CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 論文・レポート > 子育て応援団 > 【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第30回 ギムナジウムへの進学(1)~5年生から?それとも7年生まで待つ?

このエントリーをはてなブックマークに追加

論文・レポート

Essay・Report

【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第30回 ギムナジウムへの進学(1)~5年生から?それとも7年生まで待つ?

要旨:

ドイツでは伝統的に小学校は4年間で卒業だが、ベルリンでは原則的に6年生まで通い、小学校卒業後は、「上級学校」(ギムナジウム、実科学校、基幹学校)へ進学する。一方、ベルリンでも5年生から門戸を開いているギムナジウムも存在し、年々早期進学者数も増加している。しかし、年ごとに倍率やテスト内容が変わるため、具体的な対策を立てることは困難である。また、学校ごとに重点科目が異なるため、どの学校へ進学するか10歳前後で決めることは、なかなか簡単ではない。

Keywords:
ドイツ、ベルリン、上級学校、ギムナジウム、進学、シュリットディトリッヒ桃子

日本では今頃、入試シーズンの最中でしょうか?ベルリンでも2月は進路を決める大切な時期で、学校によっては様々な手続きやテストがあります。本記事ではベルリンにおける小学校後の進学システムについてお伝えしたいと思います。

州によって異なる小学校卒業時期と上級学校の種類

ドイツでは伝統的に小学校は4年間で卒業ですが、ベルリンとお隣のブランデンブルグ州では、基本的に6年生まで通うことになっています。これは、移民を含む様々な背景をもった子どもたちにドイツ語や算数の基礎学力をじっくりつけさせ、全体的な学力の底上げを図るためというのが理由の一つのようです。

従って、小学校卒業後、「上級学校」へは7年生から進学することになります。この「上級学校」には、【ドイツの子育て・保育事情~ベルリンの場合】 第27回 保育園でお伝えしたように、大きく分けて、アビトゥア *1という大学入学資格を取得して総合大学への入学を希望する子どもたちが通う「ギムナジウム(Gymnasium)」、専門学校や専門大学の後に事務職や専門職を目指す子どもたちが通う「実科学校(Realschule)」、さらに、大学進学を希望しない場合や、職人や販売員を目指す子どもたちが通う「基幹学校(Hauptschule)」の3種類があります。(ベルリンでは近年「実科学校(Realschule)」と「基幹学校(Hauptschule)」を合わせて「統合中等学校(Integrierte Sekundarschulen)」と呼んでいるようです。)ちなみに、これらの学校へのドイツ全国の進学率は、ギムナジウム:約34%、実科学校:約23%、基幹学校:約12%、総合制学校:約16%、その他各種校:約15%となっています。 *2

一方、冒頭で述べたように、ドイツ国内の他の州では、小学校は4年生で卒業ですから、これらの進路の決定は10歳前後(日本でいうと小3の3学期頃)に行わなければなりません。人生の早い段階で将来の道が決まってしまうこのドイツの伝統的な教育システムには、賛否両論あるようです。

また、上級学校によって重点科目(数学、自然科学、語学、音楽、スポーツなど)が異なるので、カリキュラムも当然、学校ごとに変わってきます。これらのフォーカスによって、将来進学する大学や就職への道も決まってきます。

ちなみに、ドイツでの就職は基本的に専門職で即戦力を求められることが多いので、大学や上級学校での専攻がそのまま就職に影響します。就職したら自分の分野の仕事のみを続け、日本のように会社内での異動(例:編集部から財務部へ)といったことはまずありません。

ですから、自分の専攻を決めることは、自分の将来の道を決めることでもありますが、興味のある教科および希望校を10歳前後で決めるのは容易ではありません。

特に、息子の通う小学校では、1~2年生は合同クラスで保育園の延長みたいなものでしたし、勉強は3年生から始まったといっても過言ではありません。そこから1年ちょっとの勉強期間で、将来の職業選択にも関わる希望教科を決めるのは至難の業です。また、ベルリン市内には1~3年生、4~6年生ともに合同クラスという小学校も少なからず存在するので、小学校に6年間通い、12歳まで適性を見極めるのを待つ、というのは理にかなっている気がしました。

ベルリンでも5年生を受け入れているギムナジウムが存在する

一方で、ギムナジウムに関しては、ベルリンでも5年生からのクラスを設けている学校が存在します。学習意欲があり、それなりの成績を収め、それらのクラスへの編入を希望する子どもは、ギムナジウムから認められれば5年生からの進学が可能となります。

5年生を受け入れている公立ギムナジウムは全体の半数以下である42校、受け入れ生徒数は各校とも1-2クラス分(30-60人)で、市内合計約2000名分だそうです。ちなみに、これらの学校のほとんどは7年生からの子どもの受け入れも行っていますが、彼らは5年生入学の子どもたちとは卒業まで別クラスだそうです。下記にそれらのギムナジウム数を重点科目ごとにご紹介します。 *3

重点科目別5年生クラスを設けているベルリンの公立ギムナジウム数
古語(ラテン語など)重点校10
バイリンガル校(独英、独露など)6
フランス語重点校1
日本語重点校1
理数系重点校5
自然科学重点校6
音楽重点校3
スポーツ重点校3
Schnelllerner(のみ込みの早い子どもたち)向けクラスを設置している学校 7
合計42

Schnelllernerとは、直訳すると「早く学習する人」という意味で、ものわかりや物覚えが早い子どもたちのことです。これらのクラスは、いわゆる「浮きこぼれ」対策のために作られ、こうした学校は「エリート養成学校」と言われています。すべての科目を早い進度で学習し、10年生で履修項目をすべて終え、11、12年生では大学入試資格アビトゥアの試験に向けて勉強するとのことです。

上記のいずれかの学校に5年生から進学する場合、小4が始まった頃から準備を始めることが必要になってきます。簡単なスケジュールは下記のとおりです。

ギムナジウムに進学希望する場合のスケジュール(2017-18年度)
11月初旬から12月中旬(秋休み明けの週からクリスマス休暇前まで) ギムナジウムにて保護者向け説明会や子ども向け体験入学開催
1月(クリスマス休暇明けから冬休みまで) --ギムナジウムにて、一般向けのオープンデー開催
--Schnelllerner向けのギムナジウムの入試
2月2日(冬休み前日) 小学校で前期の成績表授与(出願に必要)
2月下旬から3月上旬(冬休み明けからイースター休暇まで) --入学願書提出
--Schnelllernerクラス設置校以外の音楽学校、フランス語重点校、理数系校などで入試
5月25日 合否結果通知

(6年生で小学校を卒業し、7年生から進学する場合も、ほぼ同じスケジュールになりますが、その場合、主に小学校5年生後期と6年生前期の成績で選抜され、入試を実施する学校は少ないようです)

小5からギムナジウムに進学する場合の選考基準

その学校の重点科目によって選考基準は異なり、提出書類も学校によって異なるようですが、例えば、理数系重点校では下記のような選考基準が用いられます。

  1. 4年の前期の成績(25%)
  2. 調査書(Förderprognose)(25%)
  3. 入学試験(50%)

「4年生の前期の成績」に関しては、ドイツ語、算数、英語、Sachuntericht(理科と社会を混ぜたようなプロジェクト主体の教科)を対象にしています。ドイツでは成績は1が最高、6が最低の6段階評価ですから、4科目合計の「最高点」は4になります。さらに、理数系校では理数科目に重きを置くことから、算数は3倍、ドイツ語は2倍、残りの2教科は1倍の最高7点で計算し、これら4科目の合計点が15以下でないと出願できない学校もあるそうです。いずれにせよ、点数が低ければ低いほど、合格に有利ということです。

また、「調査書(Förderprognose)」に関しては、4年生前期の成績表と一緒に渡されますが、事前に担任の先生にお願いしておく必要があります。フォームは市内全校で統一されており、内容は成績以外に、「計画性をもって物事に取り組めるか」「他人と協調して役割分担をこなすことができるか」などといった「学習に対する基本的態度」の評価がチェック項目で記されています。また、児童の突出した能力や趣味・スポーツなども具体的に記述されています。そして最後のページに「この児童は5年生からギムナジウムに進学する能力がある」もしくは「この児童は小学校にとどまるべきである」という二択に担任の教師がチェックを入れることになっています。もし、この児童の成績の平均が2.1から2.7なのにも関わらず、5年生からのギムナジウム進学を担任教師が薦める場合は、その特別な理由を記載しなければなりません。(フォームはこちらのような感じです)

「入学試験」に関しては、上述のように、各学校の重点科目によって異なりますが、理数系校だと筆記(算数と理科の問題)、語学系校だと面接、音楽・スポーツ系校だと実技、となるようです。

「すべり止め」は存在しない?

公立ギムナジウムに出願の際、願書は第一希望の学校に提出しますが、実際の選抜はベルリン市が行い、合否連絡も市から各出願者に郵送されてくるシステムになっています。学校は願書を収集し、入試の場所を提供するだけで、選抜プロセスには関わっていないとのこと。

また、願書には第3希望校まで書くことができます。すなわち、第1希望が不合格だった場合、第2、第3希望校に空きがあればそれらに入学することができる、ということです。こういった出願状況や学校への振り分けも上述のシステムのもと、市が一括して管理しています。

しかし、この「空きがあれば」というのが、ポイントで、実際には、第1希望に合格しなければ、第2、第3希望校に入学するのは大変難しいそうです。というのも、近年は5年生から進学する子どもが増加しており、どのギムナジウムも定員以上の応募があるため、第1希望が不合格だと、5年生からの進学は実質無理だと言われているのです。競争率などは公表されていませんが、学校によっては3倍のところもあるとか。

ちなみに、以前は小学校に6年間通った後、家から近い学校に進学することが主だったそうですが、最近では小学校教育への不信感から、5年生からギムナジウムに通わせたいと思う保護者が以前より増加しており、2013年にはベルリン全体の8%の子どもが小学校卒業を待たずにギムナジウムに進学しているとのこと。 *4 また、ベルリン市の人口は増加の一途をたどっており、子どもの数が全体的に増えていることも、小5からの進学率および競争率上昇に関係している模様です。

受験対策の施し様はない

市ではこのような状況を鑑みて、5年生クラスの枠を増やしているそうですが、そもそも募集人数が少ないため、不合格者が出る学校が多い模様。あるギムナジウムの先生によると「小5からの進学は、子どもの学力はもちろん、入試への戦略が大きくものをいう。しかし、志願者数やテストの内容は毎年異なり、どの学校だったら入学できる、という確実な要素はありません。従って、最終的には『ここに行きたい!』という子どもの感覚に従った方が良い」とのことでした。

確かに、人気校のトップ10は毎年公表されますが、それらの学校は次の年には敬遠されるため、競争率は毎年変動するようです。 *5 さらに、テスト内容に関しては、例えば理数系校ですと市が作成するため、日本の大学センター試験のように全ての学校で共通の問題が出されますが、問題自体は公表されませんし、対策用の塾などは存在しないので準備の施し様がありません(ドイツの塾は勉強についていけない子ども用の家庭教師のようなもので、日本のように受験用の塾や予備校は存在しないのです)。ギムナジウムの先生も説明会では「テスト勉強はしようがないので、当面は学校の勉強をきちんとしておいてください」とおっしゃるのみでした。

我が家の場合

これらの背景をふまえ、現在小4の息子についてはどうしたものかと、私たち夫婦は考えあぐねてきました。本人に好きな科目について聞いてみると「スポーツ!ぼく、走るの大好きだからね。あとロボットも作りたいな!でも、英語ももっと勉強したい!」とのこと。やはり、9歳の彼には分野を絞るのは困難なようです。そこで、情報収集のため、ギムナジウムの説明会に出向き、息子には体験入学やオープンデーに参加して実際に学校の雰囲気を感じてもらうことにしました。次回はその様子をお伝えしたいと思います。


筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

インクルーシブ教育

社会情動的スキル

遊び

メディア

発達障害とは?

論文・レポートカテゴリ

アジアこども学

研究活動

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP