CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 論文・レポート > 子ども未来紀行~学際的な研究・レポート・エッセイ~ > 【仲間関係のなかで育つ子どもの社会性】 第3回 あなたの友だちはだれですか?:友人概念の発達

このエントリーをはてなブックマークに追加

論文・レポート

Essay・Report

【仲間関係のなかで育つ子どもの社会性】 第3回 あなたの友だちはだれですか?:友人概念の発達

要旨:

「子どもの仲間関係と発達への関わり」の連載3回目は、友人概念の発達である。私たちは、幼い頃から何を基準にして友だちを選び、関係性を深めていくのか。心理学の研究を紹介しながら、個人が友人を選ぶ理由とその意義について論じた。
1.友だちいろいろ

知人や仲間、友人、親友など、私たちは"友だち"をその関係の親密さの程度によって様々に表現する。また、私たちは幼い頃から知人や仲間から友人を区別し、相手によって付き合い方を変えながら、成長とともに心から通じ合える親友関係を築いていく。今回は、友人概念の発達に関する研究を紹介しながら、個人が友人を選ぶ理由とその意義について考えてみたい。

2.友人概念の発達

仕事柄、幼稚園で子どもたちが遊んでいる姿を観察する機会が多い。入園当初から定期的に様子を見ていると、最初はいきあたりばったりにその場で出会った子どもと遊んでいたのが、そのうちにある特定の子どもを選んで長い時間を過ごすようになっていくのがわかる。年中や年長の子どもたちの会話からは、物の貸し借りや共通点を探すことによって、自分と相手が他とは違う特別な友だち同士であることを示す言葉をよく耳にする。例えば、「これ貸して」といわれた子どもが、「うん、いいよ、〇〇ちゃんなら貸してあげる」という遊び場面で見られる発話は、相手にとってとてもわかりやすいメッセージである。また、少しおませな女の子同士が、「あなたのそのTシャツ素敵ね。私も同じの持っているわ。」「そうなの?これかわいいよね。」という会話は、お互いに同じ物を所有し気に入っていることを伝え合うことで、暗に二人の親しさを示しているように聞こえる。

Furman & Bierman(1983; 1984)は、幼児期から児童期の子どもを対象に「どんな人が友だちか?」("What is a friend?", "A friend is someone who... ")を問うインタビューを行い、友人概念の発達について検討した。このインタビューで4,5歳の子どもが友だちを表現する際に多く用いたのは、上記の子ども同士の会話に見られるように、遊びや物を共有していることや相手が着る洋服や髪の毛の色などの身体的な特徴であった。一方、6,7歳の子どもの場合には、こうした具体的な事物に関する回答は少なくなり、その相手のことが大事だからという理由や、その相手とは助け合うからなど、情緒的な表現や相互の関係性に触れる内容が多くなっていた。

日本の子どもについては、明田(1995)が小学1年生から6年生までの約470名を対象に調査を実施している。この調査では、子どもに仲の良い友だちを挙げてもらい、その理由を尋ねていた。その結果、小学校低学年では、一緒に遊ぶことが多いとか、班が一緒だからなどの近接性を理由に挙げることが多かったが、中学年から高学年にかけてこうした回答は減少し、やさしいとか信頼できるといった相手の性格に言及するようになり、性格が自分と似ているとか話が合うなどの内面的な相互関係性を答えるケースが増えていった。このように、友人概念は、具体的で表面的な特徴から抽象的で内面的な特性へと変化していく傾向にあり、実際に友人を選ぶ作業と不可分な関係にある。友人に求め、また友人から求められる内容が洗練されていくにつれて、個人はより互恵的で継続的に深く関わり合うことができる相手を見つけ、関係を深めていくと考えられる。


3.友人と知人の違い

それでは、お互いに親しいと認め合った友人とそうでない単なる知人とでは、関わり方がどのように異なるのであろうか。心理学では、子どもたちに「仲良しの子」とか「遊びたい子」などの好意を持つ相手を複数挙げてもらい、他者とどれだけ親密な関係にあるかを分類するソシオメトリック指名法を使うことがある。3歳から5歳の子ども約50名を観察したHartup et al.(1988)は、このソシオメトリック指名法を用いてお互いに「特に好きな子」として挙げた友人同士の方が、そうではない子同士に比べて、葛藤場面で感情的になることが少なく、妥協して解決しようとするという結果を報告した。

わが国では、原(1995)が日本の5,6歳の子どもを対象に、お互いに「仲良しの子」として挙げたペアを「友だち」、お互いに最後まで名前が挙がらなかったペアを「知っている子」として分類し、次のような実験を行っている。この実験では、子どもに色々な状況が書かれた絵を見せて質問し、その状況で友だちと知っている子のそれぞれが自分に対してどうするか、自分なら相手にどうするかを予測してもらう。具体的には、「○○ちゃん(友だちか知っている子の名前が入る)がみんなと砂場で遊んでいるときに、あなたが『仲間に入れて』と言ったら○○ちゃんは仲間に入れてくれると思いますか?」という遊び場面について尋ね、相手の行動を予測してもらうのである。この他にも援助(片づけを手伝ってくれるなど)や信頼(自分の味方になってくれるなど)の場面について同様に検討したところ、友だちの方が知っている子よりも自分を遊び仲間に入れ、信頼してくれると予測した子どもが多く、自らも友だちの方を仲間に入れて、援助し、信頼すると回答する子どもが多かった。

また、倉持・柴坂(1999)は2年保育の子どもたちを継続的に観察し、彼らに「遊びたい子」という基準で友だちを選んでもらい、評価の違いが仲間入り行動にどのように関わるかを検討した。その結果、年少(3年保育の年中に相当)時の2,3学期以降になると、遊びたい子が仲間入りを試みると即座に受け入れるが、そうでない子では入れようとしなくなり、年長の2,3学期になると、仲間入りを試みる側も遊びたい子がいる集団に入ろうとする傾向が強まっていた。これらの研究が示すように、幼児期の頃からすでに、友だち関係は相手が友人か知人かによって質的に異なるようである。さらに、知人ではなく友人とのやりとりを通じて、子どもの社会性に関わる意識や行動がより多く喚起され、人との付き合い方を学んでいくと考えられる。


4.親友に関する調査から思うこと

朝日新聞(2011)が昨年初頭に実施した「親友はいますか?」というアンケートでは、中高年世代を中心に4,055人が参加し、そのうち61%がいると回答していた。回答者が親友と思う理由として挙げたのは「100%信用できる」が894名と最も多く、「付き合いが長い(764名)」がそれに続いていた。一方、親友がいない人の理由で一番多かったのは「友だちそのものが少ない(569名)」、次いで「頼れるのは自分だけ(378名)」という回答であった。青年期の友人関係を扱った研究によれば、高校生になると、中学生の時に比べて友人に自己を開示し、友人から率直な気持ちや意見の表明を求め、相互に理解し合う関係を望む傾向が高まるという(榎本,1999;落合・佐藤,1996;柴橋,2001)。朝日新聞の調査結果でも、親友と巡り合ったのが高校生の時期と答えた人が24%と最も多く、高校生の頃に出会った相手が内面を率直に打ち明け合う間柄であれば、信頼し合う関係へと発展し、その後も親友として長い付き合いになると考えられる。

また、親友がいない人の理由の中には、「相手から親友と思われていない(318名)」という回答も少なくなかった。岡田(1999)は、青年の希薄な友人関係が取り沙汰されるようになった90年代半ばに、大学生の友人関係について興味深い研究を行っている。この研究では、対象者に自分の理想としての友人との付き合い方と、友人が求めているであろう付き合い方の両方を尋ねて比較している。その結果、青年が自分の理想として内面的関係を求める程度は、友人がどの程度求めていると思うかを尋ねた場合に比べて高かった。つまり、青年は理想として親密な付き合いを望んでいるのだが、相手がそれを望まないのではないかという不安が先に立ち、希薄な関係に留めてしまうことが示唆されたのである。

確かに、他者との間に内面的な深い関係性を築く過程では、率直な気持ちや意見を伝え合うことで相手を傷つけ、自分も不快な思いをし、葛藤を経験することがある。幼い頃であればいざこざがあってもすぐに仲直りできるが、年をとるほどにけんかの代償も大きく、関係を戻すには時間も労力もかかり面倒だから、いっそ深い関係は求めない方が良いという考えもわからなくはない。それでも、いやこうした面倒がありそれを乗り越えるからこそ、親友は、人生を共に歩み、その時々で自分に必要なことを教えてくれるかけがえのない存在となっていくのではないだろうか。

先ほどの朝日新聞の記事には、60余年も付き合ってきた親友と思わず仲たがいした男性のエピソードが掲載されていた。男性が親友と仲たがいしたきっかけは、すでに組まれていた旅行を突然変更するように頼んだことであったが、根本の原因は、親友が以前からその男性の強引な性格を我慢してきたことにあった。連絡がなく6年が経った後、男性は親友にこれまでの身勝手な振る舞いを詫び、親友からも「大人げなかった」と謝られ、仲直りできたという。老年期を迎えた二人にとって、過去を振り返り自分の人生をまとめ上げていく作業は、60年来付き合ってきた相棒とする方がずっといい。

過去を遡って、親しかった友人を思い出してみてほしい。進学や引っ越しで会わなくなった人もいれば、ささいなことで疎遠となってしまった人もいるだろう。今は便利な人探しツールもあるから、少しの労力で連絡が取れるかもしれない。思いがけずに来たかつての親しい友人からの連絡に、相手は喜んでくれるにちがいない。


引用文献

Furman,W., & Bierman,K.L. 1983 Developmental changes in young children's conceptions of friendship. Child Development, 54, 549-556.

Furman,W., & Bierman,K.L. 1984 Children's conceptions of friendship: A multimethod study of developmental changes. Developmental Psychology, 20, 925-931.

Hartup,W.W., Laursen,B., Stewart,M.I., & Eastenson,A. et al. 1988 Conflict and the friendship relations of young children. Child Development, 59, 1590-1600.

明田芳久 1995 児童の仲間関係形成について-仲間選択の理由, 仲間関係の分化度, および共感性との関係-, 上智大学心理学年報, 19, 29-42.

朝日新聞 2011 be:between 読者とつくる 2011年1月8日朝刊

榎本淳子 1999 青年期における友人との活動と友人に対する感情の発達的変化 教育心理学研究, 47, 180-190.

岡田努 1999 現代大学生の認知された友人関係と自己意識の関連について 教育心理学研究, 47, 432-439.

落合良行・佐藤有耕 1996 青年期における友達とのつきあい方の発達的変化 教育心理学研究, 44, 55-65.

倉持清美・柴坂寿子 1999 クラス集団における幼児間の認識と仲間入り行動 心理学研究, 70, 301-309.

柴橋祐子 2001 青年期の友人関係における自己表明と他者の表明を望む気持ち 発達心理学研究, 12, 123-133.

原孝成 1995 幼児における友だちの行動特性の理解-友だちの行動予測と意図-, 心理学研究, 65, 419-427.
筆者プロフィール
report_sakai_atsushi.jpg 酒井 厚 (山梨大学教育人間科学部准教授)

早稲田大学人間科学部、同大学人間科学研究科満期退学後、早稲田大学において博士(人間科学)を取得。国立精神・神経センター精神保健研究所を経て、現在は山梨大学教育人間科学部准教授。主著に『対人的信頼感の発達:児童期から青年期へ』(川島書店)、『ダニーディン 子どもの健康と発達に関する長期追跡研究-ニュージーランドの1000人・20年にわたる調査から-』(翻訳,明石書店)、『Interpersonal trust during childhood and adolescence』(共著,Cambridge University Press)などがある。
このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

インクルーシブ教育

社会情動的スキル

遊び

メディア

発達障害とは?

論文・レポートカテゴリ

アジアこども学

研究活動

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP