TOP > 論文・レポート > 子育て応援団 > 【イギリスの子育て・教育レポート】 第26回 イギリスの公立小ではどんな「プログラミング教育」をしてる?~授業見学体験記~

このエントリーをはてなブックマークに追加

論文・レポート

【イギリスの子育て・教育レポート】 第26回 イギリスの公立小ではどんな「プログラミング教育」をしてる?~授業見学体験記~

橋村 美穂子

2018年3月16日掲載

要旨:

今回はイギリスの公立小における「プログラミング教育」を取り上げる。イギリスは小学校で「コンピューティング」を必修科目にしており、その中でプログラミングに関する内容を教えている。先日、息子の小学校で5つの学年のコンピューティングの授業見学をする機会に恵まれた。4歳から遊びの中でコンピュータに関する概念に触れ、学年が上がるにつれ、プログラムを組んで何かを創造する活動に発展していることが興味深かった。最も印象的だったのは3年生。「子どもたちがロボット役の先生に指示を与え、ジャムサンドイッチを作らせる」という活動が行われていた。授業のねらいはアルゴリズムなどプログラミングの概念を理解することだ。ジャムサンドイッチを作るという目的に向かってクラス全員で協力することで、最初はあいまいだった指示が精緻化され、最後には無事に完成した。今回の授業見学を通して、プログラミング体験だけでなく、その根底にある概念を学ぶことが大切であること、また、プログラミング教育のエッセンスは日常生活の中にすでにあることを実感した。

Keywords: 橋村美穂子, イギリス, 小学校, コンピューティング, プログラミング, プログラミング教育, プログラミング的思考, micro:bit, Bee-bot, アルゴリズム

この連載では、小学生の息子をもつ母親による「イギリスの子育て・教育」体験レポートをご紹介します。

突然ですが、あなたは「アルゴリズム」って何か、説明できますか?私がこの言葉を聞いてまず思い浮かんだのは「アルゴリズム体操」でした。先日、息子の小学校で「コンピューティング(Computing)」の授業見学をする機会に恵まれ、そこで初めて意味を理解できました。

今回は、公立小学校のコンピューティングの授業の様子を通して、イギリスのプログラミング教育を紹介します。筆者はプログラミング教育の専門家ではありません。ここでは、コンピューティングの授業について、筆者がいち保護者として見て、感じたことを紹介します。

なお、イギリスは、4つの地方それぞれに教育システムが異なるうえ、各学校で独自にカリキュラムを決めているため、学校によって授業内容が大きく異なります。ここでご紹介する内容は、イングランド地方における一例としてご覧ください。

イギリスでは2014年から、小学校で「コンピューティング」が必修科目に

授業内容を紹介する前に、日本とイギリスのプログラミング教育について簡単に説明します。

日本では2020年に学習指導要領が改訂され、小学校でもプログラミング教育が始まります。しかし、「プログラミング」という教科が新たに始まるわけでも、プログラミング言語を書くこと(コーディング)を学ぶわけでもないそうです。文部科学省によると、日本のプログラミング教育の目的とは「子供たちに、コンピュータに意図した処理を行うよう指示することができるということを体験させながら、将来どのような職業に就くとしても、時代を超えて普遍的に求められる力としての『プログラミング的思考』などを育むことであり、コーディングを覚えることが目的ではない」のです (1)。プログラミングは既存の教科の中で扱われる予定です。

イギリスでは1995年からコンピュータの操作スキルや使い方に重きを置いた「ICT」が必修になっていましたが、2014年に「コンピューティング」という科目名に変わりました。その背景には、政府や産業界から「ICT」ではコンピュータにまつわる概念である「コンピュータ・サイエンス(Computer Science)」が深く学習されていないと指摘されたことがあるそう。「ICT」は情報活用能力の習得に重きを置いていたのに対し、「コンピューティング」はアルゴリズムの理解やプログラミング言語の学習を取り入れるなど、コンピュータ・サイエンスの内容をより充実させたものになっています (2)

実は、独立した科目として「コンピューティング」を必修化している国は少ないため、イギリスの「コンピューティング」は世界から注目を集めています。しかし、必修化から3年が経ち、教えられる先生が不足しているなど、さまざまな課題も見え始めています。

「4歳から遊びながら概念に触れ、11歳でプログラムを作る」段階的なカリキュラムに驚いた

今回は、5つの学年のコンピューティングの授業を見学しました。それぞれの学年の授業内容は以下のとおりです。低学年でアルゴリズムなどの概念に触れた上で、プログラミングしてゲームを作るといった創造的な活動に徐々に移行していることに驚きました。

●レセプションクラス(準備クラスのこと。4~5歳児・日本では年中にあたる)

テクノロジーは身近な生活の中にある

「洗濯機はどうやって動くかな?」「ボタンを押したら動く~!」「どんなことをする機械?」「洋服を洗う機械!」など、先生との掛け合いの中で、身の回りの電化製品の働きについて学んでいた。その後、おもちゃの電話やビーボット(Bee-Bot)と呼ばれる虫型プログラミングロボットで遊ぶ中で、機械がどのように動くのか理解を深めていた(写真1)。

report_09_292_01.jpg
写真1:ビーボットで遊ぶ4~5歳児。右に2歩、後ろに3歩進むなど、自分がボタンで入力した通りに動く。

●小学2年生(6~7歳・日本では小1生にあたる)

友だちロボットに指示を出そう

友だちをロボットに見立て、正確な指示(命令)を出して動かすという授業。長方形の長辺を5歩、短辺を2歩で歩いて一周するためにはどう指示を出せばよいか、ペアになってホワイトボードに書き出していた(写真2)。例えば、「①まず、5歩前進する。その後、体の向きを右に90度変える。③2歩前進する」といった形で細かく指示していた。ICT機器はほとんど使用しない授業だったことも興味深かった。

report_09_292_02.jpg
写真2:与えられた課題に「図形の上に長靴を置く」という自らのアイディアを加え、指示書の中に「長靴をジャンプして避ける」と書いたグループも。

●小学3年生(7~8歳・日本では小2生にあたる)

アルゴリズムを使って指示を出そう

授業の目的はアルゴリズムやデバッグなどのプログラミングの概念を理解すること。用語の意味をgoogle検索で調べた後、先生が事前に描いた絵について、実際には見せずに言葉だけで説明し、子どもたちが指示通りに描くという活動をした。自分の絵と先生の絵が異なるという体験から、あいまいさのない正確な指示を出す大切さを学んでいた(写真3)。

 report_09_292_03.jpg  report_09_292_04.jpg 
写真3:「動物に冠を付けて」と指示されたが、先生の絵では冠が顔の中にあって児童たちの絵とはまったく違うものに。指示を出すときは場所も指定することも大切と伝えていた。

●小学4年生(8~9歳・日本では小3生にあたる)

HTMLコードを理解して編集しよう

これまで学んだ「アルゴリズム」や「デバッグ」の意味を冒頭に確認。その後、BitsboxというHTML・コーディングを学ぶソフトを使用し、背景やキャラクター、音などを編集してオリジナルの作品を作ってみようという授業。これまでの知識の蓄積があるからか、子どもたちはスムーズに自分の作品を作っていた(写真4)。

report_09_292_05.jpg
写真4:児童が作ったオリジナルのアニメーション

●小学6年生(10~11歳・日本では小5生にあたる)

micro:bitを使ってじゃんけんプログラムを作ろう

micro:bitという小型コンピュータにプログラミングする授業。2~3人のグループになり、先生があらかじめ提案した基本のプログラム通りにじゃんけんプログラムを作成(写真5)。多くの子どもにとって与えられた課題は易しかったようで、余った時間で効果音を加える、カウントダウン機能を加えるなど、独自にプログラミングをして発展させていたのが印象的だった。

report_09_292_06.jpg
写真5:micro:bitとじゃんけん対戦をする児童。授業でこの機械を使用するのは2回目だったそうだが、皆、スムーズに操作していた。

パソコンを使わずにプログラミングの概念を学ぶ! ロボット役の先生に指示を出して、ジャムサンドイッチを作らせる授業

今回の授業見学で最も印象的でかつ、興味深かったのは3年生です。この授業のねらいは、プログラミングの基礎となる概念であるアルゴリズムやデバッグとは何かを理解するものなのですが、その方法が非常にユニーク。先に紹介した内容のほかに、「脳を持たないロボット」に扮した先生に子どもたちが正確に指示を出して、ジャムサンドイッチを作らせるという活動がありました。そのジャムサンドイッチがおいしくできたら食べてもいいということで、子どもたちのテンションが上がります!とはいえ、どのように指示を出せばよいかわかりにくいので、まず、YouTube上にあるサンプル映像で成功・失敗例の指示を確認した上でスタートしました。

最初は子どもたちの指示があいまいで、なかなかうまくいきませんでした。ある子どもが「パンを袋から取ってください」と言うと、ロボット先生は袋からパンを10枚全部出してしまいます。パンの枚数を指定していないからです。今度は「ジャムの蓋を右手で開けてください」と指示を出します。ロボット先生は右手でジャム瓶の蓋を開けようとするけれど、蓋と瓶がクルクル回るだけで開きません。左手で瓶を押さえる必要があったのです。授業はこのようなハプニングの連続!教室はその度に大きな笑いに包まれながらも、クラス全員の協力で間違いを修正し、指示をより細かく正確にしていきます。次第に「右手に持ったナイフで中くらいの量のジャムをすくい、パンにやさしく塗ってください」などと指示が細かく丁寧になり、最後には何とかジャムサンドイッチができました。

report_09_292_07.jpg
写真6:ロボットになりきり、子どもたちの指示で動く先生。この先生は学校のコンピューティング科目のリーダーを務め、他の学年の先生をサポートしています。

この授業で印象的だったのは、児童が非常に意欲的に参加していたこと。ロボット先生にジャムサンドイッチを作らせるという「実現したいと思える目的」が与えられたことで、実現するプロセスを論理的に考え、順番に指示を出し(アルゴリズム)、必要があれば修正する(デバッグ)というプログラミングに必要な概念をパソコンなどの機器を使わずに学んでいたことが目からウロコでした。ロボットやゲームのプログラミング体験ももちろん、大切だと思いますが、体験の前後にその基礎となる考え方を学んでいると実際にプログラミングをするときも応用が利きやすいだろうと感じました。

プログラミング教育のエッセンスは、日常生活の中に転がっている

保護者世代はプログラミングを学んできたわけではないので、教えられない、だからプログラミング教室に連れて行こうと思う方もいらっしゃるかもしれません。私もそう思っていた一人でした。しかし、授業見学を見て感じたのは、プログラミング教育のエッセンスは日常生活の中にたくさんあるということです。テレビの番組表や運動会の進行表はプログラムと呼ばれ、生活の中になじみ深いものですし、プログラミング教育の専門家によると「料理のように、目的があり、材料を揃え、 手順よく作業し、味見をして、調味料を加減することなどは、Computational Thinkingであり、プログラミング的思考と言ってもよい」そうです (3)。今回見学した小学3年生の授業のように、料理を作るという目的に向かって、手順を細分化したり、その順番を一緒に考えたりすることでプログラミングの概念に触れるというのは、ご家庭でもできるかもしれませんね。

次回は「放課後の無料プログラミング教室」を紹介します。お楽しみに。

*授業で流されたYouTube上の映像
先生にプログラミングをしてジャムサンドイッチを作ろう(Program your teacher to make a Jam Sandwich (Sandwich Bot) Junior Computer Science)
https://www.youtube.com/watch?v=leBEFaVHllE


<参考文献>

筆者プロフィール

橋村 美穂子(はしむら・みほこ)

大学卒業後、約15年間、(株)ベネッセコーポレーションに勤務。ベネッセ教育総合研究所で幼稚園・保育所・認定こども園の先生向け幼児教育情報誌の編集長を務め、2015(平成27)年6月退職。現在は夫、息子と3人でイギリス中西部の街バーミンガム在住。
このエントリーをはてなブックマークに追加
サイトマップはこちら
サイトの全体像が分かります。

Twitter  Facebook

CRNアジア子ども学交流プログラム

名誉所長ブログ

論文・レポートカテゴリ

イベント

ご意見・ご質問

メルマガ登録

世界の幼児教育レポート

CRN刊行物