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論文・レポート

【子どもから学ぶ:発達心理学への招待】 第3回 絵本を楽しむ

酒井 厚(首都大学東京 都市教養学部 准教授)

2017年11月 2日掲載

要旨:

今回は、読書の秋にちなみ、絵本と親子の関わりをテーマにした心理学の研究をいくつか紹介します。子どもの想像力や語彙力の発達、大人の読み聞かせ方について一緒に考えてみたいと思います。

Keywords:絵本、想像力、読み聞かせ、語彙力
絵本の魅力

日が暮れるのも早くなりすっかり秋らしくなりました。ゆっくり読書を楽しむのにも良い季節です。今回は読書の秋にちなみ、絵本と親子の関わりについて心理学の研究を紹介しながら考えてみたいと思います。

絵本を集めた書店や図書館に行ってみるたびに、絵本は実に多様だなと感じます。本のデザインからして、大きさ、形、色使い、画風など作家によって随分と異なります。文も擬音や擬態語だけのものもあれば説明的な場合もあり、主人公や時代設定も色々、内容もリズム感のある言葉遊びから教育的・社会風刺的なものまで様々です。こうした絵本作りの自由さが、子どもの想像力をかきたてる魅力を生み出すのだと感じます。

想像力について、2歳と3歳の子どもに絵を見せてお話を作ってもらった研究(内田,1990)があります。それぞれの絵は、①跳ねていたウサギが、②石につまづいて転び、③泣くという3場面で構成されており、2歳児(29ヶ月)では「エーンエーン」と泣く真似などを加えながら描かれている様子を答えていました。一方、3歳児(44ヶ月)では、ウサギが跳ねている場面を「月を見ながら踊っている」、転ぶ場面で「水たまりに転ぶ」、最後の場面で「水濡れになって泣く」といったように、絵にない状況や理由を想像して1つのストーリーに仕上げました。想像は自分の経験や知識が素になって作られますから、年齢が上がり見知ったことが多くなるほど発想が豊かになることがわかります。

また、絵本は子どもが知らない物事に触れて興味をもつきっかけにもなります。もうすぐ2歳になるイギリスの子どもたちに、彼らがあまり見たことがない野菜(ナスとアスパラガス)がそれぞれ1種類ずつ描かれた絵本を1日に5分、数週間にわたって読んでもらいました(Houston-Price et al., 2009)。読書期間が終わったあと、子どもたちに2つの絵を見比べてもらうと、ナスの絵本を読んでいた子はナスの絵を、アスパラガスの絵本を読んでいた子はアスパラガスの絵をより長く見るようになっていました。この実験では絵カードの提示だけでしたが、もしも絵と一緒に実物を見たり触れたりする機会があれば、野菜そのものに興味をもち、食べてみたいと思ってくれるかもしれません。

絵本での問いかけ

子どもが絵本を読んで想像力を発揮したり新しいことに興味をもつには、一緒に読む大人の役割も重要です。18組の母子に2歳前後の2時点で絵本を読んでもらった研究(Murase, 2014)によると、母親の読み方は子どもの成長に合わせて変わっていくことが報告されています。子どもが20ヶ月のときには、主に登場人物やその行動を教えることが多かったのですが、前の時点より言葉がいちだんと発達している27ヶ月のときには「このお猿さん何してるかな?」など子どもに質問することが多くなっていました。3歳以上の幼児のいる母子の観察(齋藤・内田,2013)からも、母親の養育が普段から子どもと体験を共有するタイプであると、絵本を読む際に子どもに考える余地を与えることが多く、子どもがより主体的に絵本に関わることがわかっています。一緒に読んでいる大人から問いかけられれば、子どもは自分の経験や知識を思い出してそれに答えようとし、絵本で描かれていることと比較しながら想像をかきたてられることでしょう。子どもの方からも質問が出て、大人がうまく新しい話題に展開すれば興味を広げていくことも期待できます。

大人からの問いかけは、子どもの語彙力や文の理解力の発達とも関わりがあるようです。4才児を対象に、幼稚園の一室を使って6週間にわたり、色々な絵本を同じやり方で読みきかせるという実験(Reese & Cox, 1999)を行いました。読み方は3種類あり、1つ目は絵本を読んでいるときに描かれている事物を教えたり尋ねるもの、2つ目はもう少し内容に踏み込んで登場人物の気持ちやストーリーの内容を話したり尋ねるもの、3つ目は話を始める前にあらすじを言って、読み終わってから質問するというものでした。子どもの語彙力や文の理解力をこれらの読み聞かせ期間の前後で比較したところ、実験前の能力が相対的に低かった子どもでは1つ目の読み方が、高かった子どもは3つ目の読み方が語彙の獲得や文の理解を高める(発達を促す)という結果が見られました。大人からの問いかけは、その時の子どもの発達の様子を考えて行うことが大切なことがわかります。

絵本読みに現れる大人の考え

親子の絵本読みについては、次のような研究(Endendijk et al., 2014)も行われています。この研究では、ジェンダー意識が喚起される絵本を作り、2歳と4歳の2人の子どもがいる両親304組に読み聞かせてもらいました。絵本は、一目で男子あるいは女子と分かる子、見た目では性別がわかりづらい子の3タイプが登場人物となり、それぞれが男の子らしいあるいは女の子らしい遊びやいたずらをしている数ページで構成されています。親がこの絵本を読むときに、登場人物を「彼」や「彼女」など性別がわかるように表現したり、遊びやいたずらをどのように評価して話すかを観察しました。すると父親も母親も性別がわかりづらい子の場合には、男の子らしい遊び方(水鉄砲など)をしていると男の子として読む傾向があり、とくにお子さんが2人とも男子の父親に顕著でした。また、母親は登場人物が男子であるとスケートボードで遊んでいる絵を、女子であると手叩きゲームをしている絵を好み、ジェンダー・ステレオタイプ(一方の性別によりあてはまると人々に信じられている行動特性)に合った行動を良く評価する発言が目立ちました。さらに、母親自身のジェンダー・ステレオタイプ傾向が高い場合には、男子のいたずら(プールに突き落とす)をそれほど悪く表現しないという特徴も見られました。

近年では、アメリカの大手小売業社である「ターゲット」がおもちゃ売り場での性別表記(男子向け・女子向けなど)を廃止するなど、子どもの時からジェンダー・ステレオタイプをなくす活動が行われています。前述の研究は、国際的にも男女平等意識が高いとされるオランダで行われており、研究者自身も結果に驚いた様子が読み取れました。この研究は、大人が読み聞かせる際には、子どもにどのように受け取られるかを考えることが重要であると改めて気づかせてくれます。

大人にとっての絵本

今年の2月16日、「ミッフィー(日本ではうさ子ちゃん)」でおなじみのディック・ブルーナさんが89歳で他界されました。私は東京で開催された展覧会に行きましたが、成人女性を中心に大勢が訪れており、お子さんを連れている方もいらっしゃいました。「ミッフィー」シリーズのようにロングセラーとなった絵本は、世代を超えて読み継がれていきます。親となって子どもと一緒に読みながら、自分が子どものときに親と読んだことを思い出す方も少なくないでしょう。そんなときはぜひ、自分のお子さんに子どもだった頃のことを話してみてください。「しろくまちゃんのほっとけーき(わかやま他,1972)」を読んで好きだったおやつを言い合ってもいいでしょう。「ねずみくんのチョッキ(なかえ・上野,1974)」を見て好きな動物の話で盛り上がるのも楽しそうです。

この原稿を書き進めながら、久しぶりに「てぶくろをかいに(にいみ・わかやま,1970)」を読み返しました。新美南吉の名作で今はたくさんの作家が絵を書いていますが、家にある若山憲氏の絵はとても素朴な温かみがあります。大人になってから読んでも変わらずやさしい気持ちにしてくれる、語りつがれる絵本にはそんな魅力があると思うひと時でした。


引用文献

  • Endendijk, J.J., Groeneveld, M.G., van der Pol, L.D., van Berkel, S.R., Hallers-Haalboom, E.T., Mesman, J., & Bakermans-Kranenburg, M.J. 2014 Boys don't play with dolls: Mothers'and fathers' gender talk during picture book reading. Parenting: Science and Practice, 14, 141-161.
  • Houston-Price, C., Burton, E., Hickinson, R., Inett, J., Moore, E., Salmon, K., & Shiba, P. 2009 Picture book exposure elicits positive visual preferences in toddlers. Journal of Experimental Child Psychology, 89-104.
  • 南元子 2010 欧米と日本の絵本に見られる子ども観の違い 愛知教育大学幼児教育研究,15,73-80.
  • Murase, T. 2014 Japanese mothers' utterances about agents and actions during joint picture-book reading. Frontier in Psychology, 5, 1-12.
  • Reese, E., & Cox, A. 1999 Quality of adult book reading affects children's emergent literacy, 35, 20-28.
  • 齋藤有・内田伸子 2013 幼児期の絵本の読み聞かせに母親の養育態度が与える影響:「共有型」と「強制型」の横断的比較 発達心理学研究,24,150-159.
  • 内田伸子 1990 想像力の発達‐創造的想像のメカニズム- サイエンス社
  • わかやまけん・もりひさし・わだよしおみ 1972 しろくまちゃんのほっとけーき こぐま社
  • なかえよしを・上野紀子 1974 ねずみくんのチョッキ ポプラ社
  • にいみなんきち・わかやまけん 1970 てぶくろをかいに ポプラ社

筆者プロフィール

report_sakai_atsushi.jpg 酒井 厚 (首都大学東京 都市教養学部 准教授)

早稲田大学人間科学部、同大学人間科学研究科満期退学後、2002年に早稲田大学において博士(人間科学)を取得。山梨大学教育人間科学部を経て、現在は首都大学東京都市教養学部准教授。主著に『対人的信頼感の発達:児童期から青年期へ』(川島書店)、『ダニーディン 子どもの健康と発達に関する長期追跡研究-ニュージーランドの1000人・20年にわたる調査から-』(翻訳,明石書店)、『Interpersonal trust during childhood and adolescence』(共著,Cambridge University Press)などがある。
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