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【ベトナムの子育てレポート】 第3回 子どもたちのスクール生活と、英語の上達度

要旨:

英語経験のほとんどなかった当時2歳と4歳の子どもたち。インターナショナルスクールに入園し約1年半通う中で徐々に英語を習得し、異文化の中で様々なことを体験しました。スクールでの日々の生活の中で特に印象に残っていること、英語の習得にまつわるいくつかのエピソードと母国語のケア、また、本帰国してちょうど約2年経とうとしている現在の子どもたちの英語力についても触れたいと思います。

Keywords: ベトナム、ハノイ、インターナショナルスクール、子ども、生活、英語、上達、習得、維持、日本語フォロー、学習、子どもの意識、親の対応、帰国後
1、インターナショナルスクールでの生活

日々の生活は、日本の幼稚園や保育園での生活とほとんど変わりません。8時半頃に登園し朝9時頃まで園庭遊び、その後はそれぞれのクラスでのmorning time(朝の会)、snack time(軽食)の後、絵を描いたり工作をしたり、アルファベットの練習や絵本の読み聞かせ、近くの公園で外遊びなどをし、lunch time(給食)からのお昼寝、午後の活動を経て15時頃に帰宅します。異年齢交流や季節のイベント、年に1度子どもたちがダンスや歌を披露する発表会もありましたが、唯一、運動会はありませんでした。また、ベトナムの年中行事に合わせたイベントも催され、ベトナムの文化に触れ、学ぶ機会もありました。

子どもたちの通ったスクールは特にアート活動に力を入れており、お絵描きや作品作りの機会には非常に恵まれていて、工作が好きな息子は特にとても楽しんでいました。作品を見ていると、色合いや作風が徐々に変わっていき、海外で暮らしているからこその「ならではの感性」が磨かれているように感じました。

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(写真左)入園当初、アルファベットを学んだプリント
(写真中央)息子が外国人のお友達と描いた絵。色合いが素敵だなと思いました
(写真右)新年を迎えるにあたり制作したfoot print paintingの様子。頭にかぶっているのはベトナム伝統のノンラーという帽子

日々のプログラムの中で特に印象に残っているのは、毎朝のmorning timeでの「my favorite」という時間。クラスの子どもたちが先生を囲んで円になり、朝の歌を歌ったり、日にちや曜日、お天気などについてお話ししたりした後で、「my favorite」では、当番の子が自分の好きなものや興味のあるものなどを自宅から持参しお友達に紹介します。最後には必ず、 "Any questions?" と問いかけ、質疑応答もあるプチプレゼンテーションの時間です。

息子が最初の当番の時に持参したのは、アニメ妖怪ウォッチのキャラクター、ジバニャンのマスコット。子どもたち一人ひとりの好きなものや個性を共有することができ、母国の文化の魅力を再認識したり、相手を理解することにもつながるとても良い時間でした。あるとき、息子が折り紙で折った紙飛行機を持参し紹介したときのこと。その紙飛行機がとてもよく飛ぶことに子どもたちが驚いたため、その後の工作の時間に息子が先生になり皆に折り方を教えてあげたそうです。小さなスクールの中ですぐに噂が広がり、他のクラスの先生が、「ぜひ私のクラスでも先生をやってほしい」と声をかけてくれ、その日から息子は紙飛行機名人に。上手に英語が話せなくても、いろんな国の子どもたちや大人たちと喜びや楽しさを分かち合える。そんな目には見えない幸せや達成感を味わえたのではないかと思います。

また、年に一度のイベントとして、毎年秋に「International Day」というものがあります。各国の文化を紹介しあい親しむためのイベントで、ここは保護者の出番です。子どもたちに母国の料理や遊びなどを紹介するのですが、スクールによっては地域を巻き込んだ大きなフェスティバルを催すこともあり、皆とても楽しみにしています。子どもたちのスクールでは、保護者がペアになり代わるがわるスクールを訪れ1時間ほどレクチャーするというやり方でしたので、私は仲良しのお母さんと二人で、ドラえもんの絵描き歌(英語版)を紹介しました。YouTubeで音楽を聴きながら皆で一緒に英語で絵描き歌を歌い、それぞれの子どもたちが描いたドラえもんに自由に色を塗り、最後に皆でどら焼きを食べるという内容です。日本アニメは外国人にもとても人気があり、皆知っているキャラクターとあって想像以上に盛り上がりほっとしました。他にも、おにぎりや海苔巻きつくり体験、から揚げの差し入れ、浴衣や折り紙、お正月遊びの紹介なども人気でした。日々、こんな小さな経験を積み重ねながら、親子で少しずつスクールに馴染んでいきました。

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(写真左)International day、ドラえもんの絵描き歌を皆で描く様子
(写真右)英語の歌詞、絵を描く順序などの説明プリントは事前に準備。英語で歌う絵描き歌は大人にとっても新鮮でした

2、英語の上達度 ~印象的なエピソード~

―4歳の息子の場合
非常にスムーズにスクールでの生活をスタートさせた息子でしたが、比較的早い段階で覚えて帰った英語は、 "Line Up!(並んで!)" 、 "Stop!(やめて!)" 、 "My turn!(僕の番!)" でした。このようなワードを並べると、非常に厳しい環境でもまれていたようにも思われますが…手を洗う時やゲームをしている時に順番を守らない!とか、やめてと言っているのに追いかけまわしたり叩いてくるお友達がいる!とか、日本にいても同じようなものかと思います。ただやはりそのような時の特に親の対応が、外国の方の場合は若干異なるように思います。そもそも「加減」や「表現の仕方」、「度合い」は同じ日本人同士でも一人ひとり異なるわけですから、国が違えばさらに異なるでしょうし、良し悪しの基準はそれぞれですが、しかしだからこそ、「相手がどう感じているか」を考え察すること、「自分がどう感じ、思っているか」をきちんと伝えることは、お互いにとって必要なことだと感じました。なので、ちょっと度が過ぎていると思うことがあれば、先生に注意して見ていてほしいとお願いしたり、まだ思うように気持ちを伝えられない息子に代わって私が子どもたちに直接話をすることもありました。

また、 "Why?" 、 "Because" も早いうちに覚えた単語の一つです。あるとき息子に、「なんとなくって、英語でなんて言うの?」と聞かれました。いろんなシーンで "Why?" と聞かれるので、「なんとなく」と言いたいのに言えないというのです。日本人ならではですが、それでは相手に自分のことを理解してもらえないこと、コミュニケーションが成立しないことを教え、 "Because…" の後にきちんと理由を続けられるように、ここは根気強く一緒に練習しました。また、YesかNoかを聞かれて、「わからない…」ではなく、はっきりと回答することも、同じように促すよう努めました。今思えばとても良い練習になっていたと思います。

日本語では文章で何でも話すことができる息子にとっては、英語で何か言うときにも、単語ではなく文章で考えることが必然のため、自然にいろんな表現(短文)を覚えていきました。「コップを忘れたから貸してください」と先生にお願いするとき、「外に出て皆で鬼ごっこしようよ!」、「スクールの後、ぼくの家に遊びに来てよ!」とお友達を誘うとき、「なんて言うの?」と息子から聞かれ、答えるというやり取りを日々繰り返し、3か月ほど経った頃にはなんとなく通じる英語の短文が出てくるようになりました。感覚的にというよりは、頭で一生懸命考えながら、一語一語たどたどしく繋げていくようなかんじです。時制はぐちゃぐちゃですが、can, will などの助動詞や、 want to, have to などの意味や使い方も自然に理解したようです。ある時、日本へ一時帰国する飛行機の中で席が少し離れてしまった息子を気にして見ていると、ベトナム人の乗務員さんに、「Please tidy up because I don't need this any more(もうこれ以上食べないので、片付けてください)」と声をかけ、機内食を片付けてもらっている姿を見て非常に驚きました。その頃には、スクールからの帰宅後に「何か困ったことは無かった?」と聞いても、「無いよ!もうだいたいわかるから!」と、だいぶ逞しくなっていました。

リスニングとスピーキングは、このように徐々に力をつけていきましたが、リーディングとライティングにはまた違うハードルがありました。アルファベットを一つずつ読んだり書いたりすることくらいはできるものの、単語としての読み書きまで力をつけるには至りませんでした。平仮名や数字を書いてもひっくり返ってしまうような年ですし、私自身はそこまで問題とは思っていませんでしたが…。

―2歳の娘の場合
ある程度、日本語がしっかり話せるようになっていた息子とは異なり、娘はまだ2歳半。日本語でのお喋りもままならない中での英語の習得は非常にゆっくりでした。二人の様子を見ていると、日本語の素地ができていることが他言語の習得にどれだけ役立ち重要かということがよくわかりました。

娘が最初に覚えてきた英語は、 "More please!"(おかわりちょうだい!)と、 "No thank you" 。スクール生活の中でおそらく彼女が一番多く使った言葉です。あとは、 "water please" 、 "milk please" 、 "pencil please" など、必要なものの単語を入れ替えながら少しずつ語彙を増やしていきました。英語の歌もとても好きで、いろいろと覚えては歌ってくれました。

最初は英語が全くわからず、スクール通いもあまり乗り気ではなかった娘ですが、クラスに仲良しの日本人のお友達ができ、その子を通して外国人のお友達と一緒に遊べるようになってきた頃から、スクール生活を楽しめるようになりました。家でもよくお友達や先生の話をしてくれるようになり、外国人のお友達の名前も徐々に出てくるようになりました。アルファベットの練習もしていて、自分の名前は早い段階で書けるようになりました。アルファベットは日本語のように複雑ではなく、画数も少なく線を描くように書くことができるので、小さな子どもでも覚えやすいようです。

娘は息子ほど英語に興味を強く示すことはなく、約1年半のスクール通いの末、目に見える上達の成果はあまり無かったように思います。しかし英語を聴く耳は確かに育っていて、本帰国する頃には、「先生が、明日は~をするから、必ず~を持ってきてって言ってた」など、先生が話していたことをきちんと教えてくれるようになりました。日本語の習得と同じで、まずは聞くことから。もう少し長く居たなら、ある時突然、英語でいろんなことを話し出すようなタイミングが訪れたのかもしれません。

―日本語のケア
帰国後のことを考えても、とにかく母国語が最重要。また最近は、小学校に上がるまでにほとんどの子が平仮名、片仮名までマスターしているという話も聞いていたので、日本語で読む、書く、話すことの訓練は自宅でできる限り行いました。夕食後の1時間ほどが、子どもたちと日本語の勉強タイムです。

息子の読み書きに関しては、日本から持参したワークを活用し、毎晩寝る前の絵本の音読は習慣にしていました。また、ベネッセの『こどもちゃれんじ』などの通信教育教材も活用しました。ハノイで通信教育を受講している子は非常に多く、月に一度届く教材を子どもたちは心待ちにしていました。特に『こどもちゃれんじ』は日本の生活習慣や文化を学べるという教材の特性もあり、現地の日本人のお母さんたちにもとても重宝されていました。また、「母親の話す日本語が子どもにとって一番重要な教育」という話を渡越前に聞いていたので、自分自身もなるべく丁寧に話すよう心掛けました。特に日本語特有の表現、例えば「雨が しとしと 降っているね」など、さまざまな表現を意識的に会話の隅々にちりばめるようアドバイスをいただいたので、心掛けていました。

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(写真左)『こどもちゃれんじ』は、第1回のレポートで触れた書籍の宅配制度を活用し、毎月ハノイで受け取りました
(写真右)兄の横で、娘はいつも数字や平仮名、迷路のワークなどを広げて一緒にお勉強。日本へ一時帰国するたびに追加購入しました

3、現在の子どもたちの英語力と英語に対する意識

日本へ本帰国する頃には、すっかり英語でのコミュニケーションを楽しめるようになり、かつ少し自信もつけていた息子は、帰国後も英語大好き少年。もちろん流暢に何でも話せるわけではありませんが、自分に話しかけている相手の言っていることはある程度理解でき、最低限のことは自分で伝えられるまでには成長しました。いちばん大事なのは、英語が堪能になることではなく、何か一つでも人よりも上手にできることや、好き・得意と思えるものがあることで自信をもつこと、向上心をもって物事に取り組めるようになること。それは何でも良くて、息子の場合はたまたま、ハノイでの暮らしを通して学んだ英語がその一つになり、今では英語のおかげで夢も大きく膨らんでいます。

日本へ戻ってからも「英語は続けたい」という息子のために、帰国後まず英会話教室を探しました。当時、学年別のクラスでは内容に物足りなさを感じてしまい、それだからと個人レッスンにすると月謝が非常に高額になってしまうということで、どのように継続するのが良いかと悩みました。結果、現在の英語力を基に飛び級させてもらえる英会話スクールに、週に一度通うことに決めました。現在息子は小2生ですが、小5生の、比較的長く英語を続けている子どもたちのクラスに交じってネイティブの先生のレッスンを受けています。テキスト自体はもちろん小5生向けでテーマや内容は少し難しく、また、日本で英語を習ってきた子どもたちはライティングやリーディングのレベルが高いので、最初は特にその点で苦戦していましたが、自分の弱点を再認識したようで一生懸命練習するようになりました。まだ苦手意識は若干あるようですが、英語の勉強自体は非常に楽しんでいて苦ではないようです。まだまだ理解は浅く正しく使いこなしたり、話すことができるわけではありませんが、耳で聞いて感覚で話していた英語を改めて文法的に学ぶことで、理解が深まっていればいいなと思っています。英語は自分の強みであるという自覚はあり、それが自信や将来の目標にも繋がっているようです。あるときの授業参観で「私の好きなこと」というテーマでの発表会があった際には、自ら英語をテーマに挙げ、短い英語スピーチを披露したりもしていました。

その他にも週に1度、スカイプを使ったオンラインレッスンを25分間受けています。英単語のしりとりから始まり、たわいもない世間話、英会話スクールのレッスン内容の復習、ウェブテキストを使ったリーディングの練習など、その時々のリクエストに先生が応じてくれます。長いときは50分間、放っておいても先生とずっと二人で英語のレッスンができるまでになりました。「子どもは覚えるのも早いけれど忘れるのも早い」などと言われますが、小学生にもなると、体だけではなく脳の様々な機能も育ってくるようで、息子を見ていると、積み重ねることである程度きちんと身に付くようになっているように思います。しかしやはり、そのための継続の努力や親のサポートは必要だと思います。英語に限らず、何でもそうですね。

また年に1度、英会話スクール主催のスピーチコンテストがあり、2年続けて帰国生の部に出場しています。3分間のスピーチで、テーマは自由。テーマ決めと日本語原稿の作成に始まり、その後はひたすら練習です。一昨年に比べ、昨年のスピーチの難易度は上がったものの、練習は驚くほどスムーズであっという間にすべて覚えてしまいました。ハノイにいた頃よりも、そして昨年よりも明らかに息子の「英語を理解し話す力」が上達したように感じました。当日はスピーチ前の緊張感を楽しむ余裕もあり、そして今では既に次回のコンテストに向けて意気込んでいます。最近は、「アメリカの大学に行きたい」と自ら言い始め、私自身の小2生の頃とは描く将来像が随分違うことに驚くと同時に、インターナショナルスクールでの生活が息子の今後の人生の選択に与えるであろう影響力の大きさを感じずにはいられません。

そんな兄の姿をいつも隣で見ている娘。日本へ本帰国した頃は、「私は英語じゃなくて、日本語のお勉強をしたい。もう英語はいい」ときっぱり。勿体ないと思う気持ちはありましたが、親の気持ちは押し付けず、娘の気持ちを尊重し様子を見てみることにしました。時折、兄の英会話スクールのイベントに参加したり、自宅でのオンラインレッスンの様子を横にぴったりくっついて見ていましたが、ついに昨年の秋頃から、「私も英語のお勉強をしたい」と言い始め、月に何度かオンラインのレッスンを受けるようになりました。まだ一人では難しいため、私か息子が隣に座りサポートしながら受講します。簡単な挨拶とアルファベットのABC…から始め、最近は1枚の絵を見ながら先生が出す質問に対して一問一答で答えるのが面白いようです。ここへきて英語にとても興味がでてきているようなので、引き続き様子を見守りつつ、サポートしてあげたいと思っています。


(参考)昨年のスピーチコンテストでのスピーチ動画
2017年11月、英会話スクール主催のスピーチコンテストにて、「折り紙の魅力」をテーマにプレゼンテーションをしました。息子本人に聞いてみたところ、出来栄えは15点…。なかなか厳しい評価ですが、上手・下手の問題ではなく、「挑戦し最後までやりきる」という姿勢を大事にしてほしいと願っています。
https://www.youtube.com/watch?v=O2nnRec1dkk

筆者プロフィール
天達 彩子
東京女子大学を卒業後、教育系企業に就職。夫の海外赴任を機に退職し、当時2歳と4歳の子どもたちと共に渡越。2014年11月から2016年3月までハノイで暮らし、帰国後は紙・パルプ系企業に転職。現在も会社員として従事。
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