今回PCSSを歩行器として用いることに光明が見えてきたことを機にその開発過程と今後の展開を述べさせていただきます。本来PCSSは理学療法士のハンドリング」1)を補完する機器として開発しました。最初は骨盤帯と胸郭を復元力のある棒で連結することで楽に姿勢制御ができるのではないかという安易な発想から始まり、その後下肢にかかる負担を軽減する工夫を施したり、コルセット部分のデザイン変更するなど改良を加え実用性のある物になりました。写真は最初イメージと完成したPCSSです。
とはいえ歩行器として使用するには車軸位置などまだまだ改良点が多くあり、立位保持具として使用するかMultilocomotorに取り付ける以外には使用できませんでした。
しかし、今回、歩行器にPCSSを取り付けるという新しい試みにより従来の歩行器では困難であったハンドルから手を離しても立っている状態が可能になり、自由に手を使う機会が増えました。
この様な体幹を保持する装置を有する歩行器としては、Virga Jesse Hospital, Hasselt, BelgiumのP. Aerssensらが開発したHorsが報告されていますが、まだ正式に発表されてはいません。
PCSSを取り付けた歩行器を私が受け持っている子どもたちに試したところ、大多数の子どもたちが気に入ってくれました。なかでも修太郎くんは、お母さんと手を繋いで歩くことや早歩きが可能になりました。また前回でもご紹介した瑠菜ちゃんにも試したところ歩くことが楽しくなり、自分から歩くことを好むようになりました。この様に支援方法や視点を変えることで、子どもたちは今までと異なった姿を見せてくれます。
近頃、Evidenceや効果判定など医療モデル」2)の中で子どもたちの発達を語ろうとする風潮があります。しかし子どもたちの発達は決して短絡的な結びつけ問題で解決するようなものではありません。静岡大学の竹林洋一教授らは「マルチモーダル幼児行動コーパスからのコモンセンス知識抽出」(2007年7月の情報処理学会・音声言語情報処理研究会)の中で「異分野の研究者と交流しながら根源的コモンセンスの基礎研究を深化発展させていきたい」と締めくくっています。つまり発達の一部分を切り取り集め、考えるのではなく、映像など多くの情報を基に分類・蓄積し異なる学問領域の人たちで分析し探究することこそが、今、必要とされているのです。
私も担当している子どもたちの変化を記録・蓄積し、異なる研究領域の人たちと協力しながら分析することで障害をもった子どもたちに必要な支援方法の確立に尽力いたします。
尚、紹介させていただいたPCSS付き歩行器(Bunny Walker)は若干の改良がなされて後、松永製作所から発売される予定です。http://www.matsunaga-w.co.jp/profile/index.html
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1) ハンドリング:療法士が子どもたちの身体に触れ直接操作を加えること全般を言います。例えば身体が崩れているのであれば支える手になり、運動方向を修正し導くための手になることもあります。
2) 医療モデル:障害への関わり方では、「医療(医学)モデル」と「生活モデル」の二つが対比されます。医療モデルは病気を対象とし、治すことを目指す。治すために、体に進入した細菌を抗生物質で殺す、体に宿ったガン細胞を手術で取り除くなど。体に悪影響を及ぼす細菌や腫瘍(しゅよう)等を取り除く考え方です。この考えは、人の生命を守るために大切であるが、悪い所を取り除くという排除の考えでもあります。医療モデルでは障害を病気と同一視して取り除く対象とします。一方、生活モデルは障害のある一人の子ども・大人を対象とします。障害は日々活動する上で不便であるが体から取り除くことは出来ないとし、一人の「児(者)」の生活の充実を目指します。生活モデルは、障害を排除することより身体の一部分として受け入れ、障害と共生する考え方です。