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【イギリスの子育て・教育レポート】 第2回 イギリスの公立小学校の1日に密着(後編・授業編)

要旨:

イギリスの公立小学校の1日に密着して感じた、日本とイギリスの授業の違いは大きく2点ある。1つ目は、習熟度別の活動のときは同じ教室内で違う課題に取り組んでいること、2つ目は、パソコンは必修教科である「コンピューティング」以外にもいろいろな授業で使われていることである。

Keywords: 橋村 美穂子, イギリス, 小学校, 公立, 教育, 子育て, 授業, 必修, 習熟度別, ICT, コンピューティング, スクラッチ, トピック

この連載では、小学生の息子をもつ母親による「イギリスの子育て・教育」体験レポートを紹介します。小学3年生の息子がイギリスの公立小学校に編入し、初日につきそった筆者。前回はイギリスの公立小学校の1日の流れや学校生活の違いについて述べました。今回は「授業」に焦点を当てて、日本とイギリスの違いを見ていきます。

イギリスの小学生の必修教科 ~コンピューティングの授業は1年生から~

授業の違いを述べる前に、まずイギリスの小学校で学ぶ教科について簡単に紹介します。 日本の学習指導要領にあたるナショナルカリキュラム(National curriculum)は、 5歳から16歳の義務教育の11年間を4段階の「キーステージ(Key stage)」に分け、 キーステージごとに学習内容を決めています。

イギリスのナショナルカリキュラムでは、1年生から「コンピューティング(旧名称:ICT)」が、 3年生から「外国語」が必修教科になっています(表1)。 「コンピューティング」の授業は、パソコンなどのICT機器を使うだけでなく、 アルゴリズムの理解やプログラミング言語などコンピューターの原理も学びます (1)。 「外国語」はフランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、中国語、ラテン語、 ギリシア語の7つのうちどれかを学校が選択して学ぶことが多いようです (2)。 息子の学校ではスペイン語を学んでいます。

表1:イギリスの小学生の必修教科
キーステージ1キーステージ2
学年1~2年生3~6年生
年齢5~7歳7~11歳
英語(English)
算数(Mathematics)
科学(Science)
コンピューティング
(Computing)
外国語(Languages)
デザインとテクノロジー
(Design and technology) ※注1
地理(Geography)
歴史(History)
美術(Art and design)
音楽(Music)
体育
(Physical education)
※注1:「デザインとテクノロジー」は自分で考えたものをベースにして工作や裁縫をしたり、調理をしたりするなどの活動が行われる。
※表1は、英国教育省「ナショナルカリキュラム」より筆者が抜粋・翻訳して作成 (3, 4)
日本とイギリスの違い①:習熟度別の活動のときは同じ教室で違う課題をする

日本とイギリスの授業で最も違う点は、習熟度別の活動だと思います。 そのため、座席レイアウトや先生の関わり方も日本と違います。 まず、習熟度別などのグループ活動をしやすいように、 座席は常に5~6人が1グループとなって座るレイアウトになっています。 先生は26人の学級に担任とティーチングアシスタント(補助教員)の2名が配置され、 習熟度別活動の際は各グループを回って指導します。習熟度別の授業は、算数と英語を中心に行われています。

では、習熟度別の活動は具体的にどのように進められているのでしょうか。 算数の授業中、全体では担任の先生が3桁と1桁のかけ算の単元を教えていました。 しかし、同じ教室の中でティーチングアシスタントと6の段のかけ算に取り組んでいる子どもが数名いました。 担任の先生は全体に解説したあと、各グループの進捗や理解度を見て回りながら授業を進めていました。 また、英語のリーディング(Reading)の授業では、英語にフォローが必要な子どもたちが5~6人集められ、 簡単な英語で書かれた教科書を音読したり、英文法を学ぶ時間がありました。 その間、ほかの子どもは別の英語の教科書で自主学習をしていました。

このように習熟度別の活動をする背景には、「生徒の能力に応じた教育が教育水準の向上に効果がある」 という考え方があると言われています (5)。また、私の所感ではありますが、 英語が母国語でない子どもが多い学校では、英語力に差があるため、 習熟度別に授業をせざるを得ないのではないかと思いました。

日本とイギリスの違い②:パソコンはコンピューティングの授業以外にもいろんな教科で活用

イギリスでは、1年生からコンピューティングの教科が必修になっているなど、 ICT教育に力を入れています。息子のクラスでは週に1時間、コンピューティングの時間がありますが、 現在は「スクラッチ(Scratch)」というサイトを使って、遊びながらプログラミングを学んでいます。

教室の中で特に印象的だったのは、いろいろな教科でパソコンが活用されていることです。 まず、算数の時間にパソコンを使って九九のゲームをしていたのには驚きました。 クイズに答えるように笑顔で解いていて、みんなとても楽しそうです。 また、調べ学習をするときにもパソコンを開き、googleを使って学習を進めている子もいました。

教室内には子どもが自由に使えるデスクトップのパソコンが2台設置されていますが、 必要なときには事務室にあるノートパソコンを借りることができます。 息子の情報によるとノートパソコンを借りた際は2人に1台の割合で使っているようです。 また、すべての教室に電子黒板が設置されています。日本では見たことがなかったのですが、 かけ算の仕組みを説明するときにごく普通に担任の先生が使っていてこれも驚きました。

さらに、ICTについてはハード面だけでなく、ソフト面も充実しています。 学校が利用契約をしている学習ソフトがあり、かけ算や英語のリーティング(正しい発音で本を読んでくれる)、 英語のフォニックス(※注2)などがパソコンで学べます。 このソフトの一番の利点は、学校で使っている学習ソフトに自宅からアクセスして家庭学習ができることです。 教科書を持ち帰らないので、どのような学習をしているのか保護者にはわからないのですが、 このサイトにアクセスすることで、今子どもが学校で何を学習しているかわかるうえ、 一緒に復習できるのもありがたい点です。

「習熟度別の活動」と「ICT機器の積極的な活用」というイギリスの教育の特徴は、 うまくつながっていると思います。例えば、クラスメイトがスペイン語の授業を受けているとき、 息子は担任の先生と一緒にパソコンで英語のフォニックスを学んでいました。 英語がまだわからない状態でスペイン語の授業に出ても意味がないためですが、 パソコンと学習ソフトがあるおかげで正しい発音で英語が学べるうえ、 先生が常に横にいなくても自分でどんどん学習を進められ、 子どものレベルに合わせて英語を学習できるのです。


このほか、イギリスの小学校でおもしろいと思ったのは、「トピック」という授業です。 「トピック」は必修教科ではありませんが、イギリスの小学校でよく行われている授業スタイルです。 この授業の特徴は、教科の枠を超えていろいろな角度から1つのテーマを学んでいくこと。 息子の学校では「地理」と「歴史」はこの授業を通して学ぶ方針だそうです。

編入した学期のテーマは「古代エジプト」。 カリキュラム表によると、古代エジプトの生活について調べたり、 古代エジプトの文字を解読してメッセージを書いたりする活動を通して、 当時の生活や信仰への理解を深めるのが目的とのこと。 教室には、古代エジプトの服装や食べ物について調べた結果をまとめた模造紙が4~5枚貼ってあり、 主体的に学んでいる様子が伝わってきました。

今学期は「アングロ・サクソン」「イギリスの地形」「イギリスや世界の山々」、 来学期は「第二次世界大戦」などが予定されています。 これらのテーマは8~9歳の子どもにとって少々難しいのではないかと思いますが、 本やインターネットを使った調べ学習だけでなく、博物館に行って実際のものを見る活動、 学習テーマにちなんだ工作をするなど、いろいろな形で学ぶため、理解が進んでいるようです。 先日はアングロ・サクソン人が住んでいた家を工作したそうです。

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「古代エジプト」を学んでいたときに作成したミニカレンダー
顔の横にあるのは、自分の名前を古代エジプトの文字で書いたもの。


このように、日本とは学習スタイルも設備も異なるイギリスですが、 英語のスキルに違いがある子どもを一つのクラスの中で教えるなど、 イギリスでも先生という職業は大変だと感じました。 次回はイギリスの小学校の「先生」にフォーカスした内容をお届けする予定です。お楽しみに!


  • ※注2:子どもに英語の読み方を教える方法。個々のアルファベットはどのように発音するのかを理解できる (6)。例えば、フォニックスでは「abc」は「ア、ブ、クッ」と読むと教える。 息子はフォニックスを習ってから、意味はわからなくても、単語が読めるようになってきた。

筆者プロフィール
橋村 美穂子(はしむら・みほこ)

大学卒業後、約15年間、(株)ベネッセコーポレーションに勤務。ベネッセ教育総合研究所で幼稚園・保育所・認定こども園の先生向け幼児教育情報誌の編集長を務め、2015(平成27)年6月退職。現在は夫、息子と3人でイギリス中西部の街バーミンガム在住。
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