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【仲間関係のなかで育つ子どもの社会性】 第6回 集団活動からの学び:サマーキャンプを利用した研究知見から

要旨:

心理学や社会学では、対人関係や個人と集団の関係性について検討するために、サマーキャンプなどを利用して子どもたちの集団活動の様子を観察することがある。今回は、代表的な実験観察の結果を紹介しながら、面識のない子どもたちが集められた場合にどのように集団としてまとまっていくのか、また集団同士が出会い対立する状況において、どのように対立による葛藤を解消していくことができるのかについて論じた。

1.サマーキャンプ

今年の夏休みは猛暑ではあったが晴天に恵まれた日が多く、屋外で楽しい時間を過ごした家庭も多かったことだろう。家族や友人とともに、キャンプを楽しんだお子さんも少なくなかったかもしれない。日本に比べて夏休みが長いアメリカでは、その期間を利用したサマーキャンプの制度が充実しており、子どもたちが集団で活動する機会が提供されている。また、サマーキャンプは、対人関係や集団の力動性(ダイナミズム)、さらにはソーシャル・スキルの発達について色々と知ることができる貴重な場でもあり、多くの研究者がそこでの子どもたちの様子に注目してきた(Thurber et al., 2007;Kerns et al., 2008)。

今回は、サマーキャンプを利用したある実験の様子を紹介しながら、それまで何のつながりもなかった子ども同士が社会集団としてまとまっていくプロセスや、集団同士が出会うことで生じる対立やその解消方法について考えてみたい。

2.ロバーズ・ケーブ実験

"ロバーズ・ケーブ実験"は、1954年にオクラホマ州内の小学生(11歳)を対象に、ロバーズ・ケーブ州立公園で行われたサマーキャンプにおいて約3週間行われた観察研究である(Sherif et al.,1988)。今から60年前に実施された研究ではあるが、そこで得られた知見は現代の子どもの仲間関係にも通じる重要な示唆を与えてくれている。

対象となった子どもたちは、一定の条件(プロテスタント系の白人中流階級の家庭、成績は中程度、問題行動の履歴なしなど)から抽出されたお互いに面識のない男児22名であり、実験は約1週間ごとの3つのステージから構成された。

第1ステージは、キャンプ場に別々に向かった11人ずつの2グループがお互いのグループの存在を知らされないまま活動し、初対面の子ども同士が集められた場合に、相互の関係性がどのように作られていくかを各グループ内で観察する段階であった。ここでの両グループの様子は概ね次のとおりである。最初の頃は、張り切って仕切るタイプの数名が先頭に立って積極的に活動し、他のメンバーがそれについていくという状況であった。その後、仕切るタイプの子ども同士の間で意見の相違が顕在化し、彼らに対するフォロワーの評価も徐々に固まってきて、キャンプの半ば頃にはだれがリーダーかわかるようになる。こうしたリーダー、それ以外の仕切るタイプの子ども、フォロワーといった役割の違いはキャンプ中の様々な活動に反映されていき、ヒエラルキーに基づく集団構造が確立され、遊びや共同作業がよりスムーズに機能するようになっていった。

また、集団が構造化されていく過程において、子どもたちは独自の規範を設けるようになる。例えば、男の子同士なので危険な遊びを競い合ってするわけだが、ある時、怪我をしても泣かずに黙っていた子どもが男らしいと評価され、"泣き言を言わない強さ"がそのグループの規範となった。この規範は、個人が既存の集団に参加する際に集団側が働きかけるイニシエーション(儀式)に似たものである。このイニシエーションは、厳しい経験であるほど集団へのコミットメントが高まるという知見があることから(Gerard & Mathewson,1966)、実験の参加児童たちは怪我をしても泣くことができず、我慢するほどに自分が集団のメンバーであると強く認識していったと考えられる。その後も、彼らはグループ名を決めて旗を掲げたり、おそろいのTシャツを作るなど日ごとにまとまっていき、ステージの終盤で相手グループと対戦することが決まった際には一致団結の機運が高まっていた。

第1ステージで見られたメンバー間の関係性の変化は、成人の集団発達(Tuckman & Jensen, 1977)のプロセスとほとんど変わらない。成人の集団は、メンバー同士がお互いを評価し探り合う「形成期」から、メンバー間の意見が対立し緊張関係が生まれる「怒涛期」、その危機を乗り越えリーダーを中心にまとまる「規範期」を経て、メンバー間に機能的な役割関係が構築され、明確な目標に基づく建設的な活動を行う「遂行期」へと進展する。

この実験観察の様子からわかるように、小学校高学年ぐらいになれば、子ども同士であっても短期間のあいだに、大人と同じようなプロセスで構造化され機能的に働く集団を築きあげていく。また、彼らは集団を形成する営みのなかで、役割を取得し集団の一員として機能することや、規範を守り一体感を持ってある目標を達成しようとする経験を通じて、社会集団を構成する存在として必要なことを学んでいくと考えられる。

3.集団間の対立

さて、この実験の主な目的は、2つの集団間に葛藤を生じさせそれを解消する方法を探ることであった。そのため、第2ステージでは、子どもたちに魅力的な賞品を用意し、野球や綱引きなどの勝敗がつくゲームで、勝ったグループが賞品を獲得できる状況を設定した。第1ステージの終盤に相手の存在に気付いた頃から、両グループ(それぞれ、ラトラーズとイーグルスというグループ名が付けられた)は互いに野球の試合を望むようになっていたのだが、おそらくは当人たちも予想しなかったほどに両集団は激しく対立することになる。対戦初日の野球と綱引きで勝利したラトラーズに対して、イーグルスはそのくやしさから、相手チームがグランドに立てていた彼らの旗を燃やしてしまう。旗は彼らにとって結束とプライドを表す象徴であるから、翌朝になりその事実を知ったラトラーズは激怒し、イーグルスメンバーとの殴り合いへと発展する。さらに、こうした険悪な雰囲気の中で行われた2日目の対戦ではイーグルスが勝ったものだから、ラトラーズの気持ちは収まらない。イーグルスのキャビンに夜襲をかけジーンズを持ち去り、次の日には落書きしたそのジーンズを旗代わりにして挑発しながら会場へと現れた。その後も、対戦中は相手に対して罵声を浴びせかけ、一緒に食事をする食堂では残飯を投げ合うなど荒れ放題の状況が続き、総合評価でイーグルスが勝利した日には、ラトラーズが腹いせに彼らのキャビン内を派手に荒らしたことをきっかけに、スタッフが介入しなければならないほどの大乱闘となってしまう。

2つの集団間に激しい葛藤が生じた理由は、いくつかの理論から説明することができる。例えば、現実的集団葛藤理論(Campbell,1965)では、集団間で乏しい資源(この場合は賞品)をめぐって避けられない競争が生じ、集団間で利害が両立不能な場合に葛藤が生じると考える。その一方で、社会的アイデンティティ理論(Tajifel,1986)によれば、こうした状況を設定しなくとも、集団への強い所属感が自分の集団へのひいきと相手集団への否定的態度につながり、集団間の軋轢が生まれやすいとされる。実験に参加した児童の場合にも、第1ステージの最後に相手の存在を知るだけで対戦意欲を燃やしていたのだから、少しのきっかけでここまで激しい対立が生じることは当然のことだったのかもしれない。このように、子ども同士が集団を形成することは、所属集団内のやりとりから社会性を学ぶことにつながる一方で、他集団との反目や対立といった関係性を引き起こす可能性も含みもっている。

4.対立の解消

それでは、ここまで関係が悪化してしまった集団間の対立を、いったいどうすれば解消することができるのであろうか。この実験で提案されたのは、2つの集団が協力しないと達成できない上位目標を用意するという方略であった。第3ステージでは、この仮説を検証するために、彼らのキャンプ生活にとって重大なトラブルを仕組み、両集団が協力せざるを得ない状況をつくりだした。具体的には、キャンプ場の蛇口から水が出なくなるという事態(貯水タンクの元栓を閉めた)や、食料を買い出しに行く大型トラックが動かなくなる(エンジンがかかりづらいふりをした)などである。子どもたちにしてみれば、キャンプ生活に関わる大事だから、敵だ味方だなどと言っている場合ではない。水道管をたどりながら給水が止まった原因を全員で探し、貯水タンクの供給が止まっていることを突き止め、何とか水を出そうと両集団のメンバーが入り混じって代わる代わる努力する。トラックのエンジンがかからない場面では、彼らの勝負の象徴である綱引き用のロープを使ってトラックと結び、全員でひっぱりながらエンジンの押しがけをする。同様な状況が何度か用意され共同作業が成功していく度に、集団間の緊張は徐々に軽減されていき、最終日近くには、集団の枠を超えて個人的に良好な関係性も見られるようになった。

ロバーズ・ケーブ実験が行われる以前に考えられていたのは、両集団に共通の敵を用意するという方略であった。確かに、2つの集団に共通して対立する第3の集団が存在すれば、当該の2つの集団が仲間として結束していくことは考えられるが、これは新たにより大きな単位での対立関係を生み出したにすぎない。その意味では、この実験は集団間の対立を新たに生み出すことなく、2つの集団を1つにまとめる建設的な方法をとったと言えよう。しかし、上位目標を用意し共同作業が行われても、結果が伴わなければ関係が好転しないという知見もあり(Worchel et al., 1977)、用意する課題の困難さには注意しなればならない。

今回の実験と同様に、子どもたちは普段の生活においても、クラス単位や教室内のグループ単位によってフォーマルな形態の集団活動を経験する。いずれの場合にも、彼らにとっての所属集団は、自分と他集団に所属する子どもとを区別する枠組みである。彼らが集団間で競い合うこと自体は、ライバル心を高め切磋琢磨することにつながる良い試みであろう。しかし、それが対立関係に終始するのであれば、ストレスがたまるばかりで面白くない。ロバーズ・ケーブ実験が教えてくれたように、ときには協力しなければできない上位目標を用意することが肝要である。そして忘れてならないのは、参加した子どもたちが皆、成功したと思えることである。


引用文献

  • Campbell,D.T. 1965 Ethnocentric and other altruistic motives. Nebraska Symposium on Motivation, 13, 283-311.
  • Gerard,H.B. & Mathewson,G.C. 1966 The effects of severity of initiation on liking for a group. Journal of Experimental Social Psychology, 2, 278-287.
  • Kerns,K.A., Brumariu,L.E., & Abraham,M.M. 2008 Homesickness at summer camp: Associations with the mother-child relationship, social self-concept, and peer relationships in middle childhood. Merrill-Palmer Quarterly, 54, 473-498.
  • Sherif,M., Harvey,O.J., White,B.J., Hood,W.R., & Sherif,C.W. 1988 The Robber Cave experiment: Intergroup conflict and cooperation. Middletown, CT: Wesleyan University Press
  • Tajifel,H., & Turner, J.L. 1986 The social identity of intergroup behavior. In S. Worchel, & W.G.Austin(Eds.), Psychology of intergroup relations. 2nd ed. Chicago, IL: Prentice Hall.
  • Thurber,C.A., Scanlin,M.M., Scheuler,L., & Henderson,K.A. 2007 Youth development outcome of the camp experience: Evidence for multidimensional growth. Journal of Youth and Adolescence, 36, 241-254.
  • Tuckman,B.W. & Jensen,M.A.C. 1977 Stages of small group development revisited. Group and Organizational Studies, 2, 419-427.
  • Worchel,S., Andreli,V.A., & Folger,K. 1977 Intergroup cooperation and combined effort. Journal of Experimental Social Psychology, 13, 131-140.
筆者プロフィール
report_sakai_atsushi.jpg 酒井 厚 (山梨大学教育人間科学部准教授)

早稲田大学人間科学部、同大学人間科学研究科満期退学後、早稲田大学において博士(人間科学)を取得。国立精神・神経センター精神保健研究所を経て、現在は山梨大学教育人間科学部准教授。主著に『対人的信頼感の発達:児童期から青年期へ』(川島書店)、『ダニーディン 子どもの健康と発達に関する長期追跡研究-ニュージーランドの1000人・20年にわたる調査から-』(翻訳,明石書店)、『Interpersonal trust during childhood and adolescence』(共著,Cambridge University Press)などがある。
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