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論文・レポート

世界各地におけるオンライン教育に関する調査

スティーブ・マッカーティ (Steve McCarty)
(香川短期大学 教授 / 世界オンライン教育学会 会長)

2003年2月21日掲載

要旨:

本稿は、"世界のオンライン教育環境ハンドブック"の一部分を抜粋して紹介し、文化、経済的側面からの日本と各地域の比較をする。一般的に、国の教育のために利用するバーチャル学習環境の利用やオンライン教育のレベルは、その国の経済状態に反映されるが、日本では、経済水準に見合った導入はしていない。また、経済状態以外に、ロシアや日本では、教育制度の強い伝統が教育のオンライン化の障害となっている。つまり日本は、一流のインターネット基盤があるにもかかわらず文化的な保守性があるので、常に慎重で安全なペースでしか進歩できておらず、その方向性もはっきりしない。日本の生活水準に見合ったレベルの教育技術の導入が急がれる。

2002年後半、世界各地の遠隔教育のエキスパートを対象にした、メーリングリストを介したオンライン教育のアンケート調査を行った。ここでは、"世界のオンライン教育環境ハンドブック"(International Handbook of Virtual Learning Environments)の中の "世界のオンライン教育"(Global Online Education)の章の一部分を抜粋し、自国のオンライン教育に関する回答のみを筆者が和訳し公開する。文化、経済的側面からの日本と各地域の比較をしてみたいと思う。なお、日本の状態については、筆者が回答したものである。

 

質問

自国(あるいは地域や文化)で利用しているオンライン教育/バーチャル学習環境はどのようなものですか。

 

ラテン・アメリカ地域(教養のある階級):

かなり発展している。遠隔教育の伝統と文化があり、大学教育、生涯教育やe-デモクラシーにはe-ラーニングが導入されている。

 

メキシコ:

オンラインの方法論でコースの開発を試みている大学が多いが、実際に進歩しているものは少ない。教育担当の公務員にオンライン教育に関する知識が少なく、オンライン・コースを認定する政治的枠組みもあまりない。

 

アルゼンチン (教養のある中流階級):

バーチャル学習環境は、まだ大部分の教育者に無視されている。一般的に言えば、学習のためのコンピュータの導入については、教育者が否定的である。

 

ブラジル (ミナス・ゲライス地方):

一般的には非常にゆっくりしたペースで拡がっているが、急激に進歩発展している少数派もいる。

 

フィンランド:

バーチャル学習に関する計画は全国的に多く、その可能性を実現するコミュニケーションや連携をする意欲が強い。

 

イスラエル:

イスラエル開放大学には、コースにITを導入するためのセンターがあり、大部分のコース(約250)には、eラーニングがある程度導入されている。

 

トルコ:

インターネット普及割合は約2%であるので、オンライン教育以前にインターネットの普及拡大の必要がある。オンライン教育の要求は増加しているが、それに伴う教授法の発展段階にまで達していない。

 

ロシア (もしくは旧ソ連):

バーチャル学習環境は先進国程使われていない。その理由として、状態の悪いインフラや公立教育機関の貧しさ、従来からの伝統的な教授法を固持する傾向がある。遠隔教育の技術、教授法や学科を発展させることのできる私立教育機関が少ない。

 

インド (もしくは多文化的南アジア地域):

特にインドが教育のためのバーチャル学習環境を速やかに導入している。例えば1999には、インディラ・ガンジー国立開放大学がIT技術の需要を満たすために、バーチャル・キャンパスを発展した。タミル・バーチャル・ユニバーシティがスリランカの文化的遺産を若い世代に伝えている。

 

ケニア:

バーチャル学習環境の利用は、増加している。

 

南アフリカ:

非常に貧弱なレベルである。オンライン教育は大学のレベルでしか行われていない。電話もない学校は少なくない。生活水準の高い教師と学生は、インターネット利用ができるが、利用方法は電子メールのやり取りにとどまっている場合が多い。

 

レソト (アフリカの南部):

リードをしている国もあるが、ほとんどのところで、この分野が始まっていない。

 

フィリピン:

バーチャル学習はまだそんなに盛んではない。利益を目的とする数少ないグループがビジネスのベンチャーをしている。

 

インドネシア:

いろいろな公立、私立や政府の機関がバーチャル学習の事業を行おうとしているが、まだ基盤などを準備する段階である。

 

マレーシア:

将来的な発展の見込みがある。国のITアジェンダがあり、2020年までに知識社会にする計画である。かなり多くの公立と私立大学では、通信教育のカリキュラムを完全に、あるいはある程度オンラインで提供している。

 

日本:

バーチャル環境は、社交的にはよく利用されている。しかし、その環境の教育的可能性を実現するペースはかなり遅い。インフラなどの基盤や技術の発展は早く、オンライン教育にふさわしい教授法が発展する前に、学習管理システムなどの商品が販売されている。トップ・ダウンの形式で、名門大学がバーチャル・ユニバーシティの計画を徐々に進めながら、電気関係の会社が将来のeラーニングの市場を普及するための研究開発を行っている。個人個人の教育者がバーチャル学習環境の試みを行っているが、全体としての方向性が定まっていない。オンライン教育は、トップの人にも一般の人にも、あまり認められていない。

 

日本と他国を比較してみる

 

一般的に、国の教育のために利用するバーチャル学習環境の利用やオンライン教育のレベルは、その国の経済状態に反映されるインターネットの基盤、アクセス、会社の事業などの国民の生活水準に相当している。フィンランドやイスラエルは、欧米先進国と同様に、最大限の教育技術を導入している。しかし日本では、経済水準に見合った導入はしていない。逆にインド、トルコやマレーシアは、一般の経済水準以上にオンライン教育に力を入れている。ITの未来性やオンライン教育の可能性を活発につかんでいるようである。

 

経済状態以外の要因として、ロシアや日本では、その教育制度の強い伝統が教育のオンライン化の障害となるようである。つまり日本は、一流のインターネット基盤があると同時に文化的な保守性があるので、常に慎重で安全なペースでしか進歩できておらず、その方向性もはっきりしない。日本人全体があらゆる場面において変化を受け入れ、新しい教育の可能性を進歩、発展できれば、もっと速いペースでの普及も可能になるはずである。せっかくの技術や基盤も使用されなければ意味がない。従来の壁を打ち破り、各分野の国際的連携を図り、日本の生活水準に見合ったレベルの教育技術の導入が急がれる。

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