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【ドイツの子育て・保育事情~ベルリンの場合】 第33回 卒園

要旨:

ドイツでは日本のように入園、卒園式はないが、夏になると子どもたちの成長を披露するパーティを実施したり、園の旅行に出かけたりする。息子も園での1泊お泊り会の後、ベルリン郊外に4泊5日旅行に行ってきた。楽しそうに旅行の話をする息子を見て、彼の成長を改めて実感すると同時に、渡独後3年間の出来事が色々と思い出された。秋からは小学校での成長が楽しみである。

ドイツでは7月が卒園・卒業シーズンです。渡独以来、息子が3年間お世話になった保育園とも、とうとうお別れです。といっても、日本のように卒園式があるわけでもなく、最終登園日を待たずして、夏季休暇に入ってしまう子どもたちもいます。そういえば、入園式もありませんし、ベルリンでは日本ほど入卒園の区切りが明確にされているわけではないようです(詳しくは、第24回参照)。

一方で、6月には全園児および保護者を招いてのサマーパーティが園庭で催されました。これは卒園パーティではないのですが、毎年、園児が歌や劇を披露するので、彼らにとっても一大イベント。保護者たちも子どもの成長を目の当たりにすることができる貴重な場です。

今年のパーティでは、園児たちは第29回でお伝えした「プロジェクト『職業』」の際に観賞したオペラ「アリババと40人の盗賊」を披露しました。そこで、なんと息子は主役の「アリババ」に抜擢されていましたが、それまで何も知らなかった夫と私は大変驚きました。というのも、この劇は保護者たちへの「サプライズプレゼント」として、ずっと先生たちと子どもたちの間で「秘密」にされていたからです。毎日毎日練習してきたのにも関わらず、このことに関しては保護者に報告していた子どもは一人もいませんでした!ですから、劇が始まると、他の保護者たちからもどよめきの声が上がりました。いつの間にか、秘密を守れるようになった子どもたちの成長ぶりに、嬉しいような、これからも秘密を作っていってしまったら寂しいような複雑な気持ちだね、と話していました。

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盗賊たちが「開けゴマ!」と言っている間に、
アリババに扮した息子が木の上から彼らの人数を数えている場面。
保護者たちは黒子となり、大道具を支えている。

また、6月下旬に息子は4泊5日でベルリン郊外の湖畔に園旅行に行ってきました。この旅行は4歳児以上の園児全員が対象ですが、息子にとっては今年が最初で最後の参加となりました。というのも、去年4歳だった息子は、私と夫が出張のためベルリンにいなかったので、「緊急時のために、園児の旅行期間中は保護者がベルリンに滞在していること」という参加条件のこの旅行に参加できなかったからです。

ちなみに、第18回でお伝えした保育園での1泊お泊まり会はこの旅行のための練習です。私が日本の幼稚園に通っていた頃は、お泊り会といえば、年長時に園に1泊するだけでしたが、息子の保育園では4歳児以上のクラスで毎年、1泊の園でのお泊まり会と4泊5日の旅行の二つに参加することになります。園によっては、2歳児以上のクラスが対象となっているところもあるのだとか。ベルリンでは子どもはたくましく育ちそうです。

一方、子どもたちが旅行中のこの5日間は、親にとっては絶好の「お休み期間」。「親が幸せでなければ、子どもは幸せに育たない」という価値観が強いベルリンでは、時々ベビーシッターに子どもを預けて、夫婦水入らずの時間を意識的にとるようにしている保護者が多いようですが、私たちも息子が旅行に行っている間、夫は一日会社を休んで、夫婦水入らずで、普段はなかなか行くことができない映画館や美術館に行き、リフレッシュすることができました。

また、旅行中、ベルリンらしいと思った出来事があります。当日は子どもたちが無事に現地に到着したら、その旨を連絡網で回すという決まりになっていました。朝10時ごろ出発して、普通なら3時間ほどで到着、ということだったので、昼過ぎの連絡を待っていました。しかし、なかなか連絡は来ず、結局連絡がきたのは午後4時半!後日、先生に事情を聞いてみると、「到着後にすぐ●●君の誕生日パーティを始めたから、電話するのが遅くなっちゃったのよ」とのこと!夫は「何かあったら、すぐに先生から連絡が来るのだから、便りのないのは良い便りだよ」などとのんきに構えていましたが、私は少しヤキモキしてしまった午後でした。

さて、5日間はあっという間に過ぎ、園に戻ってきた息子をお迎えに行った時のこと。先生は「息子さんは全く問題なかったわ。夜、ホームシックで泣いてしまうこともなく、 乗馬をしたり、プールに入ったり、バーベキューをしたり、めいっぱい楽しんでいたわ。ただ、さすがに疲れたのか、昨日の夜には『ああ、やっと明日うちに帰れるね』って言ってたけど!」と仰っていました。そんな話を園庭でしている間、私に気づいた息子は脇目も振らず駆け寄ってきました。ぎゅーっと5日分、抱きしめてあげると、ようやく顔を上げて嬉しそうに言いました。「ママ、僕、昨日の夜ね、バーベキューをして、ソーセージを食べたの!」この一言を聞いて、私もすっかり安堵しました。

3年前に渡独し、入園した時は3歳だった息子。当時は、言語の違いは勿論、日独のお友達との接し方の違いなどに戸惑って、ソファでクラスメートを独りぼっちで眺めている時期もありました。また、保育園や公園で他の子どもに邪魔されても何も言えず、ただ泣いていた時期もありました。

私も保護者として積極的に保育園で他の子どもたちや他の保護者に触れ合い、情報交換したり、有意義な時間を過ごすことができた一方、日独の子育て観の違いに戸惑ったこともありました。日本の保育園では連絡帳などを通してきめ細かな対応をしてくださった印象がありますが、 ベルリンでは連絡帳もなく、さらに「自由遊び」という名の元、息子が放置されているように思ったこともあります。また、第7回でご紹介したように、「親は親、子どもは子ども、子どもの遊びには関与しない=子どもが他の子に危害を与えても叱らない」というベルリン流子育てに大きくショックを受けたこともありました。

しかし、3年間かけて親子で日独の価値観の違い、すなわち「自分の考えをお互いにはっきり示した上で妥協策を模索していくことが前提となっているドイツでは、自己主張することは生活の中で不可欠である」ということを学びました。息子は他の子どもに対しても臆せず意思表示をするようになりましたし、園での「自由遊び」を通じて、自分で問題を解決するようになりつつあります。息子がこのように健康でたくましく育ってくれたのは、園の確固とした教育方針なしには成し遂げられなかったことですし、私たちが戸惑っている時には、気軽に相談に乗って下さった先生方のお蔭です。

最後に卒園式はないものの、先生方は卒園する園児たち一人一人に、これまでの成長の軌跡を写真でたどった手作り写真集を作って下さいました。息子の3年間の園での軌跡が伺えるこの写真集は我が家の宝物です。このような素晴らしい思い出を作ってくれた先生方に感謝しつつ、小学校ではどんな成長ぶりを見せてくれるのか、今から楽しみです。

筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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