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第1回 脳性まひ児(GMFCSレベルⅤ)に対する理学療法

要旨:

びわこ学園医療福祉センター草津の理学療法士である筆者が、障害をもちながら日々成長している子どもたちとの触れ合いの中で気づいたことを、セラピストの視線で描きます。
私は、びわこ学園医療福祉センター草津で理学療法士をしている高塩純一です。びわこ学園は故 糸賀一雄 先生によって創立された近江学園から、昭和38年に分かれた重症心身障害児・者の入所施設です。糸賀先生は、『福祉の思想』や『この子らを世の光に』など数多くの著書を残され、わが国の福祉政策にも多大な影響を与えました。このコラムでは、日本赤ちゃん学会や日本子ども学会で得た知識はもとより、障害児福祉に携るひとりとして、日々の臨床場面で感じたことを書かせていただきます。今回は、2006年にベビーサイエンスに掲載された私の拙文『姿勢制御・粗大運動に障害を持った子どものための機器開発』に触れさせていただきます。

近年リハビリテーションの考え方は大きく変化してきています。これは障害分類がInternational Classification of Functioning, Disability and Health(ICF)(WHO,2001)に改定されたことが関与していると思われます。それによると機能と障害は、健康状態(病気、障害、損傷など)と文脈要素(環境と個人的要素)の間で動的相互作用をする包括的用語であり、ICFは健康を単に機能障害と捉まえるのではなく活動制限や参加制限など社会的環境要因の重要性を含めた考え方です。これは障害を改善することに主眼をおいてInternational Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps (ICIDH) (WHO, 1980)から大きな変革であり従来の医療モデルからの脱却です。

それに伴い欧州連合では、障害をもった子どもと家族にとってどのような環境要因の改善が大きな利点を産みだすかStudy of Participation of Children with cerebral palsy Living in Europe (SPARCLE)調査が実施されました。この調査では、EU7カ国から脳性まひ818人の子どもとその家族が調査に協力しています。

障害をもった子どもたちが社会参加を行なう上で重要なことは、自己の有能性(自分でもできるという気持ち)を育むことと環境要因である社会が変わることです。

私も瑠菜ちゃんに出会うまでは、医療モデルの文脈でリハビリテーションを行ってまいりました。しかし彼女に訓練を拒否され方法論の過ちに気づき、できないことを出来るように促すのではなく、できるような環境要因を整え支援することこそが重要であることを痛感しPostural Control Support SystemとMultilocomotor開発を始めました。

彼女は、CanChild Center for Childhood Disability Researchが開発したGross Motor Function Classification System for Cerebral Palsy(GMFCS)で、レベルV に分類される子どもでした。GMFCS は、2歳の誕生日前までの身体機能を5段階に分類し、その後18歳までの予後を予測するものです。レベルVに分類された子どもは、『基本的な抗重力的な姿勢のコントロールですらも自立性に欠ける。子どもは短距離這うか、寝返りして移動できることもあるが、実用的な移動能力をもつことなく、移送される。高度に調整した電動車椅子を使って自力移動に達する子どももいる』と記載されています。

姿勢制御の発達に関してはGroningen大学のMijna Hadders-Algraの研究が世界的にも有名であり、研究の中で18ヵ月までの姿勢制御の発達には4つの移行期があると述べ、姿勢が前方に倒れた時には背側の筋群が働き、後方に倒れた時には腹側の筋群が働くという方向特異性(direction-specific)調節が6ヵ月時点で活動条件に左右されずに徐々に獲得できると述べています。例えば、おもちゃに手を伸ばしても姿勢が崩れなくなることを意味しています。

しかしGMFCSレベルVの子どもは方向特異性の消失があることをvan der Heideは報告しています。私はレベルVの子どもたちには、機能的な訓練を行なうだけではなく、18ヵ月を過ぎた段階から姿勢制御を支援する機器や電動車椅子を用いて、主体的な生活活動を支援することこそが大切に思います。

現在、電動車椅子の支給対象は厚生労働省の指針により『学齢期以上。小学校高学年以上が望ましい』とされていますが、これは安全性を考えてのことではあります。しかし滋賀県障害者更生相談所は心理面の効果を考慮し、6歳児へのMultilocomotorの支給認可がなされました。厚生労働省地域生活支援室の見解は、指針は判断の目安。個別のケースについては、本人の心身の発育過程を考慮して判断してほしいとの話しでありました。

重い障害をもった子どもたちに早い段階から移動経験を支援する機器が使用され、主体的な子どもたちが増えることを切望します。私にとって、子どもたちにとって障害ってなあに? 障害をもちながら日々成長している子どもたちに係わる中、気づかせていただいたことをセラピストの視線で描いてゆきたいと思います。

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瑠菜ちゃんとPostural Control Support System & Multilocomotor

筆者プロフィール

高塩 純一 (びわこ学園医療福祉センター草津 理学療法士)

1982年 理学療法士免許取得
1982-1985年 茨城県厚生連 取手協同病院 勤務
1985-1988年 京都大学医療技術短期大学部 理学療法学科 勤務
1988年ー 社会福祉法人 びわこ学園医療福祉センター草津 勤務
兼務
関西医療学園専門学校 理学療法学科 講師
同志社大学「こころの生涯発達研究センター」共同プロジェクト研究員

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