CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 論文・レポート > 理学療法の現場より~琵琶湖から吹く風~ > 第2回 子どもたちにとってのこころの瑕疵(きず)

このエントリーをはてなブックマークに追加

論文・レポート

Essay・Report

第2回 子どもたちにとってのこころの瑕疵(きず)

要旨:

子どもたちは、自らの障害をいつ頃、どの様なきっかけで感じるようになるのでしょうか。 筆者が行ったインタビュー結果から見ますと、障害に気がつき始めた時期は8~9歳頃で、それ以前は少し動きにくいようなことは感じていましたが、あまり気にならなかったとの意見が大多数でした。

いつ頃、自分の障害に気がつきましたか。松本学氏から日本発達心理学会自主シンポジウムでの話題提供を依頼されるまで、私自身この話題を避けてきました。自分の障害を子どもたちは、いつ頃、どの様な事を切っ掛けとして感じるようになるのでしょうか。この問いを改めて考えてみました。

身体に障害を持つ子どもたちにとってのこころの瑕疵を遠藤利彦氏は、身体違和と言葉で表しています。それらは、自己にとっての「身体」違和、他者にとっての「身体」違和、他者を通した「身体」違和の三つ分けられ、苦痛や内部感覚および経験するアフォーダンスの特異性、「見た目」の特異性や言語・表情の機能不全、比較対象としての他者が含まれます。

今回、私が担当している成年期以降の人たちと子どもたちへのインタビュー結果とシンポジウムでの要約を述べます。私がインタビューした内容は、1) いつ頃から自分が他の人と違うことに気がつきましたか 2) どの様なことで傷つきましたか 3) いじめに遭ったことはありますか 4)どの様にして乗り越えましたか、の四点です。

これらのインタビュー結果から障害に気がつき始めた時期は8~9歳頃で、それ以前は少し動きにくいようなことは感じていましたが、あまり気にならなかったとの意見が大多数でした。

自分の違和に気づく切っ掛けになったのは、友だちに身体の特徴や動きを真似されることで感じ始めたが人たちが最も多く、次いで身体の特徴を誹謗中傷されることでありました。

また大人たちの言動や視線よって、他の子どもとの違いに気がついた。周囲の見る目は都会よりも田舎の方が強く感じたという母親からの意見もありました。

中高校生からは、試験中に手指が上手く動かないため、時間内に解答が書けずに低く評価されたこと、機能的に出来ない事をクラスメートに手伝ってほしいと頼むと、見返りがないからと断られたと言う事例もありました。直接的な暴力を受けた子どもの場合、集団登校時にゆっくりしか歩けないことが原因でありましたが、養護学校に転校ことでしか解決できませんでした。

これらの事を乗り越えるために家族や先生、友だちは大きな助けになっており「あなたは何も悪いことをしていないのだからお母さんが守ってあげる」からと言われ励まされたことや先生との交換日記が救いになったとの意見がありました。その一方で就学免除により小学校に通うことが出来なかった人からは、からかわれることを避けるため、同年代の子どもたちがいない時間帯を見計らって外で遊んでいたという回答もありました。しかし多くの人たちは、大人になってから、同じ障害を持つ仲間たちとの交流が、障害を受け止める切っ掛けになったという意見でした。

今回のアンケートでは幼少期から思春期に至る多感な時期を支援する画一的な方法は見出せませんでした。

身体障害をもっている子どもたちがこころに瑕疵を感じるのは、当初は、自己にとっての身体違和から始まり、保育園の時期には友だちとの遊びの中で身体違和に気づき始めます。また生活環境が近隣から大きく拡がり、運動技能に差が生じ始める小学校入学後に他者にとっての身体違和が始まり、身体のまねや苦笑から誹謗中傷に発展するように思われます。些細な苦笑や視線でさえも子どもたちのこころに大きな瑕疵を与え、人格形成や社会参加にも影響を与えます。船橋篤彦氏は、肢体不自由「者」を「非定型なからだ」を持つ人達として捉え、非定型として生きることを認めつつ、非定型として生きるが故に生じる困難さを支援することが重要であると述べています。

私自身このコラム書きながら、幼少時に見世物小屋で見た四肢欠損の障害者や養護学校の前で、母親が子どもに向かって「悪いことをしたらここに入るのよ」と言いながら足早に通り過ぎて行く姿が思い出され、解決策を持ち合わせないことを痛感させられました。しかし身体に障害を持っている子どもたちも子どもに変わりはありません。私たち大人は、障害をもちながら懸命に生きている子どもたちに、違和として見たり、目を背けたりするのではなく、その声に耳を傾け、「本人さんはどう思ってはんのや」と想いをはせてみましょう。

筆者プロフィール

高塩 純一 (びわこ学園医療福祉センター草津 理学療法士)

1982年 理学療法士免許取得
1982-1985年 茨城県厚生連 取手協同病院 勤務
1985-1988年 京都大学医療技術短期大学部 理学療法学科 勤務
1988年ー 社会福祉法人 びわこ学園医療福祉センター草津 勤務
兼務
関西医療学園専門学校 理学療法学科 講師
同志社大学「こころの生涯発達研究センター」共同プロジェクト研究員

このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

インクルーシブ教育

社会情動的スキル

遊び

メディア

発達障害とは?

論文・レポートカテゴリ

アジアこども学

研究活動

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP