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【ザンビアの子育て・生活事情】 第10回 子どもを取り巻く環境 -子ども同士の関係-

要旨:

ザンビアは子沢山の社会だが、都市部は地方に比べて子どもの数が少なくなっている。年の離れたきょうだいがいることも多く、幼いうちに、姪や甥をもつ立場になる場合もある。子どもたちは皆、多くの子どもに囲まれる環境に身を置くので、一般的に、高校生になる頃までには、子どもの世話の仕方を習得する。子ども同士が交流する主な場として、家庭、学校、教会が挙げられる。それぞれ、集まる子どもの構成は様々で、子ども同士の関わり方も異なるが、全体的に見るとバランスが取れている。

Keywords:子沢山、出産の間隔、様々な背景、お泊まり会、みんな仲良く

前回は、ザンビアの子どもと大人の関係についてご紹介しましたが、今回は、子ども同士の関係について見ていきたいと思います。

家庭

ザンビアの出生率(合計特殊出生率:total fertility rate)は5.3人 *1で、日本の1.43人(2013年)に比べると子沢山な社会といえます。それでも最近、特に都市部では、次第に一家族あたりの子どもの数が減ってきており *2、若い年代の夫婦の子どもの数は、3~4人が平均的です。これには、子どもの養育費を考慮してという理由に加えて、共働きの家庭が多くなってきて、出産と子育てに割ける時間に制限が出てきたからというのもあるようです。低所得者層の人たちが住むコンパウンド(非計画居住区)では、出産の間隔が短い傾向にありますが *3、出産する子どもの数も多いので、一番上の子と一番下の子では、年齢差が10歳くらいあることも稀ではありません。一方、比較的裕福な家庭では、子どもの数は少ないですが、出産の間隔をかなり空ける事も多く、こちらも、年齢差が大きくなることがあります。それなので、年長のきょうだいが既に結婚して子どもをもっていて、年齢は幼いながらも、叔母さん、或いは、叔父さん、という立場の子どもも結構います。

ザンビア人は、子ども好きで、子どもの世話の仕方や、子どもと接することに慣れている人たちが多いですが、これは、家庭で弟や妹の世話を通じて獲得した成果といえると思います。前回、私の娘が、同居していた親戚の女性に面倒を見てもらっていた事をご紹介しましたが、高校生くらいの年齢の子 (特に女子の場合 *4) が、通学などの理由で親戚の家に居候する場合、子どもの世話の仕方を身につけているという前提で、当たり前のようにその家の子どもの世話役を任されます。私の娘達は、住居がフラット(集合住宅)だったこともあり、周りには常に沢山の子ども達がいる、という環境で過ごしました。年少の子どもは、他人でも、年長の子どもが面倒を見ることになっているので、3人とも、幼い頃には、毎日のように近所の女の子が訪れて代わる代わる面倒を見てくれ、とても可愛がってもらいました。

私の娘達の年齢差ですが、長女と次女の年齢差は1才7か月、次女と三女の年齢差は1才6か月と、3人の間隔があまり空いていなかったので、幼い頃は大変な面もありましたが、ある程度育ってくると、姉妹で遊んだりお互いに教え合うことができるので、利点も多くありました。また、年齢の近い女の子が3人いるので、近所の同年代の女の子にとっては、うちは一度に3人の友達が確保できる場所として、とても魅力があったようです。見慣れない日本人の母親がいる家にも関わらず、近所の女の子が集う場所となっていました。中には、他の敷地に住む子が、はるばる歩いて、うちの住むフラットまで遊びに来る事もありました。"はるばる"と書いたのは、ザンビアは子どもが自由に外を出歩ける環境ではなく、他の敷地に行く時には、大人が同伴するか、車で送り迎えをするのが一般的だからです。これは、治安の悪さもありますが、敷地から出るとすぐに車道になっていて、そこを車が猛スピードで走るので、子どもだけで歩くのは非常に危険だからです。一方でコンパウンドでは、家が密集しているのと、車の危険が少ないこともあって、子ども達は自由に外で遊んでいます(家の周辺の様子は、第6回もご参照ください)。

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近所の友達と水遊び(前列右から2番目が長女)

学校

第3回の「ザンビアの子どもの遊び方」でご紹介しましたが、ザンビア人の子ども達は、初対面でも、その場にいる子どもと当たり前のように遊びます。これは、ザンビア人の子ども達が通う学校では、仲間外れやいじめの問題が非常に少ない、ということにもつながっている気がします。ザンビアでは、原則として、小学校入学の年齢は7歳ですが、経済的な理由で遅れたり、親の希望で少し早まったりすることがあります。成績が悪ければ留年することもあるので、学年が上がるにつれて、同じ学年でも年齢がばらばらになる傾向があります。また、私が娘から聞いた情報なので偏っているとは思いますが、親が病気で亡くなっていたり、別居や離婚をしていたりして、祖父母や親戚と住んでいる等、家庭の事情が複雑な生徒も少なくないようです。

ザンビア人の中には、アルビノ(Albino)といって、皮膚の色素の異常(先天性白皮症)で 、生まれつき皮膚の色が白い人が時々います。他のアフリカの国では、忌み嫌われることも多いと聞いていますが、私から見ると、ザンビアでは、アルビノの人達は街中でも学校でも他の人達の間にとけこんでいて、偏見が少ない印象です。それでも、ザンビア人に尋ねると、「偏見をもっている人が多い。」「差別されている。」と問題意識をもって見ている人が多く、表面では見えない部分もあるようです。このように、年齢にもばらつきがあり、様々な背景をもつ子ども達が、問題なく学校生活を送ることは、70以上の部族が争いなく共存している、ザンビアという国の特徴と共通する点のようにも思えます。

学校では、授業の合間のわずかな休憩時間を利用して、友達とおしゃべりをしたり、遊んだりします。学校への往復は、車での送迎がほとんどなので、同じ学校に通う生徒でも、家の場所は離れていることが多く、平日の放課後には、遊ぶ時間がなかなかもてません。仲が良くなると、まずは、週末にお互いの家で遊ぶようになり、親もお互いに顔見知りになると、その次はお泊まり会(slumber party)、という流れになります。ザンビアの学期の間の休みは1か月間と長いのですが、その間に、お泊まり会が計画されることが多く、その場合は、連泊になることがよくあります。ザンビアでは、親や親戚が泊まりにくる場合には期限をつけないことが多く、私の夫の家族がうちに滞在する際も、今回は1か月くらい、と、大雑把な予定で、実際には延長されることが多くありました。お泊まり会のスケジュールも同様に緩く、2泊か3泊くらいの予定で、という感じです。以前に、娘の友達がうちに泊まりにきた時に、1泊延び、もう1泊、とずるずる延びてしまい、親に電話で確認して迎えに来てもらった、という事がありました(このように、緩い予定でお泊まり会ができるのは、親同士が信頼できる関係にある場合に限ります)。

生徒同士が遠くに住んでいることもあって、学校を通じた子ども同士の付き合いは、相手も時間も限定されています。ただ、ザンビア人の親御さん達の学校への期待は、勉学に焦点が絞られており、学校の方も、情操教育の面よりも勉学を重視する傾向があるので、友達との交流が制限されているのは、親と学校の意図するところといえます。また、ザンビアでは、家庭や教会等、学校以外に子ども同士が交流する場があるので、子ども達の置かれた環境全体で見ると、バランスが取れているのかもしれません。

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学校で親のお迎えを待つ子ども達(左端:長女、最前列:三女)

教会

一般的に、教会の集会は、社会的な身分や経済的な状況に関係なく、様々な背景の人々が一堂に会します。教会に集う子ども達も、通う学校は様々で年齢も幅広いですが、たいていは幼い頃から親と一緒に集会に参加しているので、物心つく頃までには、慣れ親しんだ間柄となります。同年代の子ども達は、お互いの成長を確認し、時にはライバル意識をもつこともあるようです。例えば、教会での発言の回数や質問に正しく答える事ができたか等を、友達と競い合います。

前回の、子どもと大人との接点に関しては、いくつか課題も書きましたが、子ども同士の関係については、これといった課題が思い浮かびませんでした。子どもが子どもに囲まれて育って、年長者は年少者の面倒を見ることが自然にできて、何よりも、「みんな仲良く」という意識で子ども同士が交流できるのは、とても良い事だと思います。


  • *1 Zambia Demographic Health Survey 2013-2014
  • *2 Zambia Demographic Health Survey 2013-2014(地方の農村部の女性の合計特殊出生率は、都市部の女性のそれに比べると3人多い。また、ザンビアの合計特殊出生率は、1993年の6.5人から、2013-2014の5.3と、約20年間で1人以上減少している。)
  • *3 Zambia Demographic Health Survey 2013-2014(半数以上の母親は、出産の間隔が3年以内で、16%は2年以内に次の子どもを出産する。)
  • *4 赤ちゃんの世話は、女性に任されることが多いです。家事における男女の分担がしっかりしており、女性は、幼い子供の世話や、台所仕事、掃除を、男性は、庭の手入れや、力仕事を任されることが多いです。しかし、最近の若い夫婦の間では、男性も子育てを手伝う傾向が少しずつ出てきていて、街で赤ちゃんを抱っこしている若いお父さんを見かけることがあります。
筆者プロフィール
aya_kayebeta.jpgカエベタ 亜矢(写真右)

岡山県生まれ。1997年千葉大学医学部を卒業後、東京大学医学部小児科に入局(就職)、東京都青梅市立総合病院小児科勤務を経て、2000年にJICA技術協力プロジェクト(プライマリーヘルスケア)の専門家としてザンビアへ渡る。その後、ザンビア人と結婚し、3人の娘(現在、小4、小5、中1)を授かる。これまでザンビアで、小児科医として、HIV/AIDSに関する研究、結核予防会結核対策事業(コミュニティDOTS)、JICAプロジェクト(都市コミュニティ小児保健システム強化)等に携わってきた。一方、3人の子どもの母親として、日本から遠く離れたアフリカ大陸で、ギャップを感じつつも、新たな発見も多く、興味深い子育ての日々を送ってきた。
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