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【産科医の海外留学・出産・子育て記】 第9回 留学を振り返って

要旨:

2008年から2010年まで二年間の留学を振り返って、得たもの、学んだこと、身につけたことは人生の貴重な宝物です。家族一緒に異文化の中で過ごせたこと、貧乏留学生という弱い立場となって気づいたこと、患者の立場に立ってみてわかった医師のあるべき姿、子育てや医療システムの違い、日本の優れた点、職種や専門分野を超えた広い視野、多種多様な人々とのコミュニケーション、アサーティブなディスカッションの方法など、その後の仕事や人生を楽しくやりやすくしてもらえるものをたくさん手に入れました。タイム・マネジメントや、仕事と家庭が融合したライフスタイルはまだまだこれからの課題ですが、これまでの経験から、逆境の方がむしろ楽しい、ということを確信しています。

2008年から2010年までの2年間、家族一緒に異文化の中で過ごせたのは、私にとって貴重な財産となりました。貧乏留学生という弱い立場となって気づいたこと、患者の立場に立ってみてわかった医師のあるべき姿、子育てや医療システムの違い、日本の優れた点、そして、日本人がもっと伸ばしていくべき面、アメリカの許容範囲の広さ、職種や専門分野を超えた広い視野、などです。多種多様な人々とのコミュニケーション経験から、どんなご意見も自分への批判や攻撃とは受け取らず、そこから勉強させてもらおうという図太いたくましさが身に付きました。

学業でも、子どもを通じた付き合いでも、地域のつながりでも、就活でも、違う考え方や物のとらえ方が視野を広げてくれることが多く、違う経験をした人の考えを持ち寄りシェアすれば、一人でも二人分、三人分の人生を生きることができるのだと感じました。

ネットワーク

ネットワーキングは人生の宝、と教えられたのも、留学したからこそです。日本の中で守られていた私は、積極的に人脈を広げようと思わなくても、その時に所属している人間関係の中で何とかなっていました。しかし、ハーバードでは、「あなたが何を知っているかよりも、誰を知っているかのほうが重要」と、人と人とのつながりを尊重します。そのため、異業種・異分野の集まりには積極的に参加し、つたない英語でも話しかけ、講演会に出た後は必ず講師の先生と名刺交換をし、直後にメールでご挨拶をする、というスタイルが身に付きました。出会った時には思わなかったほど、後々、その出会いが巡り巡ってつながる、ということがよくあります。また、ある人は子育てにかかりきり、別の人はワーカホリック、またある人は介護の毎日・・・など、それぞれの状況が違っても、お互いの人間関係を大事にすれば、いつかは誰かが何かの経験の先輩になり、誰かが相談に乗ってくれ、誰かが辛さ、苦しさを理解してくれるようになります。同窓生だから、同じ日本人だから、同じ状況だから仲が良い、のではなく、必ずどこかでつながっていると思うと、どんな人との関係も大事にしよう、誠実にお付き合いをしよう、と思うようになりました。

今後取り組んでいきたいこと

私がずっと決めていたこと、それは、すべての子どもが笑顔で楽しく過ごせるように力を尽くしたいということ。そして、その母親たちが皆、元気で、楽しく過ごせるように力になりたい、ということです。この連載で記したハーバード留学時代、自分の三年後はどうなっていたいか?という質問に、答えられませんでした。その場、その場でベストを尽くせばきっと良い方向に行く、と思っていたのです。  しかし、このCRNでもレポートさせていただいた被災地支援をきっかけに、「非常時、という意外性を通して、日常の重要さを問いかけよう」「被災やインフラなどの機能不全という非日常を通して、今できることのありがたみを明らかにしよう」と、災害対策と母子保健をつなぐ仕事、医療従事者と受け手側とをつなぐ仕事、体を治す人と心を治す人とのコラボレーション、異なる組織に属する人たちのコミュニケーションを図る仕事、など、今まで誰もしていなかったような隙間に落ちている部分を、落穂ひろいのように根気強く満たしていく仕事をすることを、当面3年間の目標にしようと思うようになりました。


report_09_84_01.jpg被災地で無事に産まれた赤ちゃんを抱きしめて

時間

今、本当に欲しいものは何ですか?と問われれば、迷わず、時間!と答えます。が、時間を作る努力をもっとしよう、というのが、今後の課題です。私の好きな格言ではこういうものがあります。

時間が足りないなどと言ってはならない
あなたに与えられた一日あたりの時間はきっかり同じなのだから
ヘレン・ケラー、パスツール、ミケランジェロ、マザー・テレサ、
レオナルド・ダ・ヴィンチ、トーマス・ジェファーソン、
アルバート・アインシュタイン、だれもみな同じ
( H・ジャクソン・ブラウン・ジュニア )

Don't say you don't have enough time. You have exactly the
same number of hours per day that were given to Helen Keller,
Pasteur, Michelangelo, Mother Teresa, Leonardo da Vinci,
Thomas Jefferson, and Albert Einstein.
( H. Jackson Brown Jr. )

家族・仲間

自分が死ぬ時に遺したいものは、子どもの笑顔、家族の笑顔、家族を持つことを素晴らしいことだと思い、楽しむ人々です。

支えてくれ、「できるよ!」と言ってくれる人がいれば、日々、目の前のことに疲弊してしまう人も、楽しい気持ち、モチベーションを持ち続けることができます。そして、理解してくれる家族や仲間に話してワクワクすることで自分の中から力が湧いてくることもあります。

子どもたちが大きくなって話がわかるようになってから、子どもに刺激を与えてあげられるように自分磨きをして、親が自分の人生を楽しんでおこうというのが今のワーク・ライフ・フュージョンの生活スタイルになっています。ここでいう「ワーク・ライフ・フュージョン」とは、仕事も家庭も自分もすべて自分を構成する要素ととらえ、区切らずにすべてをミックスさせてうまくいかせるという感覚です。ワーク・ライフ・バランスというと、どちらかを天秤にかけて選ぶというイメージですが、混とんとしている毎日では仕事やプライベートの切れ目がなく連続しています。私は、仕事も家庭も切り離さず、仕事で得たことを家族や友人たちとの時間に生かし、家族がいることでアップした能力を仕事に活かしながら、相乗効果で日々を乗り切っているところがあります。たとえば、勉強会や飲み会には、ほかの方々から事前に許可を得たうえで、子連れで参加することもあります。自宅で勉強したり、ボランティア活動に子どもも巻き込んでいくのは、子どもにも、勉強することの面白さ、世の中の面白さ、自分の可能性、やりたいことを探していく喜び、どんどんネットワークを広げて行くこと、社会の中で人とつながっていく楽しさを教えてあげたいからです。

私の場合、見切り発車的な部分が多く、下準備してから取り掛かればこんな苦労しなくて済んだのに、と思うこともあります。ハーバード留学中も、卒業後も、挫折や失敗をたくさんしました。でも、たくさんのニアミスの後、やっと一つ、目標にある程度近いものが手に入り、それが実は本来の目標よりも自分にはピッタリだったこともあります。こんなことを繰り返して今まで来ました。

産婦人科医として、4姉妹を育てる母として、そして何よりもまず、一人の女性として。すこやかで美しく、楽しく生きるヒントをみなさんと一緒に考えていきたいと思います。


report_09_84_02.jpg被災地支援に明け暮れる毎日、子どもたちの存在が支えでした

これからお母さんになられる方々へ

産婦人科医、4人の娘の母親の立場から、これから母親になりたいと思っていらっしゃる方、現在妊娠中の方へ。

マタニティライフは、記録しておかなければもったいないくらい、キラキラ輝く珠玉の時間。 両親がわが子の出産を待ち望み、楽しみながら待っている一日一日。その記録は、将来きっと、温かく、子どもの心を満たします。いじめに遭っても、自己肯定感が下がっても、親の手が届かない世界で奮闘するときも、「自分は親にとって特別な存在」「親に愛されてきた」という自信が、子どもの芯を支えるのではないでしょうか?いつかは別の人生を歩むわが子へ、いつかはわが子を残して先に行かなければならない時を見据えれば、妊娠中の記録はとても素敵な愛情のメッセージとなるでしょう。

そんな妊娠中のお母さんの思い、出来事、妊娠の経過を自然に形にできるよう、『安心マタニティダイアリー 』を執筆いたしました。楽しい妊娠時期を過ごしてほしい、そうでないと、もったいない!こんなに貴重な時間なんだからと、私のおせっかいな気持ち満載の本になっています。ご参考になれば幸いです。

最後に、私の好きな格言から
成功や幸せはあなたがそれらを寛大な心で
他者と共有することによってのみ許容される
( アルベール・カミュ )

Your successes and happiness are forgiven you
only if you generously consent to share them.
( Albert Camus )

筆者プロフィール
report_yoshida_honami.jpg 吉田 穂波(よしだ ほなみ・ハーバード公衆衛生大学院リサーチ・フェロー・医師、医学博士、公衆衛生修士)

1998年三重大医学部卒後、聖路加国際病院産婦人科レジデント。04年名古屋大学大学院にて博士号取得。ドイツ、英国、日本での医療機関勤務などを経て、10年ハーバード公衆衛生大学院を卒業後、同大学院のリサーチフェローとなり、少子化研究に従事。11年3月の東日本大震災では産婦人科医として不足していた妊産婦さんのケアを支援する活動に従事した。12年4月より、国立保健医療科学院生涯健康研究部母子保健担当主任研究官として公共政策の中で母子を守る仕事に就いている。はじめての人の妊娠・出産準備ノート『安心マタニティダイアリー』を監修。1歳から7歳までの4児の母。
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