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【スウェーデン子育て記】 第21回 子どもの心のケア

2017年4月7日。ストックホルム市内の中心地で、大型トラックが暴走を始め、多くの人が怪我をし5人が亡くなるという悲惨な事件が起きました。ちょうど金曜日の午後であり、イースター休暇を目前にした週末だったので、街行く人は明るい気分でショッピングを楽しんでいたに違いありません。そこは私たちもよく買い物に出かける場所でしたから、子どもたちにとってもショックな出来事でした。いつも見ていた光景が、悲惨な映像とともにテレビに映し出されていました。メディアはどこもこの事件一色でしたし、ソーシャルメディアでもこの話題で持ちきりでした。事件発生当初は、いったい何が起こったのか、けが人は出たのか、などの情報が錯綜していて、詳細が全く伝わらない不安な時間が過ぎていました。

時間が経つとともに事件の内容が伝わり、容疑者も捕まることで、この事件について多くの議論が始まりました。事件の2日後には、街の中心地で大きな集会も開かれました。まだ気持ちの整理がつかないような状態の中で、たくさんの人が発言をし、多くの議論が起こりました。大人の私達でも大変なショックを受けた事件でしたから、子どもたちへの影響は相当なものだったと思います。

我が家でも小学生の娘たちは事件のことを知り、思うところが色々あったようです。特に小学4年生の長女は、事件当日の夜はテレビの前に釘付けでした。

心のケア

スウェーデンでは大事件が起こった後の精神的なケアが充実しています。私の職場でも、まずは身の安全を職場に報告するとともに、今回の事件に関して不安を感じる場合は申し出るように、という連絡が回ってきました。精神的なカウンセリングを受けるという行為自体も、日本より一般的だと思います。

今回の事件を受けて、子どもたちは大変な衝撃を受けたに違いありません。子どもによっては、非常に強い不安感を抱いている可能性もあります。こうした子どもに対応するため、子どもたちの健康的な生活を支援するNGO団体、Rädda Barnen(https://www.raddabarnen.se)や、子どもの権利を守る団体、BRIS(https://www.bris.se)などは、事件後すぐに子どもたちの心のケアの必要性について、インターネットやSNSを通じてメディアに発信をしていました。

Rädda Barnenによると、まずは子どもの年齢にあった対応の仕方が必要とのこと。就学前児童に関しては、通常通りの生活を送ることが大事だということです。子どもがどこまで事件のことを知っているかわからないので、毎日の遊びを通していつもと変わった点がないかどうかを観察することが必要であり、保育園などの職場では、大人は子どもの前で事件の話をすることは禁物だそうです。まずは保育士同士で話し合いをし、安心感のある空間を作り出すことが第一とのことです。

小学生以上の子どもたちは、ニュースなどで事件の内容を知っていることが考えられます。その場合は、子どもからの問いかけに応じて、事件についての話し合いをすることが大事です。しかし、大人の方から事件の詳細について説明をする必要はなく、子どもが疑問に思うことだけに答えると良いそうです。

ティーンエイジャーになると、子どもたちが入手できる情報量はかなり増えてきます。ニュースだけではなく、インターネットなどで写真なども見ていることがあるので、十代の子どもたちとはじっくり時間をかけて話し合いをすることが大事です。

さらにBRISでは、子どもと具体的にどのように接するのが良いか、アドバイスをしています。今回の事件は、ストックホルムの市内という身近で起こったものであることから、それぞれ子どもたちの置かれていた状況によって反応の仕方が異なります。偶然、その時刻に街中にいて騒ぎを目撃した子どももいるし、その後の交通マヒに巻き込まれて家に帰れなかった子どもや、友人・親戚が騒動に巻き込まれてしまった子ども、またはテレビで初めて事件のことを知った子どもなど。その子どもが今、何をどの程度必要としているかを知ることから始めることを提案しています。

BRISが提案しているのは、まずは子どもの様子を観察して、話を聞いてみること。子どもは自分の疑問に対する答えを欲しているので、それには答えるべきだが、必要以上の詳細などは伝える必要はないということです。また、大人が自分の感じている不安を子どもに伝えることは適切ではありません。なぜなら大人の不安はそのまま子どもに伝わるからです。そしてこのような事件は非常に稀な出来事であり、この事件の原因をしっかり調べる人たちがいることと、その後の適切な対処をする大人がいることを伝えて、子どもを安心させる必要があるそうです。

そしてインターネットの普及率が非常に高いこの国では、SNSなどを通じて出回っている悲惨な事件現場の写真などの存在もあることを認め、そのような写真を見たくない人もいることや、怖いと感じる人がいることを伝えるべきだと提言しています。

我が家の娘たちについて言えば、6歳の次女はあまり事件の内容を理解していない様子でしたが、小学4年生の長女からは色々な質問があったので、彼女が理解できる程度の内容を伝えることにしました。事件の背景には多くの原因があると思うので、一言で説明できることではありません。なるべく感情的にはならず、報道された事実だけを伝えようと思いました。しかし数日すると娘の気持ちは少し落ち着いた様子だったので、まずは安心しました。

今回の事件を通じて保護者の立場で学んだことは、もし子どもが一人で外出した時に何かが起きたら、どのように行動するかということを少しずつ教えていかなくてはいけないな、ということ。非常時の対応を家族全員で決めておく必要性を改めて認識しました。この事件のすぐ後に長いイースター休暇があったので、特に学校からの対応はなかったとのことですが、大人が行うべき最も重要なことは、いつでも子どもたちに安心できる落ち着いた場所を作ることだと感じました。

筆者プロフィール
下鳥 美鈴

東海大学文学部北欧文学科卒業。ストックホルム大学で修士課程を終え、ウメオ大学(スウェーデン)で博士課程を修了。言語学博士。
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