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【ザンビアの子育て・生活事情】 第9回 子どもを取り巻く環境 -大人との接点-

要旨:

ザンビアには、年長者を敬う文化が根強く残っており、家庭内での親の権威も保たれている。子どもは、家庭、学校、教会などの場で、親以外の複数の大人と日常的に接する機会がある。複数の大人と交流する機会をもつことは、子どもの成長にとって良い影響をもたらす部分が大きいが、一方で、虐待のように、大人が間違った方向に進んでしまうと、長年に渡って、子どもの心身に傷を残す事にもつながってしまう。

Keywords:大人との接点、家庭、学校、教会、虐待、大人との交流

日本とザンビアでは、子どもを取り巻く環境が非常に異なると感じます。子どもと大人の関係についてもそうで、ザンビアには、年長者を敬う文化は根強く残っており、家庭内での親の権威も保たれています。地方の農村部では、地域の長老(チーフ:chief)が、政治的にも権力を握っており、そういう背景も影響しているのかもしれません。今回は、子ども達と大人との接点について、いくつかの場面に分けて、ご紹介したいと思います。

家庭

ザンビアでも、都市部では核家族化が進んできて、夫婦と子どもだけで住んでいる家庭も多くみられます。ただ、核家族でも人の出入りは結構あって、地方から出てきた家族や親せきが宿泊したり、友人や知り合いが訪問したり、と、家の中に家族以外の人がいることは珍しくありません。地方にいる家族や親せきの子どもが、都市部にある学校に通うために、都市部の家庭に居候するのも一般的です。また、中流層以上の家庭では、ワーカー(家の管理のために勤務している人達)を雇っているところがほとんどです。ワーカーには、門番(security guard)、庭師(gardener)、メイド(maid)がいて、門番やメイドは、泊まりがけでの勤務体制のことも多くなっています。

私の家は首都のルサカにあり、基本的には、夫婦と子どもという構成でしたが、長女が2歳から5歳頃までは、親せきの女性が職探しのために同居し、その後、別の親せきの女性がルサカの学校に通学するために3年間ほど同居していました。住まいは、フラット(flat:集合住宅)だったので、敷地全体を管理する門番と庭師がいて、メイドも雇っていました *1。このように、核家族でも、子どもは親以外の多数の大人に囲まれて生活しています。一方、大人の側からすると、生活環境に家族以外の子どもがいることが多いといえます。多くのザンビア人は、子ども好きで、子どもに接することにも慣れているので、子どもの面倒をみるのを任せても比較的安心です。私の娘達も、同居していた親せきの女性やメイドとは、家族同様に関わっていました。私は、仕事で忙しくしていることが多かったので、子どもとゆっくり座って会話をする時間をなかなか確保できなかったのですが、代わりに親せきの女性やメイドが、年齢の離れた幼い娘達の話し相手となって、補ってくれていました。また、門番と庭師には、外で遊ぶ時に色々と面倒を見てもらっていたようです。庭の木になっているマンゴーやグアヴァは、彼らにとっても重要な食糧ですが *2、子ども達が寄って行くと、親切に取ってくれました。

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右から長女、次女、同居していた親せきの女性(長女が2歳から5歳頃まで同居)

ザンビア人の親は、たいてい、子どもに対して厳しく接することが多く、躾のために叩くこともしばしばあります。そこで、親以外の大人が子どもに注意する時には、「そんなことをしていると、親に叩かれるよ。」というように言うことがあります。ザンビアでは、他人の子どもでも、比較的遠慮なく注意したり、叱ったりする習慣がまだ残っています。ワーカーの人達の間で、色々な情報も交換されるため、時には、ワーカーの人達を通じて得た情報(近所の家の噂話など)を娘達が私に話してくれる、ということもありました。

学校

家以外での大人との接点は、学校、教会があります。第4回でご紹介しましたが、ザンビアでは、2歳から学校(ナーサリースクール:nursery school)に通い始める子どもも多く、学校生活での大人との関わりも、子どもの成長に大きく影響します。私の娘達は、幸い、先生との問題は経験していませんが、教師による暴力や性的虐待など、学校での問題を抱える子どもも多いようです。特に、女子生徒が教師に性的暴行を受ける被害はメディアでも継続的に報じられていて、ザンビア人の中でも社会的問題と認識されているようです *3

多くの女子生徒(特に低所得層の人達)が学校を途中でやめなければならない理由に、経済的理由と並んで妊娠があります *4。女子生徒の妊娠は、性的暴行によるものだけではありませんが、早すぎる年齢での妊娠は、女性に決定権がないことを示していると言えます。性的暴行の問題は、実は家庭の中にもあって、同居している大人からの性的暴行の被害も、ザンビアではとりたてて珍しいことではありません。

性的暴行から子どもを守る手段の1つとして、親が子どもと関わりのある大人達と、日頃からコミュニケーションを取ることを心がけて関係作りをすると同時に、親が目を光らせているということを相手に認識してもらうのが重要だと思います。うちの場合は、主に夫が子どもの送り迎えを担当してくれていましたが、送り迎えの短い時間を利用して、先生達とコミュニケーションを図るように心がけていたようです。

教会

ザンビア人の大半はキリスト教徒で、毎週1回は家族で教会に行きます。たいていの家族は、家族みんなで同じ教会に通いますが、ザンビア人同士の夫婦でも、それぞれ違う教会に通っていることもあります。うちの場合は、夫は娘達を連れて定期的に教会に行き、私は随時参加をする、という形を取っていました。同じ教会に通うということは、ザンビア人にとっては非常に重要な要素で、それをもって人を信頼し、逆に、異なる教会に通う人に対しては、なかなか心を開かないことも珍しくありません。聖書を読んだり、牧師さんのお説教を聞いたり、教会本来の活動は、子どもにとってはなかなか馴染めない部分もあるようですが、学校以外に同年代の子どもと接する機会を提供してくれる場という点が、教会に通うモチベーションとなっている感じがします。私の娘達も、同じ教会に通う同年代の友達が沢山いて、日曜日の集会の後に、友達の家族と一緒に遊びに連れ出してもらうことも度々ありました。私はたまにしか同行しなかったので、教会関係のお付き合いは夫に任せていましたが、同じ教会に通う家族で、夫も良く知っているという点では、安心して娘をお願いすることができました。また、教会に集う人々は、社会的な背景も様々で年齢層も幅が広いため、娘達にとっては、色々な人達との交流を経験できる貴重な機会になったように思います。

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日曜日の午後、教会の友達と一緒にランチ(右から長女、友人、次女、三女、友人)

ザンビアでは、親や年長者の権威が保たれていて、良い部分も多いのですが、一方で、権威のある大人が間違った方向に進んでいる場合には、その大人の管理下にある子どもに非常に悪い影響を与えてしまうことがあります。先述の性的虐待がその一例ですが、暴力による虐待もあります。以前住んでいたフラットで、ある晩に、近所の母親が、悪いことをした罰に娘さんを鞭で叩いた、ということがありました。泣き声と鞭の音が聞こえてきて、娘達はとても怖い思いでその夜を過ごしたようです。また、以前に仕事で雇っていた運転手の話ですが、その人は、子どもの頃に父親によく殴られて、大人になってもそれが心の傷になっていて、心のどこかでいつもびくびくしているところがある、と言っていました。

私の娘達は、幸い大人と良い関係を保つことができていた気がします。初めての子育てで、夫は長女に対して、非常に厳しく接していたのですが、うちを訪問した親せきがそれに気付いて、「厳しくし過ぎている。女の子には、もっと優しくしてあげないと。」と言ってくれたことがあります。夫の「子育ては厳しく」という信念は変わりませんでしたが、厳しくし過ぎていた、ということは認めて、その後は改めていました。このように、親以外の大人との交流を通じて、親には不足している部分を補ってもらうことができて、複数の大人と接点があることが良い方向に働いていた気がします。

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休日にドライブに出かけた先で(カフエ川のほとり):夫に手をひかれて歩く長女


  • *1 フラットでは、家主が門番と庭師を雇用してくれる場合が多く、その費用も家賃に含まれます。メイドは、各家庭で雇用し、費用も負担します。
  • *2 門番や庭師は、低所得層の人達が多く、給料も安いため、毎日の食糧を買うためのお金を確保するのも難しい事があります。マンゴー、グアヴァ、パパイア(パパイアは、木の高い位置に実をつけるため、マンゴーやグアヴァに比べると、通りすがりに取るのが難しいですが。)の木は、至る所で見かけます。それぞれ持ち主はいますが、たいてい、少しずつであれば、食べる事が黙認されています。(これは、中層からそれ以上の人が住む地区の場合に限られます。コンパウンド(非計画居住区)の場合は、持ち主が果物を売って、収入にあてるために育てているため、これは当てはまりません。)
  • *3 15歳~49歳のザンビア人女性の半数近くが何らかの形で、家庭内暴力を受けた経験がある。性的暴力を受けたことのある人の割合は、年齢や既婚・未婚による違いがあるが、2割前後に上る。(Zambia Demographic Health Survey 2013-2014)
  • *4 ザンビア人女性の半数が20歳までに出産を経験する。(Zambia Demographic Health Survey 2013-2014)
筆者プロフィール
aya_kayebeta.jpgカエベタ 亜矢(写真右)

岡山県生まれ。1997年千葉大学医学部を卒業後、東京大学医学部小児科に入局(就職)、東京都青梅市立総合病院小児科勤務を経て、2000年にJICA技術協力プロジェクト(プライマリーヘルスケア)の専門家としてザンビアへ渡る。その後、ザンビア人と結婚し、3人の娘(現在、小4、小5、中1)を授かる。これまでザンビアで、小児科医として、HIV/AIDSに関する研究、結核予防会結核対策事業(コミュニティDOTS)、JICAプロジェクト(都市コミュニティ小児保健システム強化)等に携わってきた。一方、3人の子どもの母親として、日本から遠く離れたアフリカ大陸で、ギャップを感じつつも、新たな発見も多く、興味深い子育ての日々を送ってきた。
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