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【ベルギー子育て奮闘記】 第6回 小学校の授業

いよいよ上の娘(以降「お姉ちゃん」とします)の小学校での生活が始まりました。今回は、その小学校での様子やお姉ちゃんが参加したプロジェクトについて書きたいと思います。

小学校の一日の流れ

朝、学校の門をくぐると必ず一人の先生が立っています。その先生と握手と朝の挨拶をしてから、8時25分の始業時間まで、子どもたちは各々校庭で遊んでいます。

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先生と握手をする生徒

そして、8時25分に鐘が鳴ります。これも先生による手動のもので、チャイムや校内放送などはありません。

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校庭で遊ぶ子どもたち

鐘がなると、子どもたちは自分のクラスの列にきれいに並びます。そこで先生が出席を取り、終わったら先生に続いて教室へと入ります。

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列に並び出席を取って教室に入る準備

この時、送ってきた親は、みんな校門のところで子どもたちが見えなくなるまで手を振り続けていることにとても驚きました。でもなんだか朝からほのぼのとした感じで、私はこの時間が好きです。

午前中に一度、休憩時間があります。その時、家から持参したお菓子を食べます。学校に堂々とお菓子を持っていけるなんて、日本では考えられないと思います。チョコレートや飴、グミなどは禁止されていますが、各々好きなお菓子(クッキーやワッフル、フルーツなど)を学校に持っていきます。そして、なんと遊びながら食べるそうです。

立ったまま、遊びながら、手が汚いまま・・・。日本で同じことをすると絶対に怒られる条件が、揃いに揃ってしまっています。実際、ベルギーでは冬になると胃腸炎などのウィルス性の風邪で学校をお休みする子どもたちが、日本よりも断然多くみられる気がします。風邪菌が蔓延するのは、こういったことが一つの原因になっているのではないでしょうか。共働きが多く、子どもが病気で欠席をすると会社を休まなくてはいけなくなったりするので大変だと思います。手を洗う習慣をつけるなどして、風邪などの病気を予防しようとすればいいのにと思うのは私だけでしょうか・・・。

小学校も、幼稚園と同じように水曜日は12時で下校します。他の曜日も幼稚園と同じで、3時半が下校時間となります *1。水曜日は、お菓子は持参するのではなく学校からオーガニックのフルーツが支給されます。ベルギーでは、リンゴや洋ナシなどを皮のまま食べることが多く、娘たちは慣れるまで学校でフルーツを食べることを嫌がりました。有機栽培をされているフルーツなので、皮のまま食べても安全なのですが、なんとなく口に残る感じに抵抗があったようです。ですが、今となっては家でも「皮むかなくてもいいよ」と言います。本当に子どもの順応性には脱帽です。

授業は、オランダ語の授業、算数、体操、BIOクラス(植物の観察や小動物の飼育など)、課外授業などがあります。課外授業では近くの老人ホームに伺い、歌を歌ったり、ご老人たちと工作をしたり、また、教会へ行き、歌を教えていただいたりするようです。遠足も多く、近くの森へ散策に出かけたり、公園に行ったり・・・。課外授業が日本より多いと感じました。

学校では時間割というものがありません。教科書も筆箱も学校に置いたままです。その日、その時間、先生が「今から算数をします」といったように授業が進められるようです。お姉ちゃんの学校では、宿題は月・火・木の3日しか出ません *2。だいたいが本読みか算数のプリントです。

授業の様子

幼稚園と同じく、小学校でも授業参観というものはありません。イベントなどで親が学校に行く機会はたくさんありますが、普段の授業を参観できないのは少し残念な気がします。 ただ、今回この記事を書くにあたり、先生に「授業の様子を見たい」と申し出ると快く許可してくださったので、普段もお願いすると見せてもらえるのかもしれませんね。

朝、先生と校庭から教室に入ると、その日のお当番さんの名前が書かれたカードが黒板に貼られています。子どもたちは各自それを確認し、その日のお天気などを黒板にカードで張り付ける子、連絡帳を集める子、プリントを配る子などに分かれて仕事をします。お当番以外の子どもたちは静かに自分の席に座って待っています。

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今日のお天気を貼るお友達

この日は、自己分析をするプリントが配られました。プリントにいろんな表情のニコニコマークがたくさん書いてあり、「机の中は整理整頓されている」、「授業中、先生の言うことを静かに聞けている」、「お友達と仲良く遊べている」など20個ほどの項目があります。それらについて自分の様子を振り返り、良くできていたら笑顔、あまりできていなければ悲しい顔、というように、自分の様子に合う表情のニコニコマークを塗りつぶすというものです。先生に伺うと、こういった自己分析を行う時間は、定期的に設けられているそうです。そのあと、それらの項目についての先生のチェックもあり、自己分析と先生の目からの評価とを照らし合わせることで、授業態度、生活態度を自ら自覚し、改めさせるといった意味があるようです。

これは学期末に配られる通知表にも反映され、保護者も自分の子が行った自己分析を見ることができるので、素晴らしい取り組みだなと思います。

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自己分析をするお友達

そして、教室にはたくさんの国のポスターが貼られています。クラスには、いろいろな国籍の子どもたちがいますが、世界地図上には、その子どもたちのそれぞれの母国にピンが刺されていました。このように、国際色豊かな環境で自分の子どもたちも生活しているということは、とてもいい環境でいい経験をさせてもらえているんだなぁと、いつも実感します。

子どもたちの授業態度はとても真面目で、先生の言うこともちゃんと座って聞けている子がほとんどでした。ベルギーの小学校はいろいろな意味で自由だと感じていたので、授業態度も自由で日本とはかけ離れているのかと勝手に思い込んでいた私は、とても安心し、よい印象の残った授業参観でした。

トイレプロジェクト

ある日、お姉ちゃんが学校から少々興奮気味で帰ってきました。話を聞いてみると、どうやら学校のトイレにペインティングをするらしく、クラスからお姉ちゃんが、ペインターに選ばれたということです。

聞くところによると、学校のトイレはあまりきれいではなく、高学年の女の子などは使いたがらないそうです。ならば、「扉をペイントしてきれいにしよう!」というプロジェクトだそうです。果たしてペイントするだけでいいのかという疑問も残りますが、お姉ちゃんが選ばれたということは嬉しいことです。クラスの子どもたちはみんな声をそろえて「○○(お姉ちゃんの名前)がいいよ。○○は絵をかくのがとても好きだから」と推薦してくれたそうです。「そんなに絵、うまくないんだけどね」と少し謙遜してはいましたが、明らかにうれしそうな顔をしていました。

1年生から6年生まで、クラスで選ばれた1名ずつが平日の午後の授業を抜けて、プロのアーティストの方指導の下、トイレの扉に絵を描いていきます。お姉ちゃんは毎日、手や服をペンキや絵具だらけにして帰ってきました。お友達のママがボランティアで参加していたらしく、お姉ちゃんも楽しく活動していたことを聞き、とても安心しました。

そして、2週間後、お披露目の会があり、保護者も見学可能とのことだったので行ってきました。

少々遅れて行くと、何やら怪しい人の周りに生徒たちが群がっています。

よく見ると、お掃除のおばさんに扮した校長先生でした。どうやら「せっかくきれいになったんだから、みんなトイレをきれいに使うんだよ」という趣旨のようです。

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お掃除おばさんに扮した校長先生

バケツに入った水ではたきを湿らせ、それを子どもたちに振りかけています。子どもたちはとても喜んで、校長先生を追いかけ水をかけてもらっていました。

肝心のトイレですが、個室の扉に色とりどりのペインティングがされていました。「お姉ちゃんはどれを描いたの?」と興味津々で聞いたところ「ここの線を引いた」とか「ここをスポンジでペタペタした」という返事が・・・。一年生のお姉ちゃんは主に補助的なことを任されていたらしく、「これを描いた!!」という箇所はありませんでした・・・。

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でも、いつまでかはわかりませんがこのペインティングが残されている限り、お姉ちゃんがベルギーにいた証になります。とてもいい経験ができたと思います。

何年後、何十年後、またここベルギーに来ることがあれば、必ず立ち寄り、確認してみたいものです。

今回のこの記事を書かせていただいて思ったことは、学校生活において、子どもたちがとても主体となっているということです。授業で自分を見つめることで周りにも気を遣えるように促したり、少々不格好でもトイレに自分たちの手で絵を描くことで、いつまでもきれいに使おうと思わせたり・・・。校長先生の演出も、子どもたちがすぐに忘れてしまわないように印象付けているようにも思えます。

子どもたちに達成感や充実感を味わわせるベルギーの学校生活は、子どもたちにが大きく成長できる教育方針に基づいているのではないかと思います。


  • *1:前回も書いたように朝は保護者のボランティアが幼稚園から学校まで引率をしますが、下校時は学校の先生が、学校から幼稚園まで引率して連れて帰ってきてくれます。
  • *2:毎日宿題が出される学校も多いようです。
筆者プロフィール
奥村 沙織: 2011年より、夫の転勤に伴い二人の娘とともにベルギーのルーヴェンに在住。
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