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【スウェーデン子育て記】 第1回 お父さんの子育てと育児休暇制度

はじめまして。留学生としてスウェーデンで暮らし始めてからほぼ20年。現在は首都ストックホルムで、スウェーデン人の夫とともに、保育園と小学校に通う二人の娘を育てています。

ここ数年、ファッションブランドのH&Mや家具・インテリアショップIKEAのようなスウェーデン企業の進出によって、日本ではスウェーデンのデザインや生活様式が注目を集めているという話をよく聞きます。また、北欧の福祉政策や社会保険制度などがメディアで紹介されることもあるようですが、こちらの国の子育て事情となると、日本で紹介されることは少ないかもしれません。私自身、子育て、とは言っても親が教えられることのほうが圧倒的に多く、まわりの家族や友人に助けられている毎日です。その点においては、日本でもスウェーデンでも変わりはないと思いますが、文化の異なる国で初めての子育てとなると、戸惑うこともたくさんあります。毎日の子育て生活の中で、面白いなあと思うことや、疑問に思うことをお伝えしていこうと思います。

スウェーデンの基礎情報

スウェーデンは北ヨーロッパのスカンジナビア半島東側に位置する、南北に細長い国です。面積は日本の約1.2倍ありますが、人口はおよそ975万人と少なく、国土のほとんどが森と湖で占められています。高い山がほとんどないので、地形は平坦です。冬の寒さは長く厳しく、10月から3月ごろまでは暖かい上着が欠かせません。スウェーデンの中央部にあるストックホルムでも、最低気温がマイナス20℃になることがあります。日照時間が少なくなる冬は、太陽の見えない日も多いので日本人にとってはビタミン不足にならないための注意が必要なほどです。ところが夏になると、気候は非常に快適で、気温は20℃から25℃前後。湿気がなく乾燥しているので過ごしやすい季節です。しかも夏は白夜が続くため夜まで明るく、気がついたら夜だった、なんてこともあります。

言語はゲルマン語族のなかの、スウェーデン語です。同じ語族のドイツ語や英語と似ています。ほとんどのスウェーデン人は英語が非常に堪能なので、外国人観光客にも安心だと言われています。

首都ストックホルムはバルト海とメーラレン湖が交わる水辺にあります。市の中心地にあるリッダー湾からはストックホルム群島を巡る船が発着し、大型の客船がバルト海の国々に向かって出航しています。スウェーデン全体の産業は農業や林業が主ですが、ストックホルムでは金融業やIT産業が盛んです。近年は日本への関心が高く、毎年4月には市の中心部にある王立公園で「さくら祭り」が開かれており、日本の文化や食べ物に興味のあるスウェーデン人が大勢集まっています。

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ストックホルムの景色

お父さんの子育てと育児休暇制度

日本とスウェーデンでの子育てをくらべて、まず私が初めに思いつく大きな違いは、父親の育児への関わりが大きいことです。学生としてここで生活していたころはあまり気にしませんでしたが、スウェーデンでの妊娠・出産を経験してから改めてまわりを見ると、子育てのあらゆる場面でお父さんが積極的に育児に参加している場面を目にします。まず妊娠中の健診にお父さんが付き添っているのは普通の光景、そして病院での出産時にはお父さんの立ち会いがほとんど義務のようになっています。

子どもが生まれたあとも、お父さんは当たり前のように育児に参加しています。街で見かけるベビーカーを押す人の半分はお父さんではないでしょうか。ママ友ならぬ、パパ友で連れ立って散歩したり、スーパーで買い物している姿もよく見かけます。スウェーデン人の友人たちの話を聞くと、お父さんが子育てを頑張っているというより、親として自然の流れで子どもの世話をしているという感覚のようです。北欧の男性は、家事も育児も協力的で奥さんも大助かり!というようなイメージもありますが、私が見る限りでは男性の家事の好き嫌いに関しては日本もスウェーデンもあまり大差はありません(家事の好きな男性ももちろんいらっしゃいます)。違いがあるとすれば、スウェーデン人男性にとって家事・育児へのハードルが高くなく、抵抗感も少ないということでしょうか。

お父さんもお母さんと同じように子育てに参加していることの背景には、それまでの慣習、という面もあるでしょうが、スウェーデンの育児休暇制度の充実があると思います。例えば、私自身も非常に助けられた、社会保険法に定められた育児支援に関する制度のひとつが、子どもの出産から10日間は、父親や、または母親のほかに親権をもつ人(母親が同性愛者の場合は女性パートナーなど)が会社から有給休暇をとることが認められているということ。出産後の母親を助け、子どもと接する時間を作るために設けられているそうです。日本のように、母親が里帰り出産をしたり、実家の親が長期間滞在して、手助けに来てくれるという話はスウェーデンではあまり聞いたことがありません。子育てはあくまでもお父さんお母さんの義務である、という認識なのでしょう。

それにしてもたった10日間では、という感じもしますが、ほとんどの母子は出産後2日間くらいを産婦人科で過ごしたあと帰宅します。聞いた話では、出産したその日に帰る人もいるとか!スウェーデンの母強し、です。もちろん、お母さんや赤ちゃんの体調が良好であれば、ということですが本当に驚きです。帰宅して10日間はお父さん、お母さんがそろって育児をしていますから、その期間に地域の担当である助産婦さんが各家庭を訪問し、赤ちゃんの体重測定や体調チェックをしてくれたり、子育ての不安や悩みを聞いてくれたりします。

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ストックホルム王立公園の桜

この10日間が過ぎると、ほとんどの場合、お母さんがそのまま育児休暇にはいります。スウェーデンのプレスクール(日本での幼稚園・保育園にあたる)は1歳からの受け入れとなっており、乳児を預かってくれるところはありません。プレスクールに通い始める年齢もいろいろですが、だいたい1歳から2歳くらいが一般的のようです。社会保険法によって、一人の子どもにつき両親が合わせて480日間(約16か月間)の育児休暇をとることが認められているので、それぞれの家庭が工夫して子育てを分担しています。この480日間のうち、390日間の育児休暇手当は、親権者の給与の約80%が支給され、残りの90日間はどの家庭も一律の金額が行政から支給されます。480日間の育児休暇日数は両親が半分ずつにわけてもいいし、どちらかが多くとってもいい。仕事の割合も、会社との話し合いによって変えることができます。フルタイムの一日の仕事を100%とすると、そのうち50%を仕事にあてて、あとの50%を育児休暇という形にしてもいいし、そのスタイルは様々です。我が家の場合は、長女のときも次女のときも最初の一年間は私が100%の育児休暇をとっていました。子どもがプレスクールに通うようになってからも、しばらくは仕事を50%に減らし、あとの50%は育児休暇手当をもらっていました。自分のペースで仕事と育児を両立できる、有難いシステムです。

男女平等を盛んに議論し、共稼ぎ家庭が一般的であるスウェーデン社会だからこそ、子育てをする親への支援制度は必須であり、自然なものなのでしょう。私もまだ当分の間は、この制度のお世話になります。

筆者プロフィール
下鳥 美鈴

東海大学文学部北欧文学科卒業。ストックホルム大学で修士課程を終え、ウメオ大学(スウェーデン)で博士課程を修了。言語学博士。現在ストックホルム大学勤務。
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