普段の授業の様々な工夫と配慮で「個々の学び」を支える。「メタ認知」の授業によって子どもたち自身が「学び方」を知る。前回、前々回に紹介したような実践で、多くの子どもたちが「自分にいちばん合った学習方法」を自ら実践していけるようになる。
しかし、それでもなお、学習につまずく子どもがいる。学習していく上で必要な力のいずれかが深刻な機能不全を起こしている場合や、複数の機能に弱さを抱えている場合などだ。教師が「授業を子どもたちに合わせる」ためにクラスをattuneしたにもかかわらず、それでもうまくいかない子どもがいる場合には、その子を個別に支援する手立てが必要になる。これをSchools AttunedRでは「子どもをattuneする」と表現する。
公立第166小学校のトリズラーノ先生は、自分のクラスの2人の生徒をattuneした。一人は、food とfootのような発音の似た単語を混同して間違えてしまうなど、言語機能に問題を抱える女の子だ。彼女には、1冊のノートを自分専用の辞書にして間違えやすい言葉を書き込んでいき、わからないときは見直すよう助言指導したところ、読解力が格段に向上したという。本を最後まで読み通せるようになり、文もきちんと書けるようになった結果、他の教科の成績も向上した。
もう一人は転入生の男の子で、計算力は十分にあるが算数の文章題につまずいていた。問題文の中の情報を整理して理解する力が弱いためだ。彼にはさまざまな手立てを試し、問題を解くときの手順をいくつかのステップに分ける方法を使うようすすめた。転入当初は算数のテストが50点台だった彼が、今は90点以上とれるようになった。
ローリー先生の算数の授業で掛け算の手順表を書いていた女の子も、attuneされた一人だ。計算がわからないことで苦労していた彼女だが、字を書くこと、図やリストを理解することが得意という強みを生かし、解き方を文章化したりリストアップしたりする方法を提案した。これは彼女にぴたりとはまり、アドバイスしたローリー先生自身が驚くほど成績が伸びた。今は何も言わなくても自分から一番いいと思う方法を図やリストにしてカードに書き込んでいるという。
公立第88小学校では、子どもをattuneする過程を詳しく聞くことができた。
親用、教師用などがあり、様々な角度から情報収集をして子どもの
プロフィールを作成する手がかりにする。現在は全てオンライン化されている
5年生を担任しているリズ・キャントウェル先生が、キャビネットに並べられたファイルを見せてくれた。この学校では、全生徒の個人ファイルが各教室に保管されている。ファイルには、新年度に子どもたち自身に強みと弱みをきいたチェックリストの結果などが挟まれていて、もし授業を進めていく中でつまずく子が出てきた時には、ファイルを見直し、つまずきの原因を掘り下げ、本人や保護者と話し合ったりアドバイスしたりする。
それでも解決しない場合は、親用のチェックリストや教師用のチェックリストを使ってさらに詳しく情報を集め、PPT(Pupil Personal Team)と呼ばれる校内チームの会議にかけて支援の方向を探る。PPTは、担任、校長、心理士、カウンセラー、ソーシャルワーカー、リーディング教師、スピーチ教師など、その子に関わる教師や必要な助言のできる専門職が参加する、日本の学校の校内委員会に近いものだ。この会議で、その子の強みと弱み、何につまずいているのか、何をしてあげればよいかを検討する。
取材した日の前日もPPT会議が開かれ、4年生の男の子フランクくん (仮名)について話し合ったのだと、マリアン・ジョージビッチ先生が教えてくれた。フランクくんは、勉強に支障はなく、中でも算数が得意だ。でも、1年生の頃から友だちと関わることが苦手で、休み時間は一人ぼっちでいることが多く、ランチタイムもほとんどしゃべらない。担任の先生は、フランクくんが友達との関わりを持ちやすいよう、社会性に優れた子をペアの相手に選び、その子から誘わせるなどして気を配ってきた。だがフランクくんは、2年生になっても相変わらず誰かに声をかけられるまでは動こうとせず、自分から行動できない。そこで、PPTでこれまでの対応や授業での様子を話し合い、慣れた今の担任から新年度に新しい担任に交代する際の引継ぎが課題であるとの結論になった。そこで、これまで「介入(intervention)」中心に対応してきたが、「配慮(accommodation)」についても検討すべく、フランクくんのattuneにとりかかった。彼の両親も積極的にチェックリストへの回答に協力してくれたという。こうした本人や教師、親によるチェックリストのデータは、オンラインでSchools Attunedのサイトに入力すると分析結果が後日送られてくる。このサイトはSchools Attunedを受講した人が利用でき、生徒のつまずきの原因がより細かく分析される。これをもとに、今後どんな手立てを使うかを子どもと話し合っていく。話し合いで大切なのは、まず子どもの良いところや強みについてたくさん話し、ほめた上で、「ただ、これは苦手なようだから、解決策を一緒に考えていこう」と導くことだとキャントウェル先生は言う。
リンダ・キーナ校長は、「Schools Attunedは、教師が実践すれば即、何かが解決するようなミラクルではない」と強調する。教師は一方的に手を変え品を変えすればよいのではなく、常に子どもたちの問題に向き合い、どうすればいいかを考え続けなければならない。そして子ども自身が自分の問題を認識し、解決する力をつけるよう支援することが、Schools Attunedの大切なプロセスなのだ。
キーナ校長は、教師は学習につまずく子どもを安易に学習障害とみなすのではなく、まずは子ども自身が自分の苦手さに対処できるよう共に考えることが先決だという。「特別教育の対象にするのをできる限り回避するため、Schools Attunedのアプローチで手を尽くします。心理士がLD(学習障害)の判定をするのは、『最後の最後』の手段です」。