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論文・レポート

【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第28回 食育プロジェクト(後編)

シュリットディトリッヒ 桃子

2017年10月27日掲載

要旨:

食育プロジェクトの一環として行われた調理実習だが、息子のクラスでは学級崩壊を経験していたこともあり、20名の児童に対し、6-8名の教師たちが対応する、という異例の体制ですすめられた。子どもたちは調理を楽しんでいたようだが、試食時間では、全く食べない子がいるかと思うと、作ったお料理がなくなるまで食べ続けている子もいた。最後には修了書が授与され、食育プロジェクトが終了した。

Keywords:
ドイツ、ベルリン、小学校、小3、栄養、食育プロジェクト、調理実習、学級崩壊、シュリットディトリッヒ桃子
小3クラスの調理実習

前回の記事では食育プロジェクトの概要(講義と調理実習)について記述しました。今回は著者が実際に参加してきた調理実習の様子の続きをお伝えしたいと思います。

第2324回:学級崩壊」でお伝えしたように、新学年が始まった当初、息子のクラスはなかなか通常の授業を行うのが困難な状況にありました。そういったこともあり、筆者は今回、第4回目の調理実習に参加した際、その点も含めてクラス全体を観察しました。

実習の前に担任の教師に伺ったところ「問題行動をとっていた子どものうち2名は他の学校もしくは校内の特別学級に転籍したので、だいぶ状態は良くなった」とのことでした。しかし、それでも「授業中に騒いでしまったりする子どもは3名残っている」とのことでした。

食育プロジェクトの当日、調理時間が始まる頃になると、担任の教師と保育士以外にも、続々と他の教師や保育士と思われる大人たちが入ってきます。結果、調理実習には、栄養士1人、保育士2人、教師2人、ソーシャルワーカー1人の合計6人もの大人が20名の児童を見守る、という状態になっていました。担任の教師に伺ってみると、この時間に授業を担当していない校内の全教師・保育士がこの調理室にヘルプ要員として来ているとのこと。他のクラスでは、栄養士の先生と担任の教師・保育士のみで対応している、とのことでしたので、学校全体で学級崩壊を経験したこのクラスに対応している様子が垣間見えました。

しかし、それだけのフォローが入っても、子どもたちはいつもと異なる調理室でのアクティビティに興奮しているのか、調理室内はなかなか静かにならず、実習を始めることができません。子どもたちが落ち着くまで教師たちは「シー!」と指を口にあてて、沈黙を促し続けました。15分たってようやく静かになりましたが、結局、件の子ども3人は、ほどなくして再び騒ぎ出してしまったので、一人の保育士と一緒にサッカーボールを持って、校庭に連れ出されました。そして、彼らは試食時間になるまで、戻ってきませんでした。

日本の学校の教師になりたい!?

この事態を目の当たりにして驚いていると、近くにいた先生が「日本では1クラスに何人教師と生徒がいるのですか?」と私に聞いてきました。「通常、生徒30-40人に対し教師は一人だけです」と答えると、それを耳にした先生たちは一様に驚いて「どうして教師一人だけで、そんなに多い子どもたちを担当することができるのですか?!それで、クラス全体は静かなのですか?」など、調理中にも関わらず、矢継ぎ早に聞いてきます。

「問題のあるクラスも中にはあるようですが、大体は滞りなく授業を行っているのではないでしょうか。日本とドイツでは授業の形式も異なりますし。」と答えると、今度は「具体的にはどのように違うのですか?」と次の質問が飛んできます。「日本では、少なくとも私が子どもの頃は、先生が子どもたちに対して一方向の授業を行うことが多かったです。子どもたちは、この小学校のようにグループに分かれて座るのではなく、皆、先生がいる前を向いて座っていました。そして、まずは規律を守ることを教えられました。」と説明すると、「なんて羨ましい!私も日本で教師をしたいわ」など言い始める先生もいました。思わぬ展開に、私も少し焦ってしまいましたが、毎日このような現場で働いている先生たちからすれば、全く異なる日本のシステムに興味をもつのも無理はないのかもしれません。

いざ、調理開始!

さて、ようやくクラスが静かになると、まず栄養士が何を作るか説明し、児童にレシピを読ませ、この日の作業の流れを把握させていました。この日の献立は、じゃがいものオーブン焼き・カッテージチーズのハーブソース添え、レタスとリンゴとヨーグルトのサラダの二品でした。説明が終わると、全員が手を洗った後で、各自、じゃがいもの皮むきとカット作業が始まりました。「3年生でどれだけ料理ができるのかな?」と思いながら、私は各テーブルを回ってみます。すると、皮むき器(ピーラー)を使っている子どもが多かった一方で、中にはナイフを上手に使いこなしている子も、男女問わず目にしました。そんなある男の子に「うちでもお料理をするの?」と聞いてみると「お母さんのお手伝いで、野菜を切ったりすることはあるよ」と言っていたので、家庭で普段から食や料理に触れる機会をつくることの大切さを認識しました。

また、ドイツではじゃがいもが主食の一つであるため、色々な種類があります。先生からは持参するじゃがいもの種類までは指定されていなかったので、子どもたちが皮をむいていたじゃがいもは大小さまざまでしたが、中にはこぶし2個分くらいの大きなじゃがいもを持ってきた子がいて、これは皮をむくだけでも一苦労!また、当校では発達障がいの有無問わず、様々な子どもが一緒になって学ぶ「統合クラス」でもあるため、一人で黙々とひたすらじゃがいもを切っている子どもや、作業全般が遅れている子どもなども見受けられます。後者のような子どもたちに対しては、教師は勿論、自分の分が終わった子どもが手を貸すなど、皆で協力していたのが印象的でした。

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じゃがいもの皮をむく子どもたち

  

じゃがいもの皮をむいて、小さく切った後は、それらを調理室の一番前に置いてある一つの大きなボウルに入れていきます。全てのじゃがいもを入れ終わると、サラダ油とパセリをかけて、全体を混ぜてから、オーブンで焼き始めました。焼き時間は30分でしたが、この間はちょうど学校の25分間休憩と重なります。子どもたちは、カフェテリアに給食を食べに行った後、校庭で遊んでいました。「調理実習の試食前に給食を食べるの?!」と聞いてみると、多くの子は「お腹がすいているからちょっとだけね!」と言っていたのが、可愛く、微笑ましかったです。

ちなみに、先生によると、当校では休憩中は「外で遊ばなければならない」ので、教室の中には入れてもらえないルールになっている、とのこと。実際、途中で調理室に戻ってきてしまった子どももいましたが、部屋に残っていた担任の教師に「外に行って遊んできなさい」と言われ、中に入れてもらえることはありませんでした。

25分休憩が終わると、サラダとドレッシングおよびじゃがいも用のソース作りの開始です。クラスの半分はじゃがいも用のソースを作る係、4分の1はレタスやリンゴを切る係、残りの4分の1は、ドレッシングの材料をジャムなどの空き瓶に全て入れ、シャカシャカ振って、ドレッシングを作る係です。ある女の子は「沢山振ると、美味しいドレッシングができるのよ!」と言って、一生懸命、瓶を振っていましたが、個人的にもこれは名案だなと思いました。ちなみに、このドレッシングの作り方は、食育プロジェクトの最後に行われたまとめのテストにも出題されていました。

一方、オーブンからはいい匂いが漂ってきて、じゃがいもが焼けたことを知らせています。数名の子どもたちはキッチンへ向かい、じゃがいもを取り出しています。この時、栄養士は「取り出す時、顔を近づけないようにね」などと口頭で注意しながらも、基本的に作業は全て子どもに任せていたのが印象的でした。

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オーブンから焼き立てのじゃがいもを出す児童

 
お待ちかねの試食タイム!

さて、アツアツのじゃがいもが焼き上がると、鉄板からボウルに移して、別のボウルに入れられたサラダと一緒に並べて、完成です。大喜びで食べ物をよそおうと群がってきた子どもたちでした。自分の好きなものを好きなぶんだけよそうと、自分の席に戻って、いざ試食!しかし、よくよく見てみると、おかわりを何度もする子もいれば、中には食欲がないといって、全く食べない子もいます。調理には積極的に参加していたのに、全く食べない子もいたので、これは不思議でした。

いずれの場合でも、教師たち大人は強制せず見守るだけでした。前回の記事でも触れましたが、当地では給食の時間に教師が同行することはありませんし、子どもによって宗教や健康状態(アレルギーなど)が異なることもあり、食に関して、教師が子どもに何かを強要することはないようです。

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焼き立てジャガイモをボウルに移す児童
 
自分の食べる分をよそう子どもたち

  

美味しそうに食べている子どもたちに感想を聞いてみたところ「とってもおいしい!(多数)」「リンゴが入っているサラダが大好き!」「食育プロジェクトは楽しい」など、総じてポジティブな反応が返ってきました。

しばらくすると、食べ終わった子から、席を立ち、バラバラと片づけを開始していましたが、一方で、周りを全く気にせず食べ続けている子もいます。結局、ボウルが空になるまで数名の子どもたちは食べ続けていましたが、彼らに対して、先生がせかすことはありませんでした。許容時間内でルールを守っていれば、個々の思うように過ごしてよいのです。これは、「いただきます」で一斉に給食時間が始まり、「ごちそうさまでした」で一斉に終わる日本とは異なる風景で、非常に興味深かったです。

最後には修了書がもらえる

筆者は別の日に行われた最終回の調理実習にも参加したのですが、ここでも合計8人の大人が付き添って、調理補助にあたっていました。その時のメニューは今まで行った4回を組み合わせたもの(オープンサンド、色とりどりのヌードルサラダ、レタスとリンゴとヨーグルトのサラダ)で、子どもたちにとっては復習のようなもの。だからか、メニュー数は多かったものの、調理自体は非常にスムーズに進み、皆で楽しく試食をすることができました。筆者も一緒に頂きましたが、どれも素材を生かした健康的なメニューで、とても美味しかったです。

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最終日に作ったオープンサンド
 
私も美味しいヘルシーランチを頂きました

  

試食後、片づけが終わると、栄養士から児童一人一人に「食育プロジェクト修了書」が手渡されました。そこには「筆記テストが合格点だったこと」「一人で健康的なお料理(朝食、サラダ、カッテージチーズソース、暖かいジャガイモ料理)が作れること」が、子どもの名前と写真とともに記されています。数日前に「パスポートサイズの写真を持ってきて下さい」と担任の教師から連絡があったのですが、この修了書が使用目的だったとは!

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食育プロジェクト修了書
 
修了書授与のようす

   

こうして、食育プロジェクトは幕を閉じました。肥満防止のための健康的な食生活を子どもたちに伝えるために行われたプロジェクトでしたが、子どもたちはこの楽しい調理実習の経験から、バランスのとれた食生活に興味をもち始めたのではないでしょうか。現に息子は自宅でも時折、野菜たっぷりのオープンサンドを作ってくれるようになりました。このような食育の輪が当地でも広がることを願っている日々です。

筆者プロフィール

シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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