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【スウェーデン子育て記】 第15回 スウェーデンの子どもに人気の漫画

もうすでに広く知られていることですが、日本の漫画やアニメは世界中でたいへんな人気ですね。スウェーデンでも日本のアニメは大人気です。スウェーデンの大学生など、若者はほとんど日本のアニメを知っているようです。日本のアニメはいくつもスウェーデン語に吹き替えされてテレビで放映されていますし、書店やアニメショップではスウェーデン語に翻訳された漫画が売られています。また街の図書館でも漫画のコーナーがあるほどです。私の家の近所にある、とても小さな公立図書館でさえも漫画のコーナーがあり、漫画人気のすごさを実感しました。我が家の娘も興味があるらしく、漫画を読んでみたいというので図書館で借りていますが、人気のある漫画は貸し出されていることが多いので、返却を待つこともしばしばありました。

スウェーデンにも漫画はあります。しかし、この国で出版されている漫画というと、子ども向けの作品が中心です。字が読めるようになった小学生向けにちょっとしたオマケがついた漫画雑誌が、女性誌と並んでスーパーマーケットなどでも売られています。子どもができるまでは気にも留めていませんでしたが、娘たちが興味を示すようになってからは、私もたびたび目を通すようになりました。そのなかには、スウェーデンで長年親しまれている作品がいくつかあります。そういったスウェーデンの漫画を読んでみると、非常にスウェーデンらしい面がいくつも見られます。日本の子ども向け漫画ではあまり見られないだろうという部分があり、国民性を反映しているのかなあ、とたいへん面白く読んでいます。

世界一の力持ち、クマのバムセとその仲間たち

長年にわたってスウェーデンの子どもたちに愛されている「バムセ」という漫画があります。作者のルネ・アンドレアスソン(1925-1999)によって描かれた世界一の力持ち、クマのバムセが主人公の漫画です(参考ホームページ http://www.bamse.se/)。バムセは仲間たちと一緒に、たくさんの冒険にでたり、さまざまな出来事に遭遇します。何か問題が起きたとき、バムセはおばあちゃんお手製のハチミツを飲んでパワーアップします。そして世界一の力持ちになって問題を解決していきます。1966年に週刊誌で初めて連載が始まった当初、登場人物はバムセとその仲間たち数人(数匹?)だけだったそうですが、シリーズの回を重ねるごとに登場人物が増えていきました。1973年に「バムセ、世界一の力持ち」という漫画雑誌として刊行され始めてからも、脇役キャラクターはどんどん増えて人気を集めています。現在では漫画雑誌をはじめ、多くのキャラクターグッズが売られ、バムセの教育教材が作られたり、アニメーション映画が製作されたりしています。1973年に漫画雑誌が刊行され始めた当初は、一年に12回の発行だったのですが、今では一年に20号程度の発行となっているそうです。ひとつの号には、漫画とゲームのページなどがはいっていて、だいたい40ページ弱ほど。日本の漫画雑誌よりはかなり薄いもので、スウェーデンでは、大人にも子どもにも広く親しまれている漫画です。日本でいえば、さしずめ「ドラえもん」といったところでしょうか。ちなみに、作者のアンドレアスソンの意向により、広告媒体などは雑誌にいれないということです。

このバムセの漫画における人物設定を調べていくと、いかにもスウェーデンらしい家族構成やバックグラウンドがみてとれます。まずバムセは子ども向け漫画の主人公ですが、子どものクマではなくて、良識のある大人のクマさんです。奥さんがいて、4人の子どももいます。バムセは小さいころ、お父さんとお母さんが共稼ぎで忙しかったので、おばあちゃんの家で育てられました。共稼ぎが多いスウェーデンらしい家族設定ですね。ちょっと驚くのは、そのバムセの両親の仕事というのがなんと、「宝探し」です。お父さんが宝の地図を手に入れたので、子どものバムセをおばあちゃんに預けて宝探しに出かけたのです。なんともまあ、自由な親御さんです!

バムセの親友には、発明家のカメさんと、郵便配達の仕事をしている白うさぎさんがいます。この白うさぎさんも結婚していて、子どももいます。とくに驚いたのは、この白うさぎさんの兄には、同性のパートナーがいること。そして、そのカップルには養子縁組をした子どもがいることです。この同性愛カップルが初登場したのは、2007年のことなので、比較的近年に生み出されたキャラクターだそうです。しかし、このような登場人物が小学生の読む雑誌に普通に登場するのがさすが革新的なスウェーデンだなあ!と感心しました。以前の記事で養子縁組について紹介しましたが(第11回参照)、この設定は同性愛者が養子を迎えることが増えてきたという社会的背景を反映させているのでしょうね。

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バムセはみんな大好きです


シリーズ初めての女性同性愛者

さらに2016年夏号のバムセでは、初めて女性同性愛者の登場人物があらわれて、ちょっとしたニュースになりました。これについて、私のまわりの大人たちに「どう思う?」と聞いてみました。最初はみんなちょっと驚くものの、そのほとんどは肯定的な意見をもっていました。これは絶対に間違っている、との反対意見はひとつも聞きませんでした。我が家の娘たちも読むものですし、これは見逃せないと思って、私も早速スーパーで購入して読んでみました。

2016年夏号のストーリーはこんな感じです。ある日、バムセとその友人が森で植林をしていると(さすが、森と湖の国です!)、車がパンクして困っている2人組、ベラとフリーダに会いました。彼女たちは都会に住んで働いていたのですが、ストレスの多い街の生活に疲れていました。そんな折、田舎の売り家を見つけたので即購入!その新しい家へ引っ越しをする途中で車がパンクしてしまったのでした。バムセはハチミツを飲んで力を発揮。車を運んであげます。その後、ベラとフリーダの新しい家ではいろいろなトラブルが起こるのですが、それはみんなその家に住んでいたトムテという妖精の仕業だったというお話です。

お話の中では、この2人組のベラとフリーダについて詳しい記述はありませんが、大人の目から理解すれば、どう見ても2人は生活を共にしているカップルです。これが男女のカップルであっても、ストーリー自体は成立するわけですから、ここで同性愛カップルを登場させる必要性は実際にはありません。しかし、あえてこのような登場人物を採用したということは、それだけスウェーデン社会のなかでは女性同士の同性愛カップルが特に珍しくなく、社会の中ではまったく普通の存在であるということではないでしょうか。社会的な変化を視野にいれたり、バムセの良識的な大人の考えもとりいれて、子ども向け雑誌をつくっていく姿勢はちょっと日本とは異なっているのではないかな、と感じました。

子どもたちの受け止め方は?

今回、夏号に関して大人たちの意見は前向きでしたが、子どもたちの反応はどうなのか?我が家の4年生の娘にもこの漫画雑誌を読んでもらいました。彼女の意見では、これを読んでも特におかしなことはない、という反応でした。もしかしたら女性の同性愛者という存在は知らないのかな、と思って聞いてみると、学校で先生に教えてもらったことがある、と言います。同性同士でも、好きになったら一緒に住むこともできるのだ、ということは知っているそうです。ですから、ベラとフリーダのカップルも普通のこととして理解しているのでしょう。以前の記事でも、スウェーデンでは家族構成に様々な形があり、日本に比べると家族の事情がオープンにされているということを書きました(第4回参照)。そういった風潮を支える要因の一つとして、バムセの漫画などを通して様々な家族の形を子どもたちが知っていくという事実があるようです。なるほど、こうして理解が広まっていくのだな、と私も納得しました。

筆者プロフィール
下鳥 美鈴

東海大学文学部北欧文学科卒業。ストックホルム大学で修士課程を終え、ウメオ大学(スウェーデン)で博士課程を修了。言語学博士。
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