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【ニュージーランド子育て便り】 第24回 オークランドの図書館

要旨:

オークランドの図書館は、実に活気があり、いつも多くの人で賑わっている。子連れの親子もとても多く、私たちも何度となく足を運んでいる。子ども向けプログラムも非常に充実している。本が大好きに見えるオークランドの人たちに愛される図書館の様子を紹介したい。

オークランドには全部で55の図書館、4つの移動図書館があります。中でも、中心部に住む私たち親子が頻繁に通っているのは、オークランドの市街地に位置する中央図書館(Central City Library)です。本を借りるだけでなく、娘が自宅のアパートで時間を持て余した時の暇つぶしや、お友達に会う場所として、子ども向けプログラムが開催される時間に...と、本当によく通っています。インテリアなど物理的な魅力があるだけでなく、プログラムやライブラリアン(司書)の姿勢からも、子どもが本を楽しめるよう様々な工夫をしていることが伝わってくるオークランドの図書館の様子をご紹介したいと思います。今回の執筆にあたり問い合わせをしたところ、ライブラリアンに、日本語を交えて、改めて中央図書館を案内して頂くことができました。オークランドにある図書館全体では日本人のライブラリアンが複数人働いているのだそうです。

図書館の子ども向けスペース

中央図書館は、昨年子ども向けスペースをリニューアルしました。メインエントランスを入ってすぐ奥が子どもスペースのため、ベビーカーなどでも行きやすくなっています。建物1-2階部分が図書館ですが、図書館の1階の3分の1ほどは子ども向けスペースに割かれています。ここには、毎日幅広い年齢(0歳~小学生)の親子がたくさん集まっています。このスペースには、子どものリーディング練習用の本*1 、CD、DVD、フィクションやノンフィクションの本が壁沿いに収納されており、中央にはワゴンに小さな子ども向けの絵本が収納されています。このワゴンは、大勢の子どもたちが集まるプログラムの時には邪魔にならない場所に移動することができます。

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小さな子ども向け絵本のワゴンの下には、たくさんのクッションが入っています。
大勢集まるプログラムの時などは、クッションを敷いて床に座ります。

この子ども向けスペースは、全体として川を泳ぐタニファ*2をイメージしてデザインされているとのこと。壁沿いに青く光っている部分は、かつて市の中心を流れていた川をイメージし、青い川を泳ぐタニファには、子どもを見守るような意味を込められているそうです。子どもスペースの中央部分は、かつてオークランドの中心部も森であったので、森をイメージしたデザインということ。子ども向けスペースは座るところがとても多くあり、時間によっては子どもがいっぱいで、走り回ったり騒いだりしていることもあります。誰かが楽しいことをすれば、子どもたちがどんどん参加していき、ヒートアップすることも度々。それでも、ライブラリアンの方たちは出来る限り、子どもたちの好きにさせているのだそうです。例え本を棚から出すだけでも、絵本を投げたとしても、子どもたちには本のあるこの場所で楽しい時間を提供したいとおっしゃっていました。娘には小さい時から図書館は静かに本を読む場所と教えてきましたが、楽しむということも大事にしようと今回思った次第です。写真は、開館直後に、人の少ない時に撮影しましたが、本が床に、テーブルに、座る場所に、とたくさん出ているのが見慣れた光景です(もちろん、読み終わったら元の場所に戻す子もいて、子どもによって様々です)。

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タニファの顔部分。娘はオレンジ色部分の穴の中に入って本を読むのが大好きです。

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森をイメージした子ども向けスペース中央部分/ 左端の緑の部分はタニファの尻尾部分
(旧正月(Chinese New Year)の時期なので、カラフルな飾りつけが天井にしてありました。)

また、図書館により個性があり、子ども向けスペースが非常に大人っぽい図書館もあります。パズル、型はめなど子ども向けスペースに置いてあるおもちゃも、図書館によって様々です。時々、郊外へ遊びに行くときには、図書館に寄ってみるのも、とても楽しいものです。

乳幼児向けプログラム
娘が2‐3歳の頃よく通っていたのは、Story time(読み聞かせ)というプログラムです。通常のセッションは、絵本を1‐2冊読むと、歌を1曲歌うという繰り返しです。その他に、2歳までの子を対象としているWriggle & Rhyme(からだを動かす遊び&歌)、1歳半から3歳までを対象としているRhymetime(歌とゆび遊び)というプログラムが毎週決まった曜日に開催されています。こちらは、歌遊びがメインのようです。私たち親子も、Story timeで会ったお友達と仲良くなったこともありますし、お友達と一緒に通ったこともあり、有難いプログラムでした。この時間自体は、子どもにとっても楽しいのでしょうが、親にも、他の親と出会う場所を提供してくれています。特に市の中心部に位置する中央図書館は、利用者の多くは若い家族であり、コミュニティとの繋がりが強い郊外*3と異なるため、このような親同士の出会いの場としての役割を認識しているそうです。更に、Rhymetimeは、中国語での実施もあるとのこと。今現在、日本語のプログラムはないそうですが、将来、日本語のプログラムもできたらいいなと思いました。

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乳幼児向けプログラムの案内(中国語の案内もあります)

小学生向けプログラム

今回、小学生向けプログラムとして教えて頂いたのは、夏休み中のサマー・リーディング・プログラムというものです。小学生(5歳~12歳)に、夏休みの2ヶ月の間、本を読むことを継続して欲しいというのが狙いだそうです。まず、子どもたちには、サマー・リーディング・プログラム用のファイルが与えられます。ファイルには様々なワーク(自分のことや、読書の目標を書く)があり、子どもはそれぞれ、例えば「毎日2章ずつ本を読む」といった目標を立てます。最後まで目標を達成すると、図書館からパーティへの招待状が届き、パーティに参加できるそうです。今年の夏休みは、中央図書館の子どもたちのパーティはオークランド・ドメインという市民憩いの大きな公園で開催され、たくさんの子どもたちが集まったそうです。こちらのプログラムは、娘は対象年齢外のため未体験ですが、とても楽しそうな仕組みで感心しました。一緒に話を聞きに行った娘も、既に5歳になったら参加する気満々です。他にも、図書館によってはライブラリアンが宿題の支援(Homework Centres)をしているところなど、様々なプログラムがあります。

様々な国の絵本

中央図書館には様々な言語の絵本があり、日本語の絵本も取り揃えられています。娘も、ここで日本語の絵本を借りて読んでいます。中央図書館に加え、日本人の多い地域にある5つの図書館に日本語の本が置かれているそうです。今回、図書館に所蔵して欲しい本のリクエスト方法も教えてもらったので*4、ぜひ子どもたちに読んで欲しい日本の本が思いついた時にはリクエストしてみようかなとも思っています。また、英語のデジタルライブラリーは子ども向けのものも充実しており、図書館利用者カードを持っている人は自分の端末にダウンロードして楽しめます。日本語版デジタルライブラリーはないそうですが、中国語版は既にあるのだそうです。

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日本語の絵本コーナー

最新の技術を紹介

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3Dプリンター

中央図書館には3Dプリンターがあり、使い方講座も開催されているとのこと。人々に、最新の技術に触れてもらう機会を作ることも大事にしているのだそうです。子ども向けに工作のセッション、タブレット端末のセッションを設けている図書館もあります。

オークランドの図書館について、今回は、子どものことに特化して紹介しましたが、大人も大勢の人が図書館に通っており、いつも予約の本がずらりと、長い本棚いっぱいに並んでいます。大人の場合、勉強やパソコン作業をする場所として使っている人も多くいます。オークランドの図書館のライブラリアンの方々は、「子どもが本を読むことは、勉強というよりも、純粋な楽しさや創造性に繋がっているというとらえ方をしている」と強調していました。オークランドに来て以来、大人も子どもも本が好きな人が多いような印象をもっていましたが、今回は、その背景を垣間見たような気がしました。娘共々大好きな図書館ですが、今回、より多くの魅力を教えて頂いたことを機に、さらに今後も通うことが楽しみになりました。


  • *1 子どもたちのリーディングスキルにあわせ、レベル分けされている薄い絵本。日本では、オックスフォードリーディングツリーなどが有名です。
  • *2 タニファとは、マオリの想像上の生物。日本で言う龍のような形をしています。 http://www.teara.govt.nz/en/taniwha
  • *3 NZでは、オークランド中心部を離れた郊外では、住んでいるコミュニティへの愛着や繋がりがとても強いように思います。市の中心部は、海外から来たばかりの人なども多く、そういった繋がりがあまりないので、郊外と比べると子育てする親も孤立しがちです。
  • *4 所蔵してほしい本のリクエストは、図書館の利用者としてログインした後の画面で行うことができます。
  • 参考URL:オークランド図書館のウェブサイト http://www.aucklandlibraries.govt.nz/
筆者プロフィール
村田 佳奈子

お茶の水女子大学卒業、東京大学大学院修士課程修了(教育学)。資格・試験関連事業に従事。退社後、2012年4月~ニュージーランド(オークランド)在住。
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