CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 論文・レポート > 子ども未来紀行~学際的な研究・レポート・エッセイ~ > クリニクラウン Part II 「様々な立場からのこえと今後の課題」

このエントリーをはてなブックマークに追加

論文・レポート

Essay・Report

クリニクラウン Part II 「様々な立場からのこえと今後の課題」

要旨:

実際にクリニクラウンとして活動する人、医師、チャイルド・ライフ・スペシャリスト、保育士の声など、クリニクラウンの活動に各所から寄せられた感想を紹介する。クリニクラウンの活動は、こどもたちをエンパワメントとする力があり、次なる治療へ立ち向かうパワーを充電させてくれるそんな存在だという。クリニクラウンの課題としては、人材育成の強化以上に財源の確保があり、こどもの笑顔を育むこの取り組みが発展できるよう、多くの方からの活動への理解と協力を求めている。

report_02_76_1.jpg

会いたいという キモチ

佐々木 舞CC 

訪問日に抗がん剤治療日のこどもがいました。体調は優れなくても、クリニクラウンに会いたがっているので訪問してほしいとスタッフより申し送られました。訪問時、その子はぐったりしていました。体調も考慮して、わずかな時間でしたがベットサイドで関わっているうちに、その子の表情がだんだんやわらかくなっていきました。他の病室の訪問を終え、病棟をでるときに、何とその子が車椅子に乗ってご家族と見送りにやって来てくれました。「いつもは治療日は、前日から精神的にも気持ちが悪くなってぐったりしてしまうのに、大好きなクリニクラウンと会い、見送りたいというのです。今日は抗がん剤より、気持ちが勝っているみたいです。」とご家族がこっそり伝えてくれました。

こどもたちの遊びたい、会いたいという強い気持ちが生きる力となり、その瞬間だけでも、病気や薬の副作用を超えることがたくさんあります。こどもたちと過ごす、その瞬間、瞬間をクリニクラウンは大事にしています。

report_02_76_2.jpg


人間とのかかわりという名の芸術

事務局長兼アーティスティックディレクター   
 塚原 成幸

クリニクラウンという言葉が日本に紹介され、具体的な活動が始まって早3年の月日が経ちました。昔から石の上にも3年とはよく言ったもので、ここ1年余りでクリニクラウンの名称や役割はかなり浸透してきた印象を持っています。それは私たちがクリニクラウンに集中し、日々そのことに時間を割いてきたからかもしれません。この1年間、本当に多くの方の理解をいただきクリニクラウンの定期訪問はもとより、クリニクラウンの啓発を目的にしたデモンストレーションや講演会を全国各地で行ってきました。伺った先々で声をかけていただいたのは、協会が掲げている「すべてのこどもにこども時間を」というメッセージに対する賛同の意見でした。さらりと聞くとこども時間とは一体何か?と思ってしまうかもしれません。でもこども時間は誰もが一度は体感するこども時代に流れていたあのときめきに満ちた時間を指しています。そう何もかもが新鮮で、驚きにあふれ、見るもの触れるものにドキドキした貴重な体験こそが「こども時間」の本質です。最近の子どもは昔に比べて夢見る気持ちを持っていないとよく耳にすることがあります。でも、本当にそうなのでしょうか?少なくとも私たちが各地の病院でかかわってきたこどもたちは、キラキラ輝く好奇心旺盛な瞳と夢見る気持ちを大切に携えたこどもでした。

私たちは様々な医療施設をクリニクラウンとして訪問し、こどもの笑顔を引き出しながら豊かな人間関係の醸成を目指して活動を続けています。この1年で7000人以上の入院しているこどもとコンタクトし、対話や遊びを通じてこどもの本音と向き合ってきました。心から歓迎される日もあれば、こどもからあきれた様子で「いつまでこどもみたいに、遊んでるの?」とお小言をもらうこともあります。でも、どこに行ってもこどもたちは「ねえ、次はいつ会えるかな・・・」という言葉を私たちに残してくれました。クリニクラウンがこどもとかかわるとどんな効果があるのか、そんな質問も最近ではよく耳にします。確かに効果の測定は物事を長く続け、そして発展させていくためには欠かせないものかもしれません。でも人が人に会いたいと思う気持ちは何にも増して尊いことなのではないでしょうか?人が人を想う気持ちこそ、もっとも美しい芸術(アート)であり、未来に向って成長や発達を続けるこどもにこそ届けられるべき最良の贈り物だと思うのです。

「人はどんな困難な状況にあっても決して楽しむことや人生を謳歌することをあきらめる必要はない」と私たちは多くのこどもから学びました。だからこれからも私たちは愉快な遊びと心が通じ合うコミュニケーションを通じてこどもの幸せに貢献していこうと考えています。ここにまとめられた活動報告や関係者のコメントを通じ、今の日本のクリニクラウンの現状を感じていただけたら幸いです。これからも、「すべてのこどもにこども時間を」保障する私たちの活動にご協力、ご支援をお願いします。

いつだって、どこにいたって、楽しい時間と経験は人間の宝だと感じています。

report_02_76_3.jpg
医療現場におけるクリニクラウンの役割
医師のこえ


大阪府立母子保健総合医療センター 病院長 河 敬世氏


子どもは、(1)人として尊ばれ、(2)社会の一員として重んぜられ、(3)よい環境の中で育てられる。これは1951年、戦後の混乱期に、日本国憲法の精神にしたがい定められた児童憲章(12項目)の基本骨格です。今年は2008年です。この57年の間に世の中は大変便利になり、豊かになりました。わが国では物質文明を謳歌し、飽食の時代を迎えています。さらに洪水のように押し寄せる膨大な量の情報と瞬時に世界を駆け巡るそのスピードにすべての国民が消化不良を起こしています。さらに拝金主義、利己主義が横行し、自分の周りのこと、社会のことをゆっくり見つめ直す時間を持てず、多くの人が押し流されそうになっている現実があります。しかし文明社会の大人にみられる消化不良症(一種の文明病)を治すよい処方箋はなかなか見つかりそうにありません。


子どもたちを取り巻く環境はどうでしょうか?この失われた57年をどう取り戻すのか、我々小児科医にとりましても大きな課題です。医学・医療の進歩で不治の病であった小児がんの7割は治せる時代になりました。しかしこのすばらしい成果を得るために大きな犠牲をご家族や患児に強いてきたことも事実であります。これからは、子どもたちの将来を見据えた、QOL重視のトータルケアの実現を、医師、看護師、教師、福祉行政、弁護士、患者家族、ボランテイアなど闘病中の子どもたちやご家族に関係するあらゆる職種の専門家が、「学んで遊んで治す」ための方策について議論を深める必要があります。


クリニクラウンは医療関係者でもなければ教育者でもありません。理屈抜きで子どもの友達、味方です。自由を奪われ、落ち込んでいる子どもたちから、子どもらしさや好奇心を引き出し、取り戻してくれる特効薬的存在です。


入院中にこどもたちのいっぱいの笑顔を見ることができれば、大きい笑い声を聞くことができれば、闘病生活でストレスのたまっているご家族や、まわりの医療スタッフも大いに癒されることでしょう。これからの小児病院(小児科)にはクリニクラウンが不可欠な存在として、立派に成長し日本の社会に定着することを願っています。

チャイルド・ライフ・スペシャリストのこえ

茨城県立こども病院
チャイルド・ライフ・スペシャリスト 松井 基子さん

ここ数年、日本でも病院で活躍する道化師たちがその活動の場を広げつつあるのを感じています。昨年9月、当院でもクリニクラウン(以下CC)の活動が開始されました。以来、チャイルド・ライフ・スペシャリスト(以下CLS)として、CCと一緒に活動する機会に恵まれ、彼らのプロ意識やスキルの高さ、そしてこどもたちの変化や笑顔を目の当たりにし、CCの役割の大きさを感じてきました。


まず、CCにはこどもを「エンパワメント」する力があると感じています。病棟には慣れない環境で不安や恐怖の中にいたり、制限の多い生活の中で本来の力を出せないこどもたちもいます。保育士やCLSは遊びや環境整備等を通して、病院の中に「日常」を持ち込み、こども本来の力を引き出せるように活動しています。一方、CCは"スーパーこども"として、病院というイメージをよりポジティブに変える力を持っていると思います。どちらも遊びがキーポイントとなっており、目標も似ていますが、CCにしかできないインパクトを持っていると思います。


また、入院生活には検査や内服など「やらなければならないこと」がたくさんあります。スタッフはできる限りの選択を与えてくれていますが、受身にならざるをえない環境です。コントロール感を失い、ストレスが非常に強くなっているお子さんもいます。その中で微笑ましいドジをくり返すCCは、こどもたちに「教えられ」たり「守られ」たりする共育的存在となっています。


このように、「こどもたちが本来の力を出し、"力ある存在"となる」(エンパワメント)一助になっていると感じます。病院環境への慣れや親しみ、主体性・積極性や自信が育っていくことにつながっていくと思います。そして、「成長発達の支援」も大きな役割の一つだと感じています。「伝えたい」という気持ちがあふれ出てきて、コミュニケーションの発達を目にすることがよくあります。個々に合った関わりを通して、ご両親やスタッフが小さな変化や動きに気づく機会を提供したり、普段はお姉さんお兄さん役の多い子が年齢相応の反応をしたりと、月に1度の活動の中でもたくさんの成長の機会と気づきを届けてくれます。


しかし、驚くのは見た目の華やかさとは違い、遊びがとても繊細であることです。物理的・心理的距離の取り方、シグナルの受け止め方など、こどもと関わるスキルが身に付けられています。エンターテイメントとしての楽しさや華やかさを持ったまま、押し付けになることなく、こどもの選択や気持ちに添うように遊びが展開されていきます。CCはストレスの軽減や成長発達の支援となっている点で、「治癒的な存在」と言えると思います。しかし、「治癒的な存在」となるためには適切なスキルと、さらには医療チームの一員として目標やCCが活動から持ち帰ったものを分かちあっていくことが不可欠です。こどもたちにとって、CC訪問がよりよいものになるようこれからも試行錯誤しながら一緒に活動を続けていきたいと思います。

保育士のこえ

近畿大学医学部附属病院 小児病棟
保育士 鈴木 理恵さん

「うわぁ~、来た~!!でたー!!」とクリニクラウンを知っている子ども達も知らない子ども達も、毎週決まった時間になると合言葉のように口にします。そして、クリニクラウンと初めましての子ども達は後ろから、他の子ども達との様子を見ながら徐々に徐々に近づいていきます。お馴染みの子ども達は、クリニクラウンのポケットをあさり始めたり、「いつもと靴下が違う」と全身チェックを始めたり、中には慌ててベッドに戻り、武器を構え戦闘モードに入る子どもなど、出迎え方は様々です。クリニクラウンは子ども達にとって時には仲間であり、ある時には戦いごっこの相手であったり、不思議な存在であったり、こういう存在という固定概念はなく、子ども達が求めている存在に変化をしてくれることで、どの子どもも、会う度に毎回違った『何か』を期待して、近づいて行っているのがよくわかります。


その『何か』とは何なのでしょうか。子どもは遊びの中から生きる力を育んでいくと言われています。しかし、病院においては「薬を飲んだら○○してもいいよ」「検査が終わったら、プレイルームで遊んでもいいよ」など、子どもにとっての遊び中心の生活が治療や痛い事・つらい事の代償としてご褒美的に遊びが得られるような状況も少なくありません。まして、自己表現ができる時間も限られています。


小児医療保険の改訂に伴い、保育士加算がつくようになった影響で小児病棟に保育士を導入している病院が多くなっていることと思います。当院のように比較的、長期入院療養をしている子ども達が多い小児病棟では、子ども達の成長・発達を考慮した関わりが中心となり、その子ども達の前後の様子や性格などから、「今のこの子には、このような関わりが効果的」「今度は、少しステップアップして、このように関わってみよう」など、保育士が先回りをしてその子どもに経験・体験させたい内容を盛り込んだ遊びを誘導することがあります。


子ども達にとって保育士は痛い事・つらい事を行わない安心して遊べる相手であり、医療行為を行わない医療チームの一員であり、それはクリニクラウンも同じです。しかし、保育士とクリニクラウンと決定的に違う点は、クリニクラウンはお馴染みの子ども達にも常にこういう子どもと決め付けずに『今、ここで新しく出会う』という関わりをしているところです。


病棟を訪問する前に15分程度ですが、病棟の状況や、子ども達の様子などを伝えます。最低限の情報をクリニクラウンは把握していますが、病室に入室すると「検査がんばったね」「今日は、一緒にこれをして遊びたいんだって?」など、知っている情報で関わるのではなく、その病室の雰囲気、その子どもが今遊んでいる状況の中から、知っている情報の一歩先に進み、遊びに幅を広げてくれたり、新たに興味がもてるような場を提供してくれたりします。一方的に玩具を出して遊びを作るのではなく、子ども達の今ある姿から小児病棟では少ない自己表現の機会を後押しして作ってくれるような存在でもあります。

子ども達は、クリニクラウンと過ごす、治療とまったく切り離した貴重な時間を得ることで次なる治療へ立ち向かうパワーを充電しています。医療者は病気を治す薬を提供しますが、クリニクラウンは病気を治す為に、心を元気にする、生きる力を引き出す薬を提供してくれます。小児病棟にとっては、欠くことのできない大切なチーム医療の一員です。

クリニクラウン訪問に対しての感想

 クリニクラウンが日本の小児病棟に訪問を開始してから早3年が経過しました。クリニクラウンは現在、全国12箇所(2008年8月現在)の病院で定期訪問をおこなっています。実際のかかわりの中では様々な出来事が起こりますが、クリニクラウンが訪問することによりいただいた感想は次のようなものがあります。

report_02_76_4.jpg
●皆さまの反応、声
 <医療関係者からの反応>
・こどもと関係者の距離が縮まった。
・病棟内の会話が増えた。
・知らないうちに笑顔になっている自分がいる。
 <保護者の方からの声>
・こどもが積極的になってきた。
・家族とのコミュニケーションが増えた。
・こどもがこどもらしい表情になってきた。
 <こどもの反応>
・クリニクラウンと早く会いたい。            
・友だちと遊ぶ時間が増えた。
・曜日や時間の感覚が戻ってきた。
・人が好きになった。
・人との出会いが楽しみになった。
・目標をもつことができるようになった。

今後の課題について

最後になりましたが、クリ二クラウンをめぐる今後の課題をお伝えしたいと思います。クリニクラウンの人材育成の強化は大切ではありますが、それと同等あるいはそれ以上の課題はこの活動をより継続的にそして安定させるための財源の確保に他なりません。現在は、協会の趣旨にご賛同いただける個人・団体からの会費と協賛スポンサー、協力病院からの資金援助により、クリ二クラウンの養成と派遣が行われています。現在の活動は受益者負担を原則にしない、オランダスタイルを目標にしているため、病院への派遣は原則無償で行われています。(クリ二クラウンに対してはクオリティーを重視した活動を要求していくため、病院訪問時は報酬が支払われています)そのためより多くのこどもや地域格差をなくす努力が課題といえます。今後、クリ二クラウンの活動をご理解いただき、こどもの笑顔を育むこの取り組みが発展できるよう、ご協力をお願いいたします。

report_02_76_5.jpg


日本クリニクラウン協会のホームページ  http://www.cliniclowns.jp/
ここで紹介した病院での活動以外にもインターネットを活用した「インターネットクリニクラウンfor children」という事業もスタートしています。詳しくはHPでご確認ください。

このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

インクルーシブ教育

社会情動的スキル

遊び

メディア

発達障害とは?

論文・レポートカテゴリ

アジアこども学

研究活動

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP