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【ニュージーランド子育て便り】 第11回 ニュージーランドの食事情

要旨:

ニュージーランドに来てから、食事に関することは、スーパーでの買い物から外食まで、最初は全てが手さぐりであった。海外での子育てを楽しいと感じるためには、子どもと食事を楽しめることがとても大事なのだと思う。今回は、時間をかけて把握できてきたNZの食事情について紹介する。

ニュージーランド(以下、NZ)に来た当初、私は、現地のNZ人並みに娘に食べさせる物に気を使ってあげたいと思っていました。また、娘にNZの食べ物を好きになって欲しいとも思っていました。そこで「子どもに食べ物を選ぶときに、何か気を付けていることはありますか。よく食べさせている物はありますか。子どもに与えないようにしているものはありますか。」と機会があるごとにNZのお母さんに聞いていました。ところが「あまり気にしていません。」「オーガニックの商品は高いと思うわよ。」「自分の好きな物を食べさせれば?」という反応が主でした。結局、お会いしたお母さん方から、身体に良い食べ物として教えてもらったのは、マーマイトくらいでしょうか*1 。日本のように、子どもにとって健康的な食事やおやつを親が用意するということが、一般的ではないような印象を受けました。ただし「パームオイルは避けている。」という人には、何人か会いました。理由を聞くと、自然環境を破壊してしまうからとのことでした。オークランド動物園が、動物の生きる環境を破壊する物として、パームオイルの不買運動をしているのだということも、教えてもらいました。それまで食べ物を選ぶ際に、家族の身体に良いか悪いかという視点でのみ考えていた私は、この自然を重視するNZの人たちの考えを前に、少し恥ずかしくも思えたものです。(食べ物だけでなく食器用洗剤、洗濯用洗剤も、環境負荷の少ないタイプの品揃えが豊富です。)

自然環境へのこだわりというNZらしい観点をご紹介はしましたが、一方でNZの子どもの食事は、子どもの健康という点から、もう少し考えた方が良いのではないかと思います。オークランドでは5歳以下の健康な食事についての冊子がもらえますし*2 、子どもの健康面を考えていないわけではないのですが...。近年、NZでは子どもの糖尿病が非常に増えてきており、問題になっているようです。モーニングティーやアフタヌーンティーという、午前中と午後におやつを食べるような習慣が根付いていることに加え、小さな子どものうちからチョコレート、アイスクリーム、ロリーポップ(棒付きのキャンディー)、ケーキ、マフィンなど甘い物をよく食べているように見えます。ケーキやマフィンの上には、日本のような生クリームではなく、アイシング(粉砂糖にバターやマーガリンを加えて練ったもの)がのせられることが主流です。さらに朝昼晩の食事でも、野菜を摂取する量、回数ともに、日本より少ないように感じます。できるだけ現地の生活を尊重しながら馴染んでいきたいと思っていますが、食生活に関しては、子どもに与えたくないものは与えない、自分たちの身体の健康を考えて、食べたいものを食べればよいのではないかと、徐々に考えを改めました。数世代前までさかのぼれば、全て移民のNZです。様々なバックグラウンドを持つ家族は、各々に工夫して快適な食生活をアレンジしているようだと分かったことも、大きいかもしれません。加えて、娘はフィッシュ&チップス、ソーセージロールといったものから保育園の給食に至るまで、NZの子どもたちが食べる食べ物は何の抵抗もなく好きになってしまったので、親として適応する努力をするほどでもありませんでした。そして、意識的に情報を収集するようになりました。

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カップケーキ 甘くて美味しい可愛いアイシングがのせられて

まずは、食品に表示されている情報の理解です。こうした英単語は、NZに来るまで知らなかったものばかりです。海外で子育て中の方にはお役に立つかもしれませんので、一部をご紹介します。

・Organic
オーガニック(有機)。有機栽培を基本とした農作物、畜産物など。実際に何を示しているのかは商品により様々だが、基本的には化学肥料を使用していない野菜や果物、化学飼料や抗生物質を使用しない肉類など。オークランドでは普通のスーパーでもジャガイモ、人参、りんご、牛乳はオーガニック製品が置いてあることが多い。

・GMO(Genetic Modification Organism)
遺伝子組み換え食品。なお、GE Freeは遺伝子組み換え食品ではないという意味。

・Numbers
食品添加物のこと。食品添加物は名称だけでなく、3桁の番号も表示される。100番台が着色料、200番台は主に保存料、酸、300番台は主に抗酸化物質、400番台に乳化剤、安定剤、増粘剤、凝固剤が含まれるなどと決まっている。子ども向けお菓子などで食品添加物が含まれない場合、「No Numbers」という表示があることが多い。 詳しくは、こちら

・Colours
着色料のこと。子ども向けお菓子などで着色料が含まれない場合「No Colours」という表示があることが多い。

・No Spray
殺虫剤不使用と言う意味で使われることが多いようである。ファーマーズマーケットなどでよく見かける表示であるが、「Organic」ほど一般的な共通認識があるわけではない。化学肥料を使っている場合もある。

・Free Range
放し飼い。肉類、卵類に使われる。

・MSG (monosodium glutamate)
グルタミン酸ナトリウム、化学調味料の意。NO MSGとして不使用をアピールしている商品や店がある。

・Fluoride
フッ素。虫歯の予防などで添加をアピールする商品もあるが、フッ素不添加を選びたい人やアレルギー反応がある人もいるようで、 フッ素不添加(Fluoride Free)の表示も多い。現在、オークランドの大半の地域で水道水にはフッ素が加えられており、フッ素を除く浄水器もある。

・Gluten free
グルテンが入っていない食品。NZには小麦粉などに含まれるグルテンを除去した食事をとる必要のあるシリアック病 *3 の患者が多いためか、食料品、カフェやレストランのメニューでこの表示を見かけることが多い。

NZでは期限切れの商品が店頭に並んでいることもあるので、表示を読むことは大事ですが、同時に生鮮食品の鮮度や美味しさなどを見極める目も大事です。日本では、並んでいる食材のすべてが概ね美味しいと思いますが、NZでは時々、腐っているものや鮮度の良くないものが並んでいることもあります。私たち家族も美味しそうな物を選ぶ力量は、NZにきてからアップした気がします。

そしてNZの食事情には、主要産業が酪農や野菜や果実など一次産品の輸出であることも影響を与えています。乳製品に至っては世界第一位の輸出国であり、生産量の95%も輸出されています。こうした産業がダメージを受けるとNZ経済は大打撃を被ります。そのため海外からの病気や害虫や種子の持込禁止に非常に熱心です。冒頭の「自然環境保護へのこだわり」はいたるところで感じられますが、これは自然を愛するNZ人の気持ちであると同時に、産業を守るという意味でも大事なことなのです。海外からの持込だけでなく、「ニュージーランド産=安全」というイメージを守ることにも力を注いでおり、国内でも家畜の飼育時には、抗生物質やホルモン剤の使用条件が非常に厳しく決められています *4 。また、漁業も盛んで、日本にも魚が多く輸出されています。現地のスーパーでは、鯛類を中心とした白身魚やサーモンがよく売られています。釣りをすることもできますが、厳しくサイズが取り決められており、規定のサイズ以下の魚は放流しなければなりません。野菜や果物などは、四季のリズムに沿って作られています。そのため、季節によって値段が倍以上異なり、旬の物が安くて美味しいものになります。週末には各地で青空市が開かれますが、置いてある物の種類も値段も季節によって大きく異なります。人口も少なく、設備投資も簡単にできないという面もあると思いますが、NZの第一次産業は自然のリズムに逆らわないで生産されている部分が多いように思います。

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ファーマーズマーケット(青空市)に並ぶ野菜

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生産者との会話も楽しみ
(野菜を買ったら花をもらいました。)

さて、最後に外食やカフェの話をしたいと思います。オークランドのレストランにも日本同様多くの場所で、子ども用のメニューがあります。とはいえ、たいていは大きな皿にポテトフライ(Chips)とチキンナゲット、またはフィッシュフライが乗っているだけのものが多く、日本のような品数の多い、色とりどりの可愛らしいメニューとは程遠いものです。子どもが時間をもてあまさないように、塗絵とクレヨンを出してくれるところが多いようです。もともと子どもと外食する習慣はそれほどないようで、外食している時に子連れが多いという印象は受けません。一方で週末のカフェには、子ども連れの家族が多くいます。大人のコーヒーも美味しく、家族でカフェにいく習慣は、日本よりずっと根付いているように思います。子ども向けには、見た目がコーヒーにそっくりなフラッフィーという飲物があります。小さなカップに牛乳を泡立てたもので、マシュマロが1、2個添えられることが多いようです。フラッフィーは無料のサービスで出してくれるところから、有料だとしても1-2ドル程度と、とても気楽に頼める値段であることも有難いです。週末に家族でカフェに行くことは、私たちの生活の一部になっています。

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お店から出して貰えるクレヨン

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左:大人用のコーヒー(モカチーノ)
 右:子ども用のフラッフィー

はじめは、食事情をなかなか把握しきれず、偶然美味しい物を食べられることもありましたが、どちらかと言うと外食をしても作っても想像通りの味ではなく、「失敗した」「いまいち...」と思うことが多かったように思います。もっとも、一番野菜の種類が少なく、値段も高い時期に来たことも大きな要因かもしれませんし、興味本位でいろいろな新しいものを試し過ぎたせいもあると思います...。ともあれ、自分がイメージしている物を子どもに食べさせることができるということは、子育てをする上での大きな幸せなのだと感じました。こだわりのない夫と娘は何でも喜んで食べていたので、私の自己満足ですね。NZに来てからいろいろな方に教えてもらい、今では思い描いている物を娘に食べさせられることが増えたと実感しています。もちろん慣れない土地で食生活を確立することは、楽しいこともたくさんあります。NZで知った新しい食材を使ってみたり、教えてもらったレシピ*5 で作った料理を娘が美味しそうに食べているのを見ると、私も嬉しいものです。娘が成長していく中で、好物だと言える料理がいくつも挙げられるようになると良いなと思います。


  • *1 パンにバターなどと一緒に塗って食べる、NZ人にとってなじみ深いペースト状の食べ物。ビールの粕を発酵させて作られる。鉄分が多く含まれており、身体に良いという人が多い。ただし塩分が多いことを理由に、身体に悪いという人もいる。(クライストチャーチで起きた地震の影響で1つしかない製造工場が約1年生産をストップしていたため品切れが続いていました。生産が再開され再び店頭に並んだ時は各店とも大々的に売出しました。)
  • *2 「Food FOR UNDER 5s」というタイトルの冊子(PDF)。
  • *3 グルテンを食べてしまうと腸で栄養が吸収できない状態になってしまう。NZでは増加傾向にあると言われている。
  • *4 詳細は、第一次産業省のウェブサイトを参照のこと。
  • *5 NZで一番売れているレシピ本も出している有名な小麦粉メーカーが、ウェブ上にもレシピを載せているのでご興味ある方はこちらへ。
筆者プロフィール
村田 佳奈子

お茶の水女子大学卒業、東京大学大学院修士課程修了(教育学)。資格・試験関連事業に従事。退社後、2012年4月~ニュージーランド(オークランド)在住。
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