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【ニュージーランド子育て便り】 第26回 オークランドの公園

要旨:

オークランドには、いたるところに公園がある。公園は、いつも子ども連れの家族で賑わっている。公園の光景は、ニュージーランドで子どもたちが伸び伸びと育つ姿を象徴しているように思える。公園は、そのデザイン段階から若者や子どもの意見を聞くなどして作られているようである。連載の最終回となる今回は、それぞれの立地や自然環境を活かした魅力的な公園の様子をレポートしたい。

今回で、ニュージーランド子育て便りは最終回になりました。最終回は、ニュージーランド(以下、NZ)らしく公園をテーマにしたいと思います。オークランドには、たくさんの公園があります。その数は、「playground」というカテゴリーに入るものだけで700以上にもなります*1。それも同じような公園が数多くあるのではなく、小さな子ども向けの公園と言っても、それぞれの立地条件や自然環境によって様々に工夫されており、デザインも遊具も実にオリジナリティにあふれています。公園からは、いつも幅広い年齢の子どもたちの楽しそうな声が聞こえてきます。娘も公園が大好きで、どこの公園に行っても連れて帰るのが大変なほど夢中になって遊びます。

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地面に埋まったトランポリン


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市の中心部のリノベーションされた公園


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リノベーションされた公園にある大きなブランコ


このように子どもを惹きつける公園はどのようにして作ることができるのだろうといつも思っていましたが、調べてみると、オークランドカウンシル(地方議会)のホームページには詳細なガイドライン「オークランド・デザイン・マニュアル*2」が存在していました。公園の整備は地方自治体の管轄となるようですが、公園を作るにあたり重視すべきこと、公園作りの手順や実例、チェックリスト等が公表されています。中でも、「子どもや若者が使いやすい公園やオープンスペースのデザイン」という解説は、非常に興味深いため、少しご紹介したいと思います。

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水遊びを楽しめる公園(ハンドルを回すと下から上に水を移動できる)


子どもや若者が使いやすい公園の特徴
  • 居心地がよく、モダンで楽しい-所属感をもたらし、若者が集まりやすい雰囲気がある
  • 多機能である-様々な機会や経験を提供してくれる
  • 交流できる場である-子どもや若者が合法的に集い、交流する場を提供している
  • 自然を活かしている-実験をしたり自発的に遊んだりできる自然豊かな場所を提供している
  • すべての人を受け入れる-年齢や障害の有無を問わず全ての人に、安全かつ健全な楽しみを提供している
  • 教育的である-学習、発見、探究の機会を提供している
  • アクセスや立地が良い-安全で分かりやすい動線があり、周辺とのつながりの良さをもたせている
出典:Auckland Council, Auckland Design Manual "Designing Child and Youth Friendly Parks & Open Spaces"より抜粋(参照2015年6月5日 )

なるほど、と思うことばかりですが、それを明記して共有していることに意味があるのかもしれません。各項目には、色を使う、若者の意見を聞く、許容可能な範囲のリスクと探検を提供する、などといった具体的な説明もあり、公園を作ろうとしている人には非常に参考になるものだろうと思います。

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自転車やスクーター(日本でいうキックボード)を楽しむ公園
小型のラウンドアバウト(円形交差点)


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自転車やスクーターを楽しむ公園(曲がりくねった道/工夫されたコース)


また、これは私が見た限りのことですが、NZの公園は遊具の使い方やデザインがユニークであるにも関わらず、私たちの訪れた公園で遊具の傍に「使い方の説明」「コンセプトの説明」などを見つけたことはありません。私なら、「こんなに思いのこもったデザインに作りあげたのだから、説明書きの看板でも作りたい!」と思ってしまいそうですが、使い方は使い手にゆだねられているようです。説明がないためか、娘も(時には私も)必死でどうしたらうまく使いこなせるかを試行錯誤します。先日、たまたま通りかかった公園では先にいた親子に「これ壊れているのよ」と言われた遊具がありました。水の勢いを調節すると水車がまわる仕組みです。その親子連れがいなくなったあとも私たち家族で試行錯誤しているとようやく仕組みがわかり、壊れていないことが分かりました。こうして「遊具の使用方法」がどこにも書かれていない公園では、使い方を考えて発見したり、他の人と会話をして試行錯誤したりするという楽しみもあるのかもしれません。例え、1回で使い方が分からなくても、次回来た時に、誰かがうまく使っていると、そこで発見があるわけです。

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自転車やスクーターを楽しむ公園(交差点・坂)


こうして、魅力的なオークランドの公園をご紹介しましたが、子どもたちの遊び方も日本とは少し違っているな、と思います。例えば、遊具の使い方です。日本では、滑り台はひとりひとり順番に滑るよう大人がルールを伝えていた印象があります。オークランドでも基本的には同じなのですが、幅広い年齢の背景が様々な子がいるためか、そういった暗黙のルールを知らない子どもというのが日本よりもかなり多い割合でいるのです。例えば、のんびりマイペースで後ろに行列していてもお構いなしに滑ってしまう子ども、逆から登ってくる子ども、気分が盛り上がっていて順番どころではなくなっている子ども、まだ小さくて何もわかっていない子ども、加えて英語が分からない子ども、などなど。そんな子どもがいても、他の子はだいたいゆっくりと待ってあげるか、黙って観察していることが多いようです。「順番だよ」と注意するでもなく、「早く」と声をかけるでもなく、まるで新しい使い方を観察しているようでもあり、イライラする様子もありません。そして多くの場合はトラブルも起きず、これといった会話もなく自然と解決していきます。大多数の子どもとは違う使い方をする子どもを容認できるNZの子どもたちの姿を見ていると、先に大人が教えたルールありきで公園を使う必要はなく、その場その場で子どもたちは考えて使っていけるのだなと思います。

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長いすべり台


公園は、子どものみではなく幅広い年齢の人たちが集います。10~20代の若者たちが公園で集っている場面もよく目にします。ピクニックは、子どもたちはもちろん大人の大好きなことのひとつです。ランチボックスを持ち込み、シートを敷いて、遊んでは食べ、遊んでは食べ...を繰り返す子どもたち。また、バーベキューが大好きなNZ人らしく、バーベキューの設備が公園についているところもあれば、バーベキューの用具一式を持ってきて友人家族と楽しむというのも公園の使い方のひとつです。私のお気に入りは、海岸近くの公園です。オークランドは海に面しているため、海沿いに公園があり、公園で遊んだ延長で海岸でも遊べるようになっているところがたくさんあります。幅広い世代が過ごしている公園で、海の波の音と子どもの笑い声を聞いている時間は、NZに来てからの幸せを実感する時間です。いつまでも、子どもたちが公園で楽しく過ごしていけるオークランドであって欲しいなと思います。

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異年齢の子どもたちが自然に遊ぶ


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大きな子どもも楽しめる遊具


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若者(主に10代の男の子)が集う公園
本格的なコースでスケートボード、自転車、
スクーターを楽しむことができる


これまでの連載では、NZの子育てに関わる、なるべく幅広い分野のトピックをとりあげてきました。何かご興味をもって頂けたことがあれば幸いです。私自身、執筆をする中で学んだことも、生まれた出会いも多くありました。今まで、ありがとうございました。
筆者プロフィール
村田 佳奈子

お茶の水女子大学卒業、東京大学大学院修士課程修了(教育学)。資格・試験関連事業に従事。退社後、2012年4月~ニュージーランド(オークランド)在住。
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