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【ベトナムの子育てレポート】 第2回 子どもの教育環境の選択 ~日本式か?インターナショナルスクールか?~

要旨:

海外での子どもの学校選びの際にまず考えるのが、日系の学校か、インターナショナルスクールか。渡越前、4歳の息子は週に1度英会話のレッスンを受けていた程度、2歳の娘はまったく英語に触れていませんでした。海外にいるからこその体験をさせたいという親の思いもあり、子どもたちは2人ともインターナショナルスクールに通いましたが、一口にインターナショナルスクールといってもさまざま、家庭によって考え方や選択もさまざまです。今回はハノイの学校事情と、スクール選びについて振り返ります。

Keywords: ハノイ、日本人学校、幼稚園、インターナショナルスクール、学校選び、子ども、教育、環境、人気校
1、ハノイの学校事情

特に幼児期の教育は、生活習慣やマナーなど、今後の社会生活を送っていくうえでの基礎を育むものと考えると、小さな子どもを海外へ連れて行く場合、日本式の教育がきちんと受けられるのか? インターナショナルスクールに入れてしまって大丈夫? などと悩むものです。先生とのコミュニケーションは母親が担うことになるため、実際には母親自身の「英語の壁」も選択を大きく左右します。私自身、随分悩みました。

―日本人学校(小・中)は1校のみ
私たちが住んでいたのは、旧市街などがある街の中心から少し離れた、西湖(West Lake)という大きな湖のほとりにあるレジデンス(Tay Ho District)でした。外国からの駐在員が住まうエリアでしたが、車で数分圏内に日本式の幼稚園は2園、少し離れたところにはモンテッソーリ教育を掲げる幼稚園もあり、思っていたよりも選択肢があったことに驚きました。インターナショナルスクールの数は、それらを上回ります。

日本式の幼稚園はいくつか選択肢があるものの、日本の学習指導要領に基づいた教育が受けられる日本人学校の小学部・中学部はそれぞれ1校しかありません。毎朝迎えのバスに乗り、同じレジデンスに住む子どもたちが一斉に登校していきます。高等部は無いため、高校生はインターナショナルスクールに通うことが多いようです。特に駐在員の場合は、2~3年ほどの滞在後にいずれは日本に帰ることを見据え、幼稚園ではインターナショナルスクールに通っていた子も、小学1年生になるタイミングで日本人学校へ切り替える割合が多いのが現状です。学校生活の中で重視されることや、良しとされる態度や振る舞いが異なることも多く、インターナショナルスクールに馴染みすぎてしまうと、日本の学校に転入したときに、お友達とのコミュニケーションや態度などの主に生活面で浮いてしまうのでは・・・等、母子共に苦労することを心配されるかたが多いのです。私も子どもをインターナショナルスクールに通わせてみて、その点については少なからず不安をもっていました。

参考)ハノイ日本人学校:http://www10.schoolweb.ne.jp/swas/index.php?id=4810002

―人気インターナショナルスクールはウェイティングが必至
一方でインターナショナルスクールの中には、幼児~高校教育を行っている一貫校がいくつかあります*1が、外国人の増加に伴い席の確保が非常に困難で、数か月間、場合によっては1年近くウェイティングの状態が続きます。そのうえ、母国語が英語でない日本人枠は非常に限られており、すぐに入園、入学ができないことがほとんどです。一貫教育を行っているこれらのスクールは、学校の規模が大きく学費も高額ですが、ハノイ滞在が長くなる見込みのある場合や、教育環境や施設の充実度に重きを置くかたには魅力的だと思います。渡越前から早めに学校にコンタクトを取り、エントリー方法や必要書類、空き状況などを確認しておくとよいと思います。幼児教育のみを行っているスクールならば他にも複数ありますが、こちらもすぐに入園できるとは限らないため、どちらにしても早めの情報収集、スクールとのコンタクトが重要です。

2、子どもたちの教育環境について重視したこと

日本語もままならない2人(ましてや英語は全くの初心者)が幼児期の教育を受ける環境として、日本式幼稚園かインターナショナルスクールか、随分悩みました。母国語の重要性はよく理解していたため、特に2歳の娘についてはぎりぎりまで日本式幼稚園に入れることも考えていました。しかし最終的には、私自身がちょうど2歳の頃にアメリカで暮らし約1年間現地のナーサリーに通い育ってきたなかで、そのことが原因で母国語の習得に苦労したことは無かったという経験もあり、インターナショナルスクールに通わせることに決めました。

また、英語に関しては、少しでも英語を聞く耳が育てばいいな、他言語への興味をもち学ぶ中でコミュニケーションのおもしろさを体感したり、積極的な姿勢や自信を培ってくれたりすればいいなというくらいの気持ちでした。望んでいたのはネイティブ並みの英語の習得ではなく、多文化・異文化の中でいろんなことを肌で感じたり、考えたり、視野を広げたりする経験を積むことでした。(大事なのは英語よりも日本語...という意識は強くもっていました。)

3、インターナショナルスクールの「さまざま」

幼児教育のみ行っている小規模インターナショナルスクールは、1学年1クラス10人前後で、園児数が全部で40~60人ほど。一方で、幼児教育から高校教育までの一貫校は、在籍生徒数は1,000人前後と大規模で、スケールが全く違います。それだけ多くの数の生徒を収容するわけですから、敷地面積も広く施設も充実しており、それに伴い学費、入園(学)基準や手続き、カリキュラムなども随分変わってきます。さまざまな国籍の多くの人に対応するため、すべてにおいて「きちっとしている」印象があります。(小規模スクールは逆にいろんな意味で「ゆるい」印象ですが、私はそのゆるさが好きでした。)

-小規模スクールのメリット ~把握しやすい規模感から得られる安心感~
子どもたちが通ったのは、いわゆる小規模スクール。小学校以上のクラスは無く、1クラス10~15名ほどの園児に、担任(英語ネイティブ)と補助(ベトナム人)の先生がつき、学費は600~700USD/月ほど。アットホームで清潔感のある校舎の雰囲気と、先生方の対応に安心感がもてたこと、また送迎バスを利用できることや学費などの点も踏まえて決めました。小規模スクールを選んだのには更に理由があります。

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写真左:2人が最初に入園したスクールの園庭。子どもたちには十分の広さのよう
写真右:毎月開かれる子どもたちのお誕生会。お誕生日の子どもの保護者がケーキやお菓子を持ち込むのが習慣です

ひとつめに、子どもたちが英語にある程度慣れるまでは、先生の目がしっかり行き届き、サポートしてもらえる環境で過ごさせてあげたいという思いがあったこと。日本語が通じないということは、先生や友達が何を言っているかがわからないだけでなく、自分自身の思いも伝えられない環境に身を置くということです。何か困ったことや不快なこと、わからないことがあっても伝えることができません。もちろん親もいないわけですから、子どもは相当不安でストレスフルな精神状態だろうと想像し、たくさんの子どもたちの中で我が子が埋もれてしまうことがない少人数の環境でスタートをきりたいと考えました。私自身が先生と密に丁寧にコミュニケーションを取りながら子どもの状況を把握しサポートできそうか、子どもが頼りにすることができそうな日本人のお友達がクラスにいるかどうかも重要なポイントでした。

ふたつめに、「小さな子どもでも把握しやすい大きさ」を重視したこと。日本の幼児教育の場でもよく言われることですが、子どもも大人と同様、状況や環境を理解することができると安心を得られるそうです。1日のスケジュールのみならず、スクールにどんな先生やお友達がいるのか、校舎のどこに何がありどんなことができるのかなど、スクール全体のことを小さな我が子たちが少しでも早くスムーズに把握し理解できることが、心の安定に繋がるのではないかと考えました。(親も然り、です。)これらが主に、私の考える小規模スクールのメリットであり、裏返せば大規模スクールのデメリットでした。

登園初日、緊張気味の子どもたちに、「みんな英語でおしゃべりするけど、わからなくて当然。わかろうとしなくていいし、隣のお友達のまねっこが上手にできれば大丈夫。困ったことがあれば日本人のお友達に聞くんだよ。」と話し、オムツがとれたばかりの娘にも、トイレ関係の単語だけは刷り込み送り出しました。わくわくが抑えきれない息子と、状況がよく理解できずにべそをかく娘を送迎バスに乗せ、どきどきしながら帰宅を待ちました。

帰宅後、「何を言ってるのかぜーんぜんわかんなかった!でも楽しかった!外国人のお友達ができたよ!」と、得意げにとびきりのスマイルを見せてくれた息子のことは今でも忘れられません。想像以上の適応能力に驚きました。娘にも「楽しかった?」と聞くと、もじもじしながら、「すごく楽しかった、でも明日はお休みする...」と答えが返ってきて笑いました。スクールからの帰宅後には子どもたちにまず、「今日は何か困ったことはなかった?」と訊ね、英語で書かれた先生からの連絡ノートを熟読し子どもたちの様子を確認すること、先生とコミュニケーションを取るための私自身の英語の勉強が日課になりました。

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写真左:とても小さな園庭ですが、子どもたちにとっては十分楽しい遊び場所だったようです
写真右:教室でのひとこま。アート活動に力を入れていて、子どもたちはのびのび過ごしていました

―大規模スクールのメリット ~整った英語・生活環境~
幼児教育から高校教育まで行っている人気校は、広大な敷地内に大きな校舎の他に広々としたグラウンド、バスケットコート、プール、大きな図書館、食堂もあり、まるで大学のキャンパスのようです。学校は1週間を通して地域住民にも開かれており、様々な語学、芸術、スポーツなどのレッスンを格安で受講することができ、とても人気があります。私も週2回ここに通い、英語とベトナム語を学びました。息子は毎週末、サッカークラブに参加するためにこのグラウンドに通いました。環境としては非常に恵まれているため、学費は高額ではありますが我が子の入学を希望する親が後を絶ちません。学費の支払いが大変!というご両親の話もよく耳にしました。

さすがだなと思ったのは、しっかりと国籍制限を実施しているためさまざまな国の子どもたちがバランスよく在籍しており、インターナショナルスクールとしての環境が非常に整っている点です。小規模スクールでは厳密に国籍制限をするところが少ないため、クラスの半分くらいが日本人というケースもあります。そうなると子どもたちは日本語で会話し遊ぶので、英語の習得が思うように進まないことがあります。「"English please"って先生によく言われる」と、息子がよく話していました。子どもの英語力の習得をどの程度重視し望むかにもよりますが、ここはやはり、小規模スクールのデメリットだなと思っていました。

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写真左:敷地内の広々としたグラウンド。フェスティバルなどの会場にもなります
写真右:毎週末、息子はこのグラウンドでサッカークラブに参加。まさに多国籍

同じレジデンスには多くの日本人ファミリーが住んでいましたが、渡越の時期、子どもの年齢、滞在期間、家庭の状況や考え方、子どもの個性などによって、学校の選択もさまざま。仮に、息子がハノイで小学生になるタイミングを迎えていたら、インターナショナルスクールを継続するか、日本人小学校に通わせるのか、そこでまた非常に悩んだことと思います。何年生の頃に日本へ帰るのか、戻ったところで日本の小学校での勉強や友人関係で苦労はしないか...など、はっきりとはわからないなりに、ある程度のことを見据え、決めなければなりません。

子どもたちをインターナショナルスクールに通わせてみて、日本語のケアなど気を遣う苦労もありましたが、本帰国して約1年半たった今、結果「良かった」と思えているのが私自身の感想です。それは、当時の経験が、今現在の子どもたちや自分自身の糧になっていると実感できる瞬間があるからだと思います。次回は、インターナショナルスクールでの生活と子どもたちの英語の習得度、本帰国して約1年半後の現在の英語力や、英語に対する意識などについてご紹介したいと思います。


筆者プロフィール
天達 彩子
東京女子大学を卒業後、教育系企業に就職。夫の海外赴任を機に退職し、当時2歳と4歳の子どもたちと共に渡越。2014年11月から2016年3月までハノイで暮らし、帰国後は紙・パルプ系企業に転職。現在も会社員として従事。
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