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【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第22回 戸惑いの小3生活の始まり

要旨:

9月から小学校3年生に進級した息子。クラスメートとの再会を喜んでいたのも束の間、保育園の延長と言われていた1-2年合同クラスとは異なり、自立を促される新たな学校生活に、最初の数週間は戸惑いを隠せなかった。新しく始まった水泳の授業でいきなり深いプールに入ったり、給食システムの変更にランチを食べそこなう事態も!今回はそんな波乱の小3のスタートをお伝えします。

Keywords:
ドイツ、ベルリン、小学校、学童保育、英語教育、水泳、給食、成績表、シュリットディトリッヒ桃子
夏休みの親の宿題

6週間の夏休みが終わり、息子は9月から小学校3年に進級しました。保育園の延長と言われていた「1-2年合同クラス」ですが、それに続く3年生からは、本格的に自立して行動することが要求されます。今回はその様子をお伝えしたいと思いますが、その前に使用する教材の準備について少し説明したいと思います。

日本では教科書は国から無償で配布されるので、保護者が用意するものはノートなどの文房具だったと記憶しています。しかし、息子が通う学校では特に教科書はありませんが、ワークブックやノートなど授業で使用するものが全て指定されており、夏休みに入る前にそのリストが配布され、新学期が始まるまでに自分たちで全て調達しなければなりません。また、当地では1つの店で様々な分野のものが全て揃うことはまずなく、また新学期直前には売り切れ状態もおこるので、複数の店舗に時には何度も足を運ばなければならず、これはなかなか骨の折れる作業です。保護者の夏休みの宿題、といったところでしょうか。

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なんとか一通り揃えたワークブックや文具品

クラスメートとは6年間ずっと一緒!

一通り揃えた必要品を全て持参することから、新学年第一日目は始まります。初日はあまりにも荷物が多いので、ほとんどの保護者が付き添って教室まで行きます。それまで若干緊張していた息子ですが、そこで久しぶりに会うクラスメートの顔を見てほっとしたようで、私も安心して教室を離れることができました。

息子の学校では1-2年生の合同クラスは、各クラス1年生約10名、2年生約10名の約20名編成で、元々6クラスありました。そこから2年生が3年生に進級したときに、2クラスずつ合わさって、現在の3年生の1クラス(約20名)を形成するシステムになっています。ですから、1-2年生クラスで一緒だったクラスメートは、今回も同じクラスに入っています。また、3年生のクラスは合計3つあり、息子のクラスの人数は男子15名、女子9名の24名だそうです。

3年生のクラスは基本的に同じメンバー、同じ担任の教師の元で6年生まで続きます。ですから、1-2年生クラスで一緒だったクラスメートとは、落第や転校をしない限り6年間ずっと一緒に机を並べることになります。

教師に関しては、1-2年の合同クラス同様、1クラスに対し、担任の教師が1名、保育士が1名つきます。(保育士に関しては「第3回 小学校生活の始まり」、「第5回 学童保育」ご参照)3年生からはさらに算数の教師、体育の教師、図画工作の教師がそれぞれの教科を担当するとのこと。体育の先生は1-2年合同クラスの時と同じですが、それ以外の先生は初対面です。

時間割

次に3年生の時間割をご紹介したいと思います。

時間枠/曜日
登校
7:50-8:00
1時限目
8:00-8:45
社会 ドイツ語 算数 ドイツ語 音楽
朝食
8:45-9:00
2時限目
9:00-9:45
算数 算数 ドイツ語 ドイツ語 ドイツ語
外遊び休憩①
9:45-10:05
3時限目
10:10-10:55
算数 ドイツ語 水泳 プロジェクト 体育
4時限目
11:00-11:45
ドイツ語 図画工作 音楽 プロジェクト 体育
給食
11:45-12:10
 
5時限目
12:15-13:00
英語 図画工作 プロジェクト 算数 英語
6時限目
13:05-13:55
算数   ドイツ語    
下校/学童保育

授業数に関しては、週1時間あった道徳の時間と週3時間あった学童保育/自由時間とがなくなりましたが、その分、学科の授業に割り当てられているので、1-2年生の時より実質3時間授業時間が増えました。また、放課後の学童保育は、1-2年生の時はクラス毎の学童部屋があり、そこに保育士が引率してクラスのみんなで移動していきましたが、3年生になるとそのようなクラス毎の個別部屋はなくなり、児童が各自で校舎内にある3-6年生合同の部屋に移動しなければなりません。

3年生から新たに導入された教科は、英語(週2時間)で、時間数が増えたのは、プロジェクト(週2時間だった2年時から1時間増えて週3時間)です。また、週3時間あった体育に関しては、合計時間は変わらないものの、校庭や体育館での授業2時間と水泳1時間となりました。

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3年生の教室の様子 前方と後方(放課後なので椅子が上げられています)
初めての英語の授業

ベルリンの小学校の中には1年生から英語が導入されているところもありますが、息子が通う学校では小3からの始まりとなります。また、今年1年間は成績がつかないので、あくまでも英語に慣れることが目標のようで、ワークブックを見ると、最初は挨拶や色など基本的事項が導入されていました。

しかし、数ページ後にはなんと現在完了形が取り入れられていました。この時点では文法の説明はありませんが、私が中学1年生の時に初めて手にした英語の教科書とはレベルが全く異なり、大変興味深かったです。

考えてみれば、英語とドイツ語は言語学的に同じ語族ですから、ドイツ語を母語とする子どもたちが英語を学ぶことは、日本語を母語とする人たちが英語を学ぶよりは、ハードルは低いのかもしれません。また、週2時間のうち1時間はコンピューターによる授業が行われているようで、こちらはゲームを用いて英語に親しむ、という内容だそうです。

新たに始まった水泳の授業

日本では小1から小6まで夏の期間は水泳の授業があったと記憶していますが、息子の通う学校では3年時のみ通年で週1回の水泳の授業が導入されています。小学校内にはプールがないので、近くの屋内市民プールまで皆で歩いていき、そこで水泳の授業が行われます。(私の知っている限り、プールが常設されている小学校はベルリン市内にはないようです。)

また、あくまでも生き延びるための水泳技術習得なので、平泳ぎを25メートル泳げるようになるのが目標で、クロールなど他の種目は学ばないとのこと。水泳の授業の成績は体育の成績の3分の1を占めるので、多くの子どもは低学年時から水泳教室に通っているようです。

しかし、息子はサッカークラブと水泳教室の時間が重なっていたので、幼稚園時の2か月間を除いて通うことができませんでした。ちなみに、当地では水泳教室は市民プールにより運営されており、その数は日本のスイミングスクールよりもかなり少ないです。また、週末はプール自体が閉まってしまうか、空いていたとしても一般開放されているだけなので、水泳教室は開講していません。

そんな状況ですから、少しでも泳げるようになるために、息子は毎夏日本に一時帰国した時に、短期水泳教室に通ってきましたが、日本で学ぶ順番は「けのび→バタ足→クロール」で、平泳ぎはクロールをマスターした後にやっとでてきます。今夏、ようやくクロールが少し泳げるようになったレベルの息子は、まだ平泳ぎは習ったことがありませんでした。

従って、ドイツ現地校の水泳の時間では「泳げない組」に入ったのですが、それにも関わらず、深いプールで練習したことで恐怖感も加わり、水泳の授業についてはとてもナーバスになっている息子。前回、「第21回:母子二人夏休み里帰り旅」でもお伝えしましたが、当地のスポーツの練習では「習うより慣れろ」方式が多いのか、水泳も例外ではないようです。日本のスイミングクラブでの丁寧な指導を懐かしがっても仕方がないので、週末のプール開放日に少しずつ家族で練習するしか前進の道はないかもしれません。

給食を食べそこなう事態発生!

時間割に話をもどすと、時間枠は1-2年生の頃と同じで、1時限目の後の「朝食」時間に、持参したお弁当(サンドイッチが多い)を先生も一緒にみんなで教室にて食べます。

給食に関しては、1-2年時までは学童保育の先生と一緒に「給食の時間」をとることになっていたので、皆揃って列をなし、カフェテリアへ移動していましたが、3年生になってからは、4時限目の後に各自でカフェテリアへ行かなければならなくなりました。カフェテリアに連れて行ってくれる人もおらず、かといって、クラス全員でカフェテリアに連れ立って向かうこともないのです。ですから、ここで「休み時間だー!」といって遊び呆けたり、給食の時間であることを忘れてしまうと、子どもたちは昼ご飯を食べ損ねてしまうこととなります。

息子は最初の週はこのルールに慣れることができなかったことと、3-6年生が一斉に給食時間となるため、長蛇の列に並ぶのが嫌だったようで、給食を食べることができず、帰り道はいつもおなかをすかせていました。ですから、このルールと給食をきちんと食べることの重要性を説明して、4時限目が終わったらすぐにカフェテリアに行くように諭しました。すると最近は休憩時間のベルがなると同時に食堂へダッシュし、ちゃんと毎日給食を食べるようになったようで、親としても一安心です。

成績表の形態は保護者が決める

以前( 「第12回 小学1年生の成績表」)記載したように、小学2年生までの成績表は円グラフのようなもので、学習到達度を4段階で示していました。3年生の成績表については、このまま円4段階のグラフ方式をとるのか、それとも1から6の6段階の数字で表す正式な成績表にするのか、これらは新学年が始まって程なくしてから行われた保護者会で、保護者の多数決によって決められました。4段階の円グラフではあくまでも到達度を示しているだけで、ドイツにおいて正式な成績表は、数字で表記される絶対評価の6段階の成績です。ちなみに、日本の成績表記とは反対でドイツでは「1」が一番良く、「2」は良い、「3」は満足できるレベル、「4」は及第レベル、「5」「6」は落第点です。小学校卒業後の進路(ギムナジウムなどの上級学校)を決めるのに使用されるのは後者の正式な成績で、教科の平均点が1に近ければ近いほど、希望の上級学校に入れることになります。

こんな大切なことを保護者の多数決で決めてしまうことには少なからず驚きましたが、近年は「子どもにのびのびと教育を受けさせるため」円グラフ案を支持する人も増えてきている、とのこと。とはいえ結局、私たちを含め、ほとんどの人が正式な成績表案に賛成しました。この結果が吉と出るかどうかは、半年後のお楽しみです。

以上、これまでの学校生活との違いを記してきましたが、やはり3年生になって数週間は、息子も生活の変化に戸惑い、帰り道に涙ぐんでしまうこともありました。しかし、10月に入り秋休みを目の前にした今は、新しいシステムや決まりごとに慣れてきたようで、心身ともに安定してきた様子がうかがえます。親としてはこのまま順調に自立した学校生活を送ってくれれば、と願うばかりです。

筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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