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【イギリスの子育て・教育レポート】 第7回 イギリスの小学校で見た 子どもを「ほめて認める」3つのしかけ

要旨:

息子が通うイギリスの小学校には、バラエティ豊かなほめ言葉に加えて、子どもを「ほめて認める」しかけが3つある。1つ目は「金のごほうびシール」。主に学習面で進歩が見られたときにもらえる。2つ目は「毎週金曜日の表彰集会」。毎週、クラスから2人が選出され、表彰される子どもの保護者と全校生徒の前でそのがんばりを称えられる。学習面だけでなく、友だちを助けた、クラスにいい提案をしたなどの生活面でのよい行動も評価の対象である。3つ目は「ほめ言葉シート」。毎日、1人の子が選ばれ、6人のクラスメイトがその子のよいところを書いて渡す、子ども同士のほめ、認め合いのしかけである。
子どもを「ほめて認める」3つのしかけでよいと感じたのは、①ほめ言葉だけでなく、シールや賞状など目に見える形でもほめ、認めていること、②学習面、生活面の両方を「ほめて認め」ていること、③ごほうびシールを30個集めると表彰されるといった、子どものよい行動が積みあがるように設計されていることである。

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この連載では、小学生の息子をもつ母親による「イギリスの子育て・教育」体験レポートをご紹介します。

イギリスの小学校に編入した息子の初日の感想は、「先生がほめなくてもいいようなことまでほめる。ちょっと大げさ・・・」というものでした。思わず笑ってしまいましたが、確かにそう思うのもわかります。「ウェルダン(Well done)!」「グレイト(Great)!」「ブリリアント(Brilliant)!」「エクセレント(Excellent)!」「ファンタスティック(Fantastic)!」「ファビュラス(Fabulous)!」など、先生は息子に数々のほめ言葉をかけていました。日本では先生からこのようにほめられたことがなかったようですし、僕もこれくらいできるよという気持ちもあって「特段、ほめなくてもいいこともほめる」という印象をもったのかもしれません。

息子が通うイギリスの小学校には、このようなほめ言葉のシャワーだけでなく、子どもを「ほめて認める」しかけがあります。今回は、その代表的なものを3つ紹介します。

しかけ① 胸にキラリと光る!「金のごほうびシール」

子どもを「ほめて認める」しかけで、最も頻繁に行われているのが「金のごほうびシール(Golden Signature)」です(写真1)。これは主に学習面で進歩が見られたときに先生からもらえるシールです。担任の先生だけでなく、校長先生や副校長先生、英語や体育の専門の先生も持っています。先生からシールをもらうと、多くの子どもは胸に貼って1日を過ごします。このシールのおかげで、保護者も子どもの小さな進歩に気づくことができます。どんなことでシールをもらったのかと会話がはずみ、保護者からもほめられることでうれしさが倍増するでしょう。さらに、この金のごほうびシールを30個集めると、校長先生から表彰される仕組みになっています()。

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写真1:金のごほうびシール
あらためて数えてみたら、息子のシールは8か月で22個集まっていました。表彰まであと少し!

しかけ② 毎週金曜日はクラスの2名がスターになれる「表彰集会」

2番目に紹介するのは、イギリスの小学校ではよく行われているという「表彰集会」。これは、クラスから2名の児童が選ばれ、金曜日の集会で表彰されるというしかけです(写真2)。選ばれた子どものうち、1名は主に授業や宿題でのがんばりを称えられる「今週の学習者(Learner of the week)」として、もう1名は勉強以外の生活面でのがんばりを称えられる「今週のスター(Star of the week)」として表彰されます。表彰される子の保護者には招待状が届き、集会に参加できます。

息子がイギリスの小学校に編入して2週間が経とうとしているころ、私たちも招待状を受け取りました。しかし、このときは表彰集会のことを知らなかったため、イギリスに来たばかりなのになぜ表彰されるのか、状況が飲み込めないまま学校へ出向きました。表彰集会が始まり、息子は緊張した面持ちで全校児童の前に立っています。息子の番になり、先生が表彰の理由を読み上げます。―「あなたは今週のスターです。その理由は、この学校に転校してきたばかりなのに、新しい環境になじんだり、新しい言葉を学ぶのを本当にがんばっているからです。すばらしい!」―息子も私たちもイギリス生活に慣れるのに必死な頃だったので、この温かい選出理由にホロリときました。「今週のスター」ではこのほか、「友だちをサポートした」「クラス全体にいい提案をした」というよい行動も表彰理由になります

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写真2:表彰集会でもらった賞状
クラスの全員が1年間に1回は賞状をもらえるように考慮されているそうです。

しかけ③ 6人のクラスメイトが自分のよさを書いてくれる「ほめ言葉シート」

3番目のしかけは、先生だけが子どもを「ほめて認める」のではなく、子ども同士でも「ほめて認めあう」しかけです。毎日、1人の子どもが選ばれ、6人のクラスメイトがその子のよいところを書いて渡すというものです(写真3)。現地校に編入して3週間ほど経った頃、息子ももらってきましたが、6人中3人が「算数」についてほめていました。これは息子だけでなく、多くの日本人の子どもが現地校の算数では「スター」扱いだそうです。なぜならば、現地校の算数の進度は、日本の学校や日本人補習授業校よりも遅いからです。現地校で学ぶときには、すでに内容を理解していることが多く、「算数ができる」と思われるのです。英語がおぼつかないせいで、息子は学校生活全般に自信を失っているようですが、先生からもクラスメイトからも注目される算数は、自信を回復する教科になっています。

担任の先生、ティーチングアシスタントの先生も「友だちや学校によくなじんできたね」などのコメントを寄せてくれました。このしかけのよいところは、普段、一緒に学び、遊んでいても、わざわざ言葉には出さない友だちのよいところを目に見える形で伝えられること、また、受け取ったほうも友だちに認められていると実感できることだと思います。

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写真3:ほめ言葉シート
コメントを書いてもらう側の子どもが6人のクラスメイトを選んで紙を渡します。

「ほめて認める」しかけの裏には、しっかりとした理由があった。

当初、上記で紹介したしかけがあるのは、単に「ほめて子どもに自信をつけさせるため」だと思っていました。イギリスでは子育てや教育の中で「自尊感情」を高めることが重視されていると聞いていたからです。しかし、それだけではありませんでした。息子の学校では、「学校の行動指針(Behaviour and Achievement Policy)」が作られ、「ほめて認める」しかけはこの中に位置づけられているのです。この行動指針の中では、「学校が考える望ましい行動、望ましくない行動」の具体例や、いじめなどの望ましくない行動をしたときの学校や先生の対処方法、逆によい行動をしたときのごほうび(報酬)について明記されています。つまり、「ほめて認める」しかけは、学校が考える望ましい行動をした子どもをほめ、認めて(報酬を与えて)、この指針を浸透させていくねらいがあるのです。学校が考える望ましい行動は、子どもが意識できるように「6つのゴールデンルール」としてまとめられ、各教室に貼ってあります。

6つのゴールデンルールとは

  1. 穏やかでいること; 人にケガをさせないようにしよう。
  2. 親切にし、人の力になること; 人の気持ちを傷つけないようにしよう。
  3. 正直でいること; 真実を隠さないようにしよう。
  4. 一生懸命学ぶこと; 自分のベストを尽くすよう努力しよう。
  5. 学校のものを丁寧に扱うこと; 無駄遣いしたり、壊したりしないようにしよう。
  6. 人の話に耳を傾けること; 話を遮らないようにしよう。
※息子の学校の資料をもとに筆者が翻訳。


イギリスの小学校で見た「ほめて認める」しかけのよさは3つあると思います。1つは、ほめ言葉はもちろん、シールや賞状といった目に見える形でもほめて認めていること、2つめは、宿題などの学習に関することだけでなく、友だちへのサポートやクラスへの提案など生活上のよい行動も目に見える形でほめ、認めること、最後にごほうびシールを30個集めると表彰されるというように、子どものよい行動が積みあがるように設計されていることだと感じました。「ほめなくてもいいようなことを大げさにほめる」と息子は当初、感じていましたが、この3つのしかけのおかげで、自信を失いがちなイギリス生活の中でも何とか元気に過ごせているのかもしれません!


次回は、「イギリスの4年生の『戦争』の学び方」を紹介します。お楽しみに!


  • ※表彰されるのに必要なシール数は学年によって違います。例えば4年生は30個必要ですが、1年生は10個集まると表彰されます。
筆者プロフィール
橋村 美穂子(はしむら・みほこ)

大学卒業後、約15年間、(株)ベネッセコーポレーションに勤務。ベネッセ教育総合研究所で幼稚園・保育所・認定こども園の先生向け幼児教育情報誌の編集長を務め、2015(平成27)年6月退職。現在は夫、息子と3人でイギリス中西部の街バーミンガム在住。
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