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【双子のいる生活】 第6回 産褥期を乗り切る-"産褥入院"と"産褥シッター"

要旨:

肉体的にも精神的にも不安定になる「産褥期」(産後6~8週間の時期)の乗り切り方をテーマに、助産院での「産褥入院」や、民間や自治体による「産褥シッター」「産褥ヘルパー」などのサービスについて、また「ドゥーラ」(=妊娠・出産・産後の女性に寄り添い、支える人)について紹介する。産褥期には家事は出来るだけ避け、育児を無理せず体調回復に努めることが大切とされている。筆者は、出産した病院を退院後すぐに助産院で「産褥入院」を体験。心身疲労を取り、助産師からの十分な指導を受けることが出来た。その後、「産褥シッター/ヘルパー」サービスも利用。様々な「ドゥーラ」によるサポートが非常に大きな助けとなることを実感した。

産褥期のことを、私は妊娠初期からずっと恐れていました。長男を出産した6年前、産後を甘く見ていた私は、里帰りもせず、退院後の2週間こそ実母に泊り込みでの援助をお願いしましたが、一人で乗り切れるものと思っていました。生まれたての赤ちゃんがどんなに手がかかるものなのか、知らなかったのです。ところが、息子は常に抱っこしていないと泣く敏感なタイプの新生児で、母乳分泌もまだ軌道にのらず、睡眠不足で追い詰められて落ち込みがちになり、体調が回復する産後6週間くらいまでは辛かった記憶しかありません。


今回も、その息子の小学校入学と出産が重なり、里帰りはできません。夫は毎晩深夜まで残業のある忙しいサラリーマン、しかも赤ちゃんは双子。実母も義母も、60代半ばとなり、体力的に息子の時ほど援助を期待できません。

「産褥期」とは、WHOの定義では産後6~8週間の時期を指します。この時期、産婦は、家族や周りの人の助けを借りて家事はできるだけ避け、新生児の育児を無理せず行い、自分自身の体調の回復に努めることが大切です。特に大切なのが、睡眠をできるだけとることです。産後はホルモンの関係で、精神的にも不安定になりがちです。家族によるサポートを十分に受けられない場合は、外部の手を借りることも、この時期は大切だと思います。

家族による十分なサポートが期待できなかった私は、妊娠3ヶ月の頃から、行政や民間の産褥ケアのサービスを探しました。そして、以下のサポートを受けて、産褥期を乗り切りました。(もちろん、実母も義母も交替で泊り込んで、できる限り家事・育児をサポートしてくれました。この場を借りて、心からお礼を言いたいと思います。)


助産院での"産褥入院"

一部の助産院では、他の施設で出産した産婦の「産褥入院」を受け入れています(受け入れ助産院を調べるには、社団法人日本助産師会に問い合わせるか、助産師会発行のガイドが便利です)。

私は、出産した病院を退院後、病院からタクシーで10分程のところにある助産院で、4日間、産褥入院をしました。

40日間の入院生活と帝王切開手術により、私の身体はボロボロでした。精神的にも疲労を感じていました。血圧は高く、頭は重く、術傷は痛み、手足はパンパンにむくんでいました。

双子たちは、体重が2,300gを下回ったため退院許可が下りず、私は先に退院し、助産院に移りました。助産院では、暖かい布団で泥のように眠り、手作りの薬膳やハーブティーをいただき、鍼灸士でもある院長のマッサージや鍼灸術を受けました。それは、鍼灸で身体のいたんだところを治しながら、温めたセサミオイルで身体中をゆっくりほぐしていくマッサージで、心身の疲れがどんどん出て行きました。

母乳マッサージも受けました。乳腺を開き、乳房のコリや母乳の詰まりも取ってもらいました。母乳は、「3人育てられるくらい」よく出ていると太鼓判を押してもらい、安心しました。

途中で双子達も退院して、助産院に合流。病院では、赤ちゃんとの添い寝が禁止されており、2台のコットを並べて、それぞれに寝かせていたので、オムツ替えや授乳が面倒でしたが、助産院では、ダブルサイズの布団に双子を寝かせ、添い寝しながらお世話をしました。世話も楽でしたが、何より、赤ちゃんのホクホクとしたコンデンスミルクのような匂いをかぎながら、一緒に寝られるのが嬉しかったです。授乳や沐浴なども、落ち着いた環境で、助産師さんの指導を改めて受け、自宅に戻る前に十分に練習することが出来ました。

院長によると、産褥入院は、一人目の子どもの出産の際に、産褥期に無理をして辛い思いをした方や、産後、家族による家事・育児の助けを得ることが出来ない方が申し込むケースが多いそうです。特に、出産の高齢化により、産婦の親も高齢となり、産後のサポートを得にくい方が増えているそうです。

入院するのではなく、自宅にフリーの助産師さんに自宅に出張してもらい、母乳ケアや新生児の育児サポートをしてもらう形もあります。また、2008年には、東京都世田谷区が、自治体として初めて、産後の母子のケアをする施設をつくりました。生後4ヶ月未満の母子で、産後に育児不安や体調不良があり、家族などからの支援を受けられない人が、宿泊、日帰りで利用できます。世田谷区民ではない私も、問い合わせてみましたが、区民とは利用料がかなり異なり、利用を断念しました。核家族化、出産の高齢化が進む中、このような産後ケアのサービスがもっと拡がるといいなと思いました。

助産院での産褥入院は、健康保険の対象外なので、一泊二日で28,000円(双子の場合)と、決して安い入院ではありませんでしたが、ここで心身の疲れを回復させたことで、自宅での双子の育児にスムーズに取り組むことが出来ました。

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  助産院では、ダブルサイズの布団で双子達に添い寝。
 身体も楽だし、何より幸せ。


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  助産院での食事はとても美味しくて、
 毎回楽しみ。植物性たんぱく質、
 五穀や豆、ハーブティーなどの薬膳で、
 身も心もあたたまる。母乳にもよさそう。


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  赤ちゃんも、助産師さんにオイルマッサージ
 をしてもらった。
 助産師さんの目を見つめ、
 うっとりと気持ちよさそうな長女
 (低体重児なので細い脚!)。


*information* 社団法人日本助産師会 http://www.midwife.or.jp/ (助産院や開業助産師の情報を知ることができます)


"産褥シッターさん"

助産院での産褥入院を終え、自宅に戻り、いよいよ待ったなしの新生児の育児が始まりました。加えて、長男は小学校に入学し、しばらくはお弁当を持たせる必要がありました。急な入院だったので、赤ちゃんを迎える家づくりも出来ていませんでした。

そこで、夫が育児休業を取るまでの2週間は、一日8時間、"産褥シッターさん"を頼み、育児と家事を助けていただきました。

利用したのは、民間のベビーシッター会社と、自治体の産前産後援助サービスを受けてのヘルパー派遣でした。それぞれから、一日4時間ずつ来てもらいました。

延べ7人のシッターさん、ヘルパーさんが来てくださいましたが、その中で最も印象に残った方は、60代で自らも4人のお子様を育て上げた方で、家事・育児のプロフェッショナルとはこのような人のことをいうのだと感嘆しました。赤ちゃんのお世話が心から好きで、同時に冷静な目で赤ちゃんや私の様子も見て、的確なアドバイスをくださいます。新生児二人の沐浴とお世話、洗濯・掃除・食事づくりを一通りこなしながら、赤ちゃんを育てやすいように、部屋の模様替えまでしてくださいました。

料金は、民間の産褥シッターサービスは、一日4時間、7回分パックで63,000円。自治体の派遣ヘルパーさんの方は、一日4時間までで1時間1,000円でした。また、全国ベビーシッター協会に加盟しているベビーシッター会社を利用すると、各種割引を受けることが出来ます。私は、全国ベビーシッター協会に問い合わせ、多胎児のいる家庭の割引制度を利用し、一日あたり9,000円、2回(一年度)までの割引を受けました。その他、自治体のベビーシッター利用補助制度も利用しました。このような制度は、ぜひ、妊娠中に早めに調べておくことをおすすめします。病院によっては、ソーシャルワーカーがいるところもありますので、産後の支援サービスについて相談してみることもおすすめです。


ドゥーラ・サポート~たくさんの方に支えられて~

「ドゥーラ」ということばを知っていますか?語源はギリシャ語、「奴隷」を意味することばですが、妊娠・出産・産後の女性に寄り添い、支える人のことをいいます。ドゥーラは、助産師さんなどの専門家だけでなく、配偶者や家族がなることも出来ます。妊娠・出産をする女性にとって、信頼できる存在であれば、誰でもなれます。人生の一大事である妊娠・出産・産後を、ドゥーラ(達)に支えてもらうことで、精神的に安定し、出産や産後の回復もスムーズに進んだりする効果があります。

私は、今回、一人でなく、たくさんのドゥーラに助けて頂きました。先に述べた、助産院の助産師さんや産褥シッターさんも私にとってはドゥーラでした。実母や義母もドゥーラでした。会社を休職して家事全般と育児を担ってくれた夫もドゥーラでした。さらに、自宅で双子育児に奮闘する私を、近所の方々も支えてくださいました。

シッターさん、ヘルパーさんは、18時までのサービスなので、夕方から夫が帰宅するまでの間は、私が一人で双子と息子の面倒を見ないといけませんでした。2~3時間でしたが、双子へ授乳したりオムツをかえたりあやしたりしながら、息子に夕食を食べさせ、宿題を見てやり、学校の用意をし、風呂に入れ、寝かしつけるというフルコースは、私一人では不可能でした。その時、私の心のSOSが届いたのでしょうか、息子が以前からお世話になっていたファミリーサポート会員の方が、何度か家をのぞいてくださり、手を貸してくださいました。さらに、近所に住む友人を紹介してくださり、その方も、手を貸してくださいました。みなさま、子育て経験の豊富な、地域のおばさまたちです。いてくださるだけで、ほっとしました。双子を見ていていただき、その間に、私は息子と一緒に風呂に入り、寝入るまで添い寝してやることが出来ました。ご恩は一生忘れません、私もいつか次世代の女性をサポートし、ご恩を返していこうと心に誓いました。

おかげさまで、産褥期の1ヶ月、私は一切の家事をしないで過ごすことができました。双子への授乳と抱っこに集中することが出来ました。赤ちゃん返り気味の息子の宿題を見たり、一緒にお風呂に入ったり、寝入るまでそばにいてあげるという、母親として、してあげたいことをすることができました。それ以外の時間は、できるだけ、横になって、身体を休め、睡眠をとりました。

マタニティブルーズにも、今回は苦しまずにすみました。若干、涙もろくはなりましたが、息子を出産した時のように、毎日のように泣いたり、落ち込んだりということはありませんでした。

たくさんのドゥーラたちに助けていただき、乗り切った産褥期は、感謝の気持ちで一杯の幸せな思い出となりました。

※ドゥーラにつきましては、CRNの以下のURLの記事で詳しく説明しています。
https://www.blog.crn.or.jp/report/02/47.html
https://www.blog.crn.or.jp/lab/03/


*information*

社団法人全国ベビーシッター協会の割引制度
全国ベビーシッター協会 03-3797-5020 http://www.netcircus.com/babysitter/

①多胎児のいる家庭のための割引:
双子の場合、一日につき9,000円
三つ子以上の場合、一日につき18,000円
★1年度内に2回まで、特別な事由がある場合は4回まで利用可。事前に、協会から割引券をもらい、協会加盟のベビーシッター会社を利用する際に、割引券を渡します。
★協会加盟のベビーシッター会社の一覧は、協会のホームページにあります。

②産休(産前・産後)取得期間中に利用できる割引:
一日につき、1,500円の割引。期間中4回まで利用できます。ただし、厚生年金適用企業にお勤めの人が対象。(2009年3月現在)

自治体の産前産後援助サービスは、お住まいの自治体に問い合わせください。
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