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【イギリスの子育て・教育レポート】 第24回 中学選び③ 息子がイギリスの私立中学を受験してみた

橋村 美穂子

2018年1月19日掲載

要旨:

中学選びシリーズ最終回となる今回は、「イギリスの私立中学の受験」を紹介する。近所によい公立中がないことなどから、イギリスの私立中を受験することにした息子。まずはオープンデーと呼ばれる学校公開日に足を運び、イギリスの私立中3校を見学した。そこで先生や在校生と話したり、各教科の学習内容を見学したりすることで志望校を絞り込んだ。筆者が住むエリアの私立中の入試は、英語・算数を中心とする筆記試験と小学校からの内申書に加え、お試し授業という名目の試験が課される学校もあった。日本と違って驚いたのは、学校公開日も試験当日の送り迎え時も、保護者の格好が非常にラフだったこと。スーツやジャケット姿の人はほとんどおらず、Tシャツにジーパン姿で来校している保護者が多く見受けられた。

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この連載では、小学生の息子をもつ母親による「イギリスの子育て・教育」体験レポートをご紹介します。

年が明けて、受験生はラストスパートをかける時期ですね。試験当日、受験生一人ひとりが力を出し切れるように心から祈っています。

中学選びシリーズ最終回となる今回は、「イギリスの私立中学の受験」をお届けします。近所によい公立中学がなかったこと、また諸事情により、気に入った公立中の近くに引っ越しすることができなかったため、息子はこの秋、イギリスの私立中学を受験しました。この経験から、私立中学の特徴、オープンデーと呼ばれる学校公開日の様子や試験内容などを紹介します。

イギリスの子どもの約6.5%が私立校に通学している

イギリスの私立校は「インディペンデント・スクール(independent school)」「プライベート・スクール(private school)」と呼ばれています。イギリスで私立校と言うと、英国王室のウィリアム王子やヘンリー王子の母校である「イートン校」を思い浮かべる方が多いかもしれません。このような名門私立校は「パブリック・スクール(public school)」と呼ばれます。

また、私立校の中には全寮制の「ボーディング・スクール(Boarding school)」という学校もあり、さらに学校によって11歳で入学する場合と13歳で入学する場合があります。男子校のパブリック・スクールは13歳で入学します (1)

現在、イギリスには小学校・中学校合わせて約2,600の私立校があり、イギリスの全生徒の約6.5%にあたる62.5万人が通っています (2)。私立校の特徴は、イギリスの学習指導要領に沿う必要がなく、独自の教育をしていること公立校よりも少人数で一人ひとりのサポートが手厚いこと、ただ、学校の運営は主に授業料で賄われているため、非常に高額であることです。学費は1学期で約3,000~5,000ポンド、つまり1年間で12,000~15,000ポンド(約180~225万円)と言われています。名門校と言われるパブリック・スクールはさらに高額だそうです。しかし、成績優秀者や音楽に秀でた子どもなどに対する奨学金制度も整っています。

イギリスの私立中学に初潜入!3校それぞれが独自の強みをもっていた

息子が中学受験をするにあたり、オープンデーと呼ばれる学校公開日に足を運びました。まず、筆者たちが見たイギリスの私立中の実際の様子を紹介します。ただ、筆者が住むエリアは、ロンドンに比べると私立校の選択肢は少なく、受験熱の高さもまったく違うようです。今回ご紹介する内容は一例であることをあらかじめご承知おきください。

1)創立は16世紀!有名大学の合格者も多い 名門男子校A校

A校(写真1)は、創立が450年以上前と、歴史が古く、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学の合格者を多く輩出する学校です。16~18歳では、国際的に認められる大学入学資格「国際バカロレア ディプロマ・プログラム(International Baccalaureate Diploma)」を勉強することができます。もちろん、勉強だけをしているのではありません。スポーツや音楽にも力を入れており、先日はこの学校の生徒が息子の小学校に音楽を演奏しに来てくれたそうです。

オープンデーは保護者も参加できるように、6月の平日の18~20時に行われました。3家族ほどのグループに対して、在校生と保護者の有志が1名ずつつき、校内の各教科の教室を案内してくれました。現在、息子が通っている公立小学校とは違い、語学や音楽の教室にもパソコンが多数あり(写真2)、演劇(Drama)の授業のためのホールは、本物の劇場と錯覚するほど立派でした(写真3)。また、宗教教育では、宗教だけにとどまらず、哲学や道徳的なことも扱うようで、教室の壁には生徒に問題提起をするような新聞記事が貼られていたのが印象的でした(写真4)。

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写真1 伝統を感じさせるA校の校舎
写真2 語学の教室に設置されていたパソコン。IT機器も活用して語学を学ぶそうです。

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写真3 演劇ホールに飾られた衣装。衣装も本格的です。
写真4 宗教教育の部屋に貼られていた掲示物。

2)映像制作などをする「メディア・スタディーズ」が勉強できる 共学B校

創立は1930年代の男女共学のB校。附属の保育園や小学校もあり、0~18歳までの一貫した教育が受けられます。

オープンデーは6月上旬の土曜日の午前中に開催されました。まず驚いたのは、学校のロビーがホテルのようだったこと(写真5)。オープンデーはまず、このロビーで校長先生と握手を交わすことから始まりました。校内は、在校生である中学生の女の子が案内を担当し、各教科やGCSE(中等教育修了資格試験)について説明してくれました。各教科の教室では、A校同様、在校生のノートや教科書、生徒の作品が展示され、先生と話すことができました。息子が最も興味をもったのはテレビや映像など現代のメディアについて学ぶ「メディア・スタディーズ(Media Studies)」という科目(写真7)。この科目はA校、C校にはないのですが、ここで学べばGCSEを受験することもできます。教室には撮影機材が置いてあり、先生から「授業ではドローンを飛ばして映画を作る人もいる」と聞き、息子の目が輝きました。また、科学の教室では簡単な実験もできました(写真8)。実験を楽しんでいた様子を見て、科学の先生が息子の名前を聞いてくれ、「来年、待ってるよ!」と言ってくださったことが嬉しかったようです。

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写真5 B校のロビーの様子。学校とは思えない豪華さです。
写真6 英語の教室に展示されていた生徒のノートや本。シェイクスピアの本もあります。

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写真7 メディア・スタディーズの科目の部屋に展示されていたドローン。
写真8 科学の実験の様子。手に石鹸水を付けているので、火をつけても熱くなかったそう

3)一人ひとりのケアが手厚く、インクルージョン教育が特徴の共学C校

創立して15年ほどの比較的新しい男女共学のC校。3~18歳までの一貫した教育が受けられます。オープンデーは、B校と同じ日・時間にあったため、B校を見学した後に出向きました。科学の教室では、いちごのDNAを抽出する実験を行っていました(写真9)。この学校の一番の強みは「インクルージョン教育」。多様性を大切にしており、学習障害や英語を母語としない子どものサポートに特に力を入れています(写真10)。GCSEの結果という点だけで見るとB校よりも若干低いですが、「一人ひとりの力を最大限に伸ばす」ことを非常に大切にしていることが展示物や先生の話から伝わってきました。

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写真9 科学の教室でいちごのDNAを抽出する実験に参加。
写真10 「サッカー選手 デビッド・ベッカムは強迫性障害と闘っている」など有名人の中にも、さまざまな困難を抱えた人がいることを示す掲示。

学校見学に行った結果、息子は「男女共学がよい」「メディア・スタディーズを勉強したい」という希望が明確になったようで、B校を第一志望とすることに決定しました。

筆記試験や内申書のほかに、お試し授業という名の試験も

私立校は、共通試験の結果を採用する場合もあるようですが、筆者のエリアは学校によって違いました。入試の時期は、小6生の10月~11月、つまり、グラマースクールのイレブンプラス試験(前回の記事参照)と同様、入学の約1年前に受験します。

A校は英語、算数、バーバル・リーズニング(言語系の知能テストのような試験)の3つ。各1時間の試験です。前回、ご紹介したイレブンプラス試験がマークシート式であるのに対し、A校の試験はすべて記述式・論述式であるのが特徴です。だから、この学校を目指す子どもは、早くから記述式に強い家庭教師と勉強して対策を行うとか。今年の倍率は7倍以上の狭き門だったそうです。過去問ではありませんが、傾向をつかんでもらうために英語・算数のみサンプルテストが公表されており、出題内容は高度です。

続いて、B校は英語、算数(各75分)、ノン・バーバル・リーズニング(図形系の知能テストのような試験、45分)があります。B校の試験内容はイレブンプラス試験と似た形式だとあらかじめ発表されていて、選択式の試験です。加えて、お試し授業(Taster Day)という名の約30分の試験もありました。科目は科学、コンピューティング、美術、体育などで、受験者は科目を選べません。息子によると、美術で受験することになり、課題は「F1カーの色を塗る」ことだったそうです。特にグループでの話し合いなどもなく、小学校の授業と同じように取り組んでおしまい、だったとのこと。この試験は、学校側が生徒を見るだけでなく、生徒側も学校の授業や雰囲気を感じ取る機会だそうです。

C校は英語・算数の試験が各1時間、行われました。この学校で興味深かったのは、試験当日、保護者は子どもの試験が終わる1時間前に来校するように言われたこと。試験の間、保護者と在校生・先生が交流し、よりC校について理解を深めてもらうのが目的とか。当日、会場に行くと、用務員風の男性が紅茶とお菓子を出してくれました。しかし、しばらくすると、その男性が保護者に向けて話を始めるではありませんか。C校の理事長先生でした。いかにこの学校が一人ひとりの力を伸ばそうと努力しているかなど、すばらしい話を聞くことができました。スーツもネクタイも着用せずに、教育について熱く語る理事長先生の姿は、C校が校舎などの「見かけ」より、「中身」の生徒や先生を大切にしていることを表しているようでした。学校のねらいどおり、この交流会後、親としてはC校も魅力的に思えてきました。

学校公開日も試験当日の送り迎えも、かしこまっているのは日本人だけ?!

イギリスの私立校の学校公開日や試験当日の様子で最も驚いたのは、来校する保護者の格好がラフなこと。日本では、学校公開や見学の際、保護者はスーツやジャケット着用などきちんとした格好で行く人も多いと聞いています。しかし、イギリスでジャケット着用やスマートカジュアルで来校しているのは、おそらく日本人の我が家だけでした。オープンデーは夏に開催されたので、ノースリーブの服のお母さんもいれば、Tシャツに短パン、サンダルのお父さんもたくさん。先生との交流が予定されていたC校の試験当日も、ほとんどの保護者がジーパンを着用していました。イギリスでは、子どもの合否に保護者の格好は関係ないのかもしれませんね。

次回は「イギリスで小4男子はどうやって英語を覚えていったか~2年目の記録~」を紹介します。お楽しみに。


<参考文献>

筆者プロフィール

橋村 美穂子(はしむら・みほこ)

大学卒業後、約15年間、(株)ベネッセコーポレーションに勤務。ベネッセ教育総合研究所で幼稚園・保育所・認定こども園の先生向け幼児教育情報誌の編集長を務め、2015(平成27)年6月退職。現在は夫、息子と3人でイギリス中西部の街バーミンガム在住。
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