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【イギリスの子育て・教育レポート】 第1回 イギリスの公立小学校の1日に密着(前編・学校生活編)

要旨:

夫の仕事の都合により、2015年10月から8歳の息子と夫と筆者の3人でイギリス中西部の街バーミンガムに居住。本レポートでは、現地で実際に体験、見聞きしたことをもとにイギリスの子育て・教育の特徴や日本との違いを紹介する。

息子は日本人が一人もいない公立小に編入することに。初日は終日付き添い、イギリスの小学校を教室の内側から見た。登下校の様子、時間割や給食など、日本の公立小との学校生活の違いに親子ともに驚きの連続だった。


Keywords: 橋村 美穂子, イギリス, 小学校, 公立, 教育, 子育て

2015年10月に小学3年生(8歳)の息子と夫、筆者の3人でイギリス中西部の街バーミンガムに引っ越してきました。息子は今、イギリスの公立小学校に通っています。このレポートではさまざまなエピソードを交えながら、イギリスの子育てや小学校を中心とした教育事情を紹介していきたいと思います。

イギリスの小学校の制度~公立にも複数の形態がある~

イギリスは、イングランド・ウェールズ・北アイルランド・スコットランドから構成されており、地域によって若干異なる教育制度をとっています。

イギリスの小学校には公立と私立があります。公立小の学費は無償で、基本的には全国共通のカリキュラム(National Curriculum)に基づいて教育が行われています。しかし、同じ公立でも複数の設置母体がある点は日本と違うところです。例えば、自治体主導で設置されたもの(Community School、Foundation School)や、教会をはじめとする民間団体が設置したもの(Voluntary Aided School、Voluntary Controlled School)があります。このほか近年は、公費でまかなわれているが、学校の管理運営(教員の給与、条件、カリキュラム、学期等)は比較的自由度が高いアカデミー(Academy)と呼ばれる形態が認められ、増加しています (1)

また、イギリスは日本と異なり、義務教育期間(初等教育5~11歳、中等教育12~16歳)であっても必ずしも学校に就学する義務はありません。子どもの数は少数とのことですが、保護者や家庭教師による家での教育(Home Schooling)も認められています (2, 3)

このように、地域によって教育制度が異なるうえ、同じ公立小でも設置団体や運営形態が大きく違います。本レポートで紹介する内容は、イギリス(イングランド)のある公立小の一事例であることをあらかじめご了承ください。

あわや待機児童!?学区内でも希望する小学校に入れないことも

公立小学校は学区制をとっています。入学する際、一般的には居住地の学区内から希望する学校を3校ほど選び、地方教育局に申請します()。しかしながら、人気校は満員である場合があり、希望した学校がいずれも定員を超えていると、別の公立校か私立校を選択することになります。そうなった場合は、希望する学校の順番待ちリストに載せてもらい、別の学校に通いながら空きを待つことが多いそうです (1)

人気校は、教育水準局(Ofsted:Office for Standards in Educationは教育機関の監査を役割とする公的機関)による学校監査の評価が高いことが多いようです。私たちが住むのは人気校が集まる激戦区エリアでした。当初、候補に挙げていた3校すべてに空きがないという理由で断られました。その後、自宅から2~3kmまで範囲を広げて10数校に打診していたところ、偶然にも最も自宅に近い学校から空きが出たとの連絡があり、無事に編入できることになりました。日本では3年生の途中での転校となりましたが、イギリスでは就学年齢が5歳と日本より1年早いため、4年生(Year 4)に編入となります。

ちなみに、息子が入れることになった学校は、自治体主導で設置された公立小学校(Community School)です。学校評価は4段階中、2番目にいい評価(good)を獲得しています。生徒数(4~11歳)は約370名で、英語を母語としない子どもの割合が約35%います。

息子のクラスメイトに会ってみて移民の多さを実感

バーミンガムの人口は約110万人。移民の多い国際都市です。


2011年に行われた国勢調査によると、バーミンガムには以下のような特徴があります (4)

●住民(民族):
最も多いのはイギリス系(白人系)で53.1%、ついで多いのがパキスタン系13.5%、インド系6.0%。
→イングランド全体におけるイギリス系住民の平均割合は79.8%。バーミンガムは他の都市に比べてイギリス系住民の割合が低いと言えます。

●信仰している宗教:
多い順に、バーミンガムの住民の46.1%がキリスト教徒、21.8%がイスラム教徒、19.3%が無宗教。
→イングランドとウエールズ全体におけるイスラム教徒の平均割合は4.8% (5)。バーミンガムは他の都市に比べてイスラム教徒の割合が高いと言えます。

息子のクラスメイトは、上記の調査結果に輪をかけて国際色豊かでした。イギリス系の子は少なく、パキスタン系、インド系、アフリカ系など本当にさまざまな民族の子どもで構成されていました。

息子の小学校には中国系や韓国系の子はいても、日本人は在籍していません。その事実を知り、息子の緊張が一気に高まったのは言うまでもありません。

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スクールカラーは青。制服はネットスーパーで注文しました。日本の多くの小学校の制服と違うのは、長ズボンと黒い靴が指定されていること、また女の子でもズボン着用がOKな点です。
日本とイギリスの違い①:登下校時の保護者同伴制と荷物の少なさ

初日の朝、筆者は息子と一緒に登校しました。でも、初日だから、というわけではありません。イギリスの小学校は、保護者が学校に子どもを送迎すべき年齢が条例で規定されているため、多くの場合、小学生の間は毎日、保護者による朝夕の送り迎えが必要なのです。送り迎えをするのは母親が多いのですが、朝は父親もかなり多く見かけます。では、両親ともに働いている人はどうしているのでしょうか。その場合は学校内の学童クラブや、ベビーシッターなどによる送り迎えで対処するようです。

また、登校時に驚いたことは、荷物の少なさ。毎日の持ち物は、①飲み物(水やジュース)、②午前の休み時間に食べる軽食のみで、日によって体操服(Tシャツ・ズボン・靴)や弁当を持っていきます。学校指定の通学カバンが日本のランドセルに比べて非常に小さいのもうなずけます。なぜこのように荷物が少ないかというと、教科書は原則として学校に備え付けで、個人に1年間貸し与えられるというシステムだからです。ノートや鉛筆、消しゴムなども学校にあるものを使用するので、筆箱も持っていきません。

日本とイギリスの違い②:休み時間が少ない

平日の9時から15時半まで授業があります。時間割を見て少しハードな印象を受けました。

<イギリスのある公立小学校の1日の時間割>※学年はYear 4
8:45~登校(★詳しくは違い①を参照)
学校指定の制服で保護者と一緒に登校(車で登校する子も)
8:55~出欠・健康観察・昼食の確認(★詳しくは違い③を参照)
9:00-10:00授業(体育)
この日は近くの私立小の温水プールを借りて水泳の授業。
10:00-11:00授業(トピック学習)
トピック学習とは、いわゆる総合的学習のような授業。今学期は古代エジプトについて学習。
11:00-11:15休み時間(★詳しくは違い②を参照)
11:15-12:30授業(PCを使っての算数)
PCソフトを使い、個人もしくはペアでかけ算を学習。
12:30-13:30昼食・休憩(★詳しくは違い③を参照)
13:30-14:00授業(スペイン語)
この日はスペイン語の挨拶や音読、単語テストなどが行われた。
14:00-15:25授業(音楽)
前半は楽器、後半は歌の授業。楽器はバイオリンか電子キーボードから選択。
15:25-15:30帰宅の支度
担任が簡単な連絡事項を伝達する。
15:30下校
防犯上の理由から、子どもが「ママ(パパなどの保護者)が来ました」と伝え、保護者の顔を確認してから引き渡すという形をとっている。

上記の時間割にあるように、授業ごとに休み時間はありません。気分転換の時間がなくて集中力が途切れないのかと疑問に思ってしまいます。唯一、午前にある15分の休み時間には軽食を食べ、全員、校庭で遊ぶように言われています。広いとは言えない校庭に全校生徒が集まるので、実際にはサッカーなどで遊ぶスペースはほとんどなく、軽食を食べながら立ち話するだけで終わってしまいました。軽食は果物(りんごの丸かじりなど)やシリアルバーが多かったのですが、中にはきゅうりやにんじんスティックを食べている子もいました。

日本とイギリスの違い③:毎日、給食か弁当のどちらを食べるか選択できる

息子の学校では、学校給食を食べることが推奨されていますが、弁当を食べることも可能です。今日は給食、明日は弁当にするなど、日によって変えられるので、登校後の健康観察の際に、「今日は給食をお願いします」「弁当食べます」などと担任に伝えます。ほとんどの子どもは給食で、クラスメイト27名中、弁当は4~5名ほどでした。

学校には給食室があり、そこで温かい食事が作られます。授業が終わると皆、一斉に食堂に向かいます。筆者は先生にお願いして学校給食を特別に食べさせてもらいました。この日のメニューは、主菜がケチャップ味の甘酸っぱい鶏肉ソテー・玄米添え(主菜はこの他2種類から選べた)、副菜はチーズロール(小さなパン)とグリーンピース&コーン、季節のサラダ、そしてチョコフレークを固めたようなものがデザートでした。飲み物は牛乳かクランベリージュースです。イギリスの学校給食、どんな味なんだろう・・・とドキドキしながら食べたのですが、思ったよりおいしかったです。

何より驚いたのは、子どもたちが食べる量の少なさと栄養の偏り。献立は充実していたので、主菜、副菜、サラダ、デザートがバランスよく盛られるのかと思いきや、自分が選んだものを少しだけよそってもらい、食事を早々に済ませ、校庭に遊びに行ってしまう子が多く見受けられました。主菜の鶏肉と野菜を少しだけ、つけあわせだけ、サラダだけの子どももいました。この背景にはさまざまな理由があるのではないかと想像されます。午前の休み時間に軽食を食べてから約1時間しか経っていないので、そんなにお腹がすいていないこともあるでしょう。また、宗教やアレルギーの問題から食べられない食材があるのかもしれません。さらに、食堂は入れ替え制で、次のクラスが待っているので早く食べ終わらなければならないことも関係しているのかもしれません。しかし、日本の学校給食の栄養バランスや盛り付け量、食材のバリエーションからすると、イギリスで育つ子どもの体の発達、食育は大丈夫なのか、少し心配になってしまいました。

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付き添った日の学校給食。これは大人1人分の量です。(食べかけですみません。)


登下校、休み時間、給食・・・日本で当たり前だと思っていた学校生活がイギリスでは当たり前ではありませんでした。日本、イギリスのどちらかがいいというわけでなく、初めて海外の小学校に足を踏み入れた私にとっては、どれも新鮮な発見と驚きでした。それぞれの国にさまざまな背景があって今の制度や慣習が続けられているのでしょうが、自分の固定観念が大きく崩れる楽しさがありました。次回は、さらに驚きの連続だったイギリスの小学校の「授業内容」や「学習スタイル」を紹介したいと思います。どうぞお楽しみに!



  • ※役所に問い合わせたところ、学期途中の編入の場合は申請方法が異なるようで、学校に直接空き状況を確認・相談するように言われました。入学・編入時の申請方法は地域によって異なります。

筆者プロフィール
橋村 美穂子(はしむら・みほこ)

大学卒業後、約15年間、(株)ベネッセコーポレーションに勤務。ベネッセ教育総合研究所で幼稚園・保育所・認定こども園の先生向け幼児教育情報誌の編集長を務め、2015(平成27)年6月退職。現在は夫、息子と3人でイギリス中西部の街バーミンガム在住。
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