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【イギリスの子育て・教育レポート】 第15回 アレルギーもちの息子と1年、イギリスで暮らしてみたら・・・

橋村 美穂子

2017年4月14日掲載

要旨:

今回は、「イギリスでの食物アレルギー児の子育て」を取り上げる。10歳になる息子は卵、ナッツ、そばに食物アレルギーがある。特に卵に対する症状が重いため、どこに行くにも緊急用の自己注射薬が手放せない。そのため、イギリスで暮らすまでは非常に不安だった。しかし、実際に暮らし始めると意外にもイギリスのほうがラクだと思うことがあった。その理由の1つは「商品のアレルギー表示が見やすい」こと。2つめは、「アレルギー対応商品が簡単に手に入ること」。多くのスーパーでアレルギー対応食品の棚が設けられている。最後に「加工品に卵が入っていない場合が多い」こと。日本ではベーコン等の加工肉や冷凍食品のほとんどに卵が入っているが、イギリスは卵を含まない加工品が多い。さらに、メニューのアレルギー情報を閲覧できるレストランやパブも多い。イギリスでアレルギー児の子育てがラクに感じる背景には、ピーナッツアレルギーの人も多く、アレルギーが一般に知られていることや、多様な民族や信条、宗教をもつ人が住んでいて、「食べられないものがある」人が多いことがあると考える。「食べられないものがあるのは、特別なことではない」ととらえられているように感じる。

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この連載では、小学生の息子をもつ母親による「イギリスの子育て・教育」体験レポートをご紹介します。

春は花粉症に悩まされる方もいらっしゃるのではないでしょうか。花粉症はアレルギー反応の1つとして知られていますが、アレルギーにはいろいろな種類があります。私の息子は、複数の食べ物に対するアレルギーをもっており、小学校に上がったころから、花粉症にも悩まされています。今回は、「イギリスでの食物アレルギー児の子育て」について取り上げます。

日本とイギリスにおける食物アレルギーの現状とは?

まず初めに、簡単に食物アレルギーについて紹介します。アレルギー患者は近年増加しており、日本における食物アレルギーの有症率は、乳児が約10%、3歳児が約5%、保育所児が5.1%、学童以降が1.3%~4.5%とされています。大人を含めた全年齢を通しては推定1~2%程度の人が食物アレルギーをもつと言われています (1)。食物アレルギーは意識障害などの重篤な反応「アナフィラキシーショック」を起こすこともあり、最悪の場合、死に至ることもあります。

食物アレルギーの原因物質は、卵、小麦、牛乳、そば、ピーナッツが多く、日本において0~3歳の乳幼児では、卵、牛乳、小麦の順で多く出現します (1)

では、イギリスの食物アレルギーの現状はどうなのでしょうか。国の資料によると5~8%の子どもがアレルギーをもつと言われており、そのうち、55人に1人の割合でピーナッツアレルギーがあると言います (2)。ですから、イギリスの学校では、休み時間に食べる軽食や弁当にナッツ類を持ちこむことは固く禁じられています。

不安だらけで引っ越したイギリス、意外にもラクに感じるときも

10歳になる息子は現在、卵、ナッツ類、そばに食物アレルギーがあります。特に卵とマカダミアナッツは重篤です。微量の卵やマカダミアナッツで意識消失などのアナフィラキシーショックを起こしたことがあるため、どこに行くにも緊急用の自己注射薬(エピペン)を手放せません。そのため、イギリスで暮らすまでは非常に不安でした。万一の場合に英語できちんと対応できるのか、救急車はどうやって呼ぶのか・・・など心配なことを挙げたらきりがありませんでした。

そういうわけで、渡英した当初は、毎日緊張して過ごしていました。お菓子1つ買うにも、英語で書かれた原材料表示の中に卵やナッツが入っていないか確認し、最後にもう1度チェックをしてから購入していました。

しかし、数か月経ったある日、アレルギーもちの子どもとの暮らしはイギリスのほうがラクだと感じるようになっていたのです。それには大きく3つの理由があります。

理由① アレルギー表示が見やすく、詳しいこと
まず、商品の原材料表示の中でアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)が太字になっているので一目で見分けられることが助かります(写真1)。息子でも一目で見分けることができます。また、アレルゲンの表示だけでなく、原材料名も詳しく書いてあります。ミニチョコレートケーキを例に取ると、スポンジ、チョコレート別に原材料が書いてあるので、アレルギー児をもつ家庭にはわかりやすいのです。その点、日本のアレルギー表示は、原材料の中に「卵」と表示される以外に、最後にまとめて「原材料の一部に卵、小麦を含む」と書いてあることがあり、どの程度アレルゲンが含まれるか、わかりにくい場合があります。

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写真1 イギリスのアレルギー表示(ミニチョコレートケーキ)。
太字がアレルギーの原因物質。

理由② アレルギー対応商品が充実していて、簡単に手に入ること
また、多くのスーパーにアレルギー対応食品の棚が設けられ、手に入りやすいことも驚いたことの1つです。この棚には小麦やグルテン、牛乳が入っていない食品が並べられています(写真2)。卵アレルギーの人が少ないのか、卵を含まない商品が割と多いからなのか、この棚には「卵なし商品」はあまり置いていないのも特徴です。商品は、パンや朝食用のシリアル、お菓子、調味料、牛乳の代替品と品ぞろえ豊富。また、卵の代わりとして使う「魔法のような粉」が売られていたのには驚きました。「エッグ・リプレイサー」という商品で、ケーキなどを作るときに卵の代わりに入れて使用します。これもチェーン展開している自然食品の店で購入できます。日本では卵アレルギーの子どもが多いので、この粉が日本でも簡単に手に入るといいのにと思います。

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写真2 激安スーパーにあるアレルギー対応商品の棚。
4つ分の棚すべてがアレルギー対応商品。

理由③ ベーコン等の加工品、冷凍食品、ドーナツ等のお菓子に卵を含まないものが多い
日本で売られているベーコンやソーセージ、冷凍食品の原材料表示を見たことがありますか?実はこれらには卵が含まれていることが非常に多いのです。しかし、イギリスは、これらの加工品に卵を使っていないものが多く、助かっています。さらに、息子がイギリスに来て一番喜んだのは、卵を含まないドーナツがスーパーのパンコーナーに3種類も売られていたこと(写真3)!日本で有名なドーナツショップのものには、すべて卵が入っています。だから、息子は「イギリスに来てよかったこと」の1つに「卵なしのドーナツが食べられること」を挙げています。

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写真3 スーパーのパンコーナーで買える卵なしドーナツ。

一方で、大変な面や医療面の課題も

イギリスのアレルギー対応の特徴を3つご紹介しましたが、もちろん大変な面や課題もあります。

大変な面の1つは、毎日の弁当づくりです。日本の小学校では先生や給食職員の方々の努力と配慮により、アレルゲン除去食を用意してもらっていました。しかし、イギリスでは学校からの要請で毎日、弁当を持参しています。ただ、現地校では、弁当か給食を自分で選んで食べるので、アレルギーの有無にかかわらず、弁当持参の子も少なくありません。息子によると、30人中7人ほどは弁当持参なので、弁当を食べていても気にならないそうです。

また、緊急時の対応も課題の1つです。イギリスの外来の診察も救急外来も問題が山積みなのです。例えば、英国赤十字社が国営保健サービス(NHS)は「人道上の危機状態にある」と指摘したり (3)、救急外来に来た患者がストレッチャーの上に数時間~数十時間寝かされたままになっていたことが新聞やニュースで報道されていました。先日、夜に友人のご主人が階段から落ちて頭を打ち、救急車で運ばれたのですが、すでに何十人もの人が待っていたため、3時間ほど病院の待合室の椅子で待たされ、頭の検査を終えて帰宅したのが真夜中だったとのこと。ただ、ここでは肋骨が折れていたことに気づいてもらえず、翌日に救急外来にかかりなおしたそうです。息子は幸い、渡英前に心配していたような緊急事態は今のところ経験していませんが、もし、万が一、ショック症状が起きたときに、すぐにケアを受けられなかったら・・・と思うとぞっとします。日頃から情報収集や備えをするしかありません。

ラクに感じる背景にあるのは、多様性?!

言葉の壁やさまざまな課題はありますが、アレルギーもちの子どもと暮らすのは今のところ、イギリスのほうがラクだと感じています。それは、なぜなのでしょうか。まず第一に、前述したように、イギリスにはピーナッツアレルギーの患者が多く、アレルギーが一般の人にもよく知られており、アレルギーもちでも暮らしやすい工夫や配慮がされていることが挙げられます。また、私個人の意見ではありますが、イギリスでは宗教や信条上「食べられないものがある」人が多いため、「食べられないものがあるのは特別なことではない」ととらえられていることも大きな要因ではないかと思います。例えば、イスラム教徒は、豚を口にしません。イスラム教の子どもが多く在籍する息子の学校の給食では、豚肉を使用するメニューがある日は、鶏肉の代替メニューもあります。また、ベジタリアン(菜食主義者)用のメニューも選ぶことができます(写真4)。このように、「食べられないものがあること」が特別視されず、代わりのものや複数の選択肢が用意されることが多いので、気がラクなのかもしれません。

現在、日本においても食物アレルギーの子どもが増加しています。それに伴い、アレルギーに対応した商品やメニューが以前よりも増えてきました。ただ一方で、一般にはアレルギーのことがイギリスほど知られているとは言えません。イギリスでは、誕生会や友だちの家でごはんをごちそうになる前は必ず「食べられないものはある?」と聞かれます。今後、日本でもアレルギーや信条、宗教などの理由から「食べられないものがある」子どもがますます増えるかもしれません。子どもの安心・安全のためにも「食べられないものはある?」と一言、聞き合うことが日本でももっと普通のことになるといいなと思います。

次回は「子どものしつけ」をお届けします。お楽しみに。

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写真4 息子の学校のある週の給食のメニュー。


<参考文献>

筆者プロフィール

橋村 美穂子(はしむら・みほこ)

大学卒業後、約15年間、(株)ベネッセコーポレーションに勤務。ベネッセ教育総合研究所で幼稚園・保育所・認定こども園の先生向け幼児教育情報誌の編集長を務め、2015(平成27)年6月退職。現在は夫、息子と3人でイギリス中西部の街バーミンガム在住。
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