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【情報リテラシー教育の実際】 第2回 イギリスにおける情報リテラシー教育のカリキュラム

情報リテラシーのコアカリキュラム

イギリスのナショナルカリキュラムは、2013年2月7日に改訂された。しかしながらICT(Information and Communication Technology)分野に関しては大きな見直しはなく、キー・ステージ1、2(それぞれ5歳~7歳、8歳~11歳の合同クラス、詳しくは前回の記事参照)に関しては最終更新日が2011年11月25日になっている(2013年7月19日現在)*1。その中の基礎的な学習となる枠組み「知識・技能・理解」では、以下の5領域を設けている。

○キー・ステージ1

  1. 情報を収集したり保存することを学ぶ
  2. 人や書籍、データベースやCD-ROM、ビデオやテレビなど様々なソースから情報を収集する。

  3. アイデアを発展させ、物事を実現させる方法を学ぶ
  4. アイデアを発展させるために、テキスト、表、画像、音声を使用する。また、物事を実現させる方法について、教材用床ロボット*2に正しい順序で指示を行い動かすなどを通し、その方法を学ぶ。

  5. 情報を表現し共有することを学ぶ
  6. テキストや画像、表や音声などを用い、様々な形で情報を提示したり、自分の考えを共有することを学ぶ。

  7. 学習活動を振り返り、修正することを学ぶ
  8. アイデアを発展させるために何をしたのかを振り返り、実行した結果を発表し、次の活動へ生かせる知見を得ることを学ぶ。

  9. 学びの広がり
  10. 詩や絵や音のパターンなど、ある情報についての様々な表現のされ方について学び、床ロボットやソフトウェア、アドベンチャーゲームなど様々なICTツールを使いこなしたり、学校の中や外で用いられているICTについて話し合うことにより、学びを拡張する。

それぞれに関して、前回少し紹介した小学校の一つDean Oaks小学校での実践例を、次の表で示す。クラス編成は複式学級になっているが、キー・ステージ1を2学年に分け、1年ごとに学習目標と学習内容が計画されていた。



表1 キー・ステージ1における学習内容
Year1 (1年生) Year2 (2年生)
1. 情報を収集したり保存することを学ぶ 絵文字であるピクトグラム(Pictogram)で表された情報を使って、それが何を表しているのかを知る。 ピクトグラムに関する簡単な質問に正しく答えることができるか否かにより、情報を正しく解釈できているかどうかが評価される。 先生が用意したWebサイトのリンクにアクセスしてリンクをたどったり、アドレスバーにWebアドレスをタイプしてサイトにアクセスしたり、「お気に入り」に登録することを学ぶ。
さらに、与えられた質問の答え(テキストや画像音声、動画など)をWebブラウザで検索し、求めている答えでないと判断すればバックボタンで戻り、正しい答えを見つけることを学ぶ。
2. アイデアを発展させ、物事を実現させる方法を学ぶ アイディアを発展させる 文書作成ソフトを用い、文字を入力したり、画像を貼り付けたり、描画ソフトを用いて描いたりすることを学ぶ。 さらに、ICTツールを用いて話したり聞いたり、簡単な音を作ったりすることを学ぶ。 文書作成ソフトでテキストやイメージ画像を用いた印刷物を作成したり、プレゼンテーションソフトを使い、簡単なプレゼンを行うことを学ぶ。
物事を実現させる 床を動くプログラム学習用教材ロボットに対し、前進する、右に曲がるなどの命令をプログラミングすることにより、プログラム通りに動かすことを学ぶ。 教材用ロボットに複雑な動きをするようプログラムを組み、動かすことを学ぶ。
3. 情報を表現し共有することを学ぶ デジタルカメラやビデオを用い、写真を撮ったり動画を記録したりすることを学ぶ。 描画ソフトを用いて目的に合ったイラストを作成したり、ビデオカメラやデジタルカメラを用い目的に合った画像を撮影したりすることを学ぶ。
4. 学習活動を振り返り、修正することを学ぶ 授業で何を学んだのかを書いて提出させるなどの方法で、学んだことの振り返りを促す。
5. 学びの広がり IDとパスワードが必要な理由を学び、実際に学校のネットワークにログイン・ログアウトすることを学ぶ。 学校のネットワークの中で、コメントを友達とシェアしたり、オンラインコミュニケーションにおけるトラブルや情報モラルについて学ぶ。

○キー・ステージ2

  1. 情報を収集したり保存することを学ぶ
  2. 必要な情報は何か、どのように情報を見つけるのかについて学ぶ。たとえば、本や新聞から情報を見つけ適切な情報を選択したり、情報を特性や目的、名前のスペルなどによって分類しデータベースを作成したりすることを学ぶ。

  3. アイデアを発展させ、物事を実現させる方法を学ぶ
  4. テキストを再編成したり、必要に応じて表を用いたり、画像、音声などの情報を結集させアイデアを練ったりすることを学ぶ(DTPソフトウェアやマルチメディアプレゼンテーションソフトウェアなどを用いる)。シミュレーションソフトウェアや表計算ソフトを用い観察・調査・探求を行う。

  5. 情報を表現し共有することを学ぶ
  6. 電子メールのやりとりをしたり、ポスターやアニメーション、音楽作品などを共有したり、インターネットに公開するときに、慎重にすべき事柄(情報モラル)について学ぶ。

  7. 学習活動を振り返り、修正することを学ぶ
  8. 他の人がどのように学習を進めたのかを自分の方法と比較し、他者の学びを自分の学びに取り入れる。

  9. 学びの広がり
  10. インターネットやクラス調査により、実際のデータを収集し結果を比較するなどの学習や、世界の異なる地域の情報の比較などを通して、学びを拡張する。

Dean Oaks小学校では、キー・ステージ2に関しても3年生と4年生の2学年に分けて、1年ごとに学習目標と学習内容が計画されていた。


表2 キー・ステージ2における学習内容
Year3 (3年生) Year4 (4年生)
1) 情報を収集したり保存することを学ぶ 子どもたちそれぞれがテーマを決め、テーマに沿って調べた情報をデータベースにする学習をする。 分岐型のデータベース作成を行う。
2) アイデアを発展させ、物事を実現させる方法を学ぶ ギリシャの歴史を学ぶクロスカリキュラムにより、DTPソフトウェアを用いたパンフレット作成を行う。文字変形ツールを用いたり、レイアウトデザイン、画像に効果を付けるなど、様々な工夫を凝らしたパンフレットを作成する。
さらに、シミュレーションソフトウェアを用いて、いろいろなシミュレーションを試す*3
アニメーションソフトウェアを用い、ストップモーションテクニック*4などアニメーション効果を付けた作品を作成する。
3) 情報を表現し共有することを学ぶ ブログなどへの書き込みに関して、誹謗中傷や肖像権侵害などをしてはいけないなど、インターネット上のルール・情報モラルについて学ぶ。 ラジオやテレビ番組など、実際のマスメディアを評価し、どんなことを公開するとよいのかを考え、インタビューを行い、自分たちの報道番組作りを行う。
4) 学習活動を振り返り、修正することを学ぶ 相互評価(peer assessment)と自己評価を通し、学習活動を振り返り、他者の学びも取り入れる。 Year3の内容に加え、相手を評価する際、礼儀正しいフィードバックを返すことにより、互いに高めあって学習を進める。
5) 学びの広がり ブログやWiki、クイズサイトやビデオ公開サイトなどを経験し始める。

情報リテラシーのクロスカリキュラム

イギリスの小学校教育では、日本のように1学年ごとにクラス編成されるのではなく、2~3学年をひとまとまりにしたキー・ステージ(Key Stage)による複式学級型クラス編成がなされている。8歳でキー・ステージ2のクラスに入ると、翌年9歳になったときも、キー・ステージ2のクラスに所属するため、発達段階の異なる子どもが一つのクラスの中で一緒に学んでいる。そのような環境では、講義形式の一斉授業は成立しづらく、実際一斉授業は少ない。その代わり、一人あるいは複数名で課題に取り組む学習形態が多い。課される課題は、純粋な一つの教科に関わるものだけでなく、複数の教科の教育目標を達成するクロスカリキュラムに基づくものであることも少なくない。

キー・ステージ2(8~11歳)の教科「歴史」では、古代から現代までの歴史上における重要な人物や出来事、それらが起きた場所などについて学ぶ。子どもたちが住んでいるローカルな歴史から、イギリスの歴史、ローマ人、アングロサクソン人、バイキングとの和解の歴史、ヨーロッパの歴史などについて幅広く網羅されている。特にヨーロッパの歴史においては、古代ギリシャ文明の影響を受けて、今日のヨーロッパ世界の暮らしが成立したことを学ぶことになっている。さらに、クロスカリキュラムでの指導指針もナショナルカリキュラムに示されている*5。日本でもクロスカリキュラムによる授業が実施されることがあるが、学習指導要領にはクロスカリキュラムでの指導指針は示されておらず、日本とは位置づけが異なる。

ICTとのクロスカリキュラムでは、以下の目標を達成できるように教えるべきであるとして明示されている。

  1. どのような情報が必要なのか、また、どのように情報を入手できるのか(たとえば、インターネットやCD-ROMを検索したり印刷物を使ったり、人に聞くなど)について述べられる。

  2. 情報を解釈し、それが適切かつ妥当であるかを判断し、間違いや不十分な点があった場合に起こりうることが想定できる。

  3. テキストや表、画像、音などを集めて、DTPソフトウェアやマルチメディア・プレゼンテーションソフト などで再編したり、組織化することにより、アイデアを洗練させ発展させられる。

ナショナルカリキュラムの「歴史」分野に示されているクロスカリキュラムによる情報リテラシーの学習内容が、前回少し紹介した小学校の一つDean Oaks小学校の三つ折り式のパンフレット作成の事例である。

上記の1.に該当する学習内容としては、ギリシャの歴史に関する書籍や雑誌、インターネット上の情報を収集していた。
2.に該当する内容としては、インターネットで調べた情報が、書籍などの情報と一致しているのか、複数の媒体をクロスチェックすることを学んでいた。
3.に該当する内容としては、書籍に書かれている内容を表などにまとめたり、古代ギリシャの挿絵を参考にしながら、画像ソフトでオリジナルなギリシャ世界を描いたりしていた。

Dean Oaks小学校のクロスカリキュラムによる授業見学を参考に、クロスカリキュラムによる歴史と情報の学習内容と達成目標案を表3に示す。日本の小学校には、まだ独立した教科として「情報」は取り扱われていないが、小学校学習指導要領(平成20年3月、文部科学省)によれば、「各教科等の指導に当たっては、児童がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ、コンピュータで文字を入力するなどの基本的な操作や情報モラルを身に付け、適切に活用できるようにするための学習活動を充実するとともに、これらの情報手段に加え視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること(p4)。」とされている。この項目が追加されて以降、日本の小学校でも、様々な教科の中でコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用した授業が少しずつ増えてきている。クロスカリキュラム型の授業であれば、日本の小学校でもすぐに始められるだろう。

これからの子どもたちが生きていく時代は、情報通信機器を手や足に準ずるほど、今以上に自由に使いこなすことが求められるようになる。今回紹介した事例が、日本でこれから情報とのクロスカリキュラムを模索されている先生方への一助となれば幸いである。


表3 クロスカリキュラムによる情報と歴史の学習内容と達成目標
学習の流れ 情報の学習内容と達成目標 歴史の学習内容と達成目標
基礎基本を押さえる 描画ソフト等の扱いについて学ぶ。
目標:パンフレット作成に必要なソフトウェアが使えるようになる。
自分の住んでいる地域の歴史について学ぶ。
目標:自分の住んでいる地域の歴史を理解する。
探求する 情報の収集
目標:著作権や引用方法などについて学び、利用できる情報を知った上で、自分が紹介したい内容に沿った情報を収集する。
自分の住んでいる地域の歴史について自分が紹介したい内容を考える。
目標:自分の住んでいる地域の歴史の特徴を知る。
つくる 自分の住んでいる地域の歴史を紹介するパンフレットを製作する。
目標:伝えたいことを伝える表現技法を学ぶ。
振り返る 自己評価と相互評価を行い、他者の表現方法のよいところなどを学び、自分の作品を修正する。また、他者の作品から、自分では注目しなかった、自分の住んでいる地域の歴史の特徴に気がつく。
※ 本表は、Dean Oaks小学校で見学した事例を参考に、筆者が日本の小学校用に作り替えたものである。
  • *1 イギリス教育省ホームページ
  • *2 小学校低学年の子ども向けに、プログラミングのアルゴリズムを理解するために開発された教材で、簡単なプログラムを組むとそれに従って動くロボットのこと。様々な種類の教材用床ロボットが開発されており、詳細は第3回で紹介する。
  • *3 SNSやメールのやりとりで、普通に発言をしたつもりが、相手を傷つけてしまうこともある。ネットコミュニケーションのロールプレイングをシミュレーションできる教材など、詳細は第3回でいくつか紹介する。
  • *4 写真や切り絵、自分で作成した画像や人形・ぬいぐるみなどの静止している物体を1コマ毎に少しずつ動かしデジタルカメラで撮影し、ビデオ編集ソフトで画像をつなげ、あたかもそれ自身が連続して動いているかのように見せるアニメーション作成技術のこと。
  • *5 キー・ステージ2(8~11歳)の教科「歴史」のナショナルカリキュラム
筆者プロフィール
加納 寛子 (山形大学基盤教育院 准教授)

現在、山形大学基盤教育院 准教授。専門は情報教育、情報社会論。文部科学省委託事業「子どもの安全に関する情報の効果的な共有システムに関する調査研究」では、Mind Mapによる子どもの心の動きとGPS情報をリアルタイムに保護者に伝えることによる、犯罪を未然に防ぐ対策を推進してきている。また、科研費研究では「高等教育における情報リテラシー格差是正に資する研究」をテーマに、情報リテラシー格差と家庭環境や生活習慣、得意教科等との関連の調査を実施している。さらに、三菱財団研究助成を受けた「ニート・フリーターおよび不登校児童・生徒とITの関わりに関する調査」では、職業の志向性と家庭環境や生活習慣、得意教科等との関連の調査を実施した。東京学芸大学教育学部卒業、同大学院教育学研究科修士課程修了、早稲田大学大学院国際情報通信研究科博士後期課程満期退学。
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