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【イギリスの子育て・教育レポート】 第22回 中学選び① 選べるからこそ大変!イギリスの公立中学校選び

橋村 美穂子

2017年11月10日掲載

要旨:

今回から3回にわたり、「イギリスの中学選び」について紹介する。1回目となる今回のテーマは「イギリスの公立中学選び」。イギリスは公立でも行きたい中学校を自由に選べる「学校選択制」を取っている。イギリスの公立中は学校によってカリキュラムも雰囲気も全く異なるため、保護者はよりよい中学校に入れようと情報収集に奔走する。学校選択制を取ることでの日本との違いは2点ある。1つ目は国の機関による学校評価に加えて、中学卒業資格試験の結果も学校別に公表されること。その結果、学校評価や学力が高い一部の学校に人気が集中する。2つ目はよい公立校に入るために引っ越しするのは珍しいことではないこと。学校を自由に選べるとはいえ、定員数を上回る志望者が集まった場合、入学には学校からの距離が重要な基準の1つとなるので、人気校に子どもを入れたい場合、少しでも学校から近い場所に住居を確保しようと必死になる。また、「オープン・モーニング」「オープン・イブニング」と呼ばれる学校公開日が複数設けられ、自分たちの目で学校を確認する機会も豊富だ。筆者が住むエリアでは、公立中の申し込みは中学入学の1年前から始まる。小学6年生の9~10月に市のウェブサイトで申し込み、3月1日にメールで連絡が来ることになっている。

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この連載では、小学生の息子をもつ母親による「イギリスの子育て・教育」体験レポートをご紹介します。

秋も深まってきましたね。受験生は年明けの試験に向けて一段と勉強に力を入れたり、志望校を絞り込んだりする時期でしょうか。イギリスの小学6年生にとっても、秋は今後の進路を考える大事な季節。公立中学の申し込み、選抜試験のある公立校・私立中学の試験が開催されるなど、6年生が始まると大忙しです。

現地校で小学6年生の息子もこの秋は今後の進路を考えるのに大忙しでしたが、そのことで実に多くのことを学びました。そこで、今回から3回にわたって「中学選び」について紹介します。1回目となる今回のテーマは「イギリスの公立中学選び」。イギリスは行きたい公立中学校を選ぶことができる反面、選択肢があるからこそ、大変なこともあるようです。

卒業証書の代わりとなる「中等教育修了資格試験」の結果は生涯つきまとう!

まず始めに、イギリスの中等教育について簡単に説明します。イギリスの公立中学校は、セカンダリー・スクール(Secondary School)といい、ほとんどの生徒がコンプリヘンシブ・スクール(Comprehensive School)という無試験で入学できる学校に進学します。イングランドと北アイルランドには、選抜試験があるグラマー・スクール(Grammar School)があります。また、その他に私立校があります。日本より1年早く、11歳~12歳で入学し5年間、中学校で勉強します。イギリスの中等教育で忘れてはならないのが、GCSEと呼ばれる中等教育修了一般試験(General Certificate of Secondary Education)GCSEは民間試験団体による科目別の試験で、必修の英語・数学・理科を含む10科目程度を受験します。筆記試験だけでなく、学校での実験・実習・エッセイなども重視されます。このGCSEの結果がイギリスの義務教育修了資格として、卒業証書の代わりになります。実はこの試験結果は非常に大切です。なぜなら、GCSEの結果は社会的に重要な資格とされ、その結果が生涯を通じてつきまとうのです。例えば、大学に進学するためには、GCSEで一定の成績を収めていることが要件になるのです (1,2)
※地域によって教育制度やGCSEの制度は違います。

学校からの距離が重要な指標となるが、基本的には学校を選ぶことができる

日本では、一般的には住んでいる学区の中学校に入学しますよね。現在は、自治体によっては学校選択制を取っていますが、その割合は約15%(平成24年度)と決して大きいとは言えません (3)。対して、イギリスの非選抜の公立校は基本的に、学校選択制を取っています。定員数を上回る応募があった場合は、学校からの距離が入学を決める重要な基準となるものの、自由に学校を選ぶことができるのです。また、学校からの距離のほかにも、「里親のもとで暮らすなど社会的養護のもとにある(あった)子ども」「入学時点で兄弟姉妹が在校している子ども」はさらに優先的に入学できます。さらには、「学校の先生やスタッフの子ども」が優先的に入学できるという基準をもつ学校もあります。家庭が行きたい学校を選択できるのは、子どもや家庭の教育方針に合った学校を選べる一方、決めるのが大変なのも事実です。共学だけでなく、男子校・女子校もあるうえ、公立でも国の学習指導要領に沿わなくてよい学校もあるため、学校ごとにカリキュラムや特徴、学力までも大きく異なります。このため、学校選びに情熱を注ぐ保護者が多いのです。イギリスが学校選択制を取ることで、公立中学校選びにおいて日本と異なる点は2つあります。

違い①:国による学校評価だけでなく、GCSE試験の成績も学校別に公表!

日本では、小6生と中3生が受ける全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果は自治体別には公表されているものの、学校別に公表されているのはわずかに約2%(2014年) (4,5) です。しかし、イギリスは前述のGCSE試験の結果が学校ごとに公表されるのです。それはパフォーマンステーブルと呼ばれ、発表の時期はマスコミでも大きく取り上げられます。これは、サッカーの順位表に例えてリーグテーブルと呼ばれることもあります。具体的には、「GCSEの結果で一定以上の成績の生徒がどのくらいの割合いるか」「欠席率」「生徒の進路先」などの情報も公表されます (1)。また、学力のレベルだけでなく、入学時から卒業までの5年間でどのくらい伸びたかという「生徒の伸び率」を示す数値も公表されています。

私たちが住むエリアは、小学校の評判はよいのですが、実は中学校の評判が非常によくないのです。それでも、女子校は周辺に比較的学力が高く、雰囲気も国の学校評価もよい学校があるのでいいのですが、問題は男の子。共学・男子校ともに、国の学校評価も、GCSE試験の結果も、下校中の生徒の雰囲気に対しても、ため息が出てしまうのは同級生の保護者も同じでした。この悩ましい問題を解決するため、息子の現地校のクラスメイトの中で、約半数の男の子が選抜式の公立校か私立校を受験することになるのです。

違い②:人気公立校に入るために引っ越しするのは、ごく普通のこと

日本では、いい公立中に入れるためにわざわざ引っ越しをするということはあまり耳にしないのではないでしょうか。しかし、イギリスは前述のように、学校によってカリキュラムも雰囲気も学力も大きく異なること、また、非選抜の公立中学校入学の基準は、学校から家までの距離が最も重要な指標であることから、いい学校に入れたい場合は近くに引っ越すのが普通なのです。私たちの家の近所にはよい中学校がないので、多くの人から引っ越しを勧められました。

学校から近いところに住めば住むほど、希望する学校に入学しやすくなるイギリス(写真1)。しかし、いろいろな問題も生み出しています。例えば、中学申込前後の時期だけ、一時的に学校近くのアパートを借りたり、親族の住所が学区内にあれば名義を借りたりするなど不正に近いことが行われていることもあるようです。その不正を暴くために実際に該当の生徒が住んでいるか抜き打ちで検査もあるとか。また、日本のように、学区が固定しているわけではなく、入学できる学区の範囲は年によって変わります。学校に近い場所に住んでいる人が多く申し込めば、入学できる学区がおのずと狭くなってしまうのです。人気校は毎年、学区が狭くなっているところもあり、保護者も子どもも学校が決まるまではドキドキです。

筆者が住むエリアに隣接した地域には、イギリス全土で初めての教師の実習や研修(teacher training)を目的とした大学の附属中学校が2015年に設立されたのですが、ここが大人気!150人の募集枠に1,200人を超える生徒が応募したそうです。卒業生がまだいないため、GCSE試験の結果はまだ公表されていませんが、指導の質の評判を聞きつけた家庭からの申し込みが増えています。3年前は学校から半径1.5km以内なら入学できましたが、昨年は約800m以内に狭くなっていました。息子の同級生の家庭も、この学校に行かせたくて、半年以上家を探しまわり、申込〆切1か月前にやっと引っ越しをすることができました。同級生が引っ越した家は、昨年は学区内だったエリアですが、今年はわかりません。無事に入学できることを祈るばかりです。

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写真1:ある中学校で見せてもらった学区を示す地図。
昨年度は半径4.8km以内なら入学できたのに、一昨年は半径2.6km以内と、年によって2kmも差が出ている。

また、自分たちの目で学校を見て、感じる機会も豊富です。現在は日本でも公立校の学校公開や学校説明会が行われるようですが、それと同じです。学校の特色や校長先生のお話なども聞ける夕方の「オープン・イブニング」実際の授業の様子や、普段の生徒や先生の雰囲気を感じられる朝の「オープン・モーニング」の2種類があり、たくさんの親子でごった返します。9~10月に多数、開催され、予約なしで行くことができます。多くの場合、在校生が学校内を案内してくれるので、より学校の雰囲気をつかむことができます。

イギリスの中学校は、美術や技術・家庭科だけでなく、英語や数学、社会(歴史・地理)なども教科ごとの教室があります。「オープン・イブニング」では、教室に行って生徒のノートや教科書、掲示物を見たり、教科に関連した簡単なアクティビティを体験したりします。ある公立中のコンピューティング(computing)という科目の教室で、息子は中1生にあたる7年生が習ったというプログラミング体験をさせてもらいました(写真3)。指示書を見ながらパソコンにプログラミングのコードを書き込むと、micro:bitという機械に「HELLO!」と表示される簡単なアクティビティでした。さらには、カフェテリアの人気メニューの試食まであり、充実した一日でした。

朝の「オープン・モーニング」では、イギリスの中学生がふだん、どのように授業を受けているかなど日常に近い雰囲気が感じられました。小学校ではグループ型の座席ですが、中学校では教科によっては講義型の座席もあることや、生徒の授業への集中度合いなども見ることができ、大変興味深かったです。私たちは合計4校に出向きましたが、未知の世界であるイギリスの中学生の様子がわかり、発見の連続でした。

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写真2: 見学したある中学校の制服です。日本と似ていますね。でも、イギリスの女の子はスカート・ズボンの両方を着用できます。
写真3:プログラミングのコードを書き込んだら「HELLO!」と表示されたmicro:bit本体。

筆者が住む地域では、中学校の申し込みは入学の1年前から始まります。小学6年生の9~10月に市のウェブサイトで第6希望まで書いて申し込み、結果は3月1日にメールで受け取ります。決定に約4か月かかります。イギリスで希望する中学に入学するためには、学校全体の学力レベルの把握や実際に通わせている家庭の評判・口コミ、学校見学、そして人によっては引っ越しと、非常に骨が折れます。しかし、息子自身も筆者も、中学入学前の早い段階から、どんな学校でどんなことを学びたいか(学ばせたいか)などを考えるよい機会になったのも事実です。イギリスでは、学校選択が将来を考える節目になっているのかもしれませんね。

次回は「選抜試験のある公立中学の受験」についてお届けします。お楽しみに。


<参考文献>

筆者プロフィール

橋村 美穂子(はしむら・みほこ)

大学卒業後、約15年間、(株)ベネッセコーポレーションに勤務。ベネッセ教育総合研究所で幼稚園・保育所・認定こども園の先生向け幼児教育情報誌の編集長を務め、2015(平成27)年6月退職。現在は夫、息子と3人でイギリス中西部の街バーミンガム在住。
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