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【宝宝、ニーハオ!-上海子育て記】 第12回 子どもと大人の日英中トリリンガル事情

最終回の今回は、上海で暮らす私たちの言葉の問題について、日英中トリリンガル事情としてお伝えしたいと思います。


インターナショナルスクールでの英語教育の成果はいかに?

息子は、3歳(日本の年々少クラス)から5歳(年中クラス)の現在までインターナショナルスクールの幼稚部に通っています(幼稚園選びについては第3回参照)。子どもをインターナショナルスクールに通わせている親が学校に一番期待すること、それは何をおいても英語ができるようにしてくれること、ではないでしょうか。うちもいつか親子で一緒に英語を話せたらいいなあ・・・などと夢を見つつ、通わせ始めました。

しかしながら、やっと日本語がしっかりしてきたばかり、英語は全く分からないままの入園です。しばらくは「今日は何したの?」「誰と遊んだの?」などと聞いても「わかんない。忘れた。」としか言わず、一日一人でぼーっとしているのかしらと心配しました。
それでも入って二か月後の面談で先生に、「彼は英語を理解してますし、話していますよ。」と言われて安心しました。学校での様子をちゃんと話してくれるようになったのは、ずいぶんたってからですが。

彼の英語の世界は「Hello!」「See you!」「Thank you!」「You are welcome!」などの基本的な言葉を覚えることから始まり、「pee-pee!おしっこ!」「Open, please!開けてください!」などの必要に迫られる言葉からどんどん習得していきました。
「Be quiet!はうるさいってこと」「Sit down!は座って!」そんな言葉は何よりも先に完璧に覚えて、得意げに教えてくれました。(教室で毎日何度も言われているフレーズだからに違いありません。)

以前紹介しましたように、幼稚園では、お勉強と言うよりも遊びを通して毎日楽しく英語を学んでいます(第7回参照)。英語でしりとりをしてみると、一つのアルファベットにつきだいたい4つ、5つの単語は知っていますから、すでにだいたい100語くらいの単語は記憶しているように感じます。テレビを見ていて「Iglooだ!」というので、「イグルーって何?」と聞くと「寒い所に住んでいる人たちのおうち」などと、親も知らない言葉を知っていたりするのには驚きます。
ネイティブの発音をそのまま真似して覚えているので、一度聞いただけでは何を言っているのか分からないことも多々あります。あるときは「カミニー、カミニー」と言うので、しばらく悩みました。--どうも「コミュニティー、Community」のことのようでした。

発音はいいのですが、実際の会話は単語と単語をつないで気合いで伝えているという感じです。「This (is) mine!」「No No! You (take) this, OK?」
これで子ども同士は問題なく意思疎通を図っているのです。言葉に加えて身振り、前後の出来事などを考えてお互いに会話しているのでしょう。その意味では語学力というよりもコミュニケーション能力が鍛えられているのかもしれません。

期待した英語力、と言う点では、もともと全くのゼロからのスタートだったことを思うと、「彼って英語でいつも冗談を言ってみんなを笑わせているのよ!」と先生に言われるようになったのですから、自分なりに使いこなせるようになったのでしょう。成果としては上々、と言ってあげたいと思います。

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覚えていったアルファベット
クラスメイトと


子どものすばやい言語チャンネルの切り替え

彼にとっては物心がついた時から家庭では日本語、幼稚園では英語、町に出れば中国語、それが当たり前ですが、よく考えてみると、日本語だけで育つ子どもに比べると、かなり忙しく頭を動かしているのかもしれません。
スクールの毎日45分の中国語レッスンでは、数の数え方、色の名前、国の名前、童謡など簡単なことを教わってきます。町では中国語でよく話しかけられますから、(最近彼は大きくなったので、「宝宝バオバオ」から「小朋友ショウパンヤオ~!」と言われるようになりました。"小さな友達"です。)我が家のアイさんとの会話も自然と中国語が増えてきました。
不要ブーヤオ!(いらない)」「我的ウォーダ!(僕の)」「给我 苹果汁ゲイウォ ピングオジュー(リンゴジュースちょうだい)」など、数少ないボキャブラリーを駆使してなんとか自分の意志を伝えています。

意外と日本語に英語が混じったり、言葉につまってしまうということはありません。私などは中国語を話そうとして英語が出てきたりするので、よく混乱しないなあと思うのですが、誰かと日本語で話していても、ローカルの方に話しかけられれば自然と中国語に切り替えますし、担任の先生には日本語では何を言っても無駄と認識しています。相手によって反射的に言語チャンネルを切り替えられるようです。

ただ、この言語チャンネルには問題が一つあります。それは、彼は私とは日本語でしか話さないのです。英語や中国語で話しかけると、「やめて!日本語にして!」と怒ります。どうも、そのチャンネルはきちんと固定されていて、あまり融通が利かないようです。「英語人(?)としか英語は話さない!」と宣言していますから、いつか親子で英語で会話したいという夢は当分叶いそうになく・・・残念です。

そういえば、一度こちらのホテルのレストランに行った時、印象に残ることがありました。その日眠くて機嫌が悪かった息子は、席に案内されてからもずっと私たちに向かってぐずぐずと「早く帰りたい」「ご飯食べたくない」と文句を言い続けます。なんとかなだめているうちに料理が運ばれて来たのですが、何を思ったか、突然店員の方に「I don't like this!(これ嫌い!)」と大きな声で叫んだのです。
夫と私はびっくり、そしてかなりばつの悪い思いをしました。日本語で言えば分からないのに、よりによってこの素敵な雰囲気の外国人の多い場所で・・・。なんと行儀の悪い子だと思われたことでしょう。冷や汗ものです。
しかし、後になってよくよく考えてみると、店員の方は明らかに中国人だったのに、息子は中国語にしなかったのです。彼が私たちとは英語で話していたことを、ぷんぷんしながらもちゃんと見て聞いていたのかと思うと、思わず笑える出来事でした。

自然に英語、中国語を不自由なくペラペラに話すことができるようになったらどんなにか素晴らしいでしょう。しかしまだ今は、英語に触れることで日本語以外の言葉に興味をもつきっかけになればいいのかなと思っています。

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ひらがな、漢字、アルファベット、いろいろな文字が混じる息子の落書き。
あにょはせよ~まで。


中国語学習・日本人ならやらないと損!

さて、新しい言語の習得に挑戦したのは息子だけではありません。私たち夫婦も中国語を猛勉強しました。「上海では英語が通じるの?」とよく聞かれるのですが、これはとても答えに困る質問です。ポジティブに言って「東京と同じくらい通じる」、ネガティブに言って「東京と同じくらい通じない」からです。もちろん外国人向けホテル、レストランなどでは通じますが、一般の人は英語が得意ではありません。
それと同時に、日本人が多く住むエリアでは、ローカルの人でも日本語が話せる人が驚くほどたくさんいます。日本人向けサービスも充実していますから、なんとか日本語だけで生活することも可能ですし、実際そのようにしている人もたくさんいます。

しかし、結論から言って、日本人は中国語を勉強しないと損!だと思います。
そもそも漢字は中国伝来のものですから、意味は同じです。中国人と日本人の間で筆談が有効なことから分かる通り、お互いに漢字を見て意味をかなり正確に推察できます。
一方で、欧米など非漢字圏の人々は、「本」「右」「中」など、簡単な漢字から一つ一つ、書き方と意味を覚えていきます。私たち日本人は日常的に使う漢字のほとんどをすでに知っているのです。

中国の漢字は、例外を除いて、一つの漢字に一つの読み方しかありません。例えば、「学生シュエシェン」と「一生イーシェン」は、日本語なら「がくせい」「いっしょう」となるところですが、生という字は中国語ではいつでもシェンとしか読みません。(ちなみに学生と一生、中国語も日本語も意味は同じです。)これは何通りもの読み方をマスターしなくてはいけない日本の漢字より簡単です。
中国の漢字表記である簡体字のルールを理解し、中国特有の発音である四声を克服すればあっという間に何でも読めるようになるのです。

息子は英語をがんばっているし、私も夫ももともと語学が好きということもあって、共に中国語能力の国際資格であるHSK(漢語水平考試)に挑戦しました。私は途中、第二子妊娠、出産、育児を挟みながら、家庭教師と語学学校で学び、3級、4級を経て、ついに昨年当面の目標であった5級に合格しました。

私たち日本人にとって中国語学習が比較的易しいということももちろんですが、中国語が話せるようになれば13億の人との共通言語を手に入れたことになります。そう想像するとワクワクしてきませんか?
もし機会があれば、躊躇せずぜひ中国語を勉強してみることをおすすめします。私もいつかぜひ最難関の6級に挑戦したいと思っています。

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HSKは読み書きの能力がモノを言うので日本人に有利。


再见上海!

さて、ニーハオ、謝謝に次いで日本でよく知られている中国語に「再见ヅァイジェン!」という言葉があります。日本語では「さよなら」と訳されますが、こちらで実際使うときには、「じゃあ!」という軽い感じがぴったりで、日常的に多用されています。
例えばタクシーを降りる時に運転手さんが「再见!」、お店で買い物をしたとき店員さんが「再见!」デリバリーの配達員がドアを閉めながら「再见!」、など、二度と会わなそうな人に限って最後に必ず「再见!」と言うのです。
そもそも日本の感覚だと、こういったシチュエーションでは「ありがとうございました」、だけであって、あまり「さよなら」、「じゃあ」とは言われません。最初はなんとなく違和感を覚えていたのですが、慣れるにしたがって、人とかかわった後には必ず「再见」を言わないと場が締まらないような、なんとなく気持ち悪いと感じるようになってきました。

読んで字のごとく、「再见」は再び見る、see you again、「また会いましょう」です。ちょっとした出会いにも、また会いましょうね、で終わることに、人間関係を大切にする中国らしさを感じます。そしてまたいつか会う一時的なものならば・・・お別れも前向きにとらえられますよね。

ニーハオ!で始まった私たちの上海生活にも、いよいよお別れを告げる時が来たようです。3年の間に息子はたくましく育ち、小さな宝宝も新たにやってきました。
この連載を通じて、中国と日本の子育て、教育、国民性や文化、習慣について深く考える機会を得たことに感謝します。
そしてこの地で出会った素敵な人々にたくさんの謝謝を。必ずまた会えると信じて。

「再见!」

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おいしい思い出もいっぱい。



筆者プロフィール
石橋 貴子

チャイルド・リサーチ・ネット日本語版・英語版編集、外資系企業勤務を経て、2011年6月より夫の転勤に伴い上海在住。
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