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論文・レポート

親の離婚を経験する子どもの発達に大切なこと 共同養育と子どもの意思の尊重

小田切 紀子(東京国際大学教授)

2017年4月21日掲載

要旨:

日本は、離婚後、単独親権のため両親が子どもの親権や面会交流に関して争った場合、子どもはその紛争に巻き込まれ、子どもの意思が間違って解釈されたり濫用されることがある。また、単独親権のもとでの共同養育の実践は課題が多いが、子どもの健全な心身の発達にとって重要であることが、内外の研究から明らかになっている。

Keywords: 離婚、面会交流、共同養育、子どもの意思、単独親権
1. 日本の離婚の現状

日本では、毎年23万組の夫婦が離婚し、親の離婚を経験する未成年の子どもは約23万人です(厚生労働省、2014)。日本は、婚姻中は父母による共同親権ですが、離婚後は単独親権制度を採用しています(民法819条1項)。そのため父母双方が離婚後も子の親権者を主張する場合、子どもは父母の争いに巻き込まれることが少なくありませんが、内外の多くの研究が、親の離婚時における子どもの辛い体験のひとつが、両親が子の監護や面会交流などをめぐって争うことだと指摘しています(Amato & Kieth, 1991; Amato, 1994; Wallerstein, 2000; 小田切, 2004a; 家庭問題情報センター, 2015)。一方、日本以外の全ての先進国では、離婚後も両親が共に親権をもつ選択制共同親権制度を採用し、共同養育(両親が共同かつ対等な立場で養育に携わること)が、離婚後の子育てのスタンダードです。さらに日本の離婚は、家庭裁判所などの司法が関与しない協議離婚が離婚全体の90%を占め、夫と妻が離婚に合意していれば、子どもの健全な発達に必要な面会交流と養育費についての取り決めや合意形成がなくても離婚が成立します。そのため離婚後、約70%の子どもが別居親との面会交流がなく、約84%が養育費を受け取っていません(厚生労働省, 2012)。

このような社会状況の中、2012年4月民法766条の改正で、父母は離婚に際して面会交流と養育費について子どもの利益を最優先して定めるよう明記され、2014年4月「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」(通称、ハーグ条約)が締結され、2016年10月法務省は「子どもの健やかな成長のために~離婚後の『養育費の支払』と『面会交流』の実現に向けて~」のパンフレットを発行しました(法務省, 2016)。しかし、面会交流や養育費請求についての家事調停、家事審判への申立ては増加傾向にあり(最高裁判所, 2016)、別居親と子どもの面会交流は中断、あるいは全く実施されず父母間の争いに発展するケースが増えています。子どもの利益を考えると、児童虐待やドメステック・バイオレンスが明確に認められる場合以外は、離婚後も共同養育により子どもの成長を見守ることが重要です(家庭問題情報センター, 2005; 小田切, 2008;2009)。

2. 共同養育の大切さ

共同養育とは、両親が対等な立場で協力して子育てにかかわることです。内外の膨大な研究が、離婚後の共同養育の重要性を指摘しています(Claire at el, 2011; Clorinda & Irwin, 2011; Constance, 2006; 小田切, 2004a; 棚瀬, 2010)。しかし、単独親権のもとでは、親権者の権利主張は法で守られ、親権者が承諾しなければ非親権者は子どもに会わせてもらえないため、両者は対等な立場とは言えない状況です。そのため、単独親権の日本で共同養育を実施することは容易ではありません。しかし、子どもは、共同養育により両方の親と定期的に交流し愛情と養育を受けることができ、自尊心やアイデンティティの確立に好ましい影響を受けることが明らかになっています(Robert, 1994; 小田切, 2004b;2009)。子どもは親から愛されることで自分を受け入れ、人を愛することができるようになります。また、子どもは、別居親と交流ができることで、別居親が自分と会おうとしない理由は何だろうか、自分は望まれない子どもだったのだろうかなどと心配しないで済みます。さらに、両親は相手への敵意や憎しみの感情をわきに置いて、協力して子育てをするという人間関係の築き方のモデルを子どもに示すことができます。子どもは、両親の相手への態度を見て、将来恋人ができたときの異性への接し方を学び、職場に大嫌いな上司や同僚がいても、その気持ちを抑えて、仕事上の付き合いができるようになるのです。

3. 子どもの意思の尊重

国連の児童権利条約の第12条で定められている子どもの意思とは、子どもが自由に自己の意見を表明する権利です。私たちが子どもの意思を尊重しなければならないのは当然ですが、離婚時の親権や面会交流の争いの時に、子どもの意思が、濫用、誤用されることがあるので、子どもの意思とは何かについて説明します。よくある例をあげます。子どもが、一緒に暮らす親権者である母親に、「お父さんにはもう会いたくない」といった場合、母親は「子どもが会いたくないと言っている」ことを理由に、面会交流を中断、実施しないことがあります。しかし、子どもが別居親に会いたくない、と言っている場合、次のことを考える必要があります。①子どもが別居親に虐待されていたり、夫婦間暴力を目撃していた場合です。この場合、子どもの別居親に会いたくないという反応は自然な反応です。②子どもが親の離婚によって混乱、不安になっていて、会いたくないと言っている場合も自然な反応です。問題は、次の二つです。③子どもは、別居親と離れて暮らすようになってからほとんど、あるいはまったく交流していない。④子どもが、別居親に対する罪悪感や両親への忠誠心の葛藤に苛まれることなく、別居親を非難し毛嫌いする。③、④の場合は、同居親が自分の願望、つまり、子どもを元パートナーに合わせたくない気持ちに基づいて、子どもをコントロール、支配している可能性があります。

別の例をあげます。子どもは、母親といるときは、父親なんていなくてもいいや、と思う一方で、父親といるときは、母親なんていなくていいや、と思うことがあります。私たち大人は、このような時に、子どもは本当は会いたいのに、会いたくないと言わされているのではないかと考えることがあります。しかし、そうではなく、どちらも子どもの気持ちであることを理解する必要があります。つまり、子どもの意思は、一つではなく、その時の状況や関係性によって変わるのです。子どもの「別居親に会いたくない」という言葉は、同居親には受け入れられやすいものです。そのため子どもが、「別居親に会いたくない」と言っていることを理由に、同居親が面会交流を中断、実施しないことはよく生じます。しかしこれは、親が離婚問題に子どもを巻き込み、子どもの意思を悪用している、濫用していることになります。私たち大人は、子どもたちに、彼らの人生にかかわることの責任を取らせてはいけません。このことを英語では、"a child has a voice but no choice"といいます。つまり子どもは意思表明をすることはできるけれども、子どもに人生の選択をさせてはいけない、ということです。さらに、子どもが意思表明をしてくれた時は、私たちが、それを大人としてどのように扱うかを子どもに示す良い機会でもあります。子どもが勇気をもって話してくれたにもかかわらず、「言わなければよかった」「言っても何も変わらなかった」という無力感や後悔、大人や社会への不信感や諦めを生じさせてはいけません。

私は、親が離婚や別居をした子どものカウンセリングをすることがあります。両親が面会交流や親権のことで争っているときに、子どもが同居親や弁護士に、「別居親に会いたくない、嫌いだ」といったために、別居親との面会交流が中断されたという事実を成長してから知り、ずっと自分を責め続けている子どもたちがいます。子どもの意思を尊重したうえで、子どもの将来にかかわる重大事項を決めるのは大人の役割で、子どもは自分の言ったことに対して責任をもつ必要はありません。私たちが、子どもが表明した意思をあらゆる文脈から長期的視点に立って、どうしたら子どものためになるのかを考えなければならないのです。これこそが、子どもの意思の尊重であり、親の離婚を経験する子どもの健全な心身の発達に極めて重要なことです。


引用文献

  • Amato,P.R. & Kieth, B. (1991). Parental Divorce and the Well-Being of Children: A Meta-Analysis. Psychological Bulletin.110(1)26-46.
  • Amato,P.R. (1994). Life-span adjustment of children to their parents'divorce. The Future of Children: Children and Divorce.4(1)143-164.
  • Claire M .K. Dush, Letitia E. Kotila, Sarah J. & choppe-Sullivan. (2011). Predictors of Supportive Coparenting After Relationship Dissolution Among At-Risk Parents. Family psychology,25(3),356-365.
  • Clorinda E. Velez, Sharlene A. Wolchik, Jenn-Yun Tein & Irwin Sandler. (2011). Protecting children from the consequences of divorce: A longitudinal study of the effects of parenting on children's coping processes. Child Development,82(1),244-257.
  • Constance A. (2006). Family Ties After Divorce: Long-Term Implications for Children. Family Process,46(1),53-65.
  • 法務省. (2016). 子どもの健やかな成長のために http://www.moj.go.jp/content/001204837.pdf
  • 家庭問題情報センター. (2005). 離婚した親と子どもの声を聴く―養育環境の変化と子どもの成長に関する調査研究.
  • 家庭問題情報センター.(2015). 別居・離婚後の子の最善の利益の実現と親子関係の再構築―面会交流援助の実情と考察―.
  • 厚生労働省. (2012). 平成23年度全国母子世帯等調査報告
  • 厚生労働省.(2014). 人口動態統計
  • 小田切紀子.(2004a). 離婚した母親の家庭状況の類型から見た心理的適応. 心理臨床学研究,21(6),621-629.
  • 小田切紀子.(2004b). 離婚を乗り越える. ブレーン出版.
  • 小田切紀子.(2008). 離婚家庭の子どもの自立と自立支援. 平成18-19年度科学研究費補助金基盤研究(C)研究成果報告書.
  • 小田切紀子.(2009). 子どもから見た面会交流. 自由と正義,60(12),28-34.日本弁護士連合会.
  • 小田切紀子.(2010). 離婚―前を向いて歩き続けるために. サイエンス社.
  • Robert J. Racusin, Stuart A. Copans & Peter Milis. (1994). Characteristics of Families of Children. Who Refuse Post-Divorce Visit. Journal of Clinical Psychology,50(5),792-801
  • 最高裁判所.(2016). 司法統計年報
  • 棚瀬一代.(2010). 離婚で壊れる子どもたち―心理臨床家からの警告. 光文社
  • Wallerstein, J.S. (2000). The unexpected legacy of divorce. Carol Mann Literary Agency, New, York. 早野依子(訳).(2001). それでも僕らは生きていく―離婚・親の愛を失った25年間の軌跡. PHP

筆者プロフィール

Noriko_Odagiri.jpg小田切 紀子(東京国際大学教授)

東京都立大学人文科学研究科心理学専攻修了、心理学博士、臨床心理士。1990年代後半より、離婚した親と子どもの自助グループを同僚と主宰し、その後アメリカ・オレゴン州での海外研修を経て、現在は、離婚後の親教育プログラムの実施、共同養育の実践に向けての社会的活動に従事しながら、国際家事裁判外紛争解決あっせん人として国境を越えた子どもの連れ去り問題にも取り組んでいる。
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