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【ニュージーランド子育て・教育便り】 第1回 親の負担が少ない小学校生活

要旨:

ニュージーランドの小学校は、親が子どもの学校生活を支えるのに、無理なく、負担の少ないシステムになっているように思う。始業・終業時間が毎日変わらないこと、少ない持ち物、学校と親とのコミュニケーションにおけるメールやウェブサイトのアプリなどの積極活用、夜催される行事やPTA活動などについてまとめた。

ご無沙汰しております。「ニュージーランド子育て便り」の連載を終えてしばらく経ち、娘は5歳になると同時に小学校に入学しました(参考:就学前編 第19回 「5歳から小学生(学習編)」)。そしてこの度、改めて、ニュージーランドの小学生の親として日々感じることを記事にさせて頂くことになりました。ニュージーランドの小学校は、国立学校(State School)、国立移管私立学校(State Integrated School)、私立学校(Private School)の3種類に大きく分かれます*1。この連載では、主にニュージーランドの子どもたちの85%が通っているとされる国立学校に関わる話を執筆する予定です*2。国立の小学校とはいえ、校長の権限が強く教員の採用は学校ごとに行われるためか、長期間ひとつの学校に勤める教員も多く、日本以上に学校に対する教員の愛着のようなものを感じます。また校長には、教育省からの補助金や保護者からの寄付金などをいかに運用して学校を統括するかという経営者のような側面も感じます。そのためか、学校によって雰囲気がだいぶ異なる印象を受けます。

さて、小学生編第1回となる今回は、入学してからの小学校生活についてお伝えします。娘が小学校に入学した後は、親である私も慣れるまできっと大変に違いないと思い構えていたのですが、新たに始まった小学校生活は実にあっけなく、毎日とても余裕のある生活リズムで過ごしていると感じています。今回は、子育てする上で親に余裕を感じさせてくれる、オークランドの小学校のいくつかの仕組みをご紹介します。

始業時間と終業時間はいつも同じ

ニュージーランドの小学校は週に5日間、毎日午前9時に始まり、午後3時に終わります。子どもたちは、8時半頃から徐々に登校し、9時の始業時間までに準備を整えます。この9時という始業時間は、日本の小学校に比べてだいぶ遅いのではないでしょうか。そのおかげか、私も「朝慌しくて大変!」という感覚が余りありません。終業時間である3時という時間も、例え小学校の入学初日であっても、遠足のある日でも同じです。今後例外的な日があるかもしれませんが、娘が通い始めてから既に半年以上経っても、今のところ毎日必ず3時に終わっています。ですから、娘が学校に行っている間の親の計画がとても立てやすく、有難い仕組みだなと思っています。

なお、余裕があるとは言え、登下校には親の送迎が必須です。この点を大変と思う方もいるかもしれませんが、車社会のニュージーランドでは通学路でも車はスピードを出していますし、事故や犯罪に巻き込まれることを防ぐには致し方ないと思う次第です。逆に、毎日学校に足を運ぶと、子どもや親同士が顔の見える関係になり、漠然と子どもの生活を想像するよりも良い面も感じます。送迎に来るのは、母親、父親が多いですが、フルタイムで共働きの家庭は学童保育の送迎、ベビーシッター(ナニー、オーペア*3の方)、祖父母に送迎を頼むなどして対応しています。

少ない持ち物

毎日小学校に持っていくものは、①ランチボックス(お弁当)*4 、②水筒、③宿題の本を持ち帰ってくるバッグの3点のみです。5歳の娘が毎日自分でチェックをしても、たった3点ですから忘れ物をすることがありません(夏には、紫外線対策の帽子とサングラスが加わりました)。少ない持ち物のためか、クラスの誰かが忘れ物が多いという話なども娘から聞いたことがありません。ニュージーランドの小学校には教科書がなく、娘の学校の場合、入学時に約5,000円分の指定文房具(ノート、鉛筆、のり、マーカー、ペンなど)を小学校で買いました。ノートは個人の所有になりますが、その他の鉛筆をはじめとした多くの文具類は、クラスメイト全員が共有して使っています。いくら指定文房具とはいえ、私は日本の入学準備に近いものをイメージしていたので、娘の名前を書くことなどを考慮して入学数週間前に学校で購入しましたが、後になって、そんなに早く買ったのは私だけだったと知りました。娘の場合、個人の所有であるノートなどにも先生が名前を書いてくださったので、結局私は入学準備として娘の持ち物に名前を書くことすらせずに済んでしまいました。また、体育でも「5歳は、まだ汗をかくほどのことはしないので、着替えるほどでもないですよ。」ということで、今のところ着替えを持っていくこともありません*5

持ち物が少ないことに関して私の思いつく唯一の難点は、その日子どもが何の勉強をしたのかが分かりにくいというところです。詳細に学習の過程が分かったのは、学年末に、娘が全てのノートを持ち帰ってきた時でした。普段は子どもに尋ねても、子どもが覚えて説明できる範囲でしかその日に勉強したことが分かりません。娘は数週間、「今日は遊んだだけ」「最近、全然、算数がないの。今日も遊んだだけよ」と言い続けていましたが、後になってお金の勉強をしていたことが分かりました。娘にとっては、それが算数だとは思わず、「遊んだだけ」という感覚になっていたようです。

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学年末に持ち帰ってきたノート一式

メールとウェブサイトの活用

ほとんどすべての学校からの連絡事項は、保護者のメールアドレス宛に直接送られてきます。娘が紙で学校や担任の先生のお知らせをもらってきたことは、入学直後にメールアドレス登録が完了していなかった1回を除き、ありません。家に紙類が増えることもなければ、子どもが紛失することもなく、学校のスケジュールを確認したいと思った時にメールを読み返せばよいので非常に便利です。また、担任の先生との個別面談のスケジュールもアプリケーションを使ってウェブサイト上で希望時間に予約をする仕組みでしたし、行事参加の申し込みもメールで済みます。担任の先生のメールアドレスに直接メールを送ることも可能ですし、ランチをオーダーすることも、専用のアプリケーションを使いウェブサイト上で行うことができるようになっています。これらすべてを小さな子どもに託すことなく行えることは子どもの負担も減らしていると思いますし、忙しい大人にとっても、とても便利なものです。

どのような両親でも参加しやすい短時間の行事・夜の行事

働いているいないにかかわらず、親が小学校の行事に参加しやすいと感じます。その理由のひとつは、平日に行事が行われても短時間であることです。例えばクロスカントリー(日本でいうマラソン大会)でも、娘の走る時間は10時30分からと知らされていたので、わが子が走る時間にあわせて学校へ行き、子どもが走り終わったら親は帰り、子どもも教室に戻って勉強していました。アスレチック大会(日本の運動会に近い行事)も同様に事前にメールで送られてきたプログラムをチェックして、見たい部分だけを見にいく保護者がほとんどでした。遠足も、今までの遠足は全て半日だけで、子どもたちは遠足が終わったらすぐに教室に戻って勉強していました。遠足では、先生の補助として保護者の付き添いが募られることも多いのですが、親も出社を遅らせたり、帰宅を早めたり、半日休みを取るなど仕事のスケジュールを調整して対応することができます(高学年になると泊まりがけのキャンプなどでも、保護者の付き添いが募られるようです)。

また、保護者と先生方のミーティング(PTA活動など)は、働いている親でも参加できる夜の時間に開催されることが多いです。拘束時間が比較的短いとはいえ、すべての行事が平日の昼間の行事であれば参加できる保護者も限られるでしょうから、夜行われる行事があることは意味のあることと思います。ただし、日本と文化的な差を感じるのは、親だけが対象となっている夜の行事では、ベビーシッターに子どもを頼んで参加することが暗黙の了解となっている点です。親だけの行事に子どもを連れていくことはありませんし、14歳未満の子どもを一人で家に置いておくことは違法となるニュージーランドで子どもだけで留守番をさせることもありません。時折、子どもも参加できる夜の行事(スクールディスコなど)があることもあり、子どもたちも夜に学校に行くことを楽しんでいたようです。

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夜行われたディスコイベント


私は、娘が小学校に入ったら、家に帰ってからも持ち物の確認や先生からの連絡を漏らさず聞くような会話が増えるのではないだろうかと思っていました。ところが、実際に入学してみると、娘本人に確認しなければいけないことはあまりないためか、そうした会話はほとんどありません。5歳という年齢でまだ難しい課題が出ていないということもありますが、娘に聞くのは、「今日は、学校、楽しかった?」「何か新しいこと教えてもらった?」そんな気楽な質問ばかりです。こうして娘に対して気持ちの余裕がある状態で向き合える点については、親として心地よく感じています。小学校生活が子どもにとって大切であるのはもちろんですが、親にとって負担の少ないシステムになっているかどうかも大切だなと考えさせられます。小学生の子をもつ共働き家庭のライフスタイルや学童保育については、今後、改めて取り上げることができればと思っています。


  • *1 3種類の学校について、詳しくは下記ウェブサイトを参照:https://www.newzealandnow.govt.nz/living-in-nz/education/school-system
  • *2 ニュージーランドの教育では度々、学区の置かれている社会経済状況によって学校の教育が厳しい状況に置かれてしまうことが話題になります。私が執筆できる話題は、娘の小学校に限りませんが、ある程度経済的に恵まれている地域にある小学校のことであることをご承知ください。地域の経済状況についてはニュージーランド教育省がDecileという指標をつけ、公表しています。Decileについては就学前編第6回第18回等に記載。
  • *3 子どもの世話をしてくれる住み込みの外国人(ワーキングホリデーで来ている方など)のこと。
  • *4 基本的に持参するものですが、学校の提携している業者に注文することもできます。
  • *5 夏になると、プールの授業が始まるので、水着の準備は必要になりそうです。
筆者プロフィール
村田 佳奈子

日本で7年間企業に勤める。退社後、2012年4月よりニュージーランド(オークランド)在住。
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