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【スウェーデン子育て記】 第11回 スウェーデンの養子制度

私が留学生としてスウェーデンに来たのは20年近くも前のことです。そのころから現在まで、人との関わりの中で気づいた日本との大きな違いはいくつもありますが、そのうちのひとつに、スウェーデンの養子制度が非常に充実しているという点があります。これは私自身が学生としてスウェーデン社会と関わっていたころよりも、娘を育てる親、という立場になった現在のほうが、より強い印象となって事あるごとに改めて感じていることです。

初めての留学で来たスウェーデンの大学はとても国際色豊かで、様々な国からの学生が入り混じって学んでいました。そんなキャンパスのなかにはアジア系の学生もいたので、私と同じ留学生かと思って話しかけると、「私はスウェーデン人なのよ」と聞かされたことがよくありました。また、クラスの名簿ではスウェーデン人の名前で載っていても、実際に授業が始まり、クラスで顔を合わせるとアジア系の容姿だったりすることもしばしば。そういった経験を通して、養子縁組をしてスウェーデンに来た人たちが身近に多くいるんだ、と知り、私にとっては非常に新鮮でした。それまでは私の周りに、移民も養子になった子どももほとんどいない環境だったからです。また、それ以上に周りの友達や本人が、「○○は韓国からの養子なんだよ」などと普通に教えてくれたり、事実として自然に受けとめていることがとてもポジティブで印象深かったのを覚えています。

私の娘たちは、そういったスウェーデンの環境で成長し、友人関係をどんどん広げています。その中で当然のように、養子としてスウェーデンに迎えられたお友達もできました。娘たちはそのお友達と、その子のパパやママが違う容姿をしていることを特に疑問に思うことはなく、やはり「○○ちゃんは養子で来たの」と話してくれます。おそらく社会制度としての養子縁組が充実しているだけではなく、それを受け入れる人々の心構えが整っているのだろうな、と思います。

スウェーデンの養子制度について

スウェーデン統計局(http://www.scb.se/)の2010年の調査(資料1)によると、養子縁組制度によってスウェーデンの養父母のもとへ養子にきた人の全体数は、現在約14万人になりました。そのうちの約6割はスウェーデンで出生した人ですが、「1970年以降に生まれて、そののち養子にされた人」という枠組みに注目すると、その8割は国外で出生しています。つまり、1970年代の初めまでは、養子縁組をされる子どものほとんどがスウェーデンで出生していましたが、1970年代からは海外からの養子の割合が多くなっているのです。これはおそらく、スウェーデン国内の福祉制度が充実した結果であると思います。シングルマザーであっても、充実した補助やサポートが受けられる制度が整い、自分で育てやすくなったことが理由の一つ。また、何らかの理由で両親が養育できない子どもたちは、まず里親のもとへ預けられ、両親が引き取ることができるようになるまで養育してもらうという制度が定まったことも理由であると思われます(資料2)。

さらに資料によれば、2010年には686人の女児と713人の男児が養子縁組制度により、主に国外からスウェーデンの養父母のもとへやってきました。養子を迎えることのできる年齢は、25歳以上と定められていますが、何か特別な事情がある場合は、成人以上(18歳以上)という条件で認められる場合もあります。原則的に養子を迎える年齢に上限はありませんが、子どもの将来的な経済的安定なども考慮して、42歳以上になると養子を迎えることが難しいケースが多いそうです。養子縁組を希望する夫婦、または成人(婚姻していない成人)は国際養子縁組の認定機関であるMIA (資料3)による調査を受け、養父母となるための教育、指導を受けたのちに、許可を得て養子を迎えることができます。

子どもを送り出す側の国それぞれの条件にもよりますが、養子を迎えるまでには多くの労力と長い準備期間がかかります。例えば、2015年の資料では、台湾から3歳未満の養子を迎える場合、スウェーデン国内での手続きに半年から1年かかり、養子にする子どもが決定するのに1年から2年を要します。さらに子どもを引き取るための渡航許可が下りるのに9か月ほどかかるそうです(資料4)。

中国から女の子を迎えた家族

実際に、このように長い時間をかけてでも海外からの養子を迎え、親になろうと決意したスウェーデン人の想いとはいったいどのようなものなのか、私はずっと気になっていました。養子を迎える側の考え方に何か日本人との違いはあるのでしょうか。

私の知り合いで、数年前に中国から女の子を養子に迎えた家族がいます。この家族にはすでに3人の男の子がいたので、さらにまた1人を養子として迎えたいと考えている、と知った時はみんな驚いたものでした。子どもが本当に好きな夫婦で、もう1人自分たちの子どもを産みたいと考えていたそうなのですが、身体的にそれが難しかったそうです。養子縁組に理解のあるスウェーデン人でも、すでに3人も子どもがいるのにどうして?、と聞く友人もいたそうです。しかし、本人自身も養子としてスウェーデンへ来たという友人や、それぞれの家族にも相談したり話し合ったりした結果、養子縁組をするという決定をしたということでした。とにかく時間がかかり、また費用もかかる大変なプロセスだったそうですが本人たちの意志は固く、無事に養子を迎えることができました。

中国から迎えられた女の子は当時2歳くらい。街中で発見されたので確かな生年月日はわからなかったそうです。スウェーデンに来てからはたくさんの兄弟に囲まれて、あっという間にスウェーデン語を覚え、今はすっかり生活にも慣れている様子です。彼女自身も自分は中国から来たということは正しく理解しており、それをとても誇りにしているとか。自分の兄弟は今のお母さんのお腹から生まれたけど、自分は選ばれてここへ来たのだときちんと分かっているそうです。家族の中では、中国にいるであろう彼女のお父さんとお母さんのことも頻繁に話題にしているとのことでした。当たり前のことですが、スウェーデン人の養父母がアジアから養子を迎えれば、容姿が異なるのは隠しようがない事実です。だからこそ、ありのままを伝えていくということには何の問題もないのでしょう。このようなオープンな姿勢が周りにも伝わり、子ども同士でも養子縁組の事実を受け入れやすくしているのでしょうね。家族の形はひとつだけではなく、様々なものがある、ということを既に理解している子どもたちは、勉強以外のとても大事なことを学んでいるのかもしれません。

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中国から女の子を迎えた家族(ご本人提供)



資料1 http://www.scb.se/Statistik/BE/BE0101/2010A01L/Adoptioner.pdf
資料2 スウェーデン厚生省ホームページ http://www.socialstyrelsen.se/barnochfamilj/
資料3 Myndigheten för Internationella adoptionsfrågor, http://www.mfof.se/
資料4 http://www.bfa.se/vantetider.html

筆者プロフィール
下鳥 美鈴

東海大学文学部北欧文学科卒業。ストックホルム大学で修士課程を終え、ウメオ大学(スウェーデン)で博士課程を修了。言語学博士。
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