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【ドイツの子育て・保育事情~ベルリンの場合】 第24回 小学校見学(1)

要旨:

ベルリンでは小学校の入学時期やどの小学校に通うかを選ぶことができ、学校ごとに特色も異なる。今年小学校入学を控えた息子のため、近所の小学校のオープンデー(学校開放日)に足を運んだ。集団登校という習慣が全くないドイツにおいて、自宅から信号一つ隔てたところにあるこの小学校は、我が家の安全基準をクリアした。学校の授業は勿論、放課後活動においても、近隣に住む高齢者やクラブ活動講師達が参加し、学校と地域が一体となって、子どもたちが一日中安心して過ごせる場所になっている印象を受けた。

Frohes neues Jahr! 新年おめでとうございます。ベルリンでは年末年始にラッキーチャーム(ブタ、テントウムシ、煙突を掃除する人など)を付けた鉢植えが多く売られています。今年も皆様にとって笑いが絶えない年になりますように!

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可愛いラッキーチャームたち


さて、今年は息子の卒園、小学校入学と大きな節目になる年です。ということで、今回は昨年秋に実施された近所の小学校のオープンデー(学校開放日)についてお伝えしたいと思います。

ドイツは連邦制をとっているので、州毎に小学校入学の時期が異なります。ベルリンでは8月に小学校の入学式が催される模様。今年2014年の新一年生は、原則的に2008年1月1日から同年12月31日生まれの子どもたち。息子は同年8月生まれなので、6歳になってすぐの小学校入学予定です。

しかし、同年9月以降に生まれた子どもたちは、6歳になるのを待たずして小学生になることになります。低年齢での数か月の違いは心身の成長に大きく影響を及ぼすことを考慮して、ベルリンでは、1年入学を遅らせることも可能です。実際、2007年12月生まれのクラスメートは、本来なら今年夏に入学しているはずですが、あと1年保育園で過ごし(年長さんを2年行い)、今年息子と一緒に小学校に入学するそうです。

これとは逆に、2009年1月から3月生まれの子どもでもドイツ語がきちんと理解できていれば、今年の8月に入学することができるそう。年齢で一辺倒に入学時期を決めるのではなく、個々の子どもの成長に合わせてフレキシブルに対応できるシステムがあるのは素晴らしいことだと思います。

また、日本では学区で小学校があらかじめ割り当てられており、私立小学校に通わない限りは、そこに入学することになっていたと思います。ベルリンでも自宅周辺の小学校が行政により割り当てられていますが、それ以外の公立小学校に通うことも可能です。さらに、画一的な教育を施している日本とは対照的に、ベルリンでは市の教育目標は決まっていますが、各学校が独自の特色(例:スポーツ重視、バイリンガル教育など)を打ち出しており、また第16回でお伝えしたように、移民率の高低によっても学校の学力レベルに差が生じている模様。このような状況から、親が各学校を吟味し、総合的に判断して、子どもに適した小学校を選んでいる、ということのようです。現状では移民が多く住む地域の学校は敬遠され、逆に英語のバイリンガル学校などは人気が高い模様ですが、入学優先順位はあくまでも行政により割り当てられている小学校周辺に住む子どもたちにあるとのことです。

入学手続きに関しては、行政の指定校であるないにかかわらず、希望の小学校へこちらから出向いて、行わなければなりません。ひょんなことから、その手続きが10月下旬と知って、私たちは少し焦り始めました。上記の状況は認識していたものの、入学まであと1年近くあるということで少々のんびり構えていたからです。「近くの小学校の様子ってどんな感じなんだろう?割り当てられている小学校には移民はどれくらいいるのか?教育レベルはどれくらい?学級崩壊など起こっているのか?この小学校が息子にとってベストな選択なのか?」など疑問は湧くばかり。といっても、学校選択の資料のようなものは存在せず、学校のホームページも内容が昨年度のままにいなっていたり、あまりあてになりません。ここでは情報が外部から与えられることはなく、自分でアクションを起こして、情報を獲得しなければならないのです。

そうこうしているうちに「オープンデー(学校開放日)」と称する学校説明会が催される学校も多い、との情報をママ友から聞きつけました。普段はなかなか中に入る機会がない小学校に直接足を踏み入れ、自分の目で内情を確かめる絶好のチャンスです。早速、自宅近くのG小学校のオープンデーに行ってきました。

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G小学校の登校口


このG小学校は自宅裏の道路の信号を渡ってすぐと、自宅からかなり近いところにあります。これは非常に重要なポイント!というのも、日本では、地域によっても違いますが、集団登校で同じ地域に住む子どもたちが一斉に通学、高学年の児童たちが低学年の面倒を見つつ、列をなして登校していることもあったと記憶しております。しかし、個人主義の浸透しているベルリンでは、次回のレポートで詳細をお伝えするように、子ども達も日本ほど集団で行動することはありません。かといって、小さな子どもが一人で登校するのも危険ですから、小学校低学年の間は保護者が一緒に登下校するのが通例。G小学校に通う場合、通学時間は、片道歩いて5分程度で済みます。電車を2本乗り継いで片道1時間弱かけて保育園に通っている現状と比べると、かなりの時間の節約になりますから、これは嬉しいことでした。

小学校中学年以降になると、一人でまたはお友達と一緒に登下校することも増えるらしいので、通学路に信号があることは、息子にとっても大きな安全基準です。

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冬空のベルリン


説明会開始の10分前に到着すると、校長先生が温かく迎えてくれました。「コーヒーや紅茶、お菓子も用意してありますから、どうぞ席についてお待ちください。」とセミナールームへ案内して下さいました。早速、コーヒーを頂きつつ、隣の席の方と話してみると、保護者だと思っていたこの方はベルリン市の青少年局の方ということがわかりました。各小学校のオープンデーに参加して、内容をチェックしている、とのこと。ベルリンの行政が教育に深く関与していることを再認識しました。

9時を少し過ぎると、先ほどの校長先生が学校の説明を始めました。集まった保護者の他に、教師や、保育士、社会福祉士、秘書の方々も部屋の後方にいらっしゃり、説明会が学校をあげての大切な行事であることがうかがえます。ドイツでは教師はあくまでも担当教科を教えるだけですので、教師の授業補助を行ったり、放課後、児童の面倒をみる保育士や、保護者からの家庭、学習相談に乗る社会福祉士、事務的な仕事を行う秘書といった方々が役割分担をして、学校を運営しています。

説明は学校で働く職員や児童の数などの概要から、パワーポイントで細かく始まりました。ここで驚いたのが、学校職員の中に「学校と提携している高齢者」が数人含まれていたこと。近隣に住む高齢者が週1-2回来校し、読み聞かせの時間を設けているとのことで、高齢化が進むドイツでは、このような形で活躍するシニア達も多いのだな、と感嘆しました。

次は時間割の説明。ベルリンの小学校では「最初の学年」と呼ばれる小学校1-2年は一緒に学び、3年生から日本と同様に学年ごとに分かれるところが多いのですが、G小学校もこのシステムをとっており、一クラスの定員は最大24名で、2名の先生(通常は教師とその補佐を行う保育士)が対応しているとのことでした。2学年一緒に授業を行うので、学力のばらつきが大きくなりかねないことから、各児童に対応するために、2名体制で授業を行う、ということでした。

科目の中で目を引いたのは、「第二言語としてのドイツ語」。これは他の授業との選択制になっていましたが、移民が多いベルリンならではの授業という印象を持ちました。また、音楽、体育の時間などは「補習時間」との選択制になっており、先生の判断で、児童によっては算数などの補習時間になる、とのこと。落ちこぼれを作らない対策だそうで、きめ細かい対応という印象をもちました。

また通常の授業は大体、朝8時から午後1時半まで。その前後の時間帯(朝6時から7時半まで、午後1時半から午後6時まで)は働いたり通学している親たちのために、保育士や同じコミュニティ内でクラブ活動を営む講師達が学校内で対応し、子どもたちの面倒を見ているとのこと。

クラブ活動のリストには毎日ぎっしりと各種スポーツや、ヨガ、サーカス、音楽、英語、コンピューター、料理といった様々なアクティビティが名を連ね、子どもたちは低費用で好きなクラスに参加できるそうです。また、そのようなクラスに参加しなくても、通常の教室とは別に、遊び部屋、勉強部屋が確保されているので、宿題をしたり、友達と玩具で遊んだり、ゲームをしたりと、親が迎えにくるまで安心して学校で過ごすことができるとのこと。学校内にある学童保育といったイメージですが、日本の学童と異なるのは、小学校卒業時までそれらを利用できることです。

一通りの説明が終わると、保護者からの質問にも丁寧に答えて下さり、90分ほどの説明会は終了。そして「では、実際に教室や授業の様子をお見せしますから、校内ツアーにご参加ください」と促されます。

次回はこの校内ツアーの様子をお伝えします。

筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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