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【イギリスの子育て・教育レポート】 第18回 日本のPTAとはひと味違う!日本人補習校の保護者の参加

橋村 美穂子

2017年7月14日掲載

要旨:

今回は「日本人補習校」を取り上げる。日本人補習校(以下、補習校と省略)とは、海外で現地校などに通学している子どもに対し、週末や放課後を利用して日本語で授業を行う教育施設である。息子が通う補習校は、毎週土曜日の10時~15時半に国語と算数の授業が行われる。運動会や遠足などの行事もさかんだ。
日本の公立校と大きく違うのは、学校運営に対する保護者の参加度合いだ。第一に、校長先生や会計などの学校運営のキーマンは全員、在校生の父親である。次に、運動会や遠足などの行事は保護者が企画・運営すること。先生の役割は主に教科の指導であることが大きな理由だ。図書貸出や校内見回り、清掃も保護者の当番制になっている。3つめにバザーや発表会、読み聞かせなど、補習校をよりよくする活動も保護者有志の手によって行われている。
資金や人手が限られていることもあり、補習校の運営には保護者の参加や協力が欠かせない。驚くのは、多くの保護者が自発的、積極的に運営に協力していることである。その背景には、「子どもにいろいろな学びや体験をさせたいという目的意識」「できる範囲で、得意なこと、できることを提供するスタンスで、義務・強制ではないこと」「お互いのことを知っている仲間意識」があると考える。

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この連載では、小学生の息子をもつ母親による「イギリスの子育て・教育」体験レポートをご紹介します。

暑さも一段と増してきて、夏本番。夏休みを心待ちにしているお子さんもいらっしゃると思います。イギリスの夏休みは日本とほぼ同じ時期で、7月下旬~9月上旬。息子は現地校には行きたくないという気持ちがまだあるので、夏休みが待ち遠しいようです。しかし、週1回の日本人補習校は大好きで、夏休みになると友だちに会えないので、複雑な気持ちのようです。今回は、イギリスで息子が毎週土曜日に通っている「日本人補習校」(以下、補習校と省略)について取り上げます。

「補習校」とは、現地校に通う子が日本語で国語などを学ぶ場所。

日本では聞きなれない「補習校」。まず、概要を説明します。「補習校」とは、海外で現地校やインターナショナルスクールなどに通学している日本人の子どもに対し、土曜日や放課後などを利用して小学校または中学校の一部の教科について日本語で授業を行う教育施設です (1)。大規模な補習校は、幼稚部や高等部を併設しているところもあるようです。海外にはもう1つ、「日本人学校」というものもあります。日本人学校とは、日本国内の小学校、中学校または高校と同等の教育を行うことを目的とする、全日制の教育施設です。

現在、義務教育段階で約7.8万人の日本人の子どもが海外で学んでいます。そのうち、約2万人(約25%)が「日本人学校」へ、同じく約2万人(約25%)が「現地校と補習校へ」、残りの約3.8万人(約50%)の子どもが「現地校やその他の方法」で学んでいます。海外で学ぶ約7.8万人の子どものうち、小学生は5.7万人(約73%)、中学生は2.1万人(約27%)です(平成27年度) (1, 2)

毎週土曜日は、車で片道1時間ほどかけて親子で通学

補習校は、国や地域、各学校によって運営の方針や方法が異なるため、今回ご紹介する内容は息子が通う補習校の一事例であることをあらかじめご了承ください。

息子が通う補習校では、毎週土曜日の10時~15時半に、現地の中学校の校舎を借りて国語と算数の授業が行われます。朝10時前になると、ランドセルを背負った子どもたちが登校し、そこは日本のようです。多くの子どもが遠方から保護者の送迎で通学しています。我が家も車で片道約1時間かけて通っているので、学校が終わる15時半までは私も学校に留まり、他の保護者と交流したり、行事の準備をしたりして待ちます。

補習校には小学部・中学部があり、合わせて約70名が学んでいます男女は3:4の割合で女子が若干多く在籍しています。また、国際結婚家庭の子ども:海外駐在員の子どもは4:3の割合と、国際結婚家庭の子どもの割合が高くなっています。

日本の公立小中学校の学費は無料ですが、補習校は学費がかかります。文部科学省の認定を受けているとはいえ、私立のような扱いの学校だからです。学校の運営は、入学金や授業料のほかに、国の補助金や日本企業からの寄付金で賄われています。

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写真1 登校の様子。土曜だけ間借りしている現地の中学校の校舎の入り口です。

補習校は、保護者のサポートなしでは成り立たない!

補習校は、日本の公立の小中学校とどのような点が違うのでしょうか。最も違うのは、学校運営に対する「保護者の参加度合い」です。

違い① 校長先生などの学校運営のキーマンは、みんな在校生のお父さん!

まず、最も大きな違いは、補習校を運営する人です。日本の公立校なら、専任の校長先生がいますが、息子の補習校は違います。校長先生、運営委員長、会計委員などの学校運営の役員はすべて、日本企業の駐在員である在校生のお父さんが1年間の任期で担っているのです。なぜならば、在校生の人数が少なく、専任の校長先生や担当者を置くには資金が足りないからです。お父さんたちは、平日は仕事で忙しいのに、土曜日も朝から晩まで、補習校の運営に携わっています。もちろん、ボランティアで、報酬はありません!補習校の運営は、多忙を極めます。大使館や日本企業の会との折衝、間借りしている中学校との交渉、職員会議、父母総会などさまざまな仕事があります。平日は仕事で忙しいお父さんたち。委員としてのモチベーションの源泉は何なのでしょうか。校長先生の右腕として運営を担っていたお父さんは、委員としての1年間の活動を振り返って言います。

「正直、仕事との両立は大変でしたが、補習校の運営を通して、子どもの教育を真剣に考えるようになったことが一番よかったことです。また、理念や方向性を示して、チームをまとめあげるのは仕事も補習校も同じで、自分の仕事にとっても、非常によい勉強になりました。メリットを挙げるときりがありません。」

違い② 運動会や遠足、修学旅行などの行事はすべて、保護者が計画して実行

息子の補習校は行事も盛んです。日本のような運動会や遠足、修学旅行もあります。日本の公立校だと、学校行事は先生主導で計画・実施しますが、補習校では行事も保護者の担当です。なぜなら、補習校は日本語教育を中心に据えており、先生の役割は主に教科指導なのです。運動会や遠足は日本語教育という面からのみ見ると、必須ではないととらえられます。運動会も遠足も実施しない補習校もあるようです。学校運営の役員はお父さんが担うことが多いのですが、運動会や遠足などの行事は主にお母さんが担当しています。また、この補習校の担任の先生として働いているお母さん、事務員として補習校を支えているお母さんもいて、お父さんだけでなく、お母さんも大活躍しています!

息子の学校では、6月の運動会のほか、秋には野外活動を楽しむ施設への遠足や修学旅行も行われます。私は現在、この遠足と修学旅行の委員を担当しています。委員になってみて初めて知ったのですが、1つの行事を行うには多岐に渡る仕事があり、結構大変なのです。日本の学校の先生は教科指導に加えて、行事の準備もこなしていて、頭が下がる思いです。

行事のほかにも、図書貸出や校内の安全見回り、校内清掃なども保護者の当番制になっていて、補習校に欠かせない役割の1つです。

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写真2 近くの補習校との合同運動会。
ラジオ体操の様子。このあと、玉入れやパン食い競争など日本ならではの競技が行われます。

違い③ バザーや発表会、読み聞かせにも保護者有志が大活躍

役員、行事などの学校運営に保護者が大活躍ですが、保護者有志による活動も活発です。日本で息子が通っていた小学校でも、夏祭り、読み聞かせはPTAや保護者有志によって運営されていましたが、それと似ています。息子の補習校では、授業や学校行事以外での日本文化や日本語に触れる活動は保護者有志の手によって行われています。具体的には、日本の夏祭りのような雰囲気のバザー、子どもがそれぞれの特技を披露する発表会、読み聞かせボランティアなどがあります。

日本のPTAと違って、なぜ、こんなに積極的なの?

以上のように、息子の補習校では資金と人手が限られていることもあり、運営から行事、日々の活動に至るまで、保護者の協力が欠かせません。私が補習校の保護者の活動を見て驚いたのは、多くの保護者が自発的、積極的、かつ楽しみながら参加している点です。最近、報道されているような、日本のPTA活動に関するイメージとはまったく違うのです。息子の補習校への保護者参加が活発な理由は主に3つあると思います。

1つめは「目的意識」。イギリスに住む子どもたちに日本の文化や行事を体験させたいという思いが共通にあることが最も大きいと考えます。保護者である自分たちが協力することで、子どもの学びがより豊かになることは非常に大きなモチベーションになっています。

2つめは「義務・強制でないこと」。基本的に、運動会などの学校行事やイベントへの参加は任意であり、保護者も参加・不参加を選択できることも大きいのではないかと思います。また、「できる範囲で、得意なことやできることを提供するスタンス」も大きいと感じます。特にバザーでは、大工さんであるお父さんが中心となって竹とんぼや木工作品を、和菓子職人やパティシエのお母さんがお菓子を、手芸が上手なお母さんが手作りアクセサリーをと、それぞれの保護者が得意なこと、できることを惜しげもなく提供しています。

3つめは、積極的な参加のベースとしての「仲間意識」があげられると思います。補習校への送迎は正直、面倒に感じることもありますが、この送迎がお互いを知り合う貴重な機会になっています。送迎で顔を合わせ、会話をする中で「同じ補習校の仲間」という意識が生まれ、協力への負担感やハードルを下げているのではないかと思います。日本で仕事をしていたころ、ある幼稚園の園長先生から興味深い話を聞いたことがあります。幼稚園の活動を通して保護者同士が仲良くなっていると、その幼稚園のある地域の小学校のPTA活動も大変活発になるそうです。保護者同士が知り合いであることが保護者の学校参加度合いに影響するよい例だと思います。

ただ、一方で課題もあります。一番大きな課題は、役員のお父さんの負担が非常に大きいことでしょう。前述の運営の役員だったお父さんは「睡眠時間を削らないと、補習校の運営業務は回らなかった」と言います。また、一部ですが、補習校の委員活動や行事に協力しようとしない人もいて、不公平感があるのは事実です。

日本の学校に比べて、保護者の出番が多く、正直大変だと思うこともあります。しかし、保護者一丸となって協力するのは「子どもの笑顔と学びの広がり」のため、これに尽きる気がします。全日制の日本の公立校と、週末1日だけの海外にある補習校を比較するのはナンセンスかもしれませんが、補習校の在校生の保護者は日本人がほとんどを占めることを考えると、日本のPTA活動へのヒントが補習校にあるのかもしれません。

次回は「現地校の夏祭り」をお届けします。お楽しみに。


<参考文献>

筆者プロフィール

Mihoko_Hashimura.jpg橋村 美穂子(はしむら・みほこ)

大学卒業後、約15年間、(株)ベネッセコーポレーションに勤務。ベネッセ教育総合研究所で幼稚園・保育所・認定こども園の先生向け幼児教育情報誌の編集長を務め、2015(平成27)年6月退職。現在は夫、息子と3人でイギリス中西部の街バーミンガム在住。


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