母親が童謡を歌うことに気を取られる、赤ちゃんが興奮してくるなどの様子が見られることがあり、本来のマッサージの目的のひとつでもあるリラックスするという点では、泣く赤ちゃんが少ないという結果から見ても「わらべうた」の方がより適しているように思えた。
参加したお母さんからは、約15分間童謡をほぼ歌い続けるのは疲れるという声もあがった。「童謡ベビーマッサージ」の終了時に赤ちゃんが泣く割合が上がるのは、母親だけでなく赤ちゃんも疲れ、母親の疲れが手から伝わっているからではないかとも考えられる。ただ、やはり赤ちゃんは童謡が好きだと思う。今回の結果は、童謡を否定するものではない。今回の調査において、「わらべうた」と「童謡」を比較する為に、手技に合う童謡を多数合わせたが、赤ちゃんの気分を切りかえたい時や、教室の雰囲気を盛り上げるのには1、2曲の童謡をマッサージの時間に取り入れることは、効果的であると思える。
Ⅳ.まとめ
調査①、②により、黙ってマッサージを行うより、赤ちゃんは歌に合わせてマッサージをする方が泣く割合が低く、さらにその歌はマッサージにあった歌の方が良いという結果が見えてきた。「わらべうたベビーマッサージ」と「歌なしベビーマッサージ」の比較は、「歌がある」と「歌がない」との比較であり、「わらべうたベビーマッサージ」と「童謡ベビーマッサージ」の比較は、「もともとベビーマッサージ用に作られた歌に合わせた場合」と「そうではない歌に合わせた場合」との、泣いている赤ちゃんの割合の比較ともいえる。
つまり、「わらべうたベビーマッサージ」ではなくても、ベビーマッサージ用に作られた歌があれば同じ結果になるという可能性は否定できない。「わらべうた」だから良いのだというのは推定に留まる。
しかしながら、今回の調査にあたりたくさんの親子に関わった中で、「わらべうた」のもつ魅力や、「わらべうたベビーマッサージ」を通して、笑顔あふれる親子のかかわりを目の当たりにした。もし、既存の童謡ではなく、ベビーマッサージ用に作られた童謡のような歌があり、それと「わらべうたベビーマッサージ」を比較した場合でも、やはり後者の方が泣く赤ちゃんがより少なく、より楽しく効果的なスキンシップが楽しめるのではないかと思えてならない。
注1:奥田朱美『改訂わらべうたベビーマッサージ』より。「1. 背中」から「9. 顔」までの文字数を合計したもの。
注2:わらべうたの手技(左)に、童謡を合わせたもの(右)
参考文献
奥田朱美 2009 『わらべうたベビーマッサージ』 現代図書
奥田朱美 2011 『改訂わらべうたベビーマッサージ』 現代図書
新村出 2008 『広辞苑(第6版)』 岩波書店
陶山洋・久原泰雄・諸伏雅代 2006 『子守唄の分析と楽曲データに基づく自動作曲プログラムの開発』 音楽情報科学、68、pp.55-57
わらべうたとは、「①子供たちの歌う歌。昔から子供たちに歌われてきた歌。②子供たちに歌って聞かせる歌。」(新村 2008 p.3037)である。わらべうたと混同されがちなものに「童謡」があるが、これは「大正中期から昭和初期にかけて、北原白秋らが文部省唱歌を批判して作成し、運動によって普及させた子供の歌。」(新村 2008 p.1990)の事である。
この「わらべうたベビーマッサージ」で歌う歌は、「せーなかせなか せーなか トントントン」や「あんよはかわいいなでボーズ」のようなわらべうた風の歌詞に、歌いやすい音域で作られている。手技それぞれに歌があり、歌に合わせてマッサージをするのが特徴である。わらべうたベビーマッサージ教室に参加した母親からは、「子どもが嬉しそうにマッサージを受けている」「わらべうたベビーマッサージのCDをかけると、自分から寝ころんでマッサージを待っている」「以前は泣いてしまい、マッサージができなかったのに、わらべうたベビーマッサージは泣かずにできた」と、教室参加後に記入してもらうアンケートに感想が寄せられていた。
今回の調査では、数多くの感想の中でも特に「泣かずにできた」という点に着目した。確かに自身がインストラクターを務める他のベビーマッサージの教室に比べ、わらべうたベビーマッサージ教室では泣く赤ちゃんは少ないという印象を受けた。
では、他と比べてどれくらい泣く赤ちゃんが少ないのだろうか。そして、泣く赤ちゃんが少ないのは、この「わらべうたベビーマッサージ」の歌に合わせてマッサージするからなのか。ほぼ同じ手技で歌なしの場合(調査①)、童謡などの赤ちゃんが好みそうな歌に合わせた場合(調査②)を比べ、泣く赤ちゃんの割合を比較することで、わらべうたの効果を調べてみることにした。
【調査①】
わらべうたベビーマッサージ(歌のあるベビーマッサージ)と、歌なしでほぼ同じ手技のみのベビーマッサージ(歌なしベビーマッサージと呼ぶ)との比較。
歌なしベビーマッサージでは、赤ちゃんに「気持ちいいね」「かわいいね」「クルクルしようね」など、母親が赤ちゃんに自由に語りかけながらベビーマッサージを行った。
【調査②】
わらべうたベビーマッサージと、歌を童謡に変えてほぼ同じ手技で行うベビーマッサージ(童謡ベビーマッサージと呼ぶ)との比較。
ベビーマッサージは母親の緊張や不安などがあると、手に余計な力が入ったり、母親の気持ちが伝わってしまうことがある。これらの理由から、今回の調査に協力してもらった方には、「ベビーマッサージに関する調査」に協力してもらう許可を得ているが、自分以外の条件で行うグループがあることや、泣いている赤ちゃんの人数をカウントしていることは知らせなかった。
Ⅱ.わらべうたベビーマッサージと歌なしベビーマッサージの比較(調査①)
開始から4分ごとに、わらべうたベビーマッサージと歌なしベビーマッサージで泣いている赤ちゃんの割合を比較した。
1.進め方
1-1.ベビーマッサージ前の注意点
ベビーマッサージに先立ち、母親に基本的な諸注意の説明とマッサージに使用するオイルのパッチテストを行った。パッチテストとは、赤ちゃんの肌の一部にオイルを塗り、トラブルが起きないかどうかを調べるものである。
1-2.準備
ベビーマッサージ教室に参加してくれた赤ちゃんは、生後2ヶ月から1歳5ヶ月未満の体調の良い赤ちゃん。
赤ちゃんの下にバスタオルを敷いて赤ちゃんを仰向けに寝かせ、希望者にはプッシュ式のボトルに入ったオイルを渡した。インストラクターの指示に従い、赤ちゃんの服を脱がせた。
1-3.マッサージの実施
今回の調査では、すべて母親が赤ちゃんにマッサージを行った。マッサージ始まりの合図から約15分間で終了。始めてから4分後、8分後、12分後に泣いている赤ちゃんの人数をカウントした。何らかの理由で開始12分以内にマッサージができなかった場合(動き回ってマッサージができなかった、睡眠中など)と、授乳でマッサージを中断した場合は参加人数に含んでいない。
ただし、開始から12分後の計測以降に眠ってしまったり、授乳でマッサージを中断してしまった場合は参加人数に含む。ベビーマッサージ教室への参加が初めての方は初回(表1)、教室の参加が2回目以降の方はリピーター(表2)とし、それぞれ分けてカウントした。例えば、教室の参加者15人中5人が初めてで、10人が2回目以降の参加者の場合は、前者は表1に、後者は表2にカウントした。リピーターの方には前回と同じ種類のマッサージに参加してもらった。条件を少しでも揃える為に、すべての教室を主担当するインストラクターは、著者が担った。
2. 結果
下記は、その結果を表にしたものである。開始時は、それぞれの赤ちゃんの機嫌が良い悪いがあったと考えられるが、開始から4分後・8分後・12分後は初回(表1)、リピーター(表2)どちらにおいても「わらべうたベビーマッサージ」の方が、泣いている赤ちゃんの割合が低かった。特に、表2の開始から8分後のデータでは、「わらべうたベビーマッサージ」と「歌なしベビーマッサージ」で11.7%もの差がある。
これらの結果から、「わらべうたベビーマッサージ」と「歌なしベビーマッサージ」を比較した場合、「わらべうたベビーマッサージ」の方が、泣く赤ちゃんが少ないということが言える。
表1 泣いている赤ちゃんの人数 [対象者:ベビーマッサージが初めての方(初回)]
開始時 | 開始から4分後 | 開始から8分後 | 開始から12分後 | |
わらべうた ベビーマッサージ | 12.7% 102人中13人 |
8.8% 102人中9人 |
10.8% 102人中11人 |
7.8% 102人中8人 |
歌なし ベビーマッサージ | 13.0% 100人中13人 |
10.0% 100人中10人 |
18.0% 100人中18人 |
18.0% 100人中18人 |
歌なし:教室11回 参加のべ人数 計100人
表2 泣いている赤ちゃんの人数 [対象者:教室参加が2~8回目の赤ちゃん(リピーター)]
開始時 | 開始から4分後 | 開始から8分後 | 開始から12分後 | |
わらべうた ベビーマッサージ |
9.4% 106人中10人 |
6.6% 106人中7人 |
6.6% 106人中7人 |
7.5% 106人中8人 |
歌なし ベビーマッサージ |
7.7% 104人中8人 |
16.3% 104人中17人 |
18.3% 104人中19人 |
17.3% 104人中18人 |
歌なし:教室12回 参加のべ人数104人
表3 表1・2を合計したもの
開始時 | 開始から4分後 | 開始から8分後 | 開始から12分後 | |
わらべうた ベビーマッサージ |
11.1% 208人中23人 |
7.7% 208人中16人 |
8.7% 208人中18人 |
7.7% 208人中16人 |
歌なし ベビーマッサージ |
10.3% 204人中21人 |
13.2% 204人中27人 |
18.1% 204人中37人 |
17.6% 204人中36人 |
3.考察
赤ちゃんが泣くのには様々な理由があるが、今回の調査では歌に合わせた「わらべうたベビーマッサージ」の方が泣く赤ちゃんが少ないという結果となった。泣かないからいいとは言えないかもしれないが、赤ちゃんが泣くことが理由で母親が落ち着いてマッサージができなかったり、不安になるのであれば、歌のある「わらべうたベビーマッサージ」の方が効果的である。歌があることで、歌うことに必死になって怖い顔をしていては逆効果であるが、今回の調査では、わらべうたベビーマッサージ教室に参加している母親の表情は、優しくて穏やかな印象を受けた。赤ちゃんだけでなく母親自身も、「わらべうたベビーマッサージ」の歌に癒されているのかもしれない。
一方、歌なしベビーマッサージ教室に参加している方の中には、話しかける言葉が見つからなくて、無言になってしまう方もいた。今回の調査で私が感じたのは、「歌なしベビーマッサージ」の時の印象は静かだということ。赤ちゃんの泣き声を除けば、 母親の声はあまり聞こえてこなかった。母親はマッサージをするのに必死ということもあるが、赤ちゃんにどんな風に声をかけたらいいのか、迷っているようにも見えた。そういった方には、「わらべうたベビーマッサージ」のように、歌がある方がいいのではないかと思う。わらべうたベビーマッサージ教室に参加してくれた方の中には、「何度か参加するうちに、自然と我が子への語りかけが増えた。」と感想を述べる方もいた。
「歌なしベビーマッサージ」に参加したひとりのお母さんは、マッサージの間(約15分間)で赤ちゃんに話しかけた語の文字数の合計は、平均して約179文字。それに対し、わらべうたベビーマッサージは、一度のマッサージで 1,151 文字(注1) もの母親の声を聞かせてあげることができた。1,151文字とは、例えば「かわいいね。気持ちいいね。」(11文字)と語りかけた場合、約105回も繰り返さなければその数に達しない。言葉の習得を促すことは本来のマッサージの目的ではないが、母親の声をたくさん聞きながら、しかも泣く事が少ない「わらべうたベビーマッサージ」は、赤ちゃんにとって 最適なコミュニケーションの手段のひとつといえるのではないだろうか。
さらに、わらべうたベビーマッサージ教室では、初回よりリピーターの方が、泣く赤ちゃんが少ないという結果が出たため、その理由について考えてみた。
これについては、最初は母親にマッサージしてもらうことがどんなことかわかっていなかった赤ちゃんが、母親の笑顔や温かい手のぬくもりを感じ、回数を重ねることにより、マッサージの時間がより楽しく、より好きになったことで、リピーターの赤ちゃんの方が泣く割合が低くなったのではないかと考える。母親も回数を重ねるごとに、「わらべうたベビーマッサージ」の歌を一緒に口ずさむことができるようになり、大好きな母親の歌声を繰り返し聞くことで、赤ちゃんもより喜び、安心しているからではないだろうか。
参加した母親からのアンケートからも、「何度かマッサージを繰り返すうちに、自分からオイルを持ってきてマッサージを催促してくるようになった」「夜泣きがひどかったが、寝る前のマッサージを繰り返すうちに、安心したようで寝ぐずりもなくなり、夜中も起きなくなった」と、繰り返すことが大切であると思える声があがった。
Ⅲ.わらべうたベビーマッサージと童謡ベビーマッサージの比較(調査②)
調査①では、「歌なしベビーマッサージ」より、歌のある「わらべうたベビーマッサージ」の方が、泣いている赤ちゃんの割合が低いという結果となった。では、歌があるから泣いている赤ちゃんの割合が低かったのか、それとも「わらべうたベビーマッサージ」の歌だから泣く赤ちゃんが少なかったのだろうか。わらべうたでなく、一般的に赤ちゃんや幼児が好む「童謡」に合わせた場合はどうなのだろうか。
そこで調査②では、「わらべうたベビーマッサージ」と、わらべうたベビーマッサージとほぼ同じ手技に童謡を合わせたベビーマッサージ「童謡ベビーマッサージ(注2)」を比較した。
この「童謡ベビーマッサージ」で歌う童謡は、ベビーマッサージを目的に作られたものではなく、よく知られている既存の童謡を「わらべうたベビーマッサージ」の手技に合わせたものである。手技はほぼ同じであるが、「童謡ベビーマッサージ」には一部歌のない箇所や、「わらべうたベビーマッサージ」と同じ歌詞で歌う部分がある。
1.進め方
「歌なしベビーマッサージ」が「童謡ベビーマッサージ」に変わるほか、進め方は調査①と同じ。比較しやすいように、「歌なしベビーマッサージ」のデータを表に添付した。
2.結果
下記は、その結果を表にしたものである。開始時は、それぞれの赤ちゃんの機嫌が良い悪いがあったと考えられるが、全体的に見て「わらべうたベビーマッサージ」と「童謡ベビーマッサージ」の赤ちゃんが泣く人数を比較した場合、より赤ちゃんが泣かずにマッサージできるのは、「わらべうたベビーマッサージ」だという事が言える。表6を見てみると、開始から12分後には「わらべうたベビーマッサージ」と「童謡ベビーマッサージ」とでは7.6%の差がある。
表4 泣いている赤ちゃんの人数 [対象者:ベビーマッサージが初めての方(初回)]
開始時 | 開始から4分後 | 開始から8分後 | 開始から12分後 | |
わらべうた ベビーマッサージ |
12.7% 102人中13人 |
8.8% 102人中9人 |
10.8% 102人中11人 |
7.8% 102人中8人 |
童謡 ベビーマッサージ |
13.9% 101人中14人 |
6.9% 101人中7人 |
13.9% 101人中14人 |
14.9% 101人中15人 |
歌なし ベビーマッサージ |
13.0% 100人中13人 |
10.0% 100人中10人 |
18.0% 100人中18人 |
18.0% 100人中18人 |
表5 泣いている赤ちゃんの人数 [対象者:教室参加が2~8回目の赤ちゃん(リピーター)]
開始時 | 開始から4分後 | 開始から8分後 | 開始から12分後 | |
わらべうた ベビーマッサージ |
9.4% 106人中10人 |
6.6% 106人中7人 |
6.6% 106人中7人 |
7.5% 106人中8人 |
童謡 ベビーマッサージ |
11.9% 101人中12人 |
10.9% 101人中11人 |
11.9% 101人中12人 |
15.8% 101人中16人 |
歌なし ベビーマッサージ |
7.7% 104人中8人 |
16.3% 104人中17人 |
18.3% 104人中19人 |
17.3% 104人中18人 |
表6 表4・5を合計したもの
開始時 | 開始から4分後 | 開始から8分後 | 開始から12分後 | |
わらべうた ベビーマッサージ |
11.1% 208人中23人 |
7.7% 208人中16人 |
8.7% 208人中18人 |
7.7% 208人中16人 |
童謡 ベビーマッサージ |
12.9% 202人中26人 |
8.9% 202人中18人 |
12.9% 202人中26人 |
15.3% 202人中31人 |
歌なし ベビーマッサージ |
10.3% 204人中21人 |
13.2% 204人中27人 |
18.1% 204人中37人 |
17.6% 204人中36人 |
3.考察
「わらべうたベビーマッサージ」の歌は、もともとこのマッサージを目的に、それに合うように工夫して作られたものである。その「わらべうた」と、それとは異なる「童謡」の比較では、「童謡ベビーマッサージ」が「わらべうたベビーマッサージ」より、泣く赤ちゃんの割合が多くなるのはある意味当然の結果ともいえる。 その事をふまえた上で、以下の3点を挙げ、その可能性について考えてみた。
3-1.なぜ「わらべうたベビーマッサージ」の方が、泣く赤ちゃんの割合が低いのか?
わらべうたベビーマッサージの歌は、「ラ」の音を中心に作られており(奥田 2009)、このわらべうたベビーマッサージの歌も「ラ」の音を中心に作られていることで、子守唄同様に乳幼児を癒し、母親の耳にも心地良く届いたのではと考えられる。
「子守唄の分析と楽曲データに基づく自動作曲プログラムの開発」(陶山他 2006)の論文では、母子間の非言語的コミュニケーション不足の解決策として、乳幼児を癒し、母親の母性を促す効果を持つ子守唄に注目し、その音楽的要素を分析した結果を報告している。その中で、日本の全国で歌われている子守唄17曲と、主に西洋で歌われている子守唄19曲を分析した結果、Aの音(ラの音)が最も多く使われていると書かれている。さらに、Aの音(ラの音)とされている440Hzは、人間にとって最も心地よい周波数であると言われているが、子守唄の再頻出の音であることは興味深いとある。
3-2.なぜ「わらべうたベビーマッサージ」では、初回に比べリピーターの方が泣く赤ちゃんの割合が低いのか?
これは前述したように1つには、最初は母親にマッサージしてもらう事にあまり理解が無かった赤ちゃんが、母親の笑顔や温かい手のぬくもりを感じ、回数を重ねる事で少しずつ歌を覚え、マッサージの時間をより楽しむようになったことが考えられる。
2つ目には、「わらべうたベビーマッサージ」の手技・歌が覚えやすいという事にも、関連していると考えられる。わらべうたベビーマッサージ教室と童謡ベビーマッサージ教室への参加回数4回目終了後の方に、アンケートを取った。「マッサージの手技は覚えられましたか?」という質問に対し、(①覚えた・②ほぼ覚えた・③少し覚えた・④ほぼ覚えていない・⑤覚えていない)のいずれかで回答してもらった。
結果、わらべうたベビーマッサージ教室に参加された方35人の中で①、②と答えた方は25人で約7割。童謡ベビーマッサージに参加された方30人の中で①、②と答えた方は16人で約5割という結果が出た。このアンケートに回答した、わらべうたベビーマッサージ教室の参加者からは、「わらべうたベビーマッサージの歌詞には、『あんよ』や『ひざ』などマッサージする部位の名称が歌詞に含まれているので、歌を聞くとどの部分のマッサージかがわかる」「繰り返しが多いので歌詞を覚えやすく、家でも自然と口ずさみながらスキンシップができる」「あまり覚えていないと思っていたが、歌を聞くと思い出す」との声があがった。
「わらべうたベビーマッサージ」は覚えやすく、母親がマッサージの手技を覚えていることでよりスムーズに、余裕を持って赤ちゃんに関わることができる。そして、母親も一緒に歌を口ずさむことができ 母親の声を繰り返し聞くことでより赤ちゃんも喜び、初めての時より安心してマッサージの時間を楽しむことができたのが、初回に比べリピーターの方が、泣く赤ちゃんの割合が低い理由ではないかと考えられる。
3-3.童謡はベビーマッサージに適していないのか?
「童謡ベビーマッサージ」の場合、母親が童謡を歌うことに気を取られる、赤ちゃんが興奮してくるなどの様子が見られることがあり、本来のマッサージの目的のひとつでもあるリラックスするという点では、泣く赤ちゃんが少ないという結果から見ても「わらべうた」の方がより適しているように思えた。
参加したお母さんからは、約15分間童謡をほぼ歌い続けるのは疲れるという声もあがった。「童謡ベビーマッサージ」の終了時に赤ちゃんが泣く割合が上がるのは、母親だけでなく赤ちゃんも疲れ、母親の疲れが手から伝わっているからではないかとも考えられる。ただ、やはり赤ちゃんは童謡が好きだと思う。今回の結果は、童謡を否定するものではない。今回の調査において、「わらべうた」と「童謡」を比較する為に、手技に合う童謡を多数合わせたが、赤ちゃんの気分を切りかえたい時や、教室の雰囲気を盛り上げるのには1、2曲の童謡をマッサージの時間に取り入れることは、効果的であると思える。
Ⅳ.まとめ
調査①、②により、黙ってマッサージを行うより、赤ちゃんは歌に合わせてマッサージをする方が泣く割合が低く、さらにその歌はマッサージにあった歌の方が良いという結果が見えてきた。「わらべうたベビーマッサージ」と「歌なしベビーマッサージ」の比較は、「歌がある」と「歌がない」との比較であり、「わらべうたベビーマッサージ」と「童謡ベビーマッサージ」の比較は、「もともとベビーマッサージ用に作られた歌に合わせた場合」と「そうではない歌に合わせた場合」との、泣いている赤ちゃんの割合の比較ともいえる。
つまり、「わらべうたベビーマッサージ」ではなくても、ベビーマッサージ用に作られた歌があれば同じ結果になるという可能性は否定できない。「わらべうた」だから良いのだというのは推定に留まる。
しかしながら、今回の調査にあたりたくさんの親子に関わった中で、「わらべうた」のもつ魅力や、「わらべうたベビーマッサージ」を通して、笑顔あふれる親子のかかわりを目の当たりにした。もし、既存の童謡ではなく、ベビーマッサージ用に作られた童謡のような歌があり、それと「わらべうたベビーマッサージ」を比較した場合でも、やはり後者の方が泣く赤ちゃんがより少なく、より楽しく効果的なスキンシップが楽しめるのではないかと思えてならない。
わらべうたベビーマッサージ | 童謡ベビーマッサージ | |
1. 背中 | せーなかせなか せーなか トントントン ゲップがでたかな トントントン トントントンたら トントントン ゲープ ×2回 |
さいた さいた チューリップの 花が ならんだ ならんだ あかしろ きいろ どのはなみても きれいだな (チューリップ) |
2. お腹 | おーなかおなか おーなか ポンポンポン おなかーいっぱいポンポンポン ポンポンポンたら ポンポンポン ゲープ ×2回 |
さいた さいた チューリップの 花が ならんだ ならんだ あかしろ きいろ どのはなみても きれいだな (チューリップ) |
3. 体操 | おてて まっすぐ まっすぐ ばんざーい おつむテンテンテン おててパチパチパチ ギュー ギュー ×2回 |
大きな栗の木の下で あなたと私 仲良く遊びましょう 大きな栗の木の下で パチパチパチパチ (大きな栗の木の下で) |
4. 足 | なでなでボーズ なでボーズ あっちいって こっちいって なでボーズ ×左右 あんよはかわいい なでボーズ あっちいって こっちいって なでボーズ ×左右 ひざひざボーズ ひざボーズ あっちいって こっちいって ひざボーズ ×左右 ぶるぶるボーズ ぶるボーズ あっちいって こっちいって ぶるボーズ ×左右 |
迷子の迷子の 子猫ちゃん あなたのお家はどこですか (左) お家を聞いても 分からない 名前を聞いても 分からない (右) にゃんにゃんにゃにゃーん にゃんにゃんにゃにゃーん 泣いてばかりいる 子猫ちゃん (左) 犬のおまわりさん 困ってしまって わんわんわわーん わんわんわわーん (右) ×2回 (犬のおまわりさん) |
5. 足の指・足の裏 | 赤ちゃん指ころころピ お姉さん指ころころピ お兄さん指ころころピ お母さん指ころころピ お父さん指ころころピ ×左右 ギュー バー (右) ギュー バー (左) テンテンテンテン ギュー バー (右) テンテンテンテン ギュー バー (左) |
赤ちゃん指をクルクルポン お姉さん指をクルクルポン お兄さん指をクルクルポン お母さん指をクルクルポン お父さん指をクルクルポン 今度は反対の足だよ。(左) 元気な足だよ1・2・3(右) (とんとんひげじいさん) 足の裏のマッサージはわらべうたベビーマッサージと同じ |
6. お腹・胸・両手 | ※あららハート あららハート あららヒコーキ あららヒコーキ を飛ばしましょ ブルンブルンブルン ブルンブルンブルン ブルンブルン ※(繰り返し) が飛びました スィスィスィー スィスィスィー スィスィ ×左右 ※(繰り返し) がゆれました チクチクチクチク チクチクチク チクチク ※(繰り返し) がおりてきた し~~~~~~ |
○○ちゃんはとっても 歌がすき 母さんよぶのも 歌でよぶ ピピピピピ チチチチチ ピチクリピ ピピピピピ チチチチチ ピチクリピ ×4 (ことりの歌) |
7. 手の指・手のひら | 赤ちゃん指ころころピ お姉さん指ころころピ お兄さん指ころころピ お母さん指ころころピ お父さん指ころころピ ×左右 ギュー バー (右) ギュー バー (左) テンテンテンテン ギュー バー (右) テンテンテンテン ギュー バー (左) |
赤ちゃん指をクルクルポン お姉さん指をクルクルポン お兄さん指をクルクルポン お母さん指をクルクルポン お父さん指をクルクルポン 今度は反対の足だよ。(左) 元気な手だよ1・2・3(右) (とんとんひげじいさん) 手のひらのマッサージはわらべうたベビーマッサージと一緒 |
8. 背中 | あーちゃん おせなかなでましょう クリクリクリクリ クリクリクリー あーちゃん おせなかなでましょう タントンタントン タントントン あーちゃん おせなかなでましょう パカパカパカパカ パカパカパー あーちゃん おしりをなでましょう ぐるぐるぐるぐる めがまわる あーちゃん おせなかなでましょう おおきく おおきく せがのびる もっと もっと おおきくなーれ |
ちょうちょ ちょうちょ なのはに とまれ なのはに あいたら 桜に とまれ 桜の花の 花から花へ とまれよ 遊べ 遊べよ とまれ (ちょうちょう) |
9. 顔 | うさぎのおみみは ピョンピョンピョン おさるのおかお すうじの3 あーちゃんのあたま よしよしよし いい子 いい子 おしまい |
○○ちゃんはね ○○っていうんだ 本当はね だけどちっちゃいから 自分の事 ○○ちゃんって 呼ぶんだよ かわいいね ○○ちゃん (さっちゃん) これでマッサージ おしまい |
( )は曲名
注1:奥田朱美『改訂わらべうたベビーマッサージ』より。「1. 背中」から「9. 顔」までの文字数を合計したもの。
注2:わらべうたの手技(左)に、童謡を合わせたもの(右)
参考文献
奥田朱美 2009 『わらべうたベビーマッサージ』 現代図書
奥田朱美 2011 『改訂わらべうたベビーマッサージ』 現代図書
新村出 2008 『広辞苑(第6版)』 岩波書店
陶山洋・久原泰雄・諸伏雅代 2006 『子守唄の分析と楽曲データに基づく自動作曲プログラムの開発』 音楽情報科学、68、pp.55-57