CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 論文・レポート > 子育て応援団 > 【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第1回 小学校の入学式

このエントリーをはてなブックマークに追加

論文・レポート

Essay・Report

【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第1回 小学校の入学式

要旨:

ベルリンでは8月末に小学校の入学式が行われた。ドイツでは一生に一度の大イベントと捉えられている入学式だが、日本よりだいぶカジュアルな印象を受けた。校長がスピーチで、「他人は自分と違って当たり前」と繰り返していたとおり、参加者も様々な格好で、個々の違いを尊重する文化であることを再認識した。息子は新しく始まる学校生活を心待ちにしてきた一方で緊張もしていたが、顔見知りの子どもを見つけてからは打ち解けた様子で、こちらも胸をなでおろした。

Keywords:
ドイツ、ベルリン、小学校、入学式、学童保育、シュリットディトリッヒ桃子

≪今回からは【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】(小学校編)と改め、新連載としてスタートすることになりました!過去の連載【ドイツの子育て・保育事情~ベルリンの場合】(保育園編)はこちらからご覧ください。≫

ベルリンでは8月の最後の週末、一斉に小学校の入学式が行われました。最近はギムナジウム(総合大学進学を前提とした高等課程の学校)などでも入学式を行うところもあるようですが、一般的にドイツの入学式といえば、伝統的に行われている小学校の入学式のことを指し、一生に一度の大イベントと捉えられています。この日は私たちにとっても忘れられない一日となりました。

前回、「小学校説明会」の稿でお伝えしたとおり、今年、新一年生となった子どもの数はベルリン全体で3万人超。息子の小学校でも、入学式は2つのグループに分かれ、10時開始の回、11時開始の回と時間差で2回行われました。また、場所も小学校ではなく、収容人数の多い近所の高校の講堂で催されました。

息子は後半のグループでしたので、私たちは集合時間の10時半に集合場所である高校の校庭に到着しました。すると、既に多くの子どもたちとその家族で校庭は賑わっていました。子どもたちは息子同様、少し緊張した面持ちで「ランツェン」とよばれる大きなリュックサックのような鞄を背負っています。

しばらく様子をうかがっていると、どうやらクラスの名前の花を持った担任の教師および学童保育の保育士のところへ集合している模様。前回の記事でもお伝えしたように、この小学校では入学後2年間は1-2年生合同で授業を行います。その間、保育士が授業補助として授業に参加することもあるので、教師と保育士は連携しているようでした。

息子のクラスは「ひまわり組」だと入学説明会にて知らされていたので、私たちはひまわりを持った先生のところに近づいていきました。夫が「先生、こちらが息子のLです。L、こちらが君の先生だよ」と双方を紹介すると、優しそうな先生は「まあ!入学おめでとう!」と声をかけてくれました。緊張していた息子はカチコチになって、そのまま棒立ちで「ハロー」と挨拶し、求められるがままに握手をしていました。

report09_154_01.jpg
入学式の前に先生とご対面!

実は、息子は学区外の保育園に通っていたため、小学校には知っている子どもが誰もおらず、それが緊張の原因となっていたのです。「僕はもうお兄ちゃんだから、もう保育園には行かないの。早く学校に行きたいな!」と学校生活を楽しみにする一方で、数日前からは「誰も知っている人がいないから、入学式は行きたくない」と顔を曇らせることもありました。

そんな時には、「日本からドイツに来たときは、だーれも知ってる人はいなかったし、ドイツ語も今みたいに上手に話せなかったよね?でも、だんだんお友達も増えて、楽しくなってきたでしょ?今は、ドイツ語も上手だし、またすぐに新しいお友達もできるよ!」と励ますと、本人も前向きになったかのように見えました。しかし、当日は雰囲気に飲まれてしまったのか、私の手をぎゅっと握って、決して離そうとしませんでした。

また、私たち家族が日本に里帰り帰国していた8月から学童保育は既に始まっており、保育士とクラスメートたちの一部は顔見知りになっていた模様。親しげに話している彼らの横で、全員と初対面の息子の顔はこわばったままです。しかし、そんな状況を察してか、先生は優しく息子に話しかけてくれ、こちらも少し安心しました。

しばらくすると「保護者の方は、建物3階の講堂へ移動してください」とアナウンスがありました。笑顔を全く見せない息子を校庭に残して、一足先に建物に入るのは気が引けたのですが、夫と「一年生の君は、先生やお友達と一緒に来るんだよ」と言い残し、先に講堂へと向かいました。

ちなみに日本で入学式といえば、保護者はほとんどスーツを着ていたと思いますが、こちらでは様々。パンク風のモヒカンヘアのパパ、肩や首の大きなタトゥーを見せびらかすかのように背中が大きく開いたドレスを着たママ、ジーパンにシャツという普段着の人々も、多く目につきます。かと思えば、「さっきヘアサロンに行ってきました」と言わんばかりに、頭の先からつま先までばっちり決めたママも!

先生方も、校長先生が黒のスーツを着ていた以外は、ワンピース、ジーパン、コットンパンツ、足元もブーツ、サンダル、スニーカー、となんでもあり!全体的にカジュアル志向で、スーツ姿の私たちは少しオーバードレス気味でした。といっても、この学校のモットーのように「他人は自分と違って当たり前」というマルチカルチャーの土壌があるためか、他の人の服装を気にする人はいないので、気が楽でした。

主役の子どもたちの格好といえば、男の子はほとんどが襟付きの綿シャツにジーパン、女の子は王女様のような白やピンクのワンピースが多かったです。多民族都市だけあって、中には中東やインドの華やかな民族衣装を着た人もいました。息子は、夏休み中に日本でおばあちゃんに買ってもらった薄いベージュのコットンパンツをはき、ボタンダウンの白いYシャツに蝶ネクタイをしめ、ベージュのカーディガンを羽織っていました。こちらも、親同様、少しオーバードレスの感もありましたが、その日、我が家にお祝いで集まった親戚たちには大好評でした。

ところで、前回の記事でお伝えしたように、説明会であれだけもめた入場チケットでしたが、保護者席には所々空席が見られ、「あんなに興奮することなかったのに!」と拍子抜けしました。ちなみに、我が家からは息子の叔父、祖父と私たち夫婦の4人で式典に参加しました。

さて、式場の講堂に着席すると、いよいよ新一年生の入場です。先生を先頭に2列で行進してきた子どもたちは、大きな拍手で迎えられ、ステージ前方にクラスごとに着席しました。

report09_154_02.jpg
入学式が行われた講堂。前方のステージ前の空いている席が新入生用。

全員が着席すると、ステージ上ではクラスメートとなる2年生と、ちょっと年上の4年生による歓迎の音楽や詩の朗読が始まりました。堅苦しいところは何もない、手作り感満載の式典で、なんだか心がじんわり温かくなりました。「来年は息子も、あのステージ上で新入生を迎えるのかしら」と思いを馳せていると、校長先生の歓迎のスピーチが始まりました。「周りを見て下さい。自分と異なる髪の毛や肌の色の人が沢山いますね。このように自分と他の人は違っていて当たり前なんですよ」と、一人一人がユニークな存在であることを何度も強調しており、やはり、個々の違いを尊重する文化なのだなあ、と再認識しました。

そして、いよいよ式のクライマックス!クラスごとに新入生の名前が呼ばれ、ステージ上に一人一人進みます。名前が呼ばれる度に、会場からは拍手が送られ、中には、「ヒューヒュー!」と口笛を吹いたり、嬉しそうに大きな声を上げる保護者も!私たちも息子が呼ばれた時には、一際大きな拍手を送り、ステージから見えるように大きく手を振って、息子へお祝いの気持ちを示しました。

ステージに上ると、子どもたちは先生から赤いバラを一本ずつもらって握手し、一列に並びます。息子のクラスの新一年生は女子3名、男子6名、計9名。息子のように顔がこわばっている子、客席にいる家族に向かってほほ笑む子、隣の子とヒソヒソ話をしている子など、子どもたちの表情も様々です。

そして、お待ちかねの写真タイムに突入!この時だけは客席を離れてステージ前に来ることが許されていた保護者たちは、ここぞとばかりに壇前に殺到し、フラッシュがこれでもかというくらいたかれます。私の夫も息子の晴れ姿を写真に収めようと必死になっているのが目に入り、思わず笑ってしまいました。

report09_154_03.jpg
式で頂いたバラの花

さて、先述のとおり、式の直前まで緊張のあまり私の手をしっかり握って離さなかった我が息子ですが、折しも同じサッカークラブに通うチームメイトを発見したらしく、それからはだいぶ打ち解けた様子。壇上から席に戻ってからは早くも、先生に頂いた深紅のバラの花で、隣に座っている男の子とチャンバラごっこをしている様子が見えました。「あっちゃー!」と思うと同時に、ほっとした瞬間でした。

そうこうしているうちに45分間の式が終わり、子どもたちは先生と一緒に高校の講堂から小学校の教室へ歩いて移動します。早くも小学校で最初の授業が行われるからです。といっても、授業は一時限(45分)だけで、教室やトイレの確認、自己紹介や学校の規則に関する説明が行われたそうです。

続いて、保護者や親戚たちも小学校へ移動、子どもたちが最初の授業を受けている間、学校の食堂でカフェタイムとなりました。「毎日、ここで息子たちはお昼ご飯を食べるんだなあ」と感慨にふけりつつ、式の後の程よい疲労感をコーヒーとクッキーで癒しました。

その後は授業が終わる頃に、校舎の前で子どもたちを出迎え、一緒に記念写真を撮り、帰宅。ひとまず式典が終わり、家族でほっとしました。といっても、まだ昼過ぎ。人生の一大ハレの日はまだまだ続きます。その様子は次回お伝えしたいと思います。

report09_154_04.jpg
入学式からの帰り道にて

筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

インクルーシブ教育

社会情動的スキル

遊び

メディア

発達障害とは?

論文・レポートカテゴリ

アジアこども学

研究活動

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP