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【スウェーデン子育て記】 第16回 小学校での難民の受け入れ

長い夏休みが終わり、新学期が始まりました!地域によって始業日は異なりますが、8月後半からスウェーデン各地の小学校は新年度を迎え、みんなひとつ上の学年へ進級します。私たちの住む地域の小学校は小規模な学校なので、学年は変わっても娘のクラスの仲間はほとんど同じメンバーのまま、クラス変えはありませんでした。長女は新4年生、そして次女は小学校への準備学年であるプレスクールクラスへと進級しました。これからは保育園に行くことは無いのかと思うと、親は少しさみしい気持ちになりますが、子どもたちは新しい環境でのスタートにワクワクしているようです。

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今年も快適な夏休みを過ごしました


新しい友達

近年ヨーロッパ各国で、ことあるごとに議論され取り上げられている問題のひとつに難民の受け入れ問題があります。主に中東の紛争地域から多くの難民が国外へ避難しており、スウェーデンもその避難先のひとつとなっています。移民局の統計によると、2011年以降、スウェーデンへ難民申請をする人の数は急激に増加しており、2011年には年間で約3万人であったものが、昨年2015年には5倍以上の約16万2千人に増えています(参照1)。私たちの住む地域にもその影響が見え始めており、今年の夏にはコミューン(自治体)が難民受け入れ用の仮設住宅を町の住宅地のはずれに設置するという話題が持ち上がったのをきっかけに、住民と行政の間で激しい議論が続けられています。生活環境の変化をもたらすという理由で反対意見が多いなか、地元住民への説明会が開かれたり、代替案が出されたりしており、合意に至るまでかなり時間がかかりそうです。さらに、教育機関にも変化が起こっています。次女はもう卒園してしまいましたが、保育園にも2人のシリアの子どもたちが来るようになりましたし、長女が通う小学校では、昨年ころから数人の難民児童がそれぞれの学年で受け入れられて、地元の子どもたちと一緒に授業を受けることになりました。長女の学年では、シリアから来た3人の子どもたちが学ぶことになりました。男の子が2人と女の子が1人。まだスウェーデン語があまり上手ではないということで、全ての授業を受けることはできませんが、基本的に他の子どもたちと同じように学校生活を送っています。

昨年、スウェーデンへ難民申請を行った16万2千人の難民のうち、およそ40パーセントが18歳未満の未成年児童です(参照2)。教育を受けるべき年齢の児童が多くいるという現状をうけて、スウェーデン各地の保育園や学校機関では難民の子どもたちに対する教育に関する新しい政令がまとめられており、学校ではそれに基づいて実際の取り組みをしています。2016年1月には、難民児童の教育に関して、政令の一部変更が行われました。まず彼らの学力(読み書き、計算など)を速やかに判定することが受け入れ先の学校に義務付けられました。この判定基準にはまだ多くの課題が残っています。スウェーデン全国に共通した学力判定基準は無いということで、その作成が急がれています。また、難民児童は通常の授業のほかに準備クラスでスウェーデン語を学ぶ授業を受けることを必須としており、その準備クラスに通える期間は最長2年までとすることなどが定められました。

さらに最近では、難民にスウェーデン語を教えることができる教師が圧倒的に不足しているという問題があるようです。これは難民児童にスウェーデン語を教える先生が足りないだけではなく、成人した難民たちにもスウェーデン語を学ぶ機会が設けられていることから、その不足を補うためにスウェーデン語教師の養成が必要とされています。仕事を得るためにはどうしてもスウェーデン語を話すことが求められるため、これはなかなか深刻な問題のようです。

子どもたちの反応

2016年5月のスウェーデン教育省(参照3)の発表では、スウェーデン全国に290あるコミューンのうち、10パーセントにあたる29のコミューンで、小学校が難民児童を受け入れているそうです。児童の受け入れ人数はそれぞれの学校で異なるのでしょうが、これによって難民児童の半数近くの46パーセントがスウェーデンの小学校で学ぶことができているとのこと。2015年の秋学期には、前年より25パーセント増加の約6万4千人の難民児童がスウェーデン各地の小学校に通っているという統計結果もでています。

これからますます増えると思われる難民児童ですが、肝心の子どもたちの反応はどうなのか、とても気になるところです。長女の学年に来ている3人の子どもたちについて、彼らは休み時間や給食の時間はどうしているのと聞いてみました。まだ彼らはスウェーデン語が苦手ということもあり、同じくシリアから来た子どもたちでまとまっていることが多いよ、と教えてくれました。でも子どもは言葉を覚えるのが大人よりも早いでしょうから、時間とともに慣れてくると思います。地元のスウェーデンの子どもたちも、まだスウェーデン語を使えない彼らとどうやってコミュニケーションをとればよいか迷っている感じ。お互い新しい友達に慣れていないのでちょっと距離ができているという様子ですが、こちらも時がたつとともに距離が縮まるでしょうね。新しい学年でもまた楽しい経験をたくさんしてほしいと思います!



参照1 http://www.migrationsverket.se/
参照2 http://www.lararnasnyheter.se/uttryck
参照3 http://www.skolverket.se/
筆者プロフィール
下鳥 美鈴

東海大学文学部北欧文学科卒業。ストックホルム大学で修士課程を終え、ウメオ大学(スウェーデン)で博士課程を修了。言語学博士。
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