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【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第13回 ドイツ語と日本語の勉強

要旨:

今秋から小学2年生に進級した息子。新学年開始当初はのんびりとした雰囲気を漂わせていた教室だが、その後1ヶ月で状況は急変!特に、ドイツ語学習は、アルファベット習得が目標だった1年生時に比べて、明らかに難易度が上がった。そんなある日、季節ごとのテーマを扱う教科から、旬の食材を使ったレシピを書くという宿題が課された。父親の助けを借りて、息子史上最長のドイツ語の文を完成こそしたものの、実際はその宿題のレベルの高さに圧倒され、泣きながらの清書作業は3日間続いた。この作業を通じて、彼は自分でも日本語の能力の方がドイツ語よりも高いと気づいた模様。ますます難易度が上がるドイツ語学習だが、日本語補習校や他の習い事とバランスをとりながら、毎日の学習を家族でサポートしていきたい。

Keywords:
ドイツ、ベルリン、小学校、補習校、宿題、マルチリンガル、ドイツ語、シュリットディトリッヒ桃子
小学校2年生最初の日

6週間の夏休みが終わり、この秋、息子は無事に小学校2年生に進級しました。新学年開始の日は、ドイツ語や算数のワークブック(各6冊以上もあります!)や絵の具、ファイル類などの全教材を持参しなければなりませんでした。というのも、ほとんどの教材は1年間、学校に置きっぱなしだからです。

とても息子一人では持ちきれない量なので、久しぶりに私も教室まで同行しました。息子の学校では、1-2年生は合同クラスで勉強するので、彼の所属は去年と同じひまわり組です。教室に到着すると、2年生が数名いるだけの、がらんとした教室で、担任の先生が説明してくれました。

「入学式は今週の土曜日なので、それまでは2年生だけのクラスです。といっても、今週は勉強らしいことはせずに、入学式の出し物の練習をします。さらに、授業は午前中の4時限だけ、その後は学童保育の時間になります。」

夏休み明けということもあり、なんだかのんびりしているなあ、と思いながら話を聞いていると、今年度から3年生に進級した元クラスメートが間違えて、彼の母親と一緒に教室へ入ってきました。

すかさず先生に「君はもう3年生だから、3階の○○先生の教室へ行くのよ~」と案内されていましたが、こののんびりした雰囲気を象徴するような出来事で、微笑ましく思えました。私自身も「まあ、2年生になっても、健康で楽しい学校生活が送れればいいかな?」などと、この時はのん気に構えていましたが、この後1ヶ月間で、事態は急速に変化しました。

ジャンプアップしたドイツ語学習

小学校2年生になっても、基本的にドイツ語および算数は1年生のときと同じく、ワークブックを使用した個別指導形式をとっているようです(小学校編 第4回 小学校1年生のドイツ語(国語)の授業 参照)。1年生の時にはアルファベットの学習が主だったのが、2年生になると明らかに難易度が上がり、単語の習得と、文章作成に重点が置かれてきました。ただし、これは一般的な進捗目安らしく(幸い、息子は今のところ一般レベルについていけているようです)で、クラス内でも個人差があるとのことでした。

単語の学習に関しては、綴りと読み方に加えて、名詞の場合は冠詞もセットで覚えなければなりません。ドイツ語では全ての名詞は男性、女性、中性名詞に分かれており、定冠詞と不定冠詞(男性der、ein/女性die、eine/中性das、ein)のいずれかを単語の前につけて使用するからです。これらの冠詞は名詞の格*1が変わると変化し、日本語の「てにをは」のような重要な役割を果たすので、きちんと学習する必要があります。これらの学習は、1年生ではあまり見られませんでした。

さらに、短い文の導入(例:Anna malt ein Auto. 訳:アナは車の絵を描いた)も始まりました。ワークブックの例文に従い、これくらいの短い文でしたら息子もなんとか時間をかけて書くことができているようで、こちらもそんなに心配はしていなかったのですが、ある日、突然そうも言っていられなくなるような出来事が起こりました。

新学年開始から1ヶ月ほどたったころ、宿題として息子が持ち返ってきたプリントには、こう記載されていました。「秋の食材を使った料理をするので、その候補となるような簡単なレシピを書いてきてください。」

「主語、動詞、目的語」という極めてシンプルな文章作成から、材料、準備、複数の手順を含むレシピ作成へと、レベルは初心者から上級者へ一気にジャンプです!ちなみに、この課題はプロジェクト(季節ごとにテーマが変わる授業で、日本の小学校の「生活」の時間のようなもの)のためのもので、クラス全員に出されたとのこと。配布されたプリントによれば、どうしても無理な場合は取り組まなくても良いが、なるべくチャレンジすることが推奨されており、課題を提出した子どもにはご褒美が与えられる、とのことでした。

息子にとっては、この宿題はあまりにレベルが高すぎたからか、最初からやる気をそがれてしまった様子でした 。しかし、我が家で現地の小学校の宿題を担当となっているドイツ人の父親にとって「出された宿題に取り組まない」という選択肢はなかったようです。彼は、まずインターネットで手順の少ない「かぼちゃのオーブン焼き」のレシピを見つけました。これは、「かぼちゃを薄く切って、パルメザンチーズをふりかけ、オーブンで焼くだけ」という超シンプルなレシピでしたが、さらにそれを小学2年生でもわかるような言葉使いにし、手順も5行くらいに簡素化して、息子に手書きで清書させよう、という作戦です。

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ドイツの秋の味覚 Hokkaidoかぼちゃ

しかし、父親がレシピを口頭で伝え、息子に意味を理解させたところまではすんなりいったものの、いざ、レシピを手書きするとなったところで、息子は固まってしまいました。今まで書いたことのないような長い単語や、5行という彼にとっては最長の文章に、すっかり圧倒されてしまった模様。

基本的に我が家では、小学校の勉強は父親の担当なので私は口出ししません。したがって、この時も家事をしながら時々様子を窺っていましたが、アルファベットを1つ書いては止まっているので、そのうちどこを書いているのかわからなくなってしまい、混乱してしまった様子。程なく、泣き出してしまいました。しかし、父親は付きっきりで教えるというよりも、「このお手本どおりに書けばいいんだよ」と言って、しばらくすると別の部屋に行ってしまうので、5行くらいの文を書くのに、息子が泣き出しては父親が手本を見せていなくなるということの繰り返しになってしまったのです。結局、3日間かかり、ようやくレシピを完成することができました。

日本語の方がまだ得意?

「僕、日本語は早く書けるのに、どうしてドイツ語は書けないんだろう?」これは、上記の宿題をようやく仕上げた息子が、ぽつんと発した言葉です。私たちがドイツに移住して4年少したった今、ドイツ語に関しては聞いたり話したりする能力は問題ないようですが、読み書きを含めた4技能総合言語能力となると、移住後から補習校に通って継続してきた日本語(保育編 第9回 日本語補習校 参照)の方がまだ高いことに、本人も気がついたのだと思います。

そんな彼に私はこう言いました。「日本語は補習校でもう4年間もひらがなを練習してきたよね。毎日毎日宿題をこなして、しまじろうの教材も一緒に勉強してきたでしょ?だから、今ではすらすらと文章が書けるようになったんだよ。でも、ドイツの学校は、去年始まったばかりだから、まだ1年ちょっとしかドイツ語を勉強していないよね。だから、ドイツ語も毎日、日本語みたいに練習すれば、上手に書けるようになるよ。がんばろうね!」

大きくうなずく息子に、こちらも少し安堵しましたが、よく言われているように、「外国に住んでいれば簡単にマルチリンガルになれる」というのは必ずしもそうではないようです。アメリカの大学で教鞭をとっていた時に、日本語を話したり聞いたりする能力は高くても、読み書きの能力が弱く、日本語の授業に参加していた日系人学生を多く見てきました。これは、家族との会話で日本語を使うことはあるものの読み書きの機会はほとんどない、という環境が影響していたと記憶しています。また、ベルリンの日本語補習校の先生方も口を酸っぱくしておっしゃっていることですが、2つ以上の言語で、4技能の全てを発達させるには、読み書きに対する親子での継続した努力が不可欠なようです。

保育園からの過渡期の1年生が終わり、2年生ではいよいよ本格的に勉強が始まりました。日本語補習校への通学および毎日の宿題に加え、現地の小学校の宿題をこなすには、文字通り二倍の時間がかかります。さらに、他の習い事やサッカーの試合などもあり、毎日が時間との戦い!しかし、毎日短時間でも続けていけば、将来きっと身になることを信じて、ドイツ語と日本語両方の習得の難しさを感じながらも 、これからも家族全員で息子のサポートをしていきたい、と思っています。

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紅葉が始まった公園


  • *1 ドイツ語の格変化:名詞が文中で主語になったり、目的語になったりと、その機能(格)が変わると、冠詞も変化します。
    例:Der Mann ist klein. その男は小柄だ。(Mann は男性名詞で主格なので冠詞はder)/Ich liebe den Mann. 私はその男を愛している。(Mannは目的格なので、冠詞はderからdenに変化する)
筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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