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【イギリスの子育て・教育レポート】 第3回 「先生」っぽくないイギリスの先生たち

要旨:

息子の小学校で出会った先生たちは、日本の先生に比べて服装も雰囲気もとてもおおらか。先生同士のコミュニケーションも活発なようで、楽しそうに働いている。これまで日本で出会った先生とはイメージが異なるため、「先生っぽくない先生」に見える。このように感じる背景には、日本では保護者、社会全体、そして先生自身も「先生」という職業に対して「こうあらねばならない」という思い込みがあるのかもしれないと感じた。

Keywords: 橋村 美穂子, イギリス, 小学校, 公立, 教育, 子育て, 先生

この連載では、小学生の息子をもつ母親による「イギリスの子育て・教育」体験レポートを紹介します。

この春、進級や入学などで、新しい先生や仲間に出会った方もいるかもしれません。どんな先生だろう、どんな友だちができるかな...期待と不安が入り混じった気持ちの人もいるでしょう。私たちも数か月前、海外の小学校に通うという初めての体験に「いい先生、いい友だちとの出会いがありますように...」と祈るような気持ちだったことを思い出します。今日はイギリスの小学校で出会った先生たちを紹介します。

「小学校の先生」と聞くと、何をイメージしますか?「優しい」「明るい」「子どもが好き」・・・きっと人それぞれ違ったイメージをもっているでしょう。私が前職の取材時に出会った先生方や、息子がお世話になった小学校の先生方の印象を総合すると、「子どもの教育のことをすごくマジメに考えている」「きちんとしている、落ち着いている」「服は地味な色、デザインのものを着ている(正直な感想ですみません)」などです。

しかし、息子の小学校で出会ったイギリスの先生たちは少し違いました。私がもっていた先生のイメージと違い、驚きましたが、イギリスの先生たちもまた、いい味を出しています。

日本の学校では見かけないファッションの先生たち

登下校時は保護者による送り迎えが必要なため、毎日2回、先生たちに会うのですが、そのファッションに驚かされます。一番驚いたのは、息子の担任である40代くらいの女性の先生が胸元の大きく開いた服を着ていたこと!先生が教室の中でこのような服を着ているのは、日本ではまずありえないことですよね。イギリスの街中ではよく見かけますが、学校に先生が着てくるとは予想していませんでした。そのほかにも、全身真っ赤なワンピースを着ている先生、毎日必ず服のアイテムの1つに赤色を入れるこだわりの先生など、それぞれの特徴があってとてもおもしろいのです。さらに、ひざ丈のロングブーツは複数の先生が履いていますし、5センチ以上はあるハイヒールを履いた先生もいます。仕事しにくくないのかなと個人的には思ってしまいますが、靴を脱がない文化なので、靴もコーディネートのうちなのかもしれません。日本の学校では、動きやすいように室内履きとして運動靴を履いている先生が多い印象なので、余計にそう思ってしまうのかもしれません。

男性の先生も負けてはいません。英国紳士風に(?)、バリっとスーツを着こなした先生を多く見かけます。日本の男性の先生もスーツを着ていることが多いですが、ジャージなどもう少し動きやすい格好をしている先生もいるように感じます。毎朝、見かける方がスーツをとても格好よく着こなしているので、勝手に企業勤めの保護者だと思いこんでいたのですが、実はこの学校の先生だったということがありました。

先生たちが楽しそうに働いている ~昼休みとコスプレ~

また、学校の雰囲気でいいと思ったのは、先生たちが楽しそうに働いていることです。昼休みの1時間は、子どもたちの食事や校庭での安全管理をする担当の職員が配置されているので、先生たちは職員室で一緒に昼食を取ります。この時間が先生たちの貴重なコミュニケーションの時間になっているようです。息子の初登校に付き添った日、昼休みが終わったあとに職員室から先生たちが楽しそうに笑い合いながら出てきました。昼食を一緒に食べ、談笑していたのだと想像しますが、日本の小学校に比べて先生がゆったりとコミュニケーションをとる時間が多いように感じます。先生同士がコミュニケーションを取る機会が多いことは、学校の雰囲気によい影響を与えているようですし、親としても安心します。

また、クリスマス前、中国の春節(2月上旬)、ワールド・ブック・デー(3月第1週の木曜日)などの特別な日は、子どもたちは制服ではなく、テーマにちなんだ格好で登校していいことになっています。その日、先生たちは率先して「コスプレ」してきます。クリスマス前には、トナカイの鼻が電池でピカピカ光るセーターを着ている先生、春節の日はチャイナドレスを着ている先生がいました。また、ワールド・ブック・デーには本にちなんだ格好をします。今年はシェイクスピア没後400年であることにちなんで「シェイクスピア」がメインのテーマ。ティーチングアシスタントの先生は「ロミオとジュリエット」のジュリエットの衣装、担任の先生はとんがり帽子の魔法使いのいでたちでバッチリ決めていました。もちろん、2人とも1日この格好のまま、授業を行うところが微笑ましいです。

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ワールド・ブック・デーの日、王様にふんしていた先生と息子
先生が手に持っているバケツは、募金を集めるため。「変装」する日は募金を集めていることが多いです。


担任の先生の大らかな考え方に驚く

学校に編入する前の週、息子と一緒に挨拶に行って担任の先生と顔を合わせました。自己紹介を済ませ、翌週からの持ち物や時間割のことを聞きました。黒板を見るとその日の時間割が書いてあります。でも、午後の時間は空白のまま。不思議に思って午後は何をするか質問すると「今日の午後の時間割はまだ決めてないんですよ~!」と先生が笑いながら言います。それで大丈夫なの!?と思ってしまいますが、イギリスでは子どもは教科書を持ち帰らないので、当日に変更してもまったく授業に支障はありません。先生が予定された時間割を変更して授業を行うことや、その日の午後の授業科目が朝、決まっていないことはよくあることなのです。緊張していた私たちは、イギリスの先生の大らかさに少しほっとした気持ちになりました。

気持ちのよい、元気な挨拶は日本もイギリスの先生も同じ

日本とイギリスの先生には、共通点もあります。それは挨拶です。児童の安全確保のため、登下校時は先生が交代で門の入り口や校舎までの道に立っていますが、そのときに先生は児童や保護者に元気に挨拶をしてくれます。一般の先生だけでなく、校長先生、副校長先生も門の前に立って挨拶をしていることもあります。児童が大きな声で挨拶を返す機会にもなりますし、保護者にとっても、ほかのクラスの先生の顔がわかるのもよい点です。

登下校時に先生が立っていて挨拶するメリットはほかにもあります。それは保護者とのコミュニケーションが密になること。校長先生や副校長先生が立っているとたいてい、保護者が話しかけ、立ち話をしています。よく顔を合わせているせいか、話しかけたり、相談したりするハードルが低い気がします。

イギリスの先生に会って「先生っぽくない」と思ったことで、自分が先生という職業について「こうあるべき」という固定観念をもっていることに気づきました。日本では、先生だからこういう服は着ないだろう、先生は計画どおりに進めているものだ、などの思い込みを保護者も社会も、また先生自身ももっているのかもしれませんね。

次回は、友人の妊婦健診に筆者が同席した模様をお届けします。どうぞお楽しみに!

筆者プロフィール
橋村 美穂子(はしむら・みほこ)

大学卒業後、約15年間、(株)ベネッセコーポレーションに勤務。ベネッセ教育総合研究所で幼稚園・保育所・認定こども園の先生向け幼児教育情報誌の編集長を務め、2015(平成27)年6月退職。現在は夫、息子と3人でイギリス中西部の街バーミンガム在住。
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