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【移民の街トロントの子育て記 from カナダ】 第4回 モンテッソーリ・ナーサリー

次女のナーサリー選び

連載の第2回第3回で長女の小学校についてお話をしました。今回は次女のナーサリーについて書きたいと思います。

2008年10月生まれの次女は、カナダに引っ越した時2歳でした。年齢的に、まずはナーサリーに行き、4歳になる年に長女の小学校に併設されている幼稚園に入園できるのがわかっていたので、1年目のナーサリーはいわゆる「つなぎ」でした。長女の時はたくさんあった条件も、次女の場合は私が第三子を妊娠中だったこともあり、「自宅から歩いて通えること」のみ。そうすると、選択肢は少なく、家から歩いて5分のところにあった私立のモンテッソーリ・ナーサリーにターゲットを絞りました。モンテッソーリとは、イタリアのマリア・モンテッソーリが研究・開発した、子どもの主体性を重んじ自立を助ける幼児教育法で、トロントではそれを取り入れた園が非常に人気でした。

共働きの多いカナダでは、人気のナーサリーは妊娠中から予約するほど。日本でも保育園探しに苦労した私は、先手必勝と、カナダに到着してすぐにナーサリーに連絡を取り、まずウェイティング・リストに載せてもらいました。ナーサリーの園長先生は、50代半ばの香港からの移民の女性。当時、まだ英語に自信がなかった私は、より意思の疎通ができた北京語で、「この子を少しでも早くナーサリーに入れて、落ち着いてから出産を迎えたい」「今、この子を預けて私がESLに通わないと、赤ちゃんが生まれたら勉強する暇がなくなる」と必死にアピール。週に一度は電話でプッシュした結果、奇跡的に空いた枠に滑り込むことができました。

モンテッソーリ・ナーサリー

このナーサリーは、教会の2階を間借りして運営されていました。先生は、主に中国系、イラン系の先生でした。クラス分けは、3歳から6歳までの子が同じクラスで活動する縦割りで、「CASA Green」と「CASA Red」の2クラスにそれぞれ20名前後の子どもがいました。住んでいる地域の人種構造を反映し、生徒はアジア系の子どもが多数を占めていました。

働くお母さんのためなのか、費用を払えばナーサリーのキッチンで作っている給食を食べさせることができます。朝のおやつ、あったかランチ、午後のおやつと至れり尽くせりです。ほとんど泣かずにナーサリーに通い始めた次女、ある日帰ってくると真剣な顔で私に「英語でおかわりくださいってなんていうの?」と聞きます。給食で出てきたおいしいおかずをおかわりしたかったのに、なんて言えばいいかわからず悔しい思いをしたとのこと。"Can I have more?"(おかわりください)」と繰り返し練習しているのをみて、これぞサバイバル英語!と感心したのを覚えています。

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おやつタイムの様子。ピースサインが次女。
食事が済んだら子どもが自分で食器や椅子を片付け、食べこぼしを掃除する。

ナーサリーは朝7:30開園。長女のスクールバスを見送り、その足でナーサリーに向かい、オープン直後にナーサリーに着きます。到着すると、廊下の窓際にあるロッカーに子どもが自分で上着をかけ、靴を脱ぎ、上履きに履き替え、ランチバッグを出し、カバンを片付けます。冬は身に着けているものが多いため、3歳児には一仕事ですが、親は手伝わず子どもが自分でやるのを見守るように言われます。自立を重んじるモンテッソーリだけあって、ちゃんとナーサリーで、スノージャケット、スノーパンツを自分で着脱できるように指導してくれます。ナーサリーで習った一瞬で着られるウィンター・ジャケットの着方はマジックのようで、次女は得意げにあちこちで披露していました。

朝登園の早い子どもはまずフォニックス*の練習をします。先生からカードをもらい、自分の割り当てられたフォニックスの発音を練習します。一つ課題が終わるとご褒美のおやつがもらえるため、次女はかなり真剣に取り組んでいたようです。その後次女は、幼稚園、小学校と6歳まで英語で教育を受けましたが、あまり苦労せず絵本が自分で読めるようになったのは、このナーサリーで朝特訓を受けていたおかげではないかと思っています。

モンテッソーリ式誕生日会

このナーサリーで特に印象に残っているのは、モンテッソーリ式の誕生日のお祝いの仕方です。次女はナーサリーに通い始めてすぐに3歳になり、ナーサリーでお誕生日会をしてもらいました。なにせカナダに行って2カ月弱、ナーサリーに入って2週間だったので、その時はわけが分からなかったのですが、後になってその時にしてもらったのがモンテッソーリ独特のセレモニーだと知りました。

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写真のように、まず真ん中にキャンドルを置きます。このキャンドルは太陽を意味しています。太陽の周りに、January、Februaryと月の名前が書かれたプレートを12枚、円を描くように並べます。次女は地球儀を手に持ち、自分の誕生月である10月のプレートのそばに立つように指示されます。先生が「さあ、Kが生まれました。どこで生まれたの?」と聞かれ、英語が話せない次女の代わりに私が「Japan」と答えると「みんな日本はどこにあるか知っている?」「アジアにある素敵な国よ」と先生が地図で確認したり説明したりします。みんなの歌に合わせて時計回りに1周回ると10月のプレートの前で「stop!」と声がかかり、「1歳になりました。Kは1歳の時何をしていた?」「歩いていたよ」。また1周すると「2歳になりました。Kは2歳の時何をしていた?」「ご飯を食べていた」。もう1周して「3歳になりました」、「Kは今日3歳になりました。3歳では何がしたい?」「スケートがしてみたい」と、質疑応答形式で進みます。地球が太陽の周りをまわっていること、1周すると1年経つということが体験でき、自分がだんだん大きくなっていったことを、身をもって知ります。このちょっとしたセレモニーの後、英語・フランス語・スペイン語・アラビア語・中国語の5か国語でお誕生日の歌を歌って、ケーキでお祝いをしてもらいました。

その他の活動

北米の文化に疎かった私は、ナーサリーから持ち帰ってくる工作の作品も、新鮮なものばかりでした。例えば、次女がこんなものを作って持って帰ってきたことがあります。

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この動物はグラウンドホッグ(Groundhog)というマーモットの一種。なぜこんなビーバーみたいな動物を作ってきたのだろうと不思議に思い、私の英語の家庭教師に聞いてみると、「ああ、それはグラウンドホッグデイだよ」とのこと。北米では2月2日は、冬眠していたグラウンドホッグが巣穴から出てくる日と言われています。この日、グラウンドホッグが穴から出てきたときに、自分の影が見えたら、(つまりその日の天気が晴れだったら)冬はまだ続くことを意味し、グラウンドホッグは穴に戻って穴の中で春を待ちます。もしグラウンドホッグが自分の影を見られなかったら(つまりその日の天気が曇りだったら)寒さは和らぎ春も間近、グラウンドホッグは地上に残る、という言い伝えがあるそうです。この作品は、グラウンドホッグが茶色い紙袋に張り付けられていて、下から手を入れパペットのように遊ぶことができます。

また12月にナーサリーで作った作品も印象に残っています。持って帰って来たのはろうそくが8本立った燭台の塗り絵で、青と白の絵の具できれいに塗られていました。12月と言えばクリスマス以外の世界を知らなかった私は、それが何か分からなかったのですが、後になってそれがユダヤ人の祝日「ハヌカ」の燭台だったのだ、と知りました。「ハヌカ」とは、ユダヤ人が占領されていたエルサレム神殿を奪回した時に、汚された神殿を清め再びユダヤ教の聖所としたことを祝うお祭りです。神殿を解放した際、1日分しか残っていなかった油で燭台に火をともしたところ、8日間燃え続けたという逸話があり、ハヌカの時期にはろうそくが8本立ったこの燭台に1日1本ずつ明かりをともしてお祝いするそうです。

たった1年しか通わなかったナーサリーでしたが、こじんまりとしてアットホームで私も次女も気に入っていました。今まで子どもを通わせた中で一番思い出深い場所かもしれません。なによりもよかったのが、次女と一緒に歩いて通園できたこと。出産後はベビーカーに乗せた赤ちゃんも一緒に、3人で歩いての通園となりました。秋は落ち葉を踏みしめながら、木の実を拾い、冬は積もった雪で雪合戦をしながら通ったナーサリー。先生から直接子どもの様子が聞けて、ほかのお迎えの保護者とも交流ができ、専業主婦の私が、外の世界に触れることができる貴重な時間でした。


  • *英語の読み方を教える方法で、英語の綴りと発音の規則性を学ぶことで、知らない単語でも発音ができるようになる。
筆者プロフィール
森中 野枝

都立高校、大学などで中国語の非常勤講師を務めるかたわら、中国語教材の作成にかかわる。
学生時代中国・北京に2度留学したあと、夫の仕事の都合で2004-2008 北京に滞在。2011-2013カナダ・トロント滞在。現在はアラブ首長国連邦ドバイに住んでいる。
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